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    5つ星のうち 4.0 レビュー詳細を見る

池のワニさんのレビュー一覧

投稿者:池のワニ

39 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本いけちゃんとぼく

2006/09/13 13:30

サイバラの最高傑作!!

15人中、15人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

「いけちゃん」はオカンみたいで、アネキみたいで、無二のダチっぽくて、そして実際はナニモノなのかよくわからない。でも、いてほしいときには、かならず「ぼく」のそばにいてくれる。そういう存在。
からだつきも、ムニッとしたオタマジャクシみたいで、そうそう顔つきは「オバケのQ太郎」に似ている。きっと、おばけなんだよ、と読んでいるうちに推理する。
半ズボンの「ぼく」はわんぱく坊主。どっちかっていうと、どこにでもいそうなタイプ。でも、家庭に事情があり、ひとりでいる時間が多い。そして、友達や家族といるよりいけちゃんといる時間のほうが長い。それだけ「孤独」ともいえる。
いけちゃんは、ぼくが弱いものイジメをすると、ガブッと頭にかぶりつき、やめなさいと叱る。逆にイジメをウケたときには一緒になって、フクシュー計画に燃えてくれる。
次々、やっつけてやるぞ、と奇策を練ったあげく、大泣きする「ぼく」。見守っていたいけちゃんは、口を一文字にして、ひくひくするぼくに、「きがすんだ?」ときく。
「ううん」とぼく。
このあとの2コマがすばらしい。
いけちゃんは、そっと、カプッとかむ。ぼくの手を包み込むようにして。
手のない「いけちゃん」にとって口は手のかわりで、
「おとなになってすきなひとができたら、このことをはなすといいよ。すきなひとがわらってくれるよ」という。
リリカルなこの場面、すんごくいいんだけど、でも、ほんとうの意味がわかるのは、最終話になってから。
昔でいう鍵っ子なんでしょう。わんぱくだけどさびしげな少年が、ヘンなおばけと過ごした日々を、絵日記ふうに綴っている。少年が孤独をうめるために生み出した架空の友だちがいけちゃん。そんな解釈をしていたら、すんごいオチが!!
あせって、最初から読み返しましたね。で、あのリリカルなカットに出合うと、もう、おとなは泣くね。「ぼく」のことを、傍らでいつも見ていた「あのとき」のいけちゃんをじっと見つめるね。ぜったい。

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あのグレート草津も語っているぜ。

8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

グレート東郷って、知っていますか?
口のまわりにちょび髭をはやして、反則して逆襲をくらうと、もうペコペコしまくり、隙をみては反則攻撃をくりかえす。なんて、せこさ! 相手の目に塩をすりこむんだもんな。アメリカ人の目にはいかにも「卑怯な日本人」って映る悪役ファイトで人気を得た「日系レスラー」だ。
子供のころにプロレスにハマった著者は、そのせこさがゆえに脳裏にこびりついていた彼のことを調べだす。なんで、正統派の権化たる力道山は彼とタッグを組み、外人レスラーと戦ったのか。実は、ここに大きな秘密が隠されている。キングのように振舞っていた力道山が唯一「さん」づけで呼んだレスラーが、この東郷だとか。二人の関係を解いていくのがルポの一つの柱になっている。
しかし、力道山の時代のことを覚えている人たちは、いまやそんなにいないし、当然ながら証言をあつめる取材は遅々となる。遅々とした揺れがドキュメントになっていて読ませるんだな。
聞こえてくるのは、金にせこかったって、もう悪口だらけ。駆け出しのころのジャイアント馬場がアメリカに武者修行に行かされ、面倒をみたのが東郷だった。試合のないときは腹がすくから寝てろと、メシもろくに食わせてもらえなかったって話をはじめ、ひどいよ、このオヤジって逸話が次々。
うまいなです。これでもかと世間が抱いていた悪役イメージを増幅させるだけさせて、後半はなぜ「悪人」に徹したのか、彼のもうひとつの一面をあかしていく。
彼の出生の一点に著者はこだわる。こだわり続ける。そんなにこだわんなくてもいいんじゃないのって、ワタシなんかは思いはじめるんだけど、ただ一点の疑問にこだわり、人を尋ねていく。
現役を引退したグレート草津の家を訪れる場面、最初は無愛想だった草津が「おい、飲めよ」と上機嫌にしゃべりだす。東郷を語るなかでリングから遠ざかった草津がみえてくる展開は、しみじみ心があたたまる。
人を語ることは、自分を語ることにつながるといういい手本だね。

