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先月(2017年8月)

-さんのレビュー一覧

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13 件中 1 件~ 13 件を表示

「なぜ人は死ぬのか」という問いを多面的に解明する好著

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

「九つの指輪は、死すべき運命(さだめ)の人の子に」とは有名な指輪物語の一節だ。生命の大きな特徴は「死ぬこと」だ。が、なぜ、人は死ぬのだろうか? あまりにも当たり前のこの事実はしかし、よく考えると分からなくなる。勿論、首を切れば死んでしまうのは当然だろうが、なんの事故にもあわず、なんの病気もしなくても、人間は死んでしまう。「公式の」最大寿命は本書によれば122歳だという。しかし、単細胞生物にはこの様な「寿命」は存在しない。十分な栄養さえあれば、次々と分裂して永遠に増殖し続ける。個々の細胞は死ぬのだから寿命はあるんだ、と思うかもしれないが、多細胞生物は常に新陳代謝で新しい細胞を作りながら生きているのだから、無限に細胞分裂できるならば寿命などあってはおかしいのだ。
 本書はこの疑問について、最新の分子生物学の知識から、人口統計学のような伝統的な観点、更に、早老症の様な病気についての知見まで総動員して解明する好著である。これほど広い観点から議論しているにも関わらず、著者の観点はただ一点に絞られる。いわく「老化とは遺伝子修復ができなくなった状態である」。例えば、有名な酸化による老化の問題も、酸化による遺伝子の異常という観点から議論される。このことからすぐに、節食すると寿命がのびる理由(カロリーの消費は基本的に酸化過程である)とか、果物や野菜の摂取が長寿に結びつく理由(抗酸化物質である)とかも明解に説明される。更に、直接酸化とは関係ないかもしれない脳の老化にもさりげなく1章が割かれており、実にバランスがとれている。
 詳細な注も割愛されずにちゃんと翻訳されているし、老化に興味がある人(無い人はいないでしょうが)一般にお勧めできる実におもしろい一冊である。

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なぜニュートンは万有引力を発見できたか

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 これまで、近代物理学の成立について幾多の名著をものしてきた山本義隆渾身の三分冊は「磁力と重力の発見」という一見奇妙な題名の書物として刊行された。なぜ、磁力と重力なのか?
 ニュートンが錬金術に耽溺していたことはよく知られているが、にも関わらず、彼は近代物理学の幕を切って落とすプリンキピアを刊行しおおせた。が、山本はこの「にも関わらず」が実は「だからこそ」であったことを見事に本書で論証して見せた。ニュートンが万有引力を提示したとき、何もない空間を力が伝わるなど非現実的だ、という批判が巻き起こったことは、また有名であるが、これを「ニュートンの先見性vs頭の堅い保守派」という文脈で見るのは実は誤っていると山本は言う。客観的に言って、思想的な立場からすれば、万有引力を批判する側のほうが、合理主義的であり、科学的な立場にたっていたのであり、むしろニュートンの方が神秘主義者であって、だからこそ万有引力を臆面もなく理論に組み入れることが出来たのだ、と言う事を山本は看破してみせる。
 そして、この神秘主義的な部分の本質には磁力、という魔術としか思えない遠隔作用力をめぐる長い思想的な歴史があり、その延長線上にいたかどうかがニュートンと他のライバル達との間を決定的に分けたのだと。それに比べれば、数学的な能力とか、微積分の発見とかは瑣末なことに過ぎないのだ。
 科学史の面白さは、今の観点からしか過去の業績を考えることが出来ない我々に代わって、当時の立場で、当時の雰囲気から科学の発展を振り返ってくれることだろう。山本は遠く古代ギリシャからその道を辿ることで、魔術の許容こそ近代物理学の成立に不可欠だったという逆説的な結論を描いて見せた。最高にエキサイティングな一冊と言えるだろう。

(田口善弘/中央大学理工学部物理学科 助教授 http://www.granular.com/tag/index-j.html)

