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  3. 葉月さんのレビュー一覧

レビューアーランキング
先月(2017年5月)

葉月さんのレビュー一覧

投稿者:葉月

20 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本ゆめのゆき

2002/12/09 08:15

子どもの心を忘れないために

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

「はらぺこあおむし」で日本でも一躍人気作家となった、エリック=カールのクリスマス絵本。

彼の描く世界はどこかユニークで独創的で、そして春のお日さまのようにあったかい。
クリスマスのお話だから、もちろんこのお話の季節は冬。
でも、読んでいてちっとも冬の寒さは感じない。
むしろ、おじいさんの飲むミントティーや、気持ち良さそうに眠る動物たちの顔が、ここはとても温かいよ、と教えてくれる。
お話に登場するおじいさんは、ちゃんとモデルがいるみたいだけど、わたしにはどうしても作者、エリック=カールとだぶって見える。
おじいさんのゆきのように白い心は、カール自身の中にいる、無邪気な子どもの心そのものだと思うから。
絵本に仕掛けられたちょっとした遊び心がまたカールらしく、大切な誰かに贈りたくなる一冊。

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華氏451度

2004/07/27 00:50

新しい自分に出会うために

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

何かを知ることは、重荷を背負うことだと私は思う。
子供の頃、電気を消した部屋の一番暗い場所から、何かがこちらを見ているような気がした。目を固く閉じて、そこには何もないんだ、と念じれば、やがてそれは朝日に隠れて見えなくなる。
だが、心の闇はそうはいかない。
見て見ぬふりをしたくとも、それはいつでも「そこ」にある。
また成長するにつれ、行動範囲が広がり、世界は自分が住んでいた町内だけではないことを知る。理解できない社会もあり、理解できない人間もいて、信じ難い現実とも直面する。
それらは目を瞑ってもけしてなくならない。自分が笑っても泣いても生きていても死んでいても、敢然とそこに立ち塞がっている。
さあこれからどうしよう、と自分は途方に暮れる。
そこにはいくつかの選択肢が残される。
とことん闇に対峙するか。
仕方がないと早々に白旗を上げるか。
こんなことなら、闇になど気付かずにいれば良かったと嘆き悲しむか。
そんなやつでも利用してやれとしたたかに立ち回るか。
大人になるとは、そうやって「世界」との関係をどうにかこうにか築いてゆくことだと思う。
世界は強大で、現実は容赦ない。
そこで自分が選ぶのは、対立か、和平か、服従か。

この本を、ブラッドベリ流の社会派SFという人々の意見は、それはそれで正しいものだと思う。
だが、描かれた社会よりもむしろ、主人公モンターグのみに視点を据えて読むならば、これは一人の男の自己啓発を丁寧に描いたSF版「かもめのジョナサン」と捉えることもできないだろうか。
大ベストセラーとなった件の本に感心しなかった人も、このモンターグには案外たやすく共感できるかもしれない。
純粋さという厄介な感情を捨て切れず、下手に多少の知恵もある。
きっと一番苦しむのがこういう人間だと思う。
それでもきっと、答えはどこかに眠っているのだ。自分の中と世界を繋ぐどこかに。

彼はかつての私たちであり、これから現れる私たちでもある。

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紙の本100万回生きたねこ

2002/12/25 17:04

絵のチカラ。

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

大人が読んで泣ける絵本。
そんな評判に惹かれて、私はこの絵本を買った。

ちょっと素っ気ない文章に、思うがまま絵筆を走らせたような大胆なタッチの絵柄が、よく合っていた。

誰からも愛され、けれど誰も愛さない猫が主人公。
猫が大好きなのは唯一自分だけ。
何しろ百万回も死んで百万回も生きたのだから、彼には自分以外の全ての生き物が、取るに足らないちっぽけな存在に思えたのだろう。

そんな彼が、一匹の猫との出会いから、それが自分のつまらない驕慢だったと気付き、少しずつ素直な自分を見い出してゆく。
新しい出会いから、彼は新しい自分を知り、新しい生き方を始める。
繰り返しだった人生から、生み出す人生へと彼は変わる。

淡々と流れる時間が、彼の心の移り変わりをゆるやかに描き出す。

自分はきっと、絵本なんかでは泣けないと思った。
けれど、大切な存在を失って、天を仰いで涙を流す猫の絵を見た途端、胸がしめつけられた。
豪快な絵だった。そこから、猫の泣き叫ぶ声が聞こえて来るような迫力があった。
その絵を見つめていると、自然に涙が流れた。
絵の持つ力を思い知らされた気がした。

