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先月(2017年6月)

17Caesunさんのレビュー一覧

投稿者:17Caesun

12 件中 1 件~ 12 件を表示

紙の本ひきこもる小さな哲学者たちへ

2002/07/22 16:44

「豊かな時代」を甘く見てはいけない

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

題名から“ひきこもり”が主題のように見えるが、そうではない。
「欠乏の時代」から「豊かな時代」への変化を平易な言葉で説明し、
新たな社会で生きるための知恵を検討する。カウンセラーだけあって、
言葉も易しく分かりやすい。

今も昔も、人は豊かな生活を夢見て生きているが、
「豊かな時代」=「楽に生きていける時代」という考えは幻想に過ぎないと指摘し、
豊かな時代=選択肢の多い時代に生きることの難しさを説く。

例えば、食生活。
現在は世界中の食材がスーパーで買える。それで食生活は豊かになったかといえば、
そうでもない。ジャンクフード漬けで生きている人も多い。

昔は、その日あるものを食べるしかなかった。夏なら毎日カツオ、秋なら
連日サンマ。一年経てばまた繰り返し。材料が限られているため、一度慣れてしまえば
調理に失敗する可能性は低いし、応用もしやすい。同じ物ばかりでは飽きやすいが、
それは世の中のせいであって自分の腕が悪いせいではない。
 
現代では全ての食材が季節に関係なく手に入る。こうなると毎食メニューを考え
なければならない。同じ物を出せば手抜きと言われる。おまけに、材料は全て手に
入るから、料理がまずければ腕が悪いということになる。レパートリーが少ないのも、
自分の勉強不足である。仮にそこそこ良いものを作っても、もっといい選択があった
かもしれないと悩む。初めての食材でも、調理法についての情報は手に入るので、
失敗しても言い訳できない。
——刺激に充ちているが、自分の力が常に問われる、大変な時代である。
こうなってくると、自分の実力の無さに嫌気がさしたり、毎日の選択に疲れたりして
調理に対する気力を失い、結果としてジャンクフードを食べて過ごす人が出てくる。
  
選択肢が多いということは、モノの洪水にさらされるということである。
上の世代が持っている「欠乏の時代」を生きる知恵は、いわば砂漠で生き抜く知恵である。
洪水の多い土地ではあまり役に立たない。

著者は身近な例をもって社会の変化を説明し、到来しつつある社会で生きる心構え
を説く。その語り口は穏やかながら、鋭い指摘で我々の常識を刷新していく。
著者本人が認めているように、的外れな仮説を立てている部分もあるように思えるが、
それでも多くの疑問に答を出し、時代の先端を明示してくれる内容である。
だからこそ早めに読んで欲しい一冊。

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紙の本太郎物語 改版 高校編

2002/07/22 17:50

昔の高校生も現代的

1人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

高校生の太郎を中心に展開する、いわゆる青春小説。
元は昭和48年に出版された作品であるが、軽妙な会話で味付けされていて、
現代的な感覚で読み進める。

この作品が他の青春小説と異なる部分は、家族である。
父母や祖父母がきっちり描かれていることである。

現代の作品では、親は主人公の若者にとって邪魔な存在でしかなく、非常に
影が薄い。たまに親が好意的に描かれているものもあるが、そういう作品に
登場する親は単なる不良中年だったりする。

しかし太郎物語ではそうではない。親子で下らない会話を交わす
様は現在物議をかもしている“友達親子”のようだが、肝心な場面では親の
権威を示し、子供を正しい方向に導くだけの能力を持っている。或いは、
しばしば親としての責務を放棄するかのようないい加減な行動をとり、
息子を放任することによって良好な親子関係を保つ。その辺りの感覚が絶妙である。

太郎とその周囲の高校生の行動パターンは、現代とさほど変わりないことが
はっきり分かる。人物の名前がやたら古風であることと、描かれている日本の
生活環境が現代に比べて貧しいことを除けば、他は違和感を感じない。
高校生がタレント活動をしているところなどは、やたら現代的である。

若者の犯罪や、よからぬ行動、家族の変容、男女の役割の変化等についても
さりげなく扱っていて、近い将来の社会変化、すなわち現代をも見通し、
新たな社会における行動指針を示している。

