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homamiyaさんのレビュー一覧

投稿者:homamiya

40 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本精霊の守り人

2008/06/04 01:58

文化人類学者による、緻密な世界構築、これぞファンタジー

8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

新ヨゴ皇国という架空の国が舞台のファンタジー。
もともと、児童文学だったものを大人向けに漢字を増やしたものらしい。

「ファンタジー = 何でもアリ」なのではなく、ファンタジーというのは、いかに「ある世界」を作り出すか?という作業で、文化人類学者である著者は、建国の神話、先住民の伝承、先住民と新しい住民との違い、民俗、社会制度、精霊と人々の関係、などなど実に緻密に、かつ余計なものなく1つの世界を作り上げている。それがまず見事!

また、小説たるもの、世界をつくりあげるだけではなく、その世界でもって、物語をアピールできることが大切。

物語は、年のころは11~12歳の少年皇子が精霊の卵を産みつけられ、それゆえに父帝からの刺客や、卵をねらう魔物におそわれ、女用心棒や先住民の呪術師らと共に、精霊のナゾをときながら、卵を無事に孵そうとする、というモノ。
物語に、作り上げられた世界観がからみ、物語の進行とともに、世界の仕組みが明らかになってゆく。

物語のテンポも早く、先が気になり読み急いでしまう。
女用心棒が敵とたたかう戦闘シーンも、飛ばさずに読めるあたり、文章力もなかなかだ。

いいセリフも出てくる。世界はファンタジーでも、そこに人がいる限り、人の幸せ、不幸せは、やはりある。女用心棒は、その出生のために、追っ手から必死で逃げるつらい生活を送り、育ての親をそれに巻き込んで不幸にしたのではないか?という負い目を感じていた。その育ての親のセリフ。

「いいかげんに、人生を勘定するのは、やめようぜ、不幸がいくら、幸福がいくらあった。金勘定するように、過ぎてきた日々を勘定したらむなしいだけだ」

ファンタジーだから、全てが魔法で丸く収まるわけでは決してなく、どうしようもない事もある。それはこの世界と同じ。
それに立ち向かう登場人物たちの姿が、いとおしい。

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紙の本ま・く・ら

2008/09/24 02:55

好奇心旺盛で多趣味な噺家の枕はこうなるのか!

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

噺家・柳家小三冶の、18編のまくら集である。

まくらとは、本人のあとがきによると・・・
「噺の枕というのは、落語の本題に入る前のイントロで、こんなにいろんなこと長く喋るものではないのです。短い小噺をひとつふたつ喋っておいて、ポンと本題に入るのが江戸前てぇなもんです。本題に自信がないので独演会などの時にぐずぐずごまかしのためにやり出したのです。」
とあり、これがしかし、本題の落語より面白い、と言われるほどで、とうとう本になった。
私はこの著者の落語を聞いた事はないが、まくらは確かに面白かった。

まず、噺家コトバそのままの文体が、いい。ほどよい茶目っ気と柔らかさ。
『以前は外国へ噺家が行くなんてこたぁもう、今で言えば月の世界、火星の世界へ行くような、そんな感じがしたもんでございました。』
などと始まり、その内容は、多趣味で好奇心旺盛な著者の性格を反映して、さまざまな分野にわたる。
それでそれで!?と聞きたくなってしまう、著者のとる行動、思考の行く先。
そして、どれだけ多分野にわたっても、一本筋が通っていて、何の話をしていても、ブレない価値観をもっている事を感じさせる。

・日本人は豊か豊かと言われるけど、アメリカの失業者は、失業保険で生活しながら、庭もプールもある生活。失業しているワケを聞くと、「今おれに合う仕事がないから」と。「合う仕事が出てきたらバリバリ働く」。日本人は何人が、合う仕事をしていると言い切れる?

・外国のホテルのフロントで、ルームナンバーが英語で通じた!それだけで、「オー世界に国境はない」と大喜び。ちょっと通じる、くだらないことだけど、とても嬉しい。

・10年かけて映画を字幕ナシで見れるよう、英語の勉強を志す。字幕に出てこないものを見逃したくない。アメリカ人が涙する一言で涙し、笑うとき一緒の笑いたい。五十の手習いで、単身アメリカの英語学校へ。

・今の子供に涼しいものはナンだ?と聞くと、クーラー、扇風機と答えるだろう、でも本当に涼しいのは山の中とか川のせせらぎだ。大人が忙しくてそれを教えてあげられない世になっている。

・人の一生は子どもの時に決まる。後から性格を変えるのは無理。生れついた性格で爪弾きされるなら、開き直ろう、爪弾きされる楽しさもある。

このように、一つ一つは、他愛もないエピソードなのだが、著者の口調で読んでいくと、ハマる。
そして、「幸せって何だろう?」という考察もある。
その結論は、大層なものではないが、この語りの流れで読むと、胸にすとんと落ちて、いい気分になれる。