また次のページを捲って、完全に「やられた」と思った。
感動的な映画のラスト、ギリギリまで押し止めていた涙が、テロップと共に美しい音楽が流れた途端、溢れて来たりする。
そんな効果が、そのページにはあった。
自分が読み終えた物語の余韻に浸りながら、そのページと短い一文をじっと見つめた。

良い本を買った、と思えた瞬間だった。

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銀色の恋人

2002/12/09 10:40

恋から、愛へ…

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

自分の初恋を思う時、そこには偶像化された初恋の彼がいて、心の一人遊びに興じるわたしがいる。
それから年を経てわたしは、ようやく本当の恋を知った。
本物の恋に砂糖菓子のような甘さはなく、どこか自分の存在を不安に感じる、恋に迷うゆえの自身への危うさがあった。
恋する喜びよりも先に、感じるのは不安、怯え。自分が変わっていくことへの驚きと、戸惑い。
この感覚はどこかで知っている……。
その時思い出したのが、高校生の頃に読んだ「銀色の恋人」だった。
ああ、そうか。わたしは今、ジェーンと同じ気持ちになっているんだ……。

もちろんわたしの恋の相手は、赤い髪をした美形のロボットではない。
けれど、相手との距離を縮めたいのに縮められない、理解したいのに分からない、そんなもどかしさは正にシルヴァーに恋したジェーンと同じ。
そして二人の心が重なったと実感できた瞬間、少女は恋の喜びを知る。

これはとびきりの恋愛小説であると同時、一人の少女の成長物語でもあると思う。
恋を知り、彼女はさらに大きくその翼を広げてゆく。愛する人と共に、高みを目指し、高く、高く……。
そして、二人の辿りついた先にあったものは……
それは、あなた自身の目で確かめて下さい。

ラストで号泣した女の子は、きっと私一人ではないはず。

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素敵な人に出会いたい…

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

たかが少女マンガ、と侮ってはいけない。
一度ページを捲ればもう、あなたもひかわワールドに、どっぷり顎まで浸かってしまうだろう。

絵柄は一見、ちょっと古めのいかにも少女マンガ。それは表紙を見れば一目瞭然。
しかし遠近を多様された効果的なアングルや、登場人物たちの活き活きとした動き、読者の目の動きを計算しつくしたようなコマ割と、そのマンガとしての技術は素晴らしい。
がっちりと練られたプロットを、それらの視覚効果がえいやと支え、魅惑的なキャラクターたちが、作者の作り出した広大な空想の世界で、所狭しと活躍する。
愛らしい主人公は必ずや読者の共感を得るだろうし、ハンサムでワケありなヒーローは、女性であれば憧れずにはいられない。
傍役たちも、まるでその世界が本当にどこかに存在し、そこで呼吸をしているかのような、鮮やかな色彩を伴って物語を彩ってくれる。
ドキドキ・ワクワク、そして涙を誘う感動の物語が、繊細かつ柔らかなタッチで叙情的に、時に迫力満点で描かれる。

これはもう、立派なエンターテイメント。
典子と一緒に、あなたも新しい自分を探しに行こう!

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紙の本占星術殺人事件

2002/12/09 08:56

ミステリファン必読!

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

悪魔憑きの画家が残した、遺言状という名の告白文。
六人の処女の肉体をバラバラにして、つなぎ合わせ、そして一体の理想の体を作り上げる……—— 
果たしてこの恐ろしい計画は、現実のものとなったのか?

非現実的な舞台、怪しい登場人物、怪奇性、奇抜さ、凡人では到底考えもつかないそのトリック、結末……。
戦慄の独白文で始まるこの作品には、ミステリ好きがミステリに望むものが全て、余すところなく詰め込まれています。
ベーカー街の某有名探偵を彷佛とさせる強烈な個性の天才・御手洗潔と、ごくごく常識人な助手・石岡和己のコンビは、陰惨な空気漂うこのお話の一服の清涼剤のようでもあり、コミカルなやり取りで時には小さな笑いまでも提供してくれます。
わたしはこの作品に出会って、すっかり島田作品と御手洗潔の虜になってしまいました。

しかし、この作品の一番の「ウリ」である、種明かしによる最後に味わうべき驚愕のカタルシスは、推理マンガ「金田一少年の事件簿」でトリックを使われてしまったことにより、そちらを既読の方にとっては魅力五割減かもしれません。
そうでない幸運なあなたは、是非ラストでは「そ、そうだったのかぁあああ!」と本を握りしめて叫んで下さい。
それまでずっと頭の中で蠢いていた混迷の霧が、御手洗潔という一陣の風によって、清々しいほどに晴れてゆくことでしょう。

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紙の本おほしさまかいて!