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紙の本赤い指

2006/09/03 14:39

ここから、始まる物語。

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

子供が取り返しのつかない罪を犯した一家の二日間の出来事だ。
犯人が誰であるのかは、最初に明かされるスタイルのミステリー。トリックで魅せるのではなく、人間の心の奥底に手を突っ込んでゆく犯罪小説。ドストエフスキーにも劣らぬ、めちゃくちゃキツイ話である。だから、作者は、嵐のあとに咲く野の花のようなエピソードをラストに添えたのだろう。
物語は二方向から語られる。一つは、刑事の視点。もう一つは、「犯人」の父親。
ずるずると残業を繰り返す主人公。悪人ではない。凡人である。彼は仕事を口実に、責任回避をはかってきた。痴呆の母と、折り合いの悪い妻と、ひきこもりで荒れる息子。家の問題をことごとく先送りにしてきたツケがある日、襲いかかってくる。息子が、女児を悪戯しようとして殺してしまったのだ。
まっとうな精神状況なら両親は自首をすすめるものを、彼らはとんでもない行動に出る。
一家の過去については、詳しく語られていない。どこにでもある平均的な家族として描いている。語られる「家庭の難題」のどれ一つとっても他人事ではない。生々しい。不快と不安とともに、一刻も目をそむけることができずに、この地獄の状況で、自分ならばどうするのだろうかと考えさせられる。
どうしてこんな「おかしな社会」になったのかと、不祥事や事件の度に言われるが、一家はその際たる象徴だ。同時に、問題に向き合おうとする作者の意気込みが伝わってくる。タイトルの「赤い指」の意味を理解したとき、感動ではなしに、衝撃が走る。

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紙の本珈琲屋の人々

2009/04/15 14:51

イバラの街に戻らばもどねばならなかった理由とは

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

人を殺して刑務所に入っていたことがある。そんな「昔」をもつマスターのいる、商店街のコーヒー専門店が舞台の、見かけは市井小説ふう、ハートはハードボイルドな連作小説。
人を殺めはしたものの、誰かがそれを引き受けねばならなかったともいえるくらの正当性があり、その意味で主人公は西部劇のヒーロー的な立場にある。とはいえ、人をひとり手にかけたことにかわりはない。
「人を殺すということはどういうことなのか、教えてくれませんか」
噂を聞きつけ店にわざわざやってきた客たちは、マスターに異口同音で問いかける。
生まれ育った街で、父親の店を引き継いだ彼を、街の人たちは何事もなかったかのように迎え入れはしたものの、「人殺し」であることを忘れるわけでもない。微妙な、街とマスターの関係を、作者はうまい具合に描いている。
誰も「昔」を知らない街で人生をやりなおすという選択があったであろうに、なぜ彼はこの街に戻ったのか。
客たちの、浮気の揉め事や、不況で店を閉めるかどうか悩みなど、どこにでもありそうな逸話が一話ごとの中心になっている。しかし、一冊を通して読むと印象に深く残るのは、カウンターの向こうにいる聞き手いっぽうの寡黙なマスターだ。
彼の出所にあわせ、恋人だった女性が離婚したというのも理由のひとつらしいが、帰郷はそれだけではない。人生に、リセットはありえない。そんな覚悟がうかがえる。
ハートは、高倉健。だけど、顔は渥美清のような俳優さんがマスターをやると、深夜のいいドラマになるにちがいない。

