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先月(2017年8月)

-さんのレビュー一覧

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8 件中 1 件~ 8 件を表示

デリシャス・サイエンス・ワンダーランドインザ・キッチン

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 うわ。ものすごく楽しい。
 だって、この本を読んだら、台所がたちまちに「サイエンス・ワンダーランド」になってしまう。しかも、「おいしい」結果付き。
 たとえば。これまでフライパンでステーキだの、ハンバーグだの焼くとき、目の前にある肉はどう見えてました? きっと、カタマリだったはず。でも、これからは違う。フライパンの中の肉は、タンパク質という決定的な成分でできていて、それは繊維の束だと意識するようになる。で、そこに熱という要素が加わると? 繊維の束は、収縮したり、水分を出したり、補充したりしている。なんだか肉の息遣いが聞こえてきそうじゃない?
 「台所で実験」という類の本はよくあった。でも、日常的な料理という、台所の主目的に沿いながら、目の前で起こっていることの理屈を読ませてくれるものは、ほとんどなかった。まさに待望の一冊。肉から、野菜から、卵から、穀類まで、一通りが取り上げられているうえに! おいしそうなレシピも、各ジャンルごと、ふんだんについてます。理屈は実習で実感。基本をおさえて、勝手に応用しちゃいましょう。さらに細々したコツがまとまっているので、素人さんウェルカム。日々の食事を担当している玄人さんも、新発見、再発見だらけのはず。
 そう。食材になにが起こっているかを理解する料理人に、読者は生まれ変わるのだ。科学という「理屈」を、おいしく使いこなしながら。男じゃなくても、ね。

(鈴木クニエ/フリーライター http://homepage2.nifty.com/suzuki-kunie/)

【原題】
HOW TO READ A FRENCH FRY

【目次】
はじめに めざせ、応用のきく料理術
第一章 油を制するものはキッチンを制す——揚げものの極意
第二章 卵で乳化をマスターする——ソースも卵料理も
第三章 鮮度と成熟を知りつくす——野菜と果物の神秘
第四章 デンプン使いの達人になる——パスタ、米、豆
第五章 キーワードは「ジューシー」——魚と肉
第六章 これができれば一人前——パイ皮とクッキーを手作りで

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セピア色のセンス・オブ・ワンダーを追体験!

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 オリヴァー・サックスといえば、『レナードの朝』や『火星の人類学者』で知られる名うてのメディカル・エッセイスト。そのサックスが自ら少年時代を描くとなれば、興味深いエピソードに充ち満ちているはずという期待が、いやがおうにも高まってしまう。
 もちろん少年サックスは、期待に応えることをたくさんしでかした。見つからない小麦粉の代わりに、なぜかセメントの粉を使ったパンを焼き上げる。それを食べたカブスカウト隊長氏の歯の運命は想像の通り。スカウトはめでたく除隊となった。そして、一方で「タングステンこそ理想の金属」と考えるデイヴおじさんのあだ名をこの本のタイトルにもってくるほど、「化学」にハマっていた。
 最初は身の回りの金属に関心を示し、「なぜなぜ」少年となった。曰く、なぜ光沢があるの?、なぜ硬いの?、なぜ重いの?……。こんななぜなぜ攻撃をちゃんと受け止めてくれる家族や親戚に囲まれているのは、うらやましいの一言。サックス自身、「私には、書庫や図書館の替わりになるおじやおばやいとこが大勢いた」と書いている。
 そして、ティーンエイジになるかならないかの頃は、実験に明け暮れる日々。興味は金属以外にも移り、色やにおいを究めようとする。アルコールを酢酸と一緒に蒸留して、洋ナシの香りを人工的に再現する小学生がサックスに他ならない。もちろんいい香りだけではない。硫化水素を大量に発生させ、家中に悪臭を放ってしまったりもしている。よくぞ無事大人になったものだ。さらに、現象のみならずその背景への探求も始まる。サックスは過去の偉大な化学者たちの足跡をトレースしながら、ものの性質を考えたり、仕組みを理解したりする。こんな贅沢な勉強があろうか。だからこそ、元素の周期表という自然の不思議さに大きく感動できるのだ。
 今の時代、いろいろなものが危険物で手に入らない。サックスがやったような面白い実験を家でやることなどほとんど不可能。そうした時代の差を恨みながらになるけれど、セピア色のセンス・オブ・ワンダーを楽しく追体験させてもらえる、いい本だ。

(鈴木クニエ/フリーライター http://homepage2.nifty.com/suzuki-kunie/)