これを読んだら落語が聞いてみたくなり、新宿・末廣亭に行って来た。
柳家小三冶のナマ枕も(噺も)いつか聞きに行ってみたい。

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紙の本王妃の離婚

2008/09/23 02:39

中世フランスの、痛快法廷サスペンス

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

佐藤賢一作品で、ベスト3に入る傑作。直木賞受賞作でもある。
解説で紹介されている審査員の井上ひさしの感想「おもしろくて、痛快で、おまけに文学的な香気と情感も豊か」がまさにピッタリ。

●時は、中世。フランス王ルイ12世は、醜女と名高い王妃と別れ、広大なブルターニュ公領を持つ未亡人との再婚をねらうため、王妃に対して、離婚裁判を起こす。
この時代、カトリックで離婚は認められていない。
離婚したければ、「結婚の無効取消」をねらうしか、ない。

どうすれば、キリスト教の法にてらして、「無効」とできるのか?

主人公は、裁判を傍聴しに田舎から出てきた弁護士。
この著者の作品によくある、昔はかがやいていたダメ中年。この物語は彼の再生物語、でもある。
かつては、パリ大学で英名をとどろかせた学僧だったが、おちぶれて今や片田舎の弁護士。
これが、ひょんな事から王妃の弁護をすることになり、圧倒的な劣勢から、その冴え渡る知性と現場で磨いた凄腕で、裁判をひっくり返そうとする、法廷サスペンスだ。

「インテリは権力に屈してはならない」と、息巻いていた学生時代のように、敢然と国王とその手下たちに楯突く主人公。
「新しい弁護士は、俺だ」と、傍聴席から立ち上がり、後輩である学生達の喝采を受けて弁護席に立ってからは、まさに痛快。

どうすれば、キリスト教の法にてらした「無効」をはねのけられるのか?

専門知識を駆使し、場の空気をつかむ駆け引き。
そして、教会裁判で使われるラテン語で緻密に検事側を追い詰めつつ、記録には残らないフランス語で、「美人じゃないから、やらなかったなんて、どう考えてもインポ野郎の言い訳じゃねえか」と、傍聴席の民衆を沸かす。傍聴席は爆笑しながら、下品な野次で応えてくれる。
検事側はますますうろたえる。
ここらへん、実にエネルギッシュで面白い。

そして。
キリスト教において、夫婦とは、結婚とは、セックスとは?
若かりし青春の日に、最愛の女を失った主人公の考える、考え続けてきた、男とは?女とは?愛とは・・・?

解説にもあるが、登場する2人の女性の描写がこれまたステキ。
主人公の昔の恋人、ベリンダ。美人でおしゃべりで愛らしく、生命感にあふれている。
かたや、王妃。醜女と呼ばれるが、濃い色の地味な服に頭巾をかぶって、印象は暗いが、孤立無援の中、穏やかにしかし頑なに離婚を認めない、高貴な凛とした強さ、そしてその中にひそむ弱さが、後半には愛らしく描かれ、どちらも魅力的。

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紙の本あさきゆめみし 源氏物語 1

2008/08/02 02:54

いつの時代も女性の心は変わらない

7人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

源氏物語といえば、1000年も前に書かれた、我が国最古の小説。
原文も現代訳文も読んだことはないが、漫画では登場人物もストーリーも覚えてしまうほど読んだ。
それが、この「あさきゆめみし」。絵も美しいのだが、ある場面がすごくキレイで、何度も何度も読み返してしまう。

時は平安時代。帝と身分の低い妃の間に生まれた若君は、光り輝くばかりの美しさ、光る君と呼ばれる。母親は病で若くして亡くなり、のちに帝の元に母親によく似た藤壺の宮が輿入れしてくる。藤壺を母とも姉とも慕い、それはやがて激烈な恋心に変わる。
若君は美しく成長し、光源氏と呼ばれ、決して結ばれない父帝の妃である藤壺への想いを胸にかかえながら、多くの女性とさまざまな恋をする。

とあらすじを読むと、「なによ光源氏って女の敵ね」という印象しかもたないのだが、私はこの本を読んで、紫式部あるいは大和和紀が書きたかった主人公は、光源氏ではなく、光源氏が育て、愛し、一番大切な妻とする、「紫の上」ではないかと思った。

紫の上は、幼少時に源氏に引き取られ、慈しまれて育つ。
美しく成長して、源氏の妻となり、教養もあってこころばえもそれはそれは立派な女性だ。
源氏もあまた女性と関係するが、紫の上は明らかに特別待遇、誰よりも愛している。
が、晩年に、どういうつもりなのか、ときの帝の姫君を正室にもらってしまう。

源氏が自分を誰よりも大事におもってくれていることはわかる。
でも身分が高く、若い姫君に、いつか心がかたむいてしまうかもしれない。
それでも心をみにくい気持ちで満たすのはいや、と思いつつ、悲しくて一晩中泣いても源氏にも相手の姫君にもやさしく接するけなげな紫の上だが、心の中の何かが砕けてしまう。
女ならだれしも逃れられないつらくてたまらない嫉妬から逃れることができない、と。
そしてそれを源氏ですらわかってくれない、と。
どんなにむつみあっていても、男と女、いや、人と人との間には深いへだたりがある、と気づく。