若い人だけではなく、これから親となる人にも読む価値があると思う。

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紙の本19分25秒

2002/07/16 19:41

闘志を呼び起こす一冊

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

夜の臨海公園に現れる競歩の男。

黒いカーボンの義足、
銀に光るサングラス、
音漏れしているヘッドフォン。

武装したターミネ—ターは
尋常ならざる空気をまとい、
猛スピードで闇の中へ消えてゆく。

男の背中を追いかけるべく、
新しいジョギングシューズに足を入れた時、
僕にも目指すものが見え始める。

公園にたむろするパンク・ロッカー。
感動を押し付けるTV局。
邪魔な奴等はみんな蹴散らせ。
大音量のロックに乗せて
5Kmを19分25秒。

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タイプ別コーディネイト理論

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

「男は中身で勝負」などと言う人もいるが、「40過ぎたら外見に責任をもて」という
言葉もある。そのような哲学的なことをおいても、収納庫には着られない服ばかり、
という人は多いだろう。こういった無駄遣いをしていては、経済的にも損である。
良い服にお金をかけて、ファッションも効率よくこなしたいものである。

しかし、ファッションセンスもまた、一朝一夕に身に付くものではないようだ。
普段洒落た格好をしていても、過去には随分無駄な投資をしたと言う人も多い。

そこで、とりあえず基礎理論を押さえてしまえば万事無駄がない。

ところで、こういった本にありがちな事なのだが、大抵「良い例」と「悪い例」を
写真で並べる。ここまではいい。こうすれば確かに効果は一目瞭然、ぱっと見て
「おお」と思ってしまうのだが・・・・よく見ると、「良い例」の方のモデルは
ニッコリと笑顔を作っていて、「悪い例」のモデルはむっつりとした顔で写って
いる、ということがままある。

こういう事例に出くわすと、腹の奥底から怒りがこみ上げてくる。読者をバカに
するにも程がある。著者の指示というより、たぶんカメラマンや編集担当の仕業と
思われる。マスコミ関係の人間はこういった“演出”が大好きだ。自分の指示
で効果が上がったなどと悦にいっているのであろう。

さて、本書では・・・・露骨に行われてはいないが、それでも若干作為的な操作が
みられる。「顔色が良く見える例」のところで、ライトを当てて顔色を良くしているのだ。
「精彩が無い例」でボーッとした顔で写っている箇所もある。

あほらしくてため息をつきたくなるが・・・それでも目をつぶってやって、本書は
読む価値があるだろう。本人が持つ印象を4つのタイプに分類し、基本的にそろえる
べきカラー、その次に選ぶべきカラーを示し、オーソドックスなコーディネイトから
その応用まで触れている。

本自体のデザインや、中のイラスト、写真等が少々垢抜けない印象を受けたが、
他の類似の本に比べて説得力がある。なお、男性向けであるが、女性版もあるようだ。

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古代の遺産を受け継ぐ本

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

古代地中海で、新興国からスタートして比類なき一大文明圏を築き上げたローマの物語。
I〜X部の内の第I部、上巻。

政治や経済の本質は、資源を効率よく配分・利用する事である。
経済なら財を、政治なら、有能な人材を適所に配置すること。

新興国ゆえ毎年周辺部族と交戦を繰り返すローマでは、
無能なものに政治を任せれば、即滅亡が待っていた。これは他国も
同様で、多くの国が適材適所を実現する政治システムの追求に心血を注いだ。

翻って現代の日本はどうか。世界の警察たるアメリカと曲がりなりにも同盟を結び、
陰りが見えてなお強大な経済力に恵まれ、周辺諸国は全て発展途上国。多くの国が
ジャパンマネーを当てにしている。この状況で日本が侵略を受ける可能性は低い。
だから、真面目に政治を考える必要は無かった。

つまり現代の日本は、政治に関しては超後進国なのだ。国益や公益など真面目に考えていない。
国防をおろそかにしても、とりあえずは戦争の心配はないとされている。
税金を無駄に浪費しても、まだ国はつぶれない。
しかし、古代国家ではより良い政治を追求することに命をかけていた…というより、
命がかかっていたのである。有能な指導者を戴ければ国は発展し、無能な者が上に立てば
戦に敗れて滅亡する。

紀元前5世紀の古代国家こそ、政治に関しては先進国であり、
2500年後の日本に生きる我々は、こと政治に関しては彼らの足元にも及ばない、
史上最大の大バカかもしれない。ところが、主権を握っているのはそういった政治に無関心で無知な国民なのだ。これでうまくいくわけがない、と思わずにはいられなかった。

