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佐伯洋一さんのレビュー一覧

投稿者:佐伯洋一

1 件中 1 件~ 1 件を表示

紙の本三国志演義 1

2003/04/20 01:47

諸葛亮死後もなお続く「三国志」

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 この本は中国の「三国志演義」を現代語訳したものです。全部で7冊のシリーズ。基本的に有名な吉川英治先生の「三国志」と同じ内容ですが、こちらの方が「三国志演義」の原文に忠実なようです。三国志演技の章ごとにつけられている表題も、実に簡略ではあるが、その分心に響く素朴さを持っており、物語を盛り上げてくれる。
 
 1巻から6巻までが吉川英治の三国志と大体一致する。7巻は、なかなか触れられることのない諸葛孔明の死後を描く。あえて主人公を定めるとすれば、諸葛亮から唯一薫陶を受けた姜維しかいない。
 この姜維は諸葛亮が第一次北伐で心服させた天水の麒麟児である。「姜維を得たは鳳凰を得たに等しい」という諸葛亮の感動ぶりであった(第6巻参照)。
 
 往年の五虎大将はすでになく、それに次ぐ歴戦の将星たちもことごとく堕ち、人材難極まる蜀。諸葛亮の遺言で指名された、残る治世の傑物たちも次々と世を去り、開祖劉備以来の「中原回復、漢朝再興」という志を成し遂げるのは天水の天才・姜維伯約のみというところ。

 しかし、三国志の作者たちは何故、諸葛亮の死後を書かずに終えることが多いのか? 諸先生方口をそろえていうには、「孔明の死後は肩の力が抜けてしまう」。だが、本当に肩の力が抜けてしまうような陳腐な内容しかないのだろうか? 決してそんなことはないと私は思う。
 劉備が築き諸葛亮が守った蜀を一人背負い、以後30年一心不乱に戦い続けた孤独の天才の苦心を知らずして何の三国志か。
 武人の最高位・大将軍となり姜維は戦い続けるが、蜀国内は厭戦気分が漂い、君主劉禅と宦官たちは獅子身中の虫と化し、尽忠報国する姜維に対し援軍を送らない。遂に漢中を抜かれ、なお剣閣に留まり防戦するが、暗愚なる劉禅は降伏してしまう。姜維もいったんはやむを得ず降伏するが、なおも、敵将と共謀し蜀を復興させようとするに至っては三国志という大戦史の幕をとじるにまったく恥じるところのないものである。

 
 諸葛孔明は決して花々しい大功績を挙げた幸福の人ではない。むしろ、その才能にして得る栄華過小、忠涙義血に生涯した薄幸の人である。にもかかわらず、諸葛孔明の名がかくも東アジア全域に轟き、その光沢を失わないのは彼の純粋な忠節が人を感動させるからであろう。
そして、姜維もその一人といえよう。孔明の死後も彼の遺志はまさしく続いていたのであり、彼の死は決して三国志の幕ではない。
 本書では、もちろん姜維のみでなく司馬一族の躍進、孫家の内情、諸葛誕の乱など細かく触れてある。歴史的にも評価が高い、三国志における詩も原文と和訳が盛り込まれている。三国志愛好家は言うに及ばず、文学に純粋な感動と鮮烈さを求める方にはこれ以上ない作品だと思います。

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