「虚しいこと・・・・・
人生とはかくも頼りないものか
たしかなものなどなにひとつない」

男にはたくさんの恋人がいるこの時代、それでも嫉妬しないことが美徳と言われるが、そんな女の自由のない世界から早く去ってしまいたい、と思う紫の上。

そんな鬱々とした日々が続くある春の日、法会を営む最中に、とつぜん、気づく。
まばゆい光、かぐわしい花々、萌え出る緑、鳥の声・・・・

「この世は何と美しいのだろう」

「生きとし生けるものは
みななんと美しい輝きに満ちているか・・・・!」

「わたくしはこの世と・・・
この世に生きることを
こんなにも愛している・・・・・!」

ここが。すごくキレイだ。
男に左右されない生き方を欲しながらも、それでも人を、この世を愛し、愛されることができてしあわせだったと紫の上は言う。
喜びも悲しみも愛する人だからこそ、もらえるもの。
「あさきゆめみし」ではここがメインテーマになっているように見える。
どれほど原作に忠実なのかわからないが、この漫画通りだとすると、1000年経っても、人間が考えることって一緒なのね、と思わせられる。

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紙の本楽隊のうさぎ

2003/03/23 03:29

ブラス!!ブラス!!ブラス!!!

7人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

引っ込み思案の中学生・克久は、入学後、ブラスバンドに入部する。先輩や友人、教師に囲まれ、全国大会を目指す毎日。少年期の多感な時期に、戸惑いながらも音楽に夢中になる克久。やがて大会の日を迎え……。

ストーリーは背表紙に書いてある上記のあらすじそのままで、それ以上のことは何も無い。実に平凡でありがちな感じがするが、本の良さは、あらすじだけではないのだという事を改めて感じた本だった。
この本には、リズムがある。

ブラス!!ブラス!!ブラス!!!

例えばこれは第四章のタイトルだが、県大会を目指して、寝ても覚めてもブラス!という夏を送る部員達をとてもリズミカルに表わしている。
わかりやすくリズムのある言葉に導かれて、読み手も克久と共に色々な気持ちを味わい、大会の日を迎えられるのだ。
心を灰色に塗り固め、学校で何も感じないようにしていた入学当初から、部活に入り、個性豊かな同級生や先輩とのやりとり、親とのやりとり、初めての大会で味わう敬虔ともいえる舞台、学年が上がってまた部活三昧の毎日、2度目の大会。
学生時代の部活というのは不思議だ。プロというわけではない。お金ももらわない。しかし、半ば強制力みたいなものもあり、時間をかけて同じ面子で何度も練習をすることになる。みんなで一生懸命がんばって何かを作る、と言葉で書くと何だか陳腐だが、そこから得られるものはなかなか他の時期・場所では得がたいものだと思う。
「うまい演奏や深い演奏はできても、こんな真剣な音は今しかできない」
と克久の先輩が言ったように、それを克久が「温かな生き物の体を抱きしめるように解った」ように、それは経験した人にはわかるのだろう。
そして、本を読んでその経験を疑似体験する読み手にも、わかるような気がするのだ。

登場人物もいい味を出している。
私のお気に入りは、1人は部活顧問の森勉、通称ベンちゃん。
音楽に燃える、クレイジーな先生で、指揮者でもある。部員達は彼の悪口を言い出すと止まらないが、ほかの先生と違って、ベンちゃんの悪口は言えば言うほど楽しくなる。そんな先生だ。この先生は、部活を通して「他者と比べては生まれないような質のプライドを生徒たちの中に作り出してしまう」すごい先生だ。学校でこんな先生に出逢えたらいいなと思わせるキャラクターだ。
もう1人は克久の胸に住む、うさぎ。裃をつけてはっはあと頭を下げたり、歌を歌ったりする。このうさぎが克久の成長に一役買っているのだが、ふつーにこういううさぎが登場するあたり、作者の遊び心と、そのウマさに感心する。

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紙の本美味礼讃

2009/02/22 22:51

ほんもののフランス料理を日本にもたらした先駆者。その物語は刺激的。

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

辻静雄。
「彼以前は西洋料理だった。彼がほんもののフランス料理をもたらした。」といわれる人物。

新聞記者を辞め、まったくの素人から、調理学校に婿入りし、一流ホテルのコックが「テリーヌ」も知らない時代に、フランス料理を学び、調理学校を充実させそれを日本に広め、第一人者となるまでのサクセス・ストーリー。
何もないところから何かを生み出す先駆者の物語は刺激的だ。