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紙の本ひかりのまち

2006/05/23 14:41

浅野いにお、は病みつきになるぞ。

6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 「星に願い」をという唄があったけど、これは、ある夜、流れ星を目にすることができたのと、見逃してまった若者やオッサンやら、子供たちの話だ。
「知ってる? マヨネーズの口って星の形してるんだよ」
 と、売れない漫画家くんは彼女にいう。
「それでーー?」と彼女。
「それだけだぁ!!」と彼。
 こんな何の意味もなさげに見えるシーンが、最初っから二回、三回と読み返してみてみると、やけにズシンときいてくる。
オープニングのところで、漫画家の卵の主人公を取り囲んで、若者たちがモラトリアムの青春を惜しんで騒いでいる。そのうちの「若者その3」ですよ、みたいな役を振り当てられ、一人だけ狐のお面をかぶっていて、顔が見えていないものだから、まるで人数あわせみたいに存在感のうすーい若者が、話がどんどん進んでいって、漫画家のことなんか忘れかけていたところで、そのお面をとり顔をだす。ひょっこりと。
 それがなんとも、すごい出方なのだ。インパクトありすぎ。なものだから、お面の若者とはなかなか気づかない。
 たぶん、人間って、みんなそれぞれに人の前では、いろんなお面を被って生きている。ホントとウソ、聞かれなくても話すことと、ぜったい打ち明けないこと。上手にごまかしたり、偽ったりしながら、みんな上手に「自分」の使い分けをしているだよぁと、ふと思う。
 どこにでもありそうな、団地の町。のんびり、なごやかに物語は始まる。ほんと。どこにでもいそうな若いのや、子供、サラリーマンたちが入れ替わりしながら話はオムニバスに進んでいくんだなと、思っていました。だって、ここちよく安心させる絵だから。ほんと、ほんと。
 でも。
 違っていた。
 と、思ったらどんどんもうガシッと本を握り締めていました。
 学校に行かない子供や、家庭崩壊やら、子供の大人殺しやら、壊れた刑事や、自殺の流行、自殺さえビジネスにしょうとするのや、ストーカーやら、うんざりするような話が晴れ渡った平和な風景の中で、おだやかにおだやかに進行していく。でも、その一つひとつが奇妙にリアル。
 怖い。せつない。ぞくぞくする。
一度知ったら、浅野いにお、の世界って、ひとつにまとまった感想なんていえなくて、そのぶん病みつきになりそうだ。

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一応の推定

2006/06/22 19:21

「横山秀夫}宮部みゆき」級の傑作だ!!

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 めちゃくちゃジミな話だけどハラハラ読まさせられてしまう!
近ごろ若い作家の活躍が目立つ中での「60歳」にしての新人作家のデビュー作。松本清張賞受賞作にして「選考委員会全会一致!」という帯のコピーにも「そらぁ、そうだろう」とうなずいてしまった。
 東京なんかに暮らしていると毎日のように起こる電車の「人身事故」にイライラするいっぽうで、亡くなった人のことを想像しなくなる。それ自体が異常なことなのに、異常だと気づかなくなる。そんな自分の「なれ」に、この小説を読んだあと、ふと怖くなる。だから多くの人に読んでほしいと思う。
 新聞の片隅に載った、目立たない列車事故。ホームから老人が転落し、電車にはねられ死亡した。自殺なのか、事故なのか。警察は「事件性なし」と判断。だが、転落の瞬間の目撃者がいない。
 死亡時三千万円の損害保険の支払いをめぐり、調査員の調査が始まる。その地道な足取りを、肩越しのアングルでとらえていく長編小説だ。ルポを読むような、情緒を抑えた構成と筆致。たとえば、現場に飛び散った遺体を、鉄道職員が手が拾い集めていることなど、ニュース「報道」では見落とされている背景の描きこみが作品全体の「実感」を裏打ちしている。
 主人公が、定年寸前の調査員というのがいい。温厚で、感情に走らず『職務』として真相を探ろうとする。いつもそうしてきたのだろう。映画にするなら、柄本明。ひと昔前なら植木等だな。
 老人には難病の幼い孫がいて、救うには多額のお金が必要。老人は自らの命とひきかえに、保険金を残そうと考えたのか……。調べるほどに自殺の線が濃厚となる。相棒というかお目付けのように随行する保険会社の若いエリートからは、結論を急かされる。自殺ならば保険金は降りない。
 主人公は、読者からすれば企業側の嫌な役回り。でも、手を抜かない。なぜなら、彼の仕事だから。一直さが、人間臭さを引き出している。しかも、95%自殺の心証を得ても尚、主人公は腑に落ちずにいる。同情ではない。合点がいかないのだ。
 職人気質の主人公の姿勢は、松本清張の小説そのものであるし、路傍の存在にスポットをあてるアングルは横山秀夫、宮部みゆきの物語世界に近しい。なにより、老人が歩んできた足跡の「わからせ方」がうまい。いつしか引き込まれ、読者は心を揺さぶられる。しかも作中では、一度として胸中を肉声で語ることはない。それでも、傍証の蓄積がくっきりと老人の表情を浮かび立せていく。そしてそして、「ご苦労様」と仕事の「終わり」を告げられた、そのあとからの、思いもかけないラストスパートの展開がなんとも、すごい!