『磁力と重力の発見2 ルネサンス』
『磁力と重力の発見3 近代の始まり』

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さまざまな読み方ができる科学理論のコレクション

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 美醜の問題は客観的ではないがゆえに、科学とはかけはなれていると思いがちだが、どっこい当の科学者達は(独創的な創造を行うと言う意味で)自分たちは芸術家にこそ一番近いと思っていたりする。で、方程式が美しい、という何とも不可解な言説が登場することになる。本書は、美しいというネタにかこつけて、有名な方程式を11個あげて、その方程式の発見者の物語や、その方程式自体の歴史的な意味などを興味が持てるように解説した11本の原稿の集まりである。取り上げられた方程式の中には、アインシュタインの一般相対論みたいなお約束のものから、ドレイク方程式みたいに美しいとはちょっと言い難いものや、結局方程式なんか出てこないジョン・メイナード・スミスの手になる進化のゲーム理論まで実に多岐に渡っている。羞しいことに僕は、物理の方程式の方がむしろ解らなかったのだが、方程式にまつわる記事、ということ以外一切を各筆者にまかせでもしたかの様にまさに十人十色でまったく飽きさせない構成になっている。
 ただ、願うべくは、出てくる方程式のいくつかは馴染がある方がいいだろう。1つとして馴染のある式が無いようではちょっとつらいかも知れない(もっともヤン=ミルズ方程式なんて解る人が何人いるか妖しげだが)。そして、読み終えた後には独断と偏見を持ってベストワンの方程式を決めて欲しい。僕? 僕はまあ、ロバート・メイの手になるロジスティック写像方程式をベストワンにしておこう。が、勿論、専門外の原稿でも十分たのしめるだろう。僕はシャノンの方程式を扱った原稿を読んではじめて、ビットがそもそも通信量の単位として考案されたことを知った。本当、シャノンという人物は、実にいろいろなことを見透して理論を構築したのだとあらためて感心する。とかいうように人により読み方は各々だろう。是非、自分なりの読み方をみつけて欲しい。

(田口善弘/中央大学理工学部物理学科 助教授 http://www.granular.com/tag/index-j.html)

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感情の無い知性など存在しない

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 本書は奇しくも著名な異色の脳科学者、松本元の遺作(訳本ではあるが)となった書物である。副題にもある通り、脳の情動面の研究を扱った本だ。出版元からも想像される様に決して読みやすくはないが、取り組むだけの価値がある本だろう。
 本書の著者であるルドゥーが言いたいことは簡単しごくである。いわく「感情の無い知性など存在しない」。通常、感情と理性を相反した対立するものとして捕えがちな我々にとっては実に奇妙な見解に思える。
 しかし、本書でくり返し強調されているように、脳の情動を司る部分と思考を司る部分はわかち難く結びついており、そして、情動→思考の回路の方が思考→情動の回路よりずっと太い。脳の構造上、情動から独立な思考などあり得そうもないのだ。
 ここで「それは人間の脳が不完全だからで、純粋知性は作成可能では?」という反論があるかもしれない。しかし、我々は人間のチャンピオンに勝利できるチェスコンピュータにも、一生かけても読むことすら出来ないような桁数の円周率を計算できるコンピュータにも知性を感じることはできない。大体、我々は人間の知性しか知らないのだ。この反論に意味があるかどうかはやや不明でもある。
 残念ながら本書を読み通しても感情のある知性とはどんなものか、という定義は得られない。著者はただ淡々と現状の脳科学においていかに情動が無視されて来たか、またにも関わらず、脳の理解にいかに情動が大切かと言うことを手を変え品を変え、見せてくれるだけである。その意味では、本書は研究の途中経過の報告にしか過ぎないのだろう。
 が、急逝した松本元氏は情動こそ脳の基本を司る基本機能であると堅く信じていたようだし、その線に沿って「人工脳」を作ろうとしていたらしいのだ。いずれ「感情無き知性など存在しない」ということが科学的に証明される日も来るのかも知れない。

(田口善弘/中央大学理工学部物理学科 助教授 http://www.granular.com/tag/index-j.html)