食べること飲むことが大好きな私にとっては、作中に出てくる写実的な料理とワインの描写もひどく魅力的。

飾り気の少ない文体は、すっきりと芯がある。その積み重ねが、辻静雄という1人の人間の人生とその哲学、料理にという芸術に対する意識とか葛藤とかを力強く描いていて、それが心に響く。
2年余の時間、辻静雄本人に対する50回をこえるインタビューがこの本の下地にあると知って、納得。しっかりした土台の上に築かれたもの、という感じがある。

半伝記、半フィクションの形式で、本当にそのものがあったワケではないだろうが、その人生を語る上でわかりやすく象徴的なエピソードが、上手にムダなくちりばめられている。

「フェルナンはね、生きているとき、いつもこういっていたの」
史上最高と言われるフランス料理のシェフ、フェルナン・ポワン。彼の亡きあと、その味を覚えていて、レストランを続け、三ツ星をキープした未亡人、マダム・ポワンの一言。彼女は、辻静雄を息子のように愛し、助けてくれる。
「料理をつくる人間のつとめは、お客さんにつねにささやかなうれしい驚きをさしあげることだって。だからわたしもそうしているの」

調理学校を開校したばかりで運営方針が決まらなかった辻静雄にとって、これが、目標となる。
彼も後年、同じ思いに行き着いたのか、こんな記述がある。
「料理を口にした瞬間に客の顔に広がるちいさな驚きの表情を眺めるよろこびは、それを知らない人間には絶対に理解できないだろうと思った。」

フランス料理を理解するため、ひたすらに食べ続けた。
初めに、
「料理というのはつくり方も大事だが、できあがりの味がすべてなんだ。きみはまずそれを知らなければならない。そして、あらゆる料理のこれがそうだという最終のできあがりの味をきみの舌に徹底的に記憶させるんだ。」
というアドバイスを受けたからだ。

後には、日本料理、中国料理についても同じ。その飽食は、やがて彼の健康を害す。
彼にとっては、食べ続けたのは、楽しみのためではなかった。
『いかに満腹であっても、必要のために食べつづけてこなければならなかったのだ。
こうなるまで食べてこなかったら、フランス料理はもちろん、日本料理についても中国料理についても通りいっぺんのことしか理解することができなかっただろう』

なんというか、壮絶。

晩年のシーン。
「結局、人間にできることは、自分がやってきたことに満足することだけなのだ」
手塩にかけて育てたシェフの裏切り。けれど、どんな見返りも、そのシェフからは結局もらうことはできないと気づく。
誰のためでもなく、自分がそうすべきだと思ってしてきたこと、その過程で起こる事は、飽食による肝臓の故障も含めて、すべて認め、受け入れる。
これが、成すべき事を成し遂げた人の行き着くところなのだろう。

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紙の本今夜は眠れない

2008/07/17 01:14

やや子供向けかもしれないが、宮部みゆき作品で1、2を争う名作

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

この本は、私が学生時代に読んだ、初めての宮部みゆき作品。母上が図書館から借りてきたのを横からつまみ読みしたら、見事にハマった。それは、衝撃の出会いだった。

こんな面白いストーリーを考えられる人が世の中にはいるのか!という衝撃。そのくらい話の進め方が見事。展開が早く、でもわかりやすく、そしてドラマチック。割と薄い本だし、さっと読めるけど、すごく面白い。一流のエンターテイメントと言える。

主人公が中学生男子で、その級友・島崎が中学生とは思えないくらい賢くて冷静なのがまた私好み。

●結婚15年目の両親と、中1の僕。至って平和な(と思われていた)家庭に訪れる、突然の嵐。
それは見知らぬ弁護士がもたらした、遺産相続さわぎ(正確には遺贈というらしい)。
母親が娘時代に、とある出来事で関わった男性が、遺言で母親に5億円の財産を遺すという。
嵐の初めは外側から。マスコミの取材やら、親戚・知人からの干渉、不特定多数のおかした人たちからの脅迫電話。
そして、実はほころびかけていた両親の仲が一気に悪化。
とうとう、父親は家出してしまう。
僕と島崎は、嵐の発端となった、母親と男性のつながりを調べはじめ・・・そしてさらにさらに・・・・!!

これは、ある「賭け」の物語だ。
誰が、どうして、何のために、何を賭けていたのか?
実は最後にやっとわかる。最後に明かされて、すごく納得して、そしてホッとする。
「ああ。そうだったのか」と気持ちよく読み終えられる。

2人の少年が、水族館で出会い、「マダム・水族館(アクアリウム)」と名付ける謎の婦人も、ドラマチックさに色をそえる。婦人との出会いのシーン、すごく映像的で心に残る。