2003/12/12 18:48

こどもに与えたい絵本

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

「おほしさまかいて!」
えかきはほしをかいた。
とてもすてきなほしだった。
……そんな書き出しで始まる本書。

絵描きが生んだ星は太陽を求め、次に太陽は木を欲した。
連鎖は綿々と続き、絵描きはどんどん絵を描いた。
またたくまに、世界は色とりどりの命で埋められてゆく。
その展開は一定のパターンを繰り返しながら、大人ですら読み進む中わくわくしてくる。

絵本を読みながらわが子にたずねた。
「どうしてお星さまはおひさまを描いてって言ったんだろうね?」
娘は首をかしげて少しだけ考えるポーズをし、そして言った。
「おひさまに会いたかったんだよ」
「どうして会いたかったのかな」
「おともだちだからだよ」
その言葉に、思わず笑みがこぼれた。

世界は繋がっている。
みんな友達。
そんなことを自然に思えるお話は、素晴らしい。

エリック=カールの大胆で色彩鮮やかな絵柄は、シンプルながらも私たちが生きるこの世界の、豊かな自然を見事に表現している。
最後はどうなるかは、読んでみてのお楽しみ。
あとがきに紹介された、著書のおばあさんが教えてくれた絵描き歌も、ユーモラスで楽しい。

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紙の本屍鬼 1

2003/09/02 12:01

終着駅までノンストップ

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

最悪な本を買ってしまった……。
「屍鬼」の第一巻を読み終えた時、わたしはそう感じた。

ちょうどその時期は、公私共に忙しく、読書はごく限られた時間しか許されない状況にあった。
とは言え、本なくしては一日が終わらない自分のこと、やはり常に新しい話を手にしていたいという欲求は強く、前々から興味のあったこの「屍鬼」を、わたしはまず一巻だけ注文した。
この一巻を、何週間かかけてゆっくりと読み進めようと考えていたからだ。
しかし何たること。
たった「一晩」で、私はこの一巻を読了してしまったのだ。
おまけに、猛烈に続きが読みたくなってしまった。
「これはヤバイ」と思った。
久々に自分は、読み始めたら止まらない本を手に入れてしまったらしい。
けれど今の自分にそんなゆとりはない。
だが続きが読みたい。これでは他のことが手につかない。
……最悪だ。

結局自分は、ジレンマに陥りながらも予定よりずっと早い日数で、「屍鬼」全巻を読破してしまう羽目になるのだが……(苦笑)
改めて、小野不由美という作家の凄さを、見せつけられた気がした。

淡々と、どこか世界を突き放しているような、そんな硬質さが彼女の文章からは感じられる。
それでいて、その物語はとても「肉感的」だ。
無味無臭かと思われたその飲み物が、一度口にすれば止まらない旨味と、かぐわしい香りを放つ美酒だったと気付く。
物語を読み進むにつれ、私はそんな感慨を抱いた。
一層では分からなかった単色が、幾重にも折り重なることで見事なグラデーションを形作る。そんな物語の深みと鮮やかさが、彼女の文章に引力を生み出し、読者を惹きつけ離さない。
そう、最初に第一巻を手にした時、気付くべきだったのだ。
私は既に、終着駅までは止まらない、特急列車のチケットを買ってしまったということに。

悪意は悪意を生み、悲しみは悲しみを生む。
疑惑と、恐怖と、陰謀と、殺意。
閉鎖されたあの村は、わたしたちの生きる世界の縮図であり、そこで己の運命に翻弄される人々は、偉大なるものの手の平で、それでも懸命に生きているわたしたちと同じ。
小野不由美という神が生み出した恐怖世界で、読者は自身の奥底に潜む「真実」に気づくだろう。

