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國岡克知子(編書房)さんのレビュー一覧

投稿者:國岡克知子(編書房)

1 件中 1 件~ 1 件を表示

書店讃歌——書店に憧れた人々の風景

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 本書は江戸時代末期から昭和期(戦前)までの書店の風景の変容を時間軸にそって二十五話で紹介する試みである。著者のライフワークである出版業界のあり方を、歴史構造という縦糸と本に憧れ続けた人々という横糸で丁寧に織り上げた、充実した内容のエッセイ。
 目次を見ると、江戸時代の書店、『江戸繁昌記』のなかの書店、明治維新前後の書店、書店の小僧としての田山花袋、近代書店としての丸善、社会主義伝道行商書店、尾崎紅葉と丸善、芥川龍之介と丸善、円本時代と書店、上海の内山書店、新宿・紀伊國屋書店、日本出版配給株式会社と書店、などなど魅力的なタイトルが並ぶ。
 この書物で一番比重を置かれているのは作家と丸善の関係である。二葉亭四迷、尾崎紅葉、田山花袋、佐多稲子、芥川龍之介、森鴎外、梶井基次郎、石川啄木など、丸善に惹きつけられていた作家は数知れない。丸善とは彼らにとってどんな場所だったのか。明治三十七年生まれの作家・佐多稲子の描写は次のようである。「小学校もおえることなく長崎から上京しキャラメル工場で働いていた少女は、ある日新聞広告の求人欄で丸善の女店員募集をみつける。『丸善は本屋さんでしょ。そこで飛びついたのよ。なんとなくそこへ勤めたら本が読めるような気がして』」。実際には給料も安く、洋品売り場の女店員にしかなれなかったのだが。おまけに丸善の重役だった作家の内田魯庵は雲の上の人。女店員の佐多稲子は話をすることさえ叶わない。梶井基次郎の『檸檬』には「丸善の棚へ黄金色に輝く恐ろしい爆弾を仕掛けて来た奇怪な悪魔が私で、もう十分後にはあの丸善が美術の棚を中心として大爆発をするのだったらどんなに面白いだろう」と記されている。昭和二年に新宿の紀伊國屋書店を開いた田辺茂一もまた丸善に憧れつづけて書店をはじめたのだ。明治、大正時代の作家や文学青年、本好きな人々にとっての丸善は、まるで神がやどる神聖な場所ででもあったかのように思える。
 江戸末期の書店風景も見ておこう。それは第二話の『江戸繁昌記』(寺門静軒著)に収められている「書舗(ホンヤ)」というエッセイでユーモアたっぷりに紹介されている。書店を訪れた客の生態を著者の小田氏が意訳している部分。<武士は娯楽書を買い求める。儒者は大声で捜している書名をいうが、支払いの悪い客なので、在庫があるにもかかわらず、番頭と小僧はないと答える。(中略)高僧がお伴をつれ、威張って入ってくる。そして番頭との会話が始まる。高僧:「唐詩選はあるか」 番頭:「ございます。注釈者別で四種類ありますが、どれをお望みでしょうか」 高僧:「そんな難しいものはいらん。口語訳の唐詩選はないのか」 番頭:「きいたことがございません」 高僧:「それなら般若心経はあるか」 番頭:「大きい版と小さい版がありますが」 高僧:「どちらでもいいから仮名付きのものにしてくれ」> このあとには閉店後の書庫でそれぞれの書物が言葉を発して、一斉に嘆き始める。この会話が魅力的。くだらない本ばかりが売れて、自分のように価値のある本は死蔵されていると嘆く。この風景もどこかで見たような錯覚を覚える。
「円本時代と書店」では、テキヤ、やくざなどが入り乱れて大量に刷られ不良在庫化した文学全集(円本)を売りまくる場面や古本屋が立ちあがってくる風景にも出合える。
 現在の疲弊した書店現場を見るにつけ残念に思う。書店がこれほど輝いていた時代があったのに……。そういえば、30年前には私も書店員に憧れていた。地方から上京して、まず出かけてみた紀伊國屋書店。あのシンプルなカバーデザインを宝物のように感じて大事にしていたことを懐かしく思い出した。
 本書は本好きな人や書店員なら読んでおきたいと思うはず。引用されている書物が膨大なうえに的を射ていて、博覧強記の著者に脱帽。 (編書房 國岡克知子)

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