『いくつぐらいだろう・・・・・・四十五歳ぐらいにはなっているかもしれない。でも、とっても綺麗な女性だった。ほっそりと優美で、シンプルな黒色のスーツがよく似合う。僕らに向かってにっこりほほえんでいるくちびるだけが、淡い紅色だった。
(略)
視線をあわせ、そろって言葉を探している僕たちの頭に、代わる代わる、その人はそっと手を置いた。そして言った。「じゃ、またね。坊やたち。きっとまた、ここで会えることもあるわね」
彼女が消えてしまったあとも、しばらくのあいだ、香水の薫りが残っていた。
島崎が、感嘆の面持ちでぽつりと言った。
「マダム・水族館(アクアリウム)だ」
(またここで会えるわね)
たしかに、その約束は果たされることになる。だけど、それはまだまだ、先のお話。』

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紙の本ぬしさまへ

2008/06/08 22:53

人の心の美しいシーンが多いキレイな本

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

しゃばけシリーズ第2弾。
江戸の大店の病弱な若だんなと、それを助ける妖たちの物語。1作目は長編モノだったが、今回は短編集となっている。

1作目のときは、これほど面白いと思わなかったのだが、2作目はすごくいい!と思った。この本を読んで、このシリーズは全部そろえよう、と決意。

若だんなの名推理が冴える謎解きとしても楽しみだし、

<空のビードロ>の松之助が、日々がつらくても「でも生きていればいつか何か、心が浮き立つようなことに出会えるに違いない」と健気に思って、それでもくじけそうになって、でもやっぱりまたこう思えるようになるシーンとか、

<仁吉の思い人>で、妖である仁吉が、「恋しい、ただただ恋しくてたまらないのさ」と思う一途な恋心とか、

<虹を見し事>で、病弱な自分が将来大店を仕切れるのか日ごろから不安な若だんなが、ある事件で、自分の力の及ばなさを痛感して、「私は本当に、もっと大人になりたい。凄いばかりのことは出来ずとも、せめて誰かの心の声を聞き逃さないように」「いつかきっともっと大人に、頼られる人になりたい」と固く思う決意とか、

すごく美しいシーンがある。
きれいな夕焼けを見たときのような、染み入る感動がある。

若だんなにしても、他の登場人物にしても、いい人ばかりで、ちょっとキレイ過ぎるかもしれないけれど、こういう美しい心映えは大切だ、と思わされて、いい。

<虹を見し事>は、まるで夢の中にいるかのような、ワケのわからない状況から、その状況が明らかになり、それと共に若だんなの「大人になりたい」という決意が、ごく自然な流れで描かれていて、ストーリー運びも見事。

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仕事に疲れた平日の夜にどうぞ

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

仕事が忙しくて、毎日終電コース・・・・という時、それでも寝る前に、何か読みたかったら、この本がピッタリ。

北大獣医学部の学生たちと、ヘンな教授と動物たちのほのぼのコメディ。
「静かなコメディ」というと変だが、丁寧でキレイな絵と、どこかずれた登場人物たちが、おかしなテンポで静かに笑いを誘う。動物たちも可愛らしい。1話ずつ独立して読めるので、眠くなったら途中で寝よう。

ある平日の夜、文庫版の7巻を読み、101話で爆笑。夜中に一人で声をあげて笑ってしまった。

主人公とその学友が、オペラ「トスカ」にノーギャラでボランティア出演するが、少ない予算、急な代役で混乱する現場に、ストーリーもよくわかっていない主人公たちがドタバタする話。読んだことがある人はニヤリと思い出し笑いするだろう。

「おまえストーリーを知ってるか」
「あんまり」

から始まり、

「なんか不安な舞台だよな」
「余裕のなさが失敗をよぶのよね~」
「貧乏と言うことそれ自体が失敗のもとなのよ~ 経験によると~」

という辺りでかすかに笑い、そのあとのドタバタで爆笑!!
で、幸せな気持ちで眠りにつくのである。

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「ローマ人の物語」で最も面白い巻といえばココ!

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

塩野七生による、ローマの誕生から滅亡までを描いた傑作名著「ローマ人の物語」。
このシリーズの中で最も面白いのは、文庫版で3~5巻の「ハンニバル戦記」と、8~13巻の「ユリウス・カエサル」だと思う。
これらの巻だけを抜き出して読んでもハナシはわかるので、友達に「面白い本ない?」と言われたらこの9冊だけを渡すこともある。

歴史本なのに、小説にも負けないドラマチックなストーリーと、登場する英雄達を実に生き生きと描く著者の筆が、「ハンニバル戦記」と「ユリウス・カエサル」を、盛り上げる。
特に、カエサルを書く著者の筆は、本当に面白い。著者は、きっとカエサルが大好きなんだろうと微笑ましくなるくらい。
カエサル自身の発言、まわりの評価、後世の歴史家のことば、著者自身の考えをおりまぜ、その魅力をあますことなく紹介してくれる。