これをただのホラー小説だなんて、とても呼べない。

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心のカタチ

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そう遠くない昔、人の心を具象化する機械が発明されたら、それこそノーベル賞ものだろうという話を、面白がって知人と話したことがある。
しかし機械など使わずとも、ここに余りに身近でありながら、無限の可能性と広漠なキャパシティを持つものがあったのだ。
水。
空気同様、あまりに当たり前にそこにあるこれを、全く新しい切り口で捉えた科学、その成果がこの写真集の中にぎっしり詰め込まれている。
簡単に説明すると、本書には、様々な水の氷結結晶写真ばかりが掲載されている。その土地特有の天然水から、成分の同じ水にそれぞれ異なった文字を見せたもの、音楽を聴かせたもの、人が放つ「気」を込めたもの。実に多種多様な姿の水の結晶がそこにある。
写真に撮られた結晶は時に、見愡れるほどに美しい姿を見せる。
かと思えば、思わず目を背けたくなるほど醜くおぞましい姿にも変わる。
しかもそれが元は同じ水で、一方にはポジティブな概念を、一方にはネガティブな概念を与えた、それだけの違いだとしたなら……思わず、日頃の己の姿も振り返ってみてしまわないだろうか。
親である自分が殊に考えさせられたのが、「しなさい」という文字と「しましょうね」という文字(両文ともワープロ文字)を貼付けられた水の結晶の姿である。どちらが美しくどちらが醜かったか……結果は言わずもがなであるが、普段何気なく口にしている自分の言葉を、ものの見事に具現化された気がした。
人の体は、その70パーセントが水であると言う。ならば、私たちの体内にたゆたう「それら」も、常に多くのものの影響を受けながら、刻一刻とその姿を変化させているのではないだろうか。
ふと、今の自分の心を水に込め、結晶にしてみたら、一体どんな形になるだろうかと考えた。そして愛すべき我が子は……。
水も心も、美しくなるか否かは人の気持ち次第。
荒んだ事件やニュースの多い現代、そんな根本的なことを見失いかけた人類に、改めて強くそう問いかける、本書は実に画期的な一冊である。

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絵で「魅せる」武蔵

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マンガ家、井上雄彦氏は、デビュー当時からその絵柄と作風で好きな作家の一人だった。
その井上氏の新作が出たと聞いた。青年誌、しかも歴史モノだと言う。
そしてそれが本作「バガボンド」だった。……何ともキテレツな印象のタイトルである。
しかしこれはれっきとした英語で、アルファベット表記では「vagabond」と書く。辞書で引くと意味は「放浪者、さすらい人」とあった。井上氏自身の発案だそうだが、正に武蔵を示す言葉でありインパクトも充分だ。これ以上はないタイトルだと後に感心した。
原作は、自身の名を冠した文学賞でも有名な、歴史小説家の吉川英治氏。こちらの本家「宮本武蔵」は未読のまま、私はマンガを先に手にとった。

すでに人気のある小説を、マンガにする意味、というものを、私は時おり考える。小説を劇画化する利点は、挙げれば多くあるだろう。
しかし、ひとまず書き手・供給する側のメリットはさておいて、読み手の利点はと考えるなら、それをただ「読みやすい」というミもフタもない答えだけにはしたくない。
小説もマンガも創作品であり、書き手の表現したものであるからには、その表現の形が違う以上、受け取る側の感動もその形によって変化するものであって欲しい。
そんな私の考えを主張するのにも、この「バガボンド」は正にうってつけの作品だった。
ただ言葉を目でなぞるだけでは伝わらない、そこで息づく者たちの色や切れ、とでも言うのだろうか。削られた言葉に成り代わり、見開きでドンと描かれた人物の動き、表情に、まずこちらは息を飲む。絵だからこそ出来る技の一つだ。
井上雄彦という人は、とにかく絵にこだわっているマンガ家だと思う。もちろんどのマンガ家も、絵にこだわりがあるのは皆同じだろうとは思うけれども、井上氏の場合、それこそ剣に命を賭けた武蔵のごとく、血反吐を吐きながら絵というものに命を賭けているのではないか……、そんな想像をしてしまうほど、作者の気迫が絵そのものから伝わって来る。
作者の気迫はそのまま描かれた人物に伝わり、それを見る読者にも伝わる。
井上氏の大胆でありながら繊細、朴訥としていながら艶のある絵柄に、私は時に感嘆の吐息すら漏らす。
文章だけでは感じ取れなかったキャラクターの魅力や物語そのものの味わいを、深みのある人物描写と無駄を一切なくしたカット絵に、充分と堪能することが出来る。
小説をマンガにする意味。
それを井上氏は、自身の才をペンに示すことで、正に不言実行してくれた。
天才という言葉は、その言葉を投げかける相手の努力への侮辱のようで、あまり好きではない。
けれど、やはり井上氏には、マンガ家としての天賦の才があると思う。それは、剣豪としての名を馳せた武蔵も同じ。
一人の天才が描いた、一人の天才の生きざま。
その贅沢極まりない作品を、とくと御賞味あれ。