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現実を構築する視覚の驚くべき能力

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 百聞は一見にしかず、という有名な言葉がある。百回聞くより一回見た方がよく解る、という意味だが、単位時間あたりの情報量からすれば決して大袈裟とは言えない。しかし、良く考えれば我々は3次元空間の2次元への射影しか観測できないわけで、見る方だってはなはだ怪しげなものではある。それにしても、この本を読むまではまさかここまでひどいとは思ってもみなかった。
 著者はVI (Visual Intelligence) という用語で我々の視覚を一種の情報処理系であると位置付ける。キーワードは構築である。我々は実際には「見て」いると言うよりは、網膜が得たデータから現実としてもっともありそうな3次元の状態を構築しているのだ。非常にまれな場合を除いては、この構築は上手く機能し、現実と齟齬を来すことがないので、我々はそれに気づかない。が、よくあるような錯視を誘発する騙し絵的な例を満載することで、我々の「見たものは現実そのものだ」という確信を薄皮を剥ぐように一枚一枚切り崩して行くと共に、VIがいかに上手くできているかを例証して行く。
 真骨頂は「動き」について書かれた章だろう。勿論、僕だって映画の動きが静止画の連続に過ぎず、大脳がそれを「解釈して」動きに見せているのは知っていた。が、まさか、「現実」を見るときもその原理を使っているとは知らなかった。我々には「動き」を直接観測する能力はそもそも無いようで、あるのはある時間間隔でデジカメの様に静止画を短い時間間隔で記録する能力のみ。あとは、VIが動きを解釈しているに過ぎないのだ。つまり、真の意味で「動き」を観測できた人は誰もいないのだ。
 最後の章では著者等は現実の存在さえ疑って見せる。僕には納得できない立場だが、唯心論的な議論としては最上のレベルに属するとだけは言っておこう。

(田口善弘/中央大学理工学部物理学科 助教授 http://www.granular.com/tag/index-j.html)

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紙の本進化する地球惑星システム

2004/07/11 15:31

生まれ変わった「地学」の魅力がつまった入門書

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 地学、と言うのは長いこと不人気な学問だった。高校でも物化生地の4科目の中ではもっとも人気が無く、かつ、地学の中では天文ばかりが人気がある、というかなり悲しい学問だった。しかし、本書を読めば、もはやそんな時代は終りつつあることが理解出来る。
 本書は2000年に改組によって誕生した東大の地球惑星科学専攻にできた地球惑星システム科学講座の面々が、この聞きなれない学問を学生に教えるために自ら作りだした入門の教科書である。こう書くとなんだか難しくて読みにくそうに思えるが、そこはかなり配慮されていて、版組も縦書きだし、難しい参考文献の引用も避けられていて、内容を深く知ろうと思うと、むしろ、困るくらいやさしく書かれている。ややかためなのはいたしかたないとして、普通の科学書の様な感じで気楽に読める作りになっている。
 肝心の内容もなかなか充実している。「太陽系の原物質とその進化」と題する章、及び、「地球惑星システムの誕生」と題する章では、太陽系形成論の最先端を、「冷却する地球の進化」で惑星形成論を概括し、「スノーボールアース」では今話題の全地球凍結を述べる。このあとには「カンブリア紀における生物の爆発的進化の謎」を持って来て、無理無く生物のネタに移行した後、「二億年の地球のリズム」「天体衝突と地球システム変動」「アイスエイジの気候変動」「地球の氷とアジアモンスーン」「地球温暖化に対する生命圏の応答」と生命と気候・環境の共進化と言う観点をいろいろな方向からアプローチする方法を列挙して行く。
 いわゆる「博物学」の系譜をつぐ学問体系であるために「古い(つまらない?)」とおもわれがちなこの分野だったが、いままさに革命と言うべき大変革がおきつつある。それをうまくまとめて解説した、専門家でなければかけない貴重な一冊と言えるだろう。

(田口善弘/中央大学理工学部物理学科 助教授 http://www.granular.com/tag/index-j.html)

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二重らせんの発見者ワトソンが語りつくすDNAと社会

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 本書は二重らせん発見50周年を記念して出版された本であり、二重らせん発見者の一人でノーベル賞を受賞しているワトソンの筆になる(ゴーストライター的な共著者あり)。発見後は研究所の所長となり長くこの分野の発展を眺めてきた著者はテーマの選び方にもそつが無い。単にDNAの科学的な説明というより、DNAが社会にどんな影響を与えて来たかという歴史を概観する書物となっている。
 例えば、「遺伝子の指紋」という章では、わざわざ一章分のページを費やして、犯罪現場に残されたDNAから犯人を認証する話や、DNAの比較の子どもの認知判定への応用など、DNAの科学的な意義からしたら全然本質的でなく、傍流的な応用に過ぎない例が詳細に述べられている。このことから解るように、本書は単にDNAとは何かを解説する科学啓蒙書というよりは、DNAと社会の関わりについて解説したケーススタディ的な書物となっている。その意味では「所長」という経歴を反映した書物なのだ。
 その他、遺伝子組み替え、遺伝子診断、遺伝子治療、ヒトゲノム計画など、めぼしいネタはみな取り上げられて解りやすく説明されている上に、カラー図版満載で500ページの本が2400円という値段である。訳者も手慣れた青木薫。これはもうとりあえず買っておくしかないと言うしかないだろう。
 ワトソンは「遺伝子と未来」と題する最後の章で禁断の人間の遺伝子操作について論じる。根っからの楽観主義者のワトソンは人類の遺伝子操作にも明るい面を主に見ている。そして何がおきるか解らないから手を出さないという態度を、人類の未来への怠慢としてしりぞけている。人類は自分の遺伝子を操作するところまで踏みこむべきなのか否か? 本書を読み終えた後でそんな問い掛けに自分なりの結論を出してみるのもまた一興だろう。
(田口善弘/中央大学理工学部物理学科 助教授 http://www.granular.com/tag/index-j.html)