「ユリウス・カエサル」は、カエサルの若い時からガリア遠征を描く「ルビコン以前」と、ローマの共和制打倒のために内乱をおこす「ルビコン以後」に分かれる。

若い頃は、あまりぱっとしなかったようだ。
30歳を過ぎて、アレクサンダー大王の像を見て、彼が世界を制覇した年齢に達したのに自分は何もやってない、と反省し、ここから、広大になり統治システムがうまく働かなくなったローマ国家を変えるべく、その目的に向かって、ひたすら進む。
政界に進出し、自分も他人も利をこうむるやり方で、着実に出世し、有力者と手を組み、そして8年間にわたる遠征で、ガリアをローマの支配下におくことに成功。
ガリアの各部族との物理的な戦争がある一方でカエサルが倒そうとしている共和制をになう元老院との政治舞台での戦いがあり、ガリア平定後、元老院から最後通告をつきつけられ、ルビコン川を渡って国家に内乱を起こすか、元老院に従い志をあきらめるのか!?というところで「ルビコン以前」はドラマチックに終わる。

リーダーたるものこうあるべき、という理想像のようなカエサル。その言動は、現代の人が読んでも参考になるのでは。

どんなときも自信があり機嫌のよさを失わず、知性と教養にあふれ、ユーモアを忘れず、女にモテて、目的を達成するための合理的な考え方、部下へのいたわり・敗者への寛大さ(それも目的を達成するための手段かもしれないが)・・・・・。著者の書くカエサル像に、魅了され、ルビコン川を渡るときには、自分も一緒に戦いたくなってしまう。

何故カエサルが女にモテたのか?という考察や、借金まみれでも平気だったという彼のお金に対する考え方、なども面白い。

私財をためる事には興味のなかったカエサルだが、公共事業など必要なものには金をおしまなかった。そのために莫大な借金をしても、全く平気。
それは、あまりに多額の借金は、債権者にしてみれば債務者が破滅して取立て不能になっては困るものとなり、債務者を援助してしまうようになる、という人間心理をついた理由から。
事実、カエサルは多額の借金の債権者にさまざまな事で手を貸してもらっている。
金に飢えず、他人の金と自分の金を区別しない、お金に対する絶対的な優越感。
後世の研究者に「カエサルは他人の金で革命をやってのけた」と書かれる様な。
この一事をとってみても、タダ者ではない感じがステキだ。

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紙の本河岸忘日抄

2008/06/08 22:26

心地よいコトバで、ゆらゆらできますよ

5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

コトバが心地よいから、これはよい文章なんだろう。
慌しい通勤電車の中で読んでも、ゆらゆら揺れる水に、たゆたいながら、のんびり読んでいるような気になる。

「海にむかう水が目のまえを流れていさえすれば、どんな国のどんな街であろうと、自分のいる場所は河岸と呼ばれていいはずだ、と彼は思っていた」
という出だしの文から、私は好みだ、と思った。

異国の河岸に繋いだ船で、レトロな家具に囲まれて暮らす主人公。日々、本を読み、レコードを聴き、クレープを焼いて、ただ一人で。時々、知人から手紙が届くか、船の持ち主に挨拶に行くか、郵便配達人が珈琲を飲みに来る以外は、人との交流はほとんどない。
河岸に停滞しながら、主人公はいろんな事を思い巡らす。ストーリーとしてはほとんど動きがないが、めまぐるしく展開する主人公の思考が、読み応えあり。

思考の始めは、本だったり、もらった手紙だったり、外から聞こえる太鼓の音だったり。犬走りをあえて翻訳すると、「キャット・ウォーク」と気づき、犬ではなく猫になる不思議に魅了されたり。
思考の芽が出たら、それを広げ、育て、たくさんのコトバで綴ってゆく。これは、時間と、豊富な語彙や、知識という広い畑があってできる事。書物や映画や経験が肥料となって、思考の芽は徐々に広がってゆく。
この広がりは、厳密な論理を無視した展開だったりもするが、それも面白い。

たとえば本を読んで、それを芽に、思考の畑を広げていけるには、どんな読み方をしたらよいのだろう?読み終わるための斜め読みではなく、時間つぶしのために読むのでもなく、読み終わった後の人生でその本の内容が畑の肥料となるような、そんな風に本を読みたい。


最後に。うらやましい!と思った一文。
「眠りをあやつる見えない手が、彼の午後をこうしてまた心地よくだいなしにしていく。」
「彼」というのが主人公。なんて贅沢な午後なんだ~!!

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紙の本闇の守り人

2008/06/06 01:24

1作目同様見事な世界構成と、主人公が心の傷を向き合う物語のからめかたが絶妙

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

精霊の守り人に続く、守り人シリーズ2作目。

1作目は子供に、2作目は大人に人気があるという。
私も2作目の方が好きだ。

今回は前作の舞台、ヨゴ皇国の隣の国、カンバルの話。
土地の貧しいカンバル国で産出される唯一の高価な産物、ルイシャ石<青光石>。この石を、カンバルの王と、王の槍と呼ばれる選ばれた槍使いたちが、<山の王>から受け取るという儀式が、35年ぶりに行われる。儀式の内容は秘密とされている。前回参加者も黙して語らない。<山の王>とは何者なのか?ルイシャ石<青光石>とはどうやって採れるのか?
この儀式にかくされた、カンバル国の仕組み、これがすごくよく出来ている。
人の死というものを、ファンタジーの世界で、こういう仕組みにしてみたかー、と感心してしまう。

