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ぽぽんさんのレビュー一覧

投稿者:ぽぽん

2 件中 1 件~ 2 件を表示

紙の本雷蔵、雷蔵を語る

2004/12/07 11:37

雷蔵を知る

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

37歳という若さで夭折した銀幕のスター、市川雷蔵。その彼が書き残したエッセイ(主に、彼の後援会の会誌に向けて書かれたもの)が、『雷蔵、雷蔵を語る』に収録されている。

私が生まれた時には、すでに彼岸の人となっていた市川雷蔵。いつしか雷蔵の映画に惹かれるようになり、今になって故人の人となりについて知りたいと思っても、なかなか思うような情報が得られない、そんな時にこの本に出会った。

生い立ち、芸の道に入ったいきさつ、銀幕スターとしての多忙な毎日、友人らと過ごす休日のこと、旅の思い出、理想の女性について、共演女優について、恋愛や結婚観について、社会道徳について、子育てについて、そして将来の夢について。と、実に多様なトピックスについて雷蔵自身が書き綴ったもので、雷蔵という人物について、かなりきわどい部分まで知ることができる。

多少の編集はされていようが、大変に言葉遣いの丁寧な人で、時節の挨拶に始まり、周囲に対する感謝の念はもちろん、マスコミのでっちあげ報道について苦言を呈するに至っても、言葉遣いは実に丁寧である。素直さと礼節を重んじる言葉遣いと一貫した折り目正しい態度には、ただ感銘を受けるのみだった。

また、雷蔵と仲のいい女優・俳優らとの交流についても多々述べられており、日本映画全盛期の頃の、華やかな銀幕のスターの交友関係をうかがい知ることができる。雷蔵にかかれば、あの美しい若尾文子も「ぽん太」呼ばわり、幼なじみの中村玉緒などは「おてんばでやせっぽち、色気もへちまもなかった」などと言われ、嵯峨三智子に至っては整形についてまで「もとの顔のほうが良かった」などと言われている。しかし、それらはことごとく、彼女らへの賛美と愛情にあふれている。

これらのエッセイは、ほとんどが市川雷蔵後援会用に書かれたエッセイということで、今どんな映画を撮影しているか、どんな役柄か、どれほどの意気込みをもって今の仕事に当たっているか、ということについても書かれている。10数年の間に彼の残した158本の映画。その中には、量産される日本映画の将来についての懸念、そして全てが納得のいくものではなかったことなどもつづられている。本当に映画を愛していたのだと思う。

後半、雷蔵の結婚後に書かれたエッセイには、将来はプロデューサーや監督などもしてみたい、という意欲にあふれた文章、具体的な作品名を挙げて「この作品に出たい」といったものが多い。これから、という時に不慮の病に倒れた彼の無念さを思うと、なんとも言いがたい感情に襲われる。

インタビューで「どの役が一番素の自分に近いと思うか」と問われ、「全てが私です」と答えた潔さが印象に残っている。映画の中での雷蔵の立ち姿、座した姿、佇まいの美しさ、役者としてのプライドの全てがこの言葉に込められているように思われる。

子供の頃の写真から、歌舞伎時代の写真、華やかな共演女優や俳優らとの記念写真、養父との写真、眠狂四郎の衣装をつけたまま趣味のカメラを構えて被写体を狙っている写真、子供たちとの写真。収録されている写真のどれもこれもが市川雷蔵という人物の、かけがえのない断片である。

彼の没後に生まれた私のような、若い世代の雷蔵ファンは、これからも増えていくことだろう。市川雷蔵は、これからも決して色あせることはない。この本は、私のような世代の者にとっては、宝物のような一冊だ。彼は、本当にスターだったのだ。

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紙の本桜の森の満開の下

2004/12/28 15:17

桜の森は恐ろしい

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

子供の頃、暗いのが怖かった。この世の中に、ひとりぼっちになってしまったような気がして、急に心細くなった。『桜の森の満開の下』は、子供の頃に味わった暗闇の恐怖を思い出させた。

あたり一面桜の花、花、花。見上げても、見回しても、地面を見ても、目に入るのは際限なく続く桜の木々。この森を通る旅人はみな気が触れてしまうのだという。わかるような気がする。音もなく降り続ける桜の花びらに、いつか自分も埋め尽くされて、消えてなくなってしまうのではないかと思うのに違いない。出口の見えない暗闇の中と、出口の見えない桜づくしの森の中。明暗の違いこそあれ、恐ろしいことには違いない。

桃源郷かと思った場所が、実は地獄よりも恐ろしい場所だった。帰りたいのに帰れない。元には戻れない。そんな男の葛藤と恐怖はエンディングに向かってクライマックスを迎えていく。

御伽噺を装ったかのような猟奇的物語ではあるが、現実社会に通じるところがあるのではなかろうか。憧れが現実になった時、手に届かないと思っていたものや事を手にすることができた時、人間は更に「もっと」という欲望に駆られるのではないだろうか。引き返したくても引き返せない状況に自らを追い込んでいくのではないだろうか。

これはそんな男と女の物語である。引き返せない。桜の森は何もなかったかのように、春になれば繰り返し繰り返し咲き続ける。人の世も、そうして繰り返し、繰り返し流れていく。

桜の森は恐ろしい。

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