【原題】
UNCLE TUNGSTEN
Memories of a Chemical Boyhood


【目次】
1 タングステンおじさん——金属との出会い
2 「三七番地」——私の原風景
3 疎開——恐怖の日々の中で見つけた数の喜び
4 「理想的な金属」——素晴らしきタングステンとの絆
5 大衆に明かりを——タングステンおじさんの電球
6 輝安鉱の国——セメントのパンと鉱物のコレクション
7 趣味の化学——物質の華麗な変化を目撃する
8 悪臭と爆発と——実験に明け暮れた毎日
9 往診——医師の父との思い出
10 化学の言語——ヘリウムの詰まった気球に恋して
11 ハンフリー・デイヴィー——詩人でもあった化学者への憧れ
12 写真——二度と戻らぬ過去への愛着
13 ドルトン氏の丸い木片——原子の目で物質をながめる
14 力線——見えない力のとりこになる
15 家庭生活——身内の死と発狂した兄
16 メンデレーエフの花園——美しき元素の周期表
17 ポケットに分光器を忍ばせて——街や夜空を彩るスペクトル
18 冷たい火——光の秘密へ
19 母——「生物への共感」と解剖の恐怖
20 突き抜ける放射線——見えない光で物を見る
21 キュリー夫人の元素——ラジウムのエネルギーはどこから来るのか
22 キャナリー・ロウ——イカと音楽と詩と
23 解放された世界——放射能がもたらした興奮と脅威
24 きらびやかな光——原子が奏でる天球の音楽
25 終わりのとき——量子力学の到来と化学との別れ
あとがき
謝辞
訳者あとがき

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地中に広がる魅力な生命世界に誘われる

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 「地表贔屓(びいき)」——。読み始めてすぐ出てきたこの言葉に、虚をつかれた。たしかにそうだ。海水浴で親しむ海面の下ほどにも、地表の下にはほとんど関心をもってこなかった。生活を文字通り支えてもらっているのに。でも、「最近の科学のデータによれば、我々の足の下にいる生命の総量は、地上で観察する全部よりはるかに多いらしい」という。
 大学院生のときに「土壌判定コンテスト」なるイベントにも参加した“地中贔屓”の著者は、魅力的な生命の世界が地中に広がっていることをとても楽しそうに描く。生命の起源を探るために、極端な環境にも耐える古細菌の研究は欠かせない。窒素固定細菌がいるからこそ、地上の微妙なバランスがとれている。一部の地中生物には、トリニトロトルエンのような汚染物質まで分解する可能性がある。つきることない未知の病原体が存在するが、一方でその対抗策もまた地中に存在する。著者が地下から引っ張り出したいろいろな話題は、どれも“地中初心者”にうってつけのものだ。かのダーウィンが晩年に追究したものは? なんとミミズ。最後の著書のタイトルは『ミミズの作用による植物腐植土の形成』なのである。
 なかでも熱を帯びているのは、古細菌の発見者であり提唱者であるカール・ウーズ博士についてのくだりだ。彼が発見したメタン生成細菌は、他の細菌とまったくちがった。それはヒトとキノコほども離れていたのだ。新種の発見どころではなく、新大陸といえるほどの大きな生物領域発見である。著者にとってウーズは英雄的な存在らしい。彼の居室で行われたインタビューは、ぐいぐいと引き込ませる。
 著者が書いた一文が心に残った。「地下は区別立てしない場所で、生と死の雑踏のなかで我々が捨て去る全部のものを、何のこだわりもなく受け入れる。廃物ということが意味をもたない場所なのだ」。そして、都会の足下はアスファルトだらけなことも気になってきた。その下には、まだほとんど知られていない世界があるのに、と。

(鈴木クニエ/フリーライター http://homepage2.nifty.com/suzuki-kunie/)

【目次】
謝辞
序章
第1部 古代生命
 第1章 起源
 第2章 住める世界
 第3章 系統樹を揺さぶる
第2部 地球のための生命維持
 第4章 窒素循環
 第5章 地下の結びつき
 第6章 卑小なものの偉大な意味
 第7章 病原体戦争
第3部 人的な要因
 第8章 危機に瀕するプレーリードッグ
 第9章 大地
エピローグ
訳者あとがき / 註と引用文献 / 索引