カンバル国の仕組みを明らかにすると同時に、主人公、女用心棒バルサの物語もすすめられる。
バルサは、25年ぶりに故郷カンバルで、自分の心の傷と向き合う。
幼い頃、理不尽に家族を奪われ、国を追われた。養父はそんな自分のせいで、国を出て、かつての仲間に追われ、仲間と戦い、殺す羽目になり、不遇のうちに、養父は亡くなる。
この事が、バルサにとってはぬぐってもぬぐっても消えない、心の古傷。
その傷に向き合おうとして、故郷をおとずれ、儀式に巻き込まれ、儀式の中で、傷と向き合うことができる。このからめ方が、うまいなあ、と思う。

バルサがカンバル国に着いてから、物語にはずっと、寒さと雪のイメージがついているが、ラストで、バルサが窓を開けて、春の風を感じ、大切な人のところへ帰ろう、と思う。
このラスト、ずっと苦しんでいた傷をいやしたバルサが感じた春の風のあたたかさが体感できるようですがすがしい。

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私の中の何かが洗われたような気になる名作

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小6の3人組男子が、「人が死ぬところを見たい!」という子供らしい発想から、1人暮らしのおじいさんを見張る事にするが、やがておじいさんにバレて、怒られたりからかわれたりしながら、次第に仲良くなってゆく。
小学校最後の夏休みの出来事、みじかいみじかい物語で、あっという間に読めてしまう薄い本だが、これを読むと、私の中の何かが洗われたような気になる名作。

3人の男の子が、子供なりにいろいろ考える。


「ヘンだよなあ。だれだって死ぬのに、どうしてこわいって思うんだろ。やっぱり死ぬまでわかんないのかな」

「オレはまだヒラメのお造りができない。できないうちは死ぬのはいやだって思う。できないうちに死んだらどうしようって思うとこわい。でも、ヒラメのお造りができるようになったら、いつ新でもいいって気になるかっていうと、わかんないけど」

「でも、どこかにみんながもっとうまくいく仕組みがあったっていいはずで、オレはそういう仕組みを見つけたいんだ。地球には大気があって、鳥には翼があって、風が吹いて、鳥が空を飛んで、そういうでかい仕組みを人間は見つけてきたんだろ。だから飛行機が飛ぶんだろ。音より早く飛べる飛行機があるのに、どうしてうちにはおとうさんがいないんだよ。どうしておかあさんは日曜日のデパートであんなにおびえたような顔をするんだよ。」


子供だからってこんなにストレートに言わないだろうと思うが、子供を通じて作者は言いたいことをストレートにぶつけてくる、そのおかげで短い本にたくさんの真理がつまっている。

3人とおじいさんが仲良くなった頃のシーンがすごく好きだ。
いかにも日本の夏っぽい情景で、私も子供のころに体験した夏の庭・・・その空気を思い出すし、大人になってから、既に失った場所や人の思い出として、この情景を思い出したら、なんともいえない切なさがしみるのもわかる。

キンモクセイの木がある庭、乾いた洗濯物がほっこりとつまれ、縁側に腰かけて熟れたスイカを食べる。「入ってますかー」と頭をたたいてじゃれあう。台所からみた庭は、夏の陽にあふれて、四角く切りとられた光の箱のよう。そして・・・

「あ」「雨だ」
乾いた白っぽい土の上に、黒いしみがいくつもできていく。やがてそれは庭全体に広がり、大粒の雨の降る音がぼくらの耳をおおった。湿った土と蚊とり線香の匂いが、強く立ち上がる。

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紙の本八十日間世界一周

2010/01/26 00:39

これぞ、THE・冒険小説

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十五少年漂流記が面白かったので、そういえばウチにはもう1冊、ヴェルヌ作品があったな、と思い出して読んでみた。
これも、面白い!

冒険小説を書かせたら、ヴェルヌは天下一品。
100年以上にわたって愛読されているだけの事はある。

1872年10月2日午後8時45分。
ロンドンの紳士、フィリアス・フォッグ氏が、世界一周の旅に出た。
彼は、緻密な計算をし、列車や船の遅れも計算に入れた上で、80日間で世界を一周できると断言し、実践してみせる事になる。
その実行に全財産を賭ける。もし1秒でも遅れたら全財産を失う羽目になる約束をする。

時刻表を手に、船と電車を乗り継ぎ、旅を続ける氏と、陽気で人の好い従者のパスパルトゥー。
当然、順風満帆な旅になるワケなく、次から次へと予定外の出来事が起こり、大金をはたいてあらゆる対処をするのだが・・・・?
どうなるの、どうなるの!?とページをめくらされる。
これぞ、THE・冒険小説。
ラストの仕掛けも面白い。

