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仙骨さんのレビュー一覧

投稿者:仙骨

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紙の本桃源郷の機械学

2002/11/24 12:25

感覚の可能性

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  これはとても不思議な本である。楽しかったり幸せな夢をたっぷり観た後の目覚めのような読後感である。

  僕は常々、今の僕らの立場というのはまるで寓話の主人公のようだと感じていた。主題は“目先の欲に溺れて大切なモノを失う”だ。僕らの溺れている目先の欲は、「物質的な豊かさ」と「それに付随するもの」または「そこから派生するもの」であり、失っているもの、あるいは失いそうなものは「脳の活動の可能性」である。
  僕らは、欧米のシステムや文化に伴って輸入された、彼らの硬質な価値観や世界観、物事の捉え方に捕らわれ、わざわざ脳の活動範囲を狭めてしまっているのではないか。ただでさえ脳の大部分は眠っているというのに、さらに可能性まで殺してしまうのは勿体無いではないか。

  そこで、本書のいう「桃源郷」に見られるような中国人の世界観である。僕は「脳はこうやって使うべきだよ」と感動してしまった。
  ここでいう桃源郷とは、中国人の織り成す一見デタラメな物語や図像の一般項・共通項を指す。それは「言葉だけが映像化できる空間」であり「ことばでしか計測できない時空」である。大きいものが小さいものの中へ入る場合、大きいものは縮小せず、小さいものも拡大しない。でも大きいものは小さいものの中に入っている。人間が「連れがいるんです」と言い、その連れを口から出す。連れはまた口の中へ戻る。
  ものすごくデタラメに見えるけれど、それらは桃源郷においてはすぐれて理論的なことなのだという。そして、その「桃源郷を駆動させているからくりたち」を綴ったものが、この本なのである。

  この本は本当に不思議で、構成は個別に書いたエッセイをまとめたものになっているため、各項目はそこで完結していて、項目間の関連は薄いような気がするのだが、読み終えるとずっと「桃源郷の機械学」について読んでいた気がする。
  エッセイは4つの章に分類されていて、桃源郷の組み込まれた地理学に始まり、遊びに関すること、怪物関連、そして中国における近代科学となっている。
  古今を問わず、また洋の東西を問わず、膨大な文献をベースに豊富な図版を用いて考察されていて、とても読み応えがある。また、特異な視点の捉え方をしていて、江戸時代、吉原では“おいらん”達がヒトに聞かれたくない話をするのに「なんちゃって中国語」を話していたことなど、馴染みのテーマの知らない側面が多く見られる。

  しかし何と言っても感動したのは、中国人のその思考振りである。
  中国では、病人の衣服、首吊り自殺者の使ったロープ、死人の枕、おまるなどなどが薬用に供されていたのだそうである。しかも、16世紀に編まれた代表的な本草学の書物とされるものに、その薬用法が事細かに記されているという。
  さらには、百科辞典における動物の分類である。「皇帝に属するもの」に始まって「野良犬」「この分類自身に含まれるもの」などという項目が現れ、さらに下ると「たった今花瓶を割ったばかりのもの」「遠くから見ると蝿に似ているもの」などという分類まで登場する。
  この理解出来なさぶりはどうだろう! 常識やら科学の法則やらでコチコチの僕なんかには解釈の糸口すら掴めない。でも、物事をこういう風にも捉え得る、世界をこういう風にも認識し得る、という可能性に触れられただけでも凄いことだぜ!と感じている。

  本書は1995年に作品社から出版されたものを文庫化したものであり、文庫化にあたり補記が付されている。また独立して行ったテーマについては、独立先の作品名も掲載されている。図版が小さくなってしまっているのだろうけれど、情報量ではこちらが勝る。

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