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紙の本迷路館の殺人

2002/12/25 18:56

豪華な舞台と凝った演出。

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

出口だけがぽっかりと地上に顔を出し、扉の向こうは深い地下へと繋がっている。更に扉を開くと、そこから先に広がるのは、目も眩むような入り組んだ迷路。それが、今回の舞台である。
推理小説界の大御所が建てたこの奇妙な屋敷で、集められた弟子達が、彼の遺産をかけて競作を行なう。
そこで始まる、殺人劇。
自ら描いた作品通りに、殺されてゆく弟子たち。
犯人は? トリックは? 残された者たちは、果たしてこの館から無事に脱出することが出来るのか……?

デビュー作「十角館の殺人」同様、ミステリの定番「嵐の山荘」の形を取る本作だが、とにかくそこに施された仕掛けの多さに圧倒される。
作中作、という変わった手法を取って描かれた今回の作品。
本の中に本があるため、うっかり者の場合そこから本編と読み始め、本当のラストを知らないまま読み終えたと勘違いしてしまう虞れがあり(実際、私の母は最後を読まずに、本当の犯人を知らずにいた……)、まずその見た目に惑わされてしまう読者も多いのではないか。
けれどこれは所謂、目くらまし。右手をひらひらさせてそちらに観客の目を集め、左手でタネを仕掛ける、あのマジシャンの手法と同じやり方。
本当の仕掛けは、実は見過ごしがちな何気ない描写にこそ潜んでいる。さらりと読ませる文章に乗せられて、どんどん読み進んでいくと、あれっ?と気付いて慌ててページを戻ったりする羽目になる。油断も隙もないとは正にこのこと。
良いミステリ作家とは、文章で読者を欺く凄腕のマジシャンのようなもの。本書を読み終え、そんなことを思った。
綾辻行人という一流のマジシャンのショーを楽しみ、豪華な舞台と凝った演出に贅沢な気分も味わえる、これは、そんなお得な一冊だと思う。

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紙の本十角館の殺人

2002/12/25 18:26

ミステリファンの為のミステリ。

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九州の孤島に建つ奇妙な十角形の館。角島の青屋敷。
半年前に凄惨な殺人事件が起きたばかりのそこに、大学のミステリ研究会のメンバーが到着する。彼らは一週間この屋敷に留まり、「嵐の山荘」をテーマに作品を書く予定だった。
しかし楽しいはずの合宿は、次々に起こる殺人事件により、恐怖と疑心で黒く塗りつぶされてゆく。
救援のない孤島の館で、一人、また一人と殺されてしまうメンバー。
果たして犯人は誰なのか。自分達の中の誰かか、或いは死んだはずのこの屋敷の主人か。
一体誰が、何のために……?

—— アガサ=クリスティーのあまりに有名なミステリ「そして誰もいなくなった」にオマージュを捧げるかのようなこの作品。
そのトリックや犯人当ての面白さもさることながら、読み進めていく中で、ミステリファンならばニヤリとしてしまう箇所が幾度となくある。
物語の冒頭で、主要登場人物の一人、通称「エラリィ」が語るミステリ論に、うんうんと頷いてしまったのは、私一人ではないはずだ。またそれはそのまま、作者の綾辻氏自身の主義主張でもあるのではと、勝手に推察してしまう。
エラリィ君の弁に違わず、本書で描かれた「不可能犯罪」「破天荒なトリック」に、読者がラストで嬉しい悲鳴を上げてしまうことは必至。
文章も読みやすく、探偵役の島田潔もいい味を出している。
ミステリファンにお勧めの一冊。

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紙の本絵のない絵本 改版

2002/12/18 17:54

大人に捧げる絵本

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「絵のない絵本」
なんとも上手いタイトルをつけたものだ。
まずそのことに感心する。
題が指し示す通り、これは文字によって描かれた絵本である。