【原題】
TALES FROM THE UNDERGROUND
A Natural History of Subterranean Life

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残された時間は少ない。効く薬があるうちに、どうにか……

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 約10年前、日本では、新聞報道から院内感染問題に火が点いた。MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)や院内感染という言葉が広く知れ渡ったときだった。だがそのとき一部の医師は、「新聞はウソつきだ。“効く薬がない”というけれど、バンコマイシンがあるじゃないか」と不満をもらしていた。
 たしかに当時、バンコマイシンは黄色ブドウ球菌に有効だった。だが、ほんとうに「効く薬がある」というだけでいいのか? 『メディシン・クエスト』などで知られるマーク・プロトキンとジャーナリストが書いた本書を読み終わった今ならはっきり言える。1993年の日本で言えたのは「今この瞬間なら、もしかしたら効くかも知れない薬がある」くらいだったはずだ。1980年代末にはすでにバンコマイシン耐性の腸球菌VREが現れ、1993年にはアメリカの病院で問題になっていたのだから。
 そして、生ぬるい感染症、特に院内感染対策しか講じられなかった日本で、もっとも恐れられている事態の萌芽がついに発見された。1章をさいてその様子が描かれているのは、バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌。MRSAからわずか2年である。幸いなことに完全な耐性ではなく、大量のバンコマイシンなら効果がある軽度耐性ではあった。だが、これから先は……。
 目に見えない細菌といえども、生き物である。生き残るためには、あの手この手で対抗策に打って出てくる。彼らには「圧倒的な数」と「早い世代交代」という2つの強みがあることを、人は完全に忘れていた。ていねいに冷静に書かれた耐性菌出現の様子を読みながら、ページを繰るたびに自分たちの「思い上がり」を突きつけられる。
 今、私たちが直面するのはMRSAやVREだけではない。ヒト食いバクテリアと呼ばれる劇症性溶血連鎖球菌や、過去の病気と忘れた結核菌の復活など、いたるところから狙われているのが現実なのだ。それは直接的な投与だけではない。家畜の成長促進にも使われている抗生物質が、耐性への引き金をひいている。
 そして、さらに本書が指摘する、もうひとつの現実がある。“マーケット”という沼だ。製薬会社が司る利益至上主義のその沼に、底があるのかどうかはわからない。しかし、そこに60億の人類を支える足場を組まなければならない。皆平等に耐性菌のターゲットになっている今、きちんとした知識で身を守るためにも読んでほしい。

(鈴木クニエ/フリーライター http://homepage2.nifty.com/suzuki-kunie/)

【マーク・プロトキンの本】
『メディシン・クエスト 新薬発見のあくなき探究』築地書館
『シャーマンの弟子になった民族植物学者の話 上』築地書館
『シャーマンの弟子になった民族植物学者の話 下』築地書館

【関連書】
ローリー・ギャレット著、山内一也監訳『カミング・プレイグ 迫りくる病原体の恐怖 上』河出書房新社
ローリー・ギャレット著、山内一也監訳『カミング・プレイグ 迫りくる病原体の恐怖 下』河出書房新社
太田美智男著『人はなぜ病院で感染するのか? 院内感染対策の現在』日本放送出版協会

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簡単なことから考えていく泥くささこそ数学の真髄

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 国際数学オリンピックの金メダリストに会って、「頭の中はいったいどーなってるの?」と、つくづく思ったことがある。きっとみなさんも同感でしょう。「数学ができる」ということは、ほとんどの人——おそらく全人口の90%を占めるに違いない——にとって、とてもとても不思議なことなのだ。
 しかし! この本は、「小学校5年までは数学が好きだったのに、嫌な目にあってそっぽを向いてしまった人々」をも対象にして、数学の考え方や発見にたどり着くまでの道筋を紹介しようという。たしかに、出てくるトピックは、aとbがどう並ぶかとか、線が交わるか交わらないかとか、極めて単純なケースがほとんど。たとえば大リーグでドジャースが連敗する、つまりスランプに陥るパターンまでもw(win)とl(lose)で“数学的に”、いちから考えてしまうのだ。そして、いろいろなケースが考える対象に加わっていく。数学最大の武器、一般化だ。
 ここで、数学が苦手だったみなさん。「数学は公式を使うもの」と思っていません? それが全然ちがうということがよくわかります。数学ができる人がやっていることは、けっこう泥くさい作業なのだ。無限に続きそうなものだって、最初の2つや3つでどうなるかが大事な手がかり。いきなりオールマイティ公式を天啓のごとく思いつくわけでは決してない。あーでもない、こーでもないと考える。ほら、そうわかると、数学好きな人の頭の中も少し身近に感じられるでしょ。だって微積分だの、三角関数だの、あのやっかいな数式をブンブン振り回すだけが数学じゃないのだから。
 ただ、個人的には異論も申し立てておきたい。床に引かれた平行線に、落とした針は交わるかどうかを考える「ビュフォンの針」という有名な問題がある。ここで筆者は、針の上を端から端まで這っていって何本の線を横切ったか報告してくれる「虫」を登場させるのだ。そりゃ便利な虫だ。が、お願いだからそんな虫を出さないで。こーゆーのは、「やっぱり数学好きは変な奴」というイメージがさらに強固になりかねん。困るのよ、落ちこぼれたとはいえ数学出身の私にとっては。
 あ、それから「どう」考えるかの本であって、「なぜ」そんなふうに考えるかという本ではないので、お間違いなきよう。