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複雑系物理学の第一人者が導きだしたシンプルな生命モデル

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 ちょっと前に複雑系がブームになった。ブームはすっかり去った感があるが、その後研究はどうなったの?という向きにお勧めなのがこの一冊だ。
 ブームのときには、複雑系、というよりカオスとかフラクタルとか周辺分野も含めて、味噌糞いっしょにもてはやされた感があるが、本書は日本における複雑系物理学の第一人者によって著された最新成果の啓蒙書である。残念ながら、評者とかなり分野的に近い研究対象なので果して一般向けに解りやすく書かれているか判断に苦しむところだが(分野が近いとなんとなく解ってしまうので)、決して難しい数式や難解な理論を駆使しているわけではないので、是非、読んで頂きたい。
 題名にある通り、本書のテーマは生物学だが、古典的な生物学とも、最近流行の分子生物学とも全く趣を異にする。あえていうならば、もし生命があるとすればそれはどんな条件を満たさなくてはならないか、という条件探索の書と言えよう。
 この目的のために、著者らは、単純な化学方程式の組で表現される代謝系を導入し、この代謝系に増殖ルール(ある条件を満たすと自分のコピーを作る)を導入して、代謝系のコピーの数が増えると共に何が起きるかを数値計算で観察する。驚いたことに、遺伝子とか、ガン化とか、細胞分化とか、種分化がこんな簡単なモデルで説明できるようにみえる。しかも、単細胞生物に限られるとはいえ、これらのモデルで得られた結論は実験での傍証もあつまりつつあるという。
 著者の視線は更に、社会の階層分化や認知まで同じようなコンセプトで説明することまで伸びている。モデルの当否はともかくとして、ここまで徹底的に研究した/する信念には脱帽するしかない。オルタナティブな提案として読んでおいて損はないだろう。

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進化論的に心をつきつめることで豊かな人間像が浮かびあがる

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 ピンカーといえば、『言語を生みだす本能』(NHKブックス 1995年)で一世を風靡した(?)記憶も新しいが、今回ピンカーはそのビジョンを言語を大きく越えて心そのものにまで広げて見せた。基本的な立場は同じだ。とかく文化の視点から語られがちな言語を進化生物学の立場から切って見せた前著の立場そのまま、心を脳という生態器官の機能して捉え、かつ、脳という器官の成り立ちは進化によっているという立場を貫徹するのだ。簡単に言えば、「消化」という機能が「消化器官」の機能であり、消化器官は進化によって生じた、というのと全く同じような立場で脳の機能である心を扱うのだ。一見、極端に見えるこの立場はそれこそ、ロボットから利他行動まで、知能が関係しそうなキーワードをことごとく包含して議論する強い立場を著者に与えた。この様な立場は一見、機械論的で、ヒューマニズムを否定するかの様に感じられるかもしれないが、実際には、それとは逆の立場に到達する。人間の弱い面、悪徳とされる面も、ピンカーにかかれば進化の必然の帰結になる。例えば「肥満」は、人間の脳が進化の淘汰圧にさらされていた、狩猟採集生活でありえない「食べすぎ」に適応しそこなった結果に過ぎず、人間の弱さとかを象徴するものではない。全てを個人の責任に帰する保守は勿論のこと、全てを社会に帰するリベラルも超えて、究極のリベラルに到達したといってもいいだろう。そう、まさに「科学的な」立場なのだ。とかく、倫理や正義とは無縁とは思われがちな科学が、本当の意味で人間的で解放された社会観を提供しうるという一つの実例をこの本は作ったと思う。自然科学と人文・社会科学の双方に深い興味をもつ読者に必読の書であろう、原書にはあったに違いない参考文献を全部削除した点を除けば。