“蓮の花が流れる水の上に休らうように、ふるえながら花婿の胸に頭をもたれさせ”る花嫁。

この一文だけで、花嫁の恥じらい、喜び、美しさ、そんなものが伝わってくる。
無駄を省いた短い文章の中にも、その情景を詩情豊かに色彩濃く描いており、まるで妖精の紡ぐ子守唄を聴いているような、タッチ柔らかな幻想画を見つめているような、そんな感懐を抱かせる。
物語を愛する人ならば、誰しもが空想の海に遊ぶ心地よさを知っている。
この本は、その手伝いをしているに過ぎない。
寝具にゆったりと体を横たえ、一日に一夜ずつ、夢の海にたゆたう己を実感しながら、言葉一つ一つを味わいながら読む。
それがわたしのお勧めする、この本の楽しみ方だ。
忙しい毎日に疲れた大人たちにとって、それは一日でもっとも贅沢な時間になるだろう。

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紙の本項羽と劉邦 上巻

2002/12/14 09:04

壮大な歴史絵巻

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漢の始祖・劉邦と猛将・項羽の戦いは、あまりに有名だ。この戦いから「四面楚歌」や「背水の陣」という名言も生まれた。
歴史の授業でも漢文の授業でも習うし、今さら本書を読まずとも……と思う人もあるかもしれない。
けれど、これはただの歴史書ではない。
普段聞き慣れない地名や人名など、当時の時代を背負った緻密な設定描写により、一見堅く味気ないかのようなこの作品だが、苦労するのは最初だけ。
一度世界に入ってしまうと、もう抜け出せない抜群の面白さがある。
フィクションかノンフィクションか、の違いだけで、そこに書かれているのはやはり、紛れもない一つのドラマである。
広大な中国を舞台に、個性と魅力に溢れた登場人物たちが、司馬氏の筆を借りて現代に甦ったかのように活き活きと動き回る様は痛快でもあり、彼らが様々な知略と思惑を駆使して行なうかけ引きは、どんなサスペンスをも凌ぐ息をつかせぬほどの展開の妙を思わせる。
もちろん、ただの物語としての面白さだけではない。
時代が違えば常識も価値観も異なり、現代に生きるわたしたちには、理解し難い彼らの常がある。それでも、そこにいるのは紛れもなく「人間」であり、彼らの悲喜こもごもを見るにつけ、人間というものの愚かさ、素晴らしさを思わずにはいられない。
そしてそれこそが、「歴史を知る」ことではないだろうか。
戦国という世は、人をもっとも裸にしてしまう恐ろしさがある。その者自身が持つ資質が、これでもかと言うほど露になる。
「もしもこの時代、自分が生きていたら?」
そんなことを思って本書を読んでみるのも、また一つの楽しみ方かもしれない。

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紙の本田辺聖子の小倉百人一首

2002/12/10 12:32

古典を身近に感じたいなら、コレ!

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「しのぶもぢずり」「ちはやぶる」「かくとだに」etc……。
意味の難解な言葉づかいもさることながら、また文法の形も現代とは大きく異なる。とかく古典はむずかしい。
学校授業では、まずその歌の意味でなく文法を学び、それを現代語訳させてから、ようやく歌の内容、背景に及ぶ。しかし一番の目的は文法を学ぶことで、往々にして歌の内容にまで突っ込む授業は省かれた(中高生相手では、説明し辛い歌も多かったのかもしれないが)。
わたしは常々、この授業方法が不満だった。
まず歌に詠まれた心、作者がその歌をどのような状況で、どのような気持ちで詠んだのか、それを知りたいと思った。
そうして初めて、その歌や作者への関心も生まれ、「よく知りたい」という修学意欲にも繋がると思った。
この本は正に、そんな欲求不満を解消する内容となっている。
作者の境遇や歌の詠まれた状況、背景、歌に込められた作者の思いなどを、田辺氏が一句一句わかりやすい平易な言葉で、解説してくれている。
その中でさり気なく、現代では馴染みの薄い言葉遣いや文法などにも言及されており、難解でとっつきにくかった古典の世界を、ぐっと身近に感じつつ学ぶことが出来た。
ゲスト出演している友人の、与太郎青年と熊八中年がまた、素人らしいコメントと、田辺氏とのコミカルなやり取りで、堅い空気を軟化してくれている。
この本をキッカケにして、特定の歌人や歌に興味を抱き、もっと古典を学びたいと思う人もいるのではないだろうか。
古典嫌いな学生さんには、是非一度手にとって欲しい。古典入門書として最適な一冊だと思う。

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