(鈴木クニエ/フリーライター http://homepage2.nifty.com/suzuki-kunie/)

【目次】
はじめに
第1章 針を投げたり、麺を投げたり
第2章 2点差がつけば勝ち
第3章 完全な三角形
第4章 スランプと絶好調
第5章 繰り返しのない列
第6章 得票を数える
第7章 無限を数える
第8章 そっくりさん
エピローグ 振り返ってみると
付録A 三角形について
付録B 双子の列をもう一度
謝辞/読書案内/訳者あとがき

【原題】How the Other Half Thinks : Adventures in Mathematical Reasoning

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一発屋・保積・穴屋・マニフェスト。どれか聞いたことありますか?

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 穴屋、一発屋、保積、マニフェスト。このうち、どれかひとつでいい。きちんと説明できるだろうか。私はどれも初耳で、「穴屋」以外は想像すらつかなかった。
 これらの中心にあるのが産業廃棄物、略して産廃である。ごく一部の人以外、日常的には意識しないで過ごしながら実は自らの生活が大きく依存している見えないゴミ、だ。思い出したように産廃の不法投棄がマスコミで取り上げられるものの、多くの場合、一過性の憂慮にとどまってしまう。
 合法・非合法あわせて何万トンもの産廃がダンプにのせられて毎日毎日——不法投棄であれば毎夜毎夜——、日本のどこかで必ず捨てられている。どのように? 不法投棄ワースト県の千葉県で産廃Gメンとして不法投棄を追放した著者が、その構造を実態に基づいて事細かに解説する。産廃業界を担うのが、捨て場所を確保する「穴屋」であり、一匹狼で産廃を運ぶダンプの「一発屋」であり、積み替えのための一時的な保管所でありながら不法投棄の温床となりやすい「保積」である。ゴミと引き替えに動く金の流れとともに、産廃の「今」があった。
 慣れない言葉が多く、はっきり言ってわかりにくい。いや、わかりにくくて当然だ。本書で著者が指摘しているのは、合法と非合法の投棄の境界すらあいまいになりつつある産廃業界の現状なのだから。もちろんリサイクル法やISO140001といった名目の下、有数の大企業は処分にコストをかける。とはいえ、その担当者も自社から出たゴミが最後までちゃんと処分されているかどうか知りようもなく、合法的な最終処分場にたどり着いてくれるのをただ祈るしかないというのだ。そういう話がわかりやすいはずがない。
 そして、著者のような産廃Gメンを全国で増やせばいいわけではないと最後に指摘する。産廃追放自体が難事業だが、ひとつの県から不法投棄をなくすことはできても、日本全国で同じことができるわけではない。産廃は生まれてしまうものだからだ。
 読み進めるうちに、暗い気持ちになってくる。しかし読むことすらせず、もし自分が何も知らずにいるとしたら……? そう想像すると、背筋がぞっとした。

(鈴木クニエ/フリーライター http://homepage2.nifty.com/suzuki-kunie/)

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北はサハリン南は鹿児島まで、お雇い外国人モーリッシュが歩いた日本

