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稗田健志さんのレビュー一覧

投稿者:稗田健志

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「新しい中世」の課題

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 本書は、自ら地雷廃絶運動の国際NGOでも活躍してきた筆者が、活動から得た情報と理論的関心からトランスナショナルシビルソサエティ(以下TCS)の現在を描いた著作。いわば理論と実践の交錯から紡がれた研究といえるだろう。

 TCSとは国境を超えたシビルソサエティの連携を指していて、今日のNGOを中心としたグローバルなネットワークの拡大を念頭に置いた概念だ。本書では具体的事例として、気候行動ネットワーク(CAN)、地雷禁止国際キャンペーン(ICBL)、国際刑事裁判書を求めるNGO連合(CICC)という三つのNGO活動を取り上げ、TCSの現在果たしている機能とその意義を論じている。そこから明らかになるのは、実際の国際条約制定過程においてNGOが果たしている役割の大きさだ。それは各国での世論の喚起に留まらない。国際会議での各国代表に対するロビー活動はもちろん、知識の不足している代表団に対する情報提供と啓蒙活動まで行っている。グローバルなNGOネットワークは、アジェンダセッティングから条約の施行の監視まで、つまり政策過程の上流から下流まで全てに渡って大きな影響力を発揮しているのだ。

 著者はTCSが多国籍条約形成過程のアカウンタビリティ(説明責任)を向上させている点を重視している。だが、今後TCSが大国に比肩するほどの影響力を持っていくとすれば、TCS自身のアカウンタビリティという問題は避けて通れない。なぜならば、国民国家(およびその代表)は少なくとも形式的には国内の民主的手続きという「碇」を持っている一方、TCSは任意の団体に過ぎないからだ。もちろんこれは、本書でもTCSの正統性の問題として指摘され、その条件として道徳的・技術的・政治的・法的正統性が挙げられている。だが、道徳的正統性一つとっても簡単ではない。例えば、女子割礼を廃絶する運動は普遍的人権の理念に適った運動だろうか、それとも文化帝国主義だろうか。これは立場によって異なるものとなり、普遍性を定めることが困難だ。様々な意見の存在する領域で、TCSが反捕鯨運動に見られるように大きな「権力」を行使している以上、そのアカウンタビリティの要件は何か、それをどのように確保すべきか、それはどこに向けられるべきなのか、真剣な議論が必要であるように思える。

 とはいえ、上の課題全てを著者が負うべき仕事といっているのではない。グローバル化が進み、国民国家体制が相対化され、国民国家以外のアクターがその枠を超えて活動してゆく「新しい中世」といわれる時代状況のなかで、本書のようなTCSの実像を描いた実証研究は貴重な学問的貢献であるといえるだろう。

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