(田口善弘/中央大学理工学部物理学科 助教授 http://www.granular.com/tag/index-j.html)

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生物時計の謎をさぐる

2003/07/23 17:22

カニは時差ボケになるのか?──興味深い話題が満載の生物時計の啓蒙書

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 平たく言えばこの本は生物時計についての啓蒙書と言うことになろう。生物時計と言えば、洞窟に人間がこもって生活したら、1日は24時間じゃなかった、という話とか、航空機で外国に行ったときの時差ボケ、とか、いろいろ断片的な知識は持っている人は多かろう。その生物時計の研究に長年研究を捧げてきた専門家が執筆した本格的な啓蒙書がこの本だ。こう書くと字の細かい分厚い本を想像しがちだが、実際には、活字の大きい、200ページ余りの実に読みやすい本に仕上がっている。が、その読みやすい見掛けと、とてもプロの科学者とは思えない文才に騙されてはいけない。難解な専門用語を徹底的に廃しながらも実に内容が濃い本に仕上がっている。生物時計というと人間のような「高等生物」を想定しがちな読者に、のっけから時計代わりに使える程正確な生物時計を単細胞生物でさえ持っていることを示してど肝を抜く。本書で何度も登場するカニに到っては、手足を切り取られ、背中に穴を開けられて背中合わせに封蝋で接着された上で実験に供される(本のカバーの時計の写真の上に小さく描かれたカニがそうである。良く見ないと気づかないが、見て欲しい)。これで何を実験したのかは本を読んでのお楽しみだが、いろいろ見たことも聞いたこともない面白い話が満載だ。
 一方で、生物時計がなぜ、どのように機能しているか、ということを探究するという統一的な視点からははずれないのでブレもなく実にいい本にまとめられている。暇つぶしでも読める本なので是非、読んで頂きたい。
 惜しむらくは、参考文献がまったく無いことだ。せっかく専門家が書いたのだから、参考文献はつけて欲しかった。ひょっとしたら、原書にはあった文献を、よくあるように翻訳段階では削除したのかも知れないが、だとしたら、許しがたい。「大月(書店)よ、お前もか」という気分だ。専門家が書いた本くらい、文献は残して欲しかった。

(田口善弘/中央大学理工学部物理学科 助教授 http://www.granular.com/tag/index-j.html)

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神秘に科学的アプローチでのぞむ

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 脳科学の最近の進歩はめざましいものがあるが、この進歩を先導しているのが、PETやfMRIといった脳の直接観測技術の進歩であることに異論をはさむ人は少ないだろう。この様な技術のおかげで、人間が「何か」をしているときに、脳のどの部位がどのように活動しているかを直接観測できるようになった。この「何か」が純粋な思考であっても一向に構わない。
 本書の著者達は「何か」として冥想をとりあげ、瞑想しているとき、人間の脳の自己認識をつかさどる部位の活動が低下しており、その結果、自己と外界の統一的な感覚、仏教的な用語で言うところの解脱を体験できるのだ、という合理的な結論を得た。このことはこれまで“神秘体験”とされてきた経験に対し脳科学の立場から説明を与えており興味深い。
 更に著者等は、瞑想で得られる外界との一体感が神の起源であることを例証し、そして、なぜ人間は神を感じることになるのか、ということについて、死が必然の不条理な世界で、神の存在を「経験」できる人間は生存競争上有利であったという結論を導くが、神を信じることでのマイナスもあるはずであるから、それとのトレードオフを議論すべきだったし、「進化による神の出現」説にはいっそうの吟味が必要とされよう。
 最後に著者達は、瞑想による神の実感が現実の脳過程である以上、神の存在を無視できないという論理を展開するが、脳は外界からの刺激の処理で存在を認知するのであり、瞑想での実感が外界からのいかなる刺激で引き起こされるのか議論できなければ、認識の立証とは言えないだろう。脳自身が認知しているわけではあるまい。
 参考文献を割愛してないのは評価できるが、訳者を奥付けだけに表記し、監訳者にすぎない茂木の名だけをカバーに大きく表記するのはどうかと思う。本は売れるのであろうが、翻訳の労をとった訳者をまるでゴースト訳者のように扱うのは編集の不誠実と言わざるを得ない。