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紙の本じゃあ君が好き

2005/09/21 18:52

一瞬のドラマ

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

お店のウィンドーを、ダスキンで拭いているエプロン姿の店員さん。彼女が手を窓にこすりつける仕草が手を振っている姿にそっくりで、通りかかった男の子が、バイバイと手を振っている。男の子のもう一方の手は買い物袋を提げたお母さんとつながっていて、そんな情景を気づいていない。まあ、ちょっとしたカンチガイなわけですが、そんな1コマがなんとなくいい感じ。
ほかにも、
ノッパラに、黄色のがポトンと落ちている。
そんな一枚のイラストに、「野性のオムライス」という意味不明な一言が添えられている。
なるほど、オムライスかとじいっと見つめるのだけど、もちろん動きだしたりするわけでなく、ちょっとレモンみたいだなぁとか思ったり、なんで空き地に出来たままのオムライスが落ちているの?とか。ここにオムライスがある前と、後のドラマを想像してみたりする。
もうひとつ。
ザンギリ頭の小さな女の子が、
「パン食べたい」といって、ショルダーバッグをかけたまま立っている。彼女の姿だけで、まわりの風景は何も描かれていない。
だけど、想像してしまうんですね。家に帰るまでに、どうしてもパンが食べたくなる何かがあったんだなって。女の子の向こうには「えっ、急にどうしたの?」って顔をしているお母さんがいる。いってみれば、なんでもない1コマ。それでもここから何かが起こりそうな、その一瞬を切り取ったのがこのイラスト集です。

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ぼくが愛したゴウスト

2005/05/31 20:07

実は……

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

まったく同じ。なのに、ちがう。
「もう一つの世界」に紛れ込んでしまった少年の物語だ。
使いふるされたファンタジーの手だな。と、思い込んでいたら、ガツン、ガツン!!
作者は、おなじみのストーリーを拝借しながら、めちゃくちゃ深いテーマに挑もうとしているのがわかったとたん鳥肌がたった。
親が子を愛する。人が人を、大切に思う。人間ならではの「感情」「気持ち」はどのようにして生まれるのか。
とんだ事態に遭遇し、頭がパニックになるものの、冷静でいようとつとめている小学生の男の目で、何かがちがってしまった「世の中」を描き出している。
ヘンなんだと訴えかけるものの、誰も本気になんかしていない。思い込みすぎたよ、一晩寝たらよくなるよ。てな調子。
しかし、いつまで経っても体の変調はもとにもどらない。やがて、彼は気付くのだ。
おかしいのは自分ではなく、この世界なのだと。
そこからはサスペンス・ワールドの勢い全開。なんだけど、この小説のすんごいところは、スタートは平凡、時間の経過とともにハラハラ。エンターテイメントのど真ん中を疾走しながら、「心」とは何かと問い続けること。心をもったことがないという、もう一つの世界の人たちと交わり「心」を問うていく。唐突に浮かんだのは、不治の病にかかった子と親、その家庭のリアリティだ。そんな話だとキツクて読めない。だから、伝えたいことを何重にも「面白い」物語でくるんでみせたんだと思う。楽しめる。だけど、ドシンときます。