前半はローマの基礎を築いた7人の王と、共和制へと移行する様子が描かれる。
後半はローマから視察団が訪れた先進国ギリシアが登場。
自由を尊重し、政治の教科書といわれるほど、様々な試行錯誤を繰り返したアテネ。
秩序を重んじ、今もその名を残すスパルタ教育でエリート軍団の養成に国の全てをかけたスパルタ。
東方から強大なペルシア帝国が来襲した時、彼らはどう動いたのか。

全10部ですが、この第I部、上下巻だけでも楽しめます。

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紙の本六番目の小夜子

2002/07/17 18:45

二番目の「六番目の小夜子」

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高校生を主人公に据えた小説はなぜか文芸としてあまり評価されないようだが、
多くの作家がこのジャンルに取り組んでいる。どれも気軽に読めて楽しいし、
書き手によって学校の雰囲気が違っていて、当人の高校時代がうかがえる。

太郎物語 高校扁    (曽野綾子)  九月の空      (高橋三千綱)
海がきこえる      (氷室冴子)   平成トム・ソーヤー (原田宗典)
おいしいコーヒーの入れ方(村山由佳)  ぼくは勉強ができない(山田詠美)

 ただし、「ぼくは勉強が」の主人公については、「男に媚びてる小娘よりも、成熟した年増女の方が本当は価値があるのよ」というメッセージを背負わされた、作者のあやつり人形のようでいまひとつ現実味がない。高校生を描いたというより、高校生を使って作者の主張を描いたという感じだ。

 逆にこの「六番目の小夜子」は、その辺りにいそうな進学校の高校生をそのまま描写したような雰囲気がある。しかしその反面、謎解き物語としては半分破綻している。結局十分な説明がないままに物語は終ってしまう。高校生達のテンポの良い会話に乗せて、うっすらと漂う恐怖の核心に一歩一歩近づいていく、その過程に引き込まれてしまうけれど、終ってみるとちょっと消化不良の部分が残る。

 しかしそれでも、未完の作品と考えれば十分楽しめます。既に一度絶版になりながら、ラブコールを受けて大幅に加筆され、復刊した作品です。いわば二番目の「六番目の小夜子」ですが、再び作者の手直しを受けて三番目の「小夜子」が現れることもありうるのではないかと期待しています。

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十九、二十

2002/07/28 17:11

永遠に続くかのような、けだるい十代最後の夏

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さえない主人公の、華のない十代最後の夏。

どんなに落ちぶれても、若者であるかぎり、未来だけはその手の中に残るといわれる。
しかし、主人公の父は借金を抱えている。借金もまた未来に残る。希望の持てない
状況のはずなのに、けだるくとも絶望感までは漂っていない。

バイト先の潰れかけたエロ本出版社では、周りの大人もロクデナシばかり。
それでも、時々そんな大人たちが後輩を気遣う姿勢を見せる。本当に気遣ってくれている
と思える人物もいれば、それすらも単に、先輩面したいだけなのではないかと思えるほど
のロクデナシもいる。

そんな登場人物に騙され、時に助けられ、また騙されて、主人公の毎日はやっぱりけだるい
だけの生活。それでもこの宙ぶらりんの状態から、いつかは抜け出せるような気もする。

同じ大学生活を扱った作品でも、鷺沢萌の著作はまるきり正反対で、車でデートして、
皆で楽しく飲んで・・・といった明るいこと、格好いいことばかり強調されている。
しかし、それでも将来に対する不安が行間から頭をもたげてくる。楽しかろうが、
苦しかろうが、この状態がずっと続くわけではない、という点では同じだ。

いつかは終るはず、でも先が全く見えない、そんな雰囲気で話は進む。
退屈な展開のはずなのに、そこに漂う空気は現実的で、どこかで体験した事がある。

主人公は何事にも受身の姿勢で、
積極的に状況を打開しようとか、或いはそこから逃走しようとは考えないのだが、
起こってしまった事態にはそれなりに懸命に対処する。それでもうまくいかない。
もがいても前に進めず、ただ何となくじりじりと、時間だけがゆっくり過ぎてゆく。

焼けるような黄色いバックに、うつむいて歩く表紙の絵が内容を現していて面白い。

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食生活防衛入門書

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毒性は急性と慢性に分けられる。急性は摂取してすぐ作用を及ぼすもの、
慢性は長年にわたってとり続けると影響が現れるものである。

前者は摂取するとすぐ影響が出る。
そのため実験によって安全性を確認するのは簡単。

後者は長期に渡る研究によって影響が解明されるため、手間がかかる。
また、どの食品を原因として影響が現れたかという因果関係の立証も
難しいので、メーカーもこっちの毒性についてはあまり安全性を検討
していないのではないか、と疑いたくなる。