主人公フィリアス・フォッグ氏のキャラクターに好感。
寡黙で、機械のように落ち着いていて、正確無比。
一行に襲いかかる事件に、冷静に対処し、船や電車のみならず、馬車とか象とかソリとか、その場その場で考えられるベストな乗り物を手に入れ、旅を進める。
一見、何を考えているかわからず冷血に見えるけれど、実際は寛容で女性や弱いものにやさしく、困っている人を決して見過ごさないジェントルマン。
旅の途中、インドで、理不尽に殺されようとしている婦人を救おうとする。そのロスで、決定的に旅が遅れるとわかっていても。

この本に出てくる、世界各地の情景は、この時代の未刊・既刊の旅行記を版画と共に収録した「世界一周」という雑誌が元になっているらしい。
今よりもっと世界が分かれていたころの、各地の文化や風習を垣間見えるのも楽しい。

最後に、主人公がこの長旅で獲得したものはほとんど何もない、とし、しかし、
「そもそも人は、得られるものがもっと少なかったとしても、世界一周の旅に出かけるのではなかろうか。」
と結んで終わる。

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「ローマ人の物語」で最も面白い巻といえばココ!

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「ローマ人の物語」シリーズ中で最も面白いのは、「ハンニバル戦記」「ユリウス・カエサル(ルビコン以前)(ルビコン以後)」だと思う。そのうち、「ルビコン以後」は、「ユリウス・カエサル」の人生後半部分を描いたもの。

元老院から「国家の敵」と通告されたのに反旗をひるがえし、国法で禁止されている「軍団を連れたままルビコン川を渡りローマ国内に入る」を実行したカエサル。敵対勢力・ポンペイウス率いる元老院派と内戦の末に勝利をかちとり、ローマに凱旋。ローマに平和が戻り、カエサルは独裁者として、長年の目標であった、衰えかけたローマの統治力を強化する改革を次々にすすめる。

この改革の内容を読んでいくと、カエサルは、何と創造的な人であったのか、と驚く。
宗教、政治、食料、安全、生活の向上・・・あらゆる分野で、今後のローマが発展すべく、礎をきずいていゆく。戦えば勝つ、政治改革はやる、1人の人物が、軍事、政治の両面でここまで才能を発揮できるものなのか。
「歴史はときに、突如一人の人物の中に自らを凝縮し、世界はその後、この人の指し示した方向に向かうといったことを好むものである。・・・(略)・・・これら偉人たちの存在は、世界史の謎である」という本書で紹介されているブルクハルトの言葉にまさにふさわしい。

改革の最中に、カエサルは暗殺されてしまうのだが、暗殺したのは、かつて内戦でカエサルと戦い、敗れたが許されてその後もローマで政治にたずさわっていた者たち。
カエサルは、内戦の敗者を決して罰しなかった。それは、カエサルが手紙にも書いたこんな思想から。

「わたしが自由にした人々が再びわたしに剣を向けることになるとしても、そのようなことには心をわずらわせたくない。何ものにもましてわたしが自分自身に課しているのは、自らの考えに忠実に生きることである。だから、他の人々も、そうあって当然と思っている」

いやーこんな事を言い、実行できる男には、塩野七生だって惚れてしまう。
他人の考えを尊重する、とは言うは易しく、行うは難い事だ。それが自分の目標の邪魔になったり、ましてや命の危険になっても、であれば、なおさら。

塩野七生のカエサルへの愛情は相変わらずで、思わず惚れてしまいそうになる魅力的なエピソードもたくさん。

8年間ものガリア戦役を共に戦った、子飼い中の子飼いである第十軍団の兵士達が、内戦のさなかに、「給料あげてくれなきゃもう一緒に戦わないぜー」とストライキを起こした時。
カエサルはこれを一言でしずめる。これまで「戦友諸君」と呼んでいた彼らに対して、
「市民諸君」
と呼びかける。
「他の兵士達と戦いに行って、終ったら給料は払うから、安全な場所で待っててくれ」と言われた兵士たちは、立場一転、「連れてってくれ」「カエサルの許で戦わせてくれ」と泣き出す。
うーん、カエサル、かっこいい・・・。


ルビコン以後は、手に汗握る戦闘シーンはルビコン以前のガリア戦記に比べると物足りないが、カエサルが断行する改革で天才の創造を知るのが面白いのと、カエサルとアントニウス、2人のローマ男の愛人となる、エジプトの美しき女王・クレオパトラの存在が物語に華をそえる。
塩野七生は、クレオパトラを、頭はよく機知に富んでただろうが、本当の意味での知性があったかどうか疑わしい、と延べ、アントニウスを篭絡するはいいが現状認識せずに過剰な権力を手にしようとする浅はかな女として描かれている。
クレオパトラの言うがままに、ローマに不利益な行動を繰り返し、国民からも見捨てられるが、愛に生きて、愛する女の胸で死ぬアントニウスが物語としてはいちばんドラマチック。

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