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時代の終焉に、凛々しく散ったオオカミの物語。

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

つい思い浮かべてしまうのは、ボニー&クライドの二人だ。1930年代、アメリカが混沌としていた時代に銀行強盗を繰り返した若い二人。無軌道ではあったが、映画になるなどしてヒーローとして記憶されている。
彼らの時代をさらに遡った1800年代の終わり。これは、開拓の名残りがあり、北米にオオカミがいた頃の物語だ。通常オオカミは大勢群れをなしているものだが、「人狼」とまで恐れられたそいつは、わずかの仲間をひきつれ、大胆な仕業で毎夜牧場の牛達を襲っていた。巧妙に仕掛けられた罠はことごとく見破り、餌の肉の上には、あざ笑うかのようにご丁寧に脱糞までしてみせた。知恵はまわるし、用心深い。人間の前には姿を現さない。まれに目にした男どもはその威厳をたたえ「オオカミ王ロボ」と呼んだ。多額の賞金がかけられ、ハンターたちがロボを狙うのだが、すべて手ひどい返り討ちにあう。
「俺たちに明日はない」の二人もそうだったが、伴侶である雌オオカミが捕らわれの身となり事態は一変する。完全無欠、一度もミスをしでかさなかったロボの頭脳が乱れ始める。シートンの動物期でも最も有名なお話だ。だから、結末は知っている。結局たった一匹の雌オオカミのために命を落とすことになるのだが、人間に置き換えたら、というか、こんなにも愛するものに身を捧げる男がこの世にいるんだろうか。牧場を守ろうとする人間たちと誇り高きオオカミとの格闘を描いた大自然のドラマ。ロボは一言も語らない。牧場荒しの悪者だ。それでもロボに感情移入してしまう。せずにはおられない。血が騒いだ。

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紙の本ママの神様

2006/04/03 18:49

最後がすごい!

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 親に虐待された不遇な子供は、暴力をふるう親を嫌って逃げたがっていると思い勝ちだけど、どういうわけだか、虐待する親から引き離そうとすると、頑強に拒む子供がいる。冒頭の短篇「水槽の中の小さな魚」を読んでいて、ずっと不思議に思っていた疑問がほどけていく気がした。
 荒れた親も、ずっとすさんでいるわけではない。「気まぐれに」でしかないにしても、たまにやさしくなることがある。そのやさしさを身体で知っているからこそ子供はしがみついてしまうのだろう。小さなその娘は、母親が若こ男にとりすがり、足蹴にされるのを見ていた。母親を「その人」と呼ぶ。自分を「あたし」という。母親からは「あんた」と呼ばれる。男への腹いせなのか、その人はあたしを蹴飛ばす。暴力はどんどん激しくなる。それでも、そばから離れない。やがて、泣き疲れたその人はあたしをきつく抱きしめる。
 どうしょうもない母といたいけな子の時間は、突然のピリオドを迎える。それはいいことなのかどうなのか……。
 最後のページが、とんでもなくすばらしい。捨て猫を見つけたあたしが、とった態度。それは、どんなことをしても生きていくという決意ともとれるし、何もかもをあきらめた破局にもうつる。
 ほかにも共通して最後のページ、シーンが絶妙だ。
 とんでもない夫婦につかまって命を落とすバカな男の悲喜劇を描いた「おもろい夫婦」や、金属バット殺人を想いうかべてしまう「チコウ少年と呼ばれて」など、新聞の社会面の端っこを飾っては忘れ去られていく事件な人間のドラマをそろえて、本来は暗い、重い題材を、軽妙な笑いに書き換えている。笑いにでもしないことには、読めない話だともいえる。

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紙の本移り気本気

2006/04/24 16:38

女を知るには

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

「なにも家にきてまで仕事の話することないでしょ」
妻は背中を向け、キッチンでひとり洗い物をしている。つい、ぐちってしまう。
夫が会社の部下を家に招いて、仕事の話に熱中し、それが一段落すると、今度は共通した趣味の話に夢中になっていて、妻は置きざりにされたみたいで機嫌が悪い。
部下はOLだった頃の同僚で、彼女はいまもバリバリ働いている。しかも夫に彼女が気があったのを妻は知っている。夫婦の間はマンネリ化していただけに、心中はおだやかならず。さりとて、ふたりの間に何かがあるわけではない。だから、言うに言えず、もやもやするしかない。
そばに大事な人がいるのに孤独を感じる。そんな心の中を、ぐいぐいと踏み込むタッチで、切り取っている。寝室で突然妻はバクハツ。夫にはさっばり理由がつかず……。
きまずい場面の切り取るか他が絶妙。(ああ、そっか。カミサンがあのとき、何も言わずに不機嫌だった理由がわかった!)と、手をうつダンナ衆は少なくないじゃないかな。女心を知るには、いいテキストでもある。ドキドキ、ぞっとするけど。
花のOLから、掃除のオバチャンへとバトンタッチされるなど、一話ごと、前回の脇役が入れ替わりで、次の話ではスポットライトに照らされる、ロンド形式の長編漫画。むちゃくちゃ厭味な女に見えていたのが、視点の変化で、人間は一面では語られないというか、人が変わって見えるのが面白い。