この事典は主に急性の毒性について危険度を記している。
日本のような先進国で、そんなすぐに強力な毒性が現れる添加物を口に
する危険はそうそうないと信じたいが、とりあえず基本として押えて
おいて損はない。

それにしても、原料・原産地の虚偽表示や、雪印事件、狂牛病、中国産野菜
など食品の危険度は高まるばかり。農薬(殺虫剤)漬けの中国産野菜に比べたら、
ここに載っている添加物が少々入っていたところで可愛いものだ。

とはいえ、この問題が悪化するか改善するかは我々の日々の行動にかかっている。
今まで注意を払ってなかったという方も、とりあえず保存料と殺虫剤あたりは
凶悪なのが多いので、頭に入れておく価値ありでしょう。

新しい添加物は載っていないものもあるので、第二弾を期待してます。

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たたかう俳優の冒険記録

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夢がなければ生きていけない、といわれるが、自分の抱いた夢を
捨てきれず苦しむ人もいる。役者を夢見る著者は、夢を持ち続けられず、
結果として夢に破れるのは自分が弱いせいである、と断定し、様々な
試練を自分に課し、それをクリアしていく事で強くなろうとする。

とは言うもののやる事はメチャクチャ。
役者の夢に懸ける思いが本物である事を父に証明するため、自衛隊に
入隊し2年間の訓練に耐える(ここから既に何かおかしいのだが)。
東京大阪間マラソンに挑戦し、奥多摩の山奥を何の装備もなしで彷徨い、
吹雪が吹きつける北海道の山を徒歩で越える。

一歩間違えれば、というより“本来なら”死ぬ筈のところを運良く生き延び、
何かをつかむ。役者の技術を磨く事とはほとんど関係ない内容ばかりだが、
漫画の「過酷な修行に耐えられるか」を地で行く行動だ。

食物も持たず山を彷徨い、次第に人間としての行動を忘れ動物化する
場面は圧巻である。つまり、生死の境を彷徨うほど苦しめば、他のささいな
苦しみなど感じなくなる、という荒っぽい哲学を実践する人なのである。
普通の人なら2,3回死んでいてもおかしくない。

彼の考えの是非は置いておき、単純に現代の冒険者の記録と考えて
読むのが良かろうと思う。人間の限界が意外に深い所にあることを知り、
読むだけでも何か行動力をかきたてられる。

なぜか児童向け図書の扱いを受けているが、大人にも何かを訴えてくる内容である。

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紙の本バビロンに行きて歌え

2002/07/25 22:19

異邦人が東京の人となるまで

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遠い中東から極東の日本へ流れてきた若き兵士ターリク。兵士といっても、
彼は軍事訓練を受けた事のある、普通の若者である。国を追われる身となった彼は、
何とか日本行きの船に潜り込み、東京へとたどり着いたのだ。

やむなく密入国した彼には、パスポートも荷物もなければ、この国の言葉も習慣も
知らない。警察の職務質問をきっかけにして、不法滞在で国へ帰される可能性も高い。
そうなったら、待っているのは銃殺だ。

治安がいいとはいえ、法律が甘く、市民の道徳の高さに負うところが大きい
日本は、良からぬ目的で入国してくる外国人にとっては犯罪天国になっている。

しかし、密入国とはいえ、まとも生活したい外国人にとっては、東京は決して
住み易い街ではないようだ。それでもターリクは国に帰ることはできない。

前半は、彼が自分の入り込める隙間を見つけ、見知らぬ都市で居場所を確保
していく様が描かれる。豊かな国とはいえ、公式に居住する権利を持たぬ人間に
とっては、毎日がサバイバルである。

後半は、彼の歌唱力を活かし、仲間とバンドを組み、盛り上げていく過程が主題となる。

不法滞在者ゆえ一つところに留まれないターリクが、すれ違う人々と束の間交わす
人間関係は、短い間ながら切ない光を放っては消えてゆく。何となく、片言の言葉を
話す人間は何故か優しいように見える。実際にそうかどうかは別として。
そんな彼と様々な人間がかかわりを持っては、離れていく。
追われる身である彼が時折見せる、兵士としての緊張感も新鮮だ。