(田口善弘/中央大学理工学部物理学科 助教授 http://www.granular.com/tag/index-j.html)

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面白い!人類の「文化」は類人猿から受け継いだ「自然」なのだ

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 「人工と自然」という言葉を待つまでもなく、人間は自らと自然を切り離してきた。それはあたかも「自然」という器、あるいは舞台装置があらかじめあり、そこに「人間」という存在が忽然と現れたかのように。
 この考えを正当化するべく、人間と人間以外の自然を区別するためのありとあらゆる努力が費やされてきた。「文化」というのはその1つの典型例だろう。文化は人間だけが持つものであり、他の動物はこれを持たず、それ故にこそ人間は自然の上に立つ存在なのだと。

 本書の著者ドゥ・ヴァールはこの考えに真っ向から反対してみせる。
 霊長類の研究家である彼は、我々が「文化」と呼んでいるなんらかの構造が広く類人猿にも見られることをしつこいほど、例証していく。その過程で著者は、誤った進化論を普及させた罪ばかり強調されることの多い今西を、類人猿も文化を持っていることを偏見なくつまびらかにした先駆者として高く評価する。有名な幸島のサルのイモ洗いは、著者から見ると文化に他ならず、これを重要な発見として見逃さなかった今西は偉かったのだと。そして、個体に名前をつけてその社会構造を研究するという、今では当たり前になった研究手法が今西らによって(無自覚のうちに)創始されたことを指摘する。

 人間は、進化によって類人猿につながっている。だから、類人猿を研究することで、人間の公共心、闘争心、好奇心などの、人間を人間たらしめているとみなされている諸性質が類人猿から受け継がれた「自然」に他ならないと示そうとする。それが、著者の目論見なのだ。
 きっと著者はこう言いたかったにちがいない。「人間を人間たらしめいている諸性質は、人間固有のものだから貴いのではなく、40億年の進化の果てに獲得された生物としての性質に他ならないからこそ貴いのだ」と。
 絶対面白いので、買って読むことをおすすめする。

(田口善弘/中央大学理工学部物理学科 助教授 http://www.granular.com/tag/index-j.html)

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素粒子理論の国を旅するドロシーと一緒に、本気でお勉強

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 「オズの魔法使い」といういかしたミュージカル映画をご存じだろうか? ジュディ・ガーランド扮するドロシーという名の愛くるしい女の子が主人公の魔法の国で繰り広げる冒険譚だ。モノクロの画面が魔法の国に入った途端、パッと総天然色の画面に切り替わる演出の素晴らしさが忘れられない。

 本書はこの映画をモチーフに、ドロシーなる少女が素粒子理論の国を旅するというお話だ。そう、かの有名なトムキンス・シリーズの少女バージョンと思っていただければ間違いない。
 お約束のかかし、きこり、ライオン(これはなぜか眼鏡をかけていて明らかにアイザック・アシモフのもじり)も登場するし、オズ版では狂言回しの役割であまり活躍しない魔女たちもここでは4つの力を体現する存在として縦横無尽の活躍を見せる。別に素粒子理論の啓蒙書でなくてもなかなかに楽しめる雰囲気を醸しだしている。

 しかし、内容は結構ハード。僕も知っているところは解ったけど、知らないところはなんのことかよく解らないというていたらくで、そうそう気楽に読めるような代物ではない。ソフトカバーと童話風のさし絵につられて安易な気持ちで手を出すと痛い目にあうかも。あくまで、いわゆる科学啓蒙書を読んで真面目に素粒子理論に触れたいと思っている向きにお勧めだ。下手な啓蒙書よりよっぽど真面目な内容である。じっくり読めば、十分に頭を使わされる。監訳者の江沢洋はこの手の本の内容には相当うるさい人物なので彼の名が監訳者に入っている以上、いい加減なことはまず書かれていないと信用していいと思う。

 今度の週末の予定をキャンセルして、一人静かに洒落た音楽でも聞きながら、お茶かワインでもかたむけつつ読むのが似合いの一冊だ。すくなくともハリー・ポッターなんかを見に行くお金と時間があるなら、その方がいいと思う。

(田口善弘/中央大学理工学部物理学科 助教授 http://www.granular.com/tag/index-j.html)

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