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カッコウ悪いが最高に格好いい。

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

副題がいい。「人生には役に立たない特技」って、タイトルの「Sokki!」は、へろへろっとした線の暗号もどきのあの速記のことで、これは早稲田大学の速記研究会に所属する、ちょっと前の若者の話だ。
主人公の、大学に入学したての男の子は背も小さいし、二枚目でもない。気持ちはやさしいが、言い方をかえれば断れない、自己主張のできないアカンタレで、カワイイ女の子に誘われ、つい速記の部活に参加する。ごまんといそうな男の子だ。
時代は80年代で、まだバブルに世の中が浮かれていたころに、まったく豪華絢爛とはかけ離れたところで青春を送っていた、目立たない男の子と、マドンナみたいな女の子が急接近する。しかし「友達以上恋人未満」、あと一歩のハードルが越えられない。そうこうしているうちにプリンスが現れ、三角関係となる。当然、分の悪い、頼りないイマイチくんの想いがかなえられるかどうかに興味が向くのだが、恋の奇跡が起こるかどうか結果については最早どうでもよくなるくらい、舞台設定がよくできている。
なんせ速記だ。Sokkiとでも書かなきゃいけないくらい、ジミ。その速記技術向上のために、全国大会での優勝(そんなイベントがあるのを初めて知ったけど)を目指し、氷水で腕を冷やしながらハードなトレーニングを続ける合宿風景など、目にするのは速記に似合わない、スポ根ふり。サッカーや野球なら、なんために?と問われることもないだろうが、速記の場合はどうしたって「で、上達するとどうなるの?」と尋ねたくなる。別に何にもならないんだよなあーって、主人公たちのちょっと冷静ぶりがいい。そこがミソ。
競技会前の団結を固める円陣を組んでの掛け声も、なんとも脱力だし。だから、つい笑ってしまうのだが、なんのためにもならないことに熱くなる、これぞ青春だなぁとも納得してしまう。燃え上がる恋だって、時が経てばそうだ。
結果のために、今があるのではない。金儲けやモテルことだけが人生でもない。熱中することの積み重ねか人生の進行形で、どうかすると忘れてしまいそうな基本を思い起こされてくれる。このあいだのオリンピックで、にわかに人気になった氷上で玉を滑らせるカーリングみたいに、もしかしたら、これが映像化でもされたら突然、速記がメジャーになったりするかもしれない。それくらい、不恰好だけど、カッコイイと思わせる話だ。

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紙の本日本はじっこ自滅旅

2005/04/21 22:16

ニッポンの端っこで、ちゃんと人は生きているぞ、声をあげてみた。

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

女房とケンカし、家を飛び出した勢いで飛び乗り「羽田まで」。運転手のオジサンは驚いた。朝からこんなラッキーな客にめぐりあったのは、もう何年になるか。話し込むうちに、オジサンのシミジ鼻腔を刺激せずにはいない家庭の事情を鴨志田さんは耳にしてしまう。ただのやけっぱちのヨッパライである彼のことを、このタクシーの車中でのエピソードから、読者はこう思うことだろう。もしかしたら、彼は神様が使わしたんじゃないかと。
酒乱癖がエスカレートし、カミさんから離縁を切り出され、日本の端っこを目指して北へ南へ旅をする。旅には何か目的があるものだが、鴨志田さんには何もない。行けるところまで、ただ行ってみる。しかし、行けども端っこにあるのは海だ。海しかない。体調を壊し、入院。退院後も酒に呑まれ、死に怯え、それでも、酒がやめられない。なさけないほど、ダメ人間の旅行記。おかしいんだ、これが。しかも、せつない。ひとの気持ちがわからない人間ではない。わかりすぎるんだろうなぁ。
思いがけない過疎の町での、人とのふつうの会話がほっとさせる。都会だけがニッポンだと勘違いしかねないこの御時世、どうしてどうして、寂れ果てた町にも人は毎日暮らしている。当たり前だが、当たり前なことを再発見させてくる。体と心を張ったルポだ。

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紙の本山口晃作品集

2005/01/08 17:26

あなたはどれだけ発見できますか?