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 ハンス・モーリッシュは、大正後期に招かれて東北大学にやってきたいわゆる「お雇い外国人」。1856年のオーストリアに生まれ、ウィーン大学で学んだ植物学者にとって、1922年の日本は異世界であったろう。そのモーリッシュ自身が大正期の日本を、風俗から教育、自然などありとあらゆる目にしたものを記録したのが本書だ。まさに「植物学者モーリッシュの大正ニッポン観察記」というタイトル通りの内容である。
 口絵の写真を見ると、たいてい頭一つ飛び出しているいかめしい顔つきの人物がいる。モーリッシュだ。欧米人のなかでもひときわ大柄な彼にとって、日本は人から家から何もかもが小さく見えたにちがいない。だからといって見下さないのが、この観察記の最大の魅力だろう。植物学とは関係のないことも、あることも、極力偏見から自由であるべく受け止めている。
 そうした得難い著者による観察は、おそらくモーリッシュと同程度には異人となってしまった平成の世に生きる私たちにも興味深いとともに、示唆に富む内容だ。欧米スタイルが盛んに取り入れられ始めた大学の雰囲気や、客人をもてなすときの様子、さらには当時の富士登山まで、時代の空気や個性とともに紹介されている。町の風俗や自然についての何気ない一言は、二度と手に入らない記録なのだ。しかも、サイズや外観について科学者ならではの具体的な記述も随所に盛り込みながらとくれば、いっそう味わい深い。
 もちろん植物学者としての本領を発揮する部分もたくさんある。温泉地・塩原に出かけた折「七不思議」に出会い、興味津々で向かう。だが専門知識や判断力を用いれば、「逆さ杉」も「一夜竹」も「少しも不思議ではな」かった。唯一残ったのは、魚の住まない「精進川」の不思議だけ。それも「科学がこの現象に取り組めば、たちどころにその暗黒のベールがはがされることになる」とまとめる。そして、最後に出てくる造園術や果実・野菜についてのくだりは、研究対象の植物だけでなく取り巻く人々とのつながりを考えながら描かれる。異文化で育ったモーリッシュの目の付け所ふくめて、楽しく読める一冊だ。

まえがき
第1章 神戸から仙台へ
第2章 国民教育
第3章 逆さまの国
第4章 日本人の礼儀正しさについて
第5章 小島のパラダイス、松島
第6章 猿と鯨を訪ねる
第7章 埋もれ木
第8章 芝居見物
第9章 音楽
第10章 仙台で迎える正月
第11章 夏の南国旅行
第12章 もぐさ、按摩、鍼
第13章 温泉
第14章 塩原の七不思議
第15章 殺生石
第16章 珍しい動物
第17章 日本の珍味、イナゴとスズメ蜂
第18章 日本の養殖真珠
第19章 お雛祭り
第20章 一九二三年九月一日、大震災
第21章 皇太子の婚礼
第22章 富士登山
第23章 日本人の自殺について
第24章 北のさいはて、北海道とサハリンにて
第25章 最南端へ冬の旅
第26章 伊勢神宮
第27章 日光、湯元
第28章 日本の造園術
第29章 日本の果物と野菜
第30章 帰京
訳者あとがき

【関連書】
『日本奥地紀行』イザベラ・バード著、平凡社
『イザベラ・バードの『日本奥地紀行』を読む』宮本常一著、平凡社

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時代ごとにあらわれた幾何学の断章を味わう

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 「幾何」はたまに好かれるらしい。ただし、その幾何は補助線を引いたり、定理を当てはめたりするもののことが多い。パズルのように楽しい初等幾何だけれど、あれが幾何のすべて? そんなことはないと教えてくれるのが、5人の巨人を通して幾何学を眺めようとするこの本だ。
 幾何といえばまずはユークリッド。数学史上もっとも有名な本である『原論』をまとめた人物であり、彼が残した不思議な「公準」に多くの人が悩んだ。タレスや「数学者ではない」という最近の評価も定着してきた教祖ピタゴラスら、時代のスターたちを配しながら、遠いギリシャの空の下で繰り広げられた幾何の一面をかいま見せてくれる。
 お次はデカルト。私たちが位置を示すときになんの疑問もなく使う座標軸だが、もし教えてもらえなかったらどうしていただろう。どのように書き表すかは、とても重要な問題だ。そしてガウスが登場。非ユークリッド幾何学へとむかう革命が幕をあげ、アインシュタインという一人の天才が道具として使ったのは新しい幾何学だった。一般的に感じる数学の範疇にはない相対性理論にまでたどり着いた。最後の一幕を飾るのは、数学のノーベル賞といわれるフィールズ賞を受賞したウィッテン。ひも理論やらM理論やら最先端の物理学に、やはり最先端の幾何学が貢献する。そこでは「次元」がキーワードなのだ。
 短い章をつなぎあわせるように、過去から現代までを幾何学で見通す。途中、歴史学者にはきっと許されない表現もあるだろう。新しい文献があまり使われていないのも少し心細い。だが、この5人を選んで、幾何学のいろいろな表情を少しずつ、しかも深入りせずに見せてもらえるのはありがたい。なにより好奇心に火をつけてくれる本だ。読み終わると、幾何学についてもっと知りたくなっている自分を発見するだろう。

(鈴木クニエ/フリーライター http://homepage2.nifty.com/suzuki-kunie/)

【関連書籍】
アミール・D.アクゼル著『相対論がもたらした時空の奇妙な幾何学』早川書房
イアン・スチュアート著『2次元より平らな世界』早川書房

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