しかし後半、バンドデビューを描いた物語は単調になる。ボーカルとして元々
持っている異国のエキゾチックな香りが売りなので、実力をつけていくというより、
周りとの調整や、元来持っている個性を引き出す話になる。加えて、既にあらかた
居場所を確保しているため、サバイバルの緊張感も薄れている。そのせいか、
前半に比べるとドラマ性に薄れ、やや冗長な展開に感じる。

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紙の本きみのためにできること

2002/07/22 16:28

面白いけど爽やかさはない

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タイトルと表紙から清々しい印象を受けるが、読んでみると裏切られる。

音響技師の主人公には交際相手がいるが、十年上の女優に惹かれ始める。
悩む主人公は、今の相手もキープしながら、内緒で女優さんともちょっとだけ
お付き合いさせていただく、という現実路線を選択する。

何だかいきなり志が低いような感じだが、仕事の方には大きな夢を持っている。
いつか一人前の音響技師になって自分の作品を——でも、周りの先輩たちは
1人を除いて、いまひとつロクでもない奴ばかり。

自分の権力ばかり気にしている奴、不倫の現場を第三者に見られた位でびびる奴、
不眠症のくせにコーヒーがぶ飲みしてる奴。それでも大人か? というような連中ばかり。
後半、愛人と奥方が鉢合せしても平然としている場面、主人公は「これが大人の世界か」
と舌を巻くが、「そんなとこだけ大人なのか?」と失笑したくなる。

脇を固めているのがこういう人達なので、どうもあまり立派な仕事をしているように
見えない。まともな奴は一人もいねえぜ、という感じで、主人公は仕事でも大成でき
そうにない、という印象を持ってしまった。
そんな職場だから、当然愚痴が多くなる。交際相手もメールで愚痴をこぼしてくる。
どうにも夢のない世界で、これでうんざりする読者もいるだろう。

そんな理不尽な環境でも、我慢していればいつか肥やしになるという雰囲気を
匂わせているが、苦労すれば立派な人間になれる、というのも根拠がない。
単に、いつも不平不満ばかり口にしているタイプの人間になる可能性は高いと思う。

というわけで、読後感はあまり爽快ではない。ただ、欠陥人間ばかりでも、登場人物に
現実味がない訳でもない。起伏に富んだ進行でそれなりに読んでいて楽しいし、
話のつじつまが合ってないという程でもない。現実世界は汚いものなのだと
信じている人には何の問題もなく読める。逆に、会社や学校で人間関係にウンザリ
している人は、本の中でまで嫌な連中の顔を拝むことになるので、あえて読む必要も
ないと思う。

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三流

2002/07/28 15:43

根性だけでは三流、という世界

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スポーツイベント等で司会、記者としてTV出演し、ひんしゅくを買っている述者の
プロ球界引退までを綴った本。かつて雑誌『Tarzan』に連載していた「敗者の勝算」
をまとめ、加筆したものと思われる。

それにしても『三流』というタイトルはいただけない。現在TVに出ている述者は本当に
「三流」という感じである。(TV自体が三流といわれても仕方のないメディアであるが)
しかし、この本に描かれている述者の人生は三流とはほど遠い、努力しながら報われ
なかった人間の物語である。敗者ではあっても、三流ではない。三流とは努力もしない
人間のことではないのか。

タイトルを三流としたのは、選手として目標とする父親に遠く及ばず敗れ去った
自分への不甲斐なさからつけたものだろう。しかし、現役時代の彼を三流としてけなせる
のは彼自身だけだ。父に及ばなかったから三流、というのは彼だけの基準である。
仮に彼が『三流』というタイトルを望んだとしても、それをそのまま受け入れた編集者の
感覚を疑う。

述者が一流になりきれず、敗者となった原因の一つはケガである。
苦しい練習に耐えられなければ一流になれないが、かといって無理して怪我をすれば
今までの練習も台無しである。寝ていた方がマシだった事になる。

フィクションであるが、競歩の選手を扱った『19分25秒』(引間徹著)では、練習を休む
ことの重要性を説いている。負けるかもしれない、という不安から無理な練習を重ね、
故障を抱えて消え去った選手など腐るほどいると。

逆にスパルタ訓練を描いた本もある。
「足が痛い?自衛隊式で治したる。足が痛いときはどうするか。走れば治る!」
(『若いぼくらにできること』今井雅之著)

根性を持っているのは大前提である。しかし一流となる人間はそれに加えて、時には
練習を休む合理性をも兼ね備えているのかもしれない。その辺りは本書では明確に
示してはいない。
一流の世界を垣間見た人間のいう「三流」の世界がどのようなものか、
それだけがひたすら描かれる。

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