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

じっと見てください。
いざ合戦の、幟と甲冑の武将たち。表紙をチラッと目にして、そういう絵巻物の画集かとまず判断するでしょう。ワタシがそうでした。で、一度は通り過ぎる。が、なんかヘンだなと戻って、見てみる。じーっと。
馬の身体がバイクになっているし、兜はヘルメット。なんじゃこりゃ(笑)。
別のこれも見覚えのある、人が橋の上を大勢行き交う、江戸時代の温泉場の賑わい。飛脚や商人や、お侍。ようあるわなとぁ……と見ているうちに絵が呼びかけるというか、浮き出てきたのが、半袖のグラーマーな外国の女性やら電動車椅子に乗ったオジイチャン、首輪をつけた犬。馴染みのある大和絵のタッチの中に、何の違和感もなく、こっそりと現代がイラストレーションされている。そんな騙し心につい気がほぐれてしまう。「見る」ことの面白さ。温泉の屋根にクーラーの屋外機を発見したときは、もう人に言いたくてたまらない。ウォーリーを探せの大和絵巻物版。会話のなくなった仲をとりもつには効果バツグンの小道具にもなります。

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紙の本ロダンのココロ 5

2004/09/04 18:44

ワシもいがいにいそがしいんやな

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

「〇〇ちゃんのほうが、ずっと上手やわ、ほらこれ見てみぃ」
銀行のロビーで、オバアちゃんというにはまだ若いオバサンが、孫らしい女の子を相手に指差している。ひろげていたのは「週刊朝日」で、引き合いに出されていたのはこの漫画だった。
ウマヘタだっけ、ヘタウマというんだっけ。一見誰にでも描けそうな、ゆるいタッチの8コマ漫画。駄菓子屋を思い出すというか、どんどん姿を消していく横丁の雰囲気がする。
いまどきこんな漫画は、と思ったものだ。が、これがすごい!
けっこうイイ歳(若いんだか老成しているんだか、「ワシ」と自分のことを言う、おっとりとした関西弁)の「ロダン」という名の飼い犬と、ほんわかとした三人家族の平穏な日々のワンシーンを切り取っている。
ロダンは、もちろん話すことはできない。犬ですから。でも、人間の話をちゃんと聴き取っていて、「となりのぼっちゃん」と遊んでいると自分が人間のように思い込んでしまっている。「ワシ」のアタマの中ではちゃんと会話は成り立っている。ただし、アタマの中だけで、彼の言葉は人間には伝わらない(そら、そうだ)。ここが味噌である。伝わらないビミョーさをこれはテーマにしている。つまりは「吾輩は猫」ならぬ「ワシは犬である」というわけだ。
「話してもわからない」と思うから家族は、思ったことを彼に語りかける。なんでもないことから、ひとには言えないことも。
縁側で寝そべっていると、奥さんが「アラアラたいくつしてるわねー」と声をかける。声をかけたほうに大した意味はない。ないのだが、ロダンは急に考えこんでしまう。「たいくつをしてたんかワシは……」と。で、「なるほどそうか ワシもいがいにいそがしいんやな」と、いい心地になる。うまいんだか、ヘタなんだか、「すくっ」と立ちあがった表情は、彼の気持ちが伝わってくる。ということは上手いってことか。
話せたらどんなに愉快かと思うが、相互に「思い」が食い違っていたりするあたりがなんともおかしい。喋って、わかりあえた気になるのが幸せとは限らない。すれ違いにもワビサビ(というのか?)があって、「バカの壁」なんていうベストセラーがあるけれど、人間と犬との間に超えられない壁があることは楽しいんじゃないか。ぬるいようで、すごものである。

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