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先月(2017年8月)

SSさんのレビュー一覧

投稿者:SS

1 件中 1 件~ 1 件を表示

複眼の映像 私と黒澤明

2006/08/02 10:32

貴重な証言

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

最も真率な言葉は、他者の言葉として語られる。
それはこの本では、ある日の喫茶店での野村芳太郎の言葉だ。
(野村)「黒澤さんにとって、橋本忍は会ってはいけない男だったんです。」
(橋本)「え?」
「そんな男に会い、『羅生門』なんて映画を撮り、外国でそれが戦後はじめての賞などを取ったりしたから……映画にとって無縁な、思想とか哲学、社会性まで作品へ持ち込むことになり、どれもこれも妙に構え、重い、しんどいものになってしまったんです」

「しかし、野村さん、それじゃ、黒澤さんのレパートリーから『羅生門』、『生きる』、『七人の侍』が?」
「それらはないほうがよかったんです」
「え!?」
「それらがなくても、黒澤さんは世界の黒澤に…現在のように虚名に近いクロサワでなく、もっとリアルで現実的な巨匠になっています」
黒澤明の重要なパートナーとして自他ともに任じてきた橋本の、その自己意識の根幹に食い入る衝撃が、こちらにも伝わってくる場面である。(1977年暮れ)
気の合う友人だと思い、ふと
「黒澤さんにとって、私…橋本忍って、いったい何だったんでしょう」と漏らした途端、野村の目が光って上記の言葉となった。
野村が悪意や、感情で言ったのではないことは、はっきりしている。あえて、こう発言することの背後には、ふたりが共有する<映画への愛>が担保されている。しかし、橋本は動揺する。
……私は目の前がクラクラした。野村さんの言っていることにも一理あるが、どこか衒学的であり、肝心な点が間違っている。なにか言おうとした。だが言葉が出なかった。
この衝撃が、30年後に橋本にこの回想記を書かせた。そしてエピローグに「…会ってよかったと思っている」とやや口ごもりつつ結んでいる。
黒澤は、外国で自分の名前の「意味」を尋ねられると、真っ暗な谷に一筋の光が射し込むことだと述べたそうだが、私もこの野村の言葉に一筋の光が射し込む思いがした。
野村の最初の言葉は、日本人が普段使わない仮定法過去完了である。それは、そういう思考実験の回路が、日本語の中であまり流通していないこともあるだろうし、また過去を言挙げすることを「たられば」と言って忌む風土もある。しかし、野村の言葉を補助線として見えてくるものは大きい。
続けての野村の言葉を引く。
「僕は黒澤さんに二本(※『醜聞』『白痴』)ついたから、どれほどの演出力…つまり、力があるかを知っています。彼の映像感覚は世界的なレベルを超えており、その上、自己の作品をさらに飛躍させる、際限もなく強いエネルギッシュなものに溢れている。だから、夾雑物…いいですか、よけいな夾雑物がなく、純粋に…純粋にですよ、映画の面白さのみを追求していけば、彼はビリー・ワイルダーにウイリアム・ワイラーを足し、二で割ったような監督になったはずです」

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