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先月(2017年6月)

ぴこ山ぴこ蔵さんのレビュー一覧

投稿者:ぴこ山ぴこ蔵

2 件中 1 件~ 2 件を表示

紙の本輝く日の宮

2003/06/12 00:39

巧い小説は本当にヤバい

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 源氏物語には失われた一章があるという。
 その名は『輝く日の宮』。
 丸谷才一、十年ぶりの書き下ろし長編は、世界最古のラブストーリーの謎を巡る大人の恋愛小説。
 ロマンチックでユーモアに満ちていて、教養にあふれていながらエロチック。その上あまりに謎めいた源氏物語の秘密。この本は、おしゃれでモダンな恋愛小説にして、世界最古の恋物語の謎を解き明かす面白すぎるミステリーでもあるのだ。こんな小説を読んだのは初めてだった。っていうか、これぞ本当の小説なんだろうな。これまで源氏物語と言われても「ああ、古文のテストに出るやつだろ」ぐらいの知識しかなかった私のようなものが「こんなに面白いんなら絶対読まなきゃ損だな」と思うようになるほど強烈な読書体験だった。
 元祖プレイボーイ光源氏は、あこがれの美女・藤壺の宮(輝く日の宮)のもとへ夜這いをかける。ところが、どう考えても二回忍んで行ってるはずなのに、最初の夜のことがどこにも書かれていない。
 つまり、源氏物語には脱落があるのだ。
 誰が、なぜ、抜き取ってしまったのか?
 失われた一章『輝く日の宮』を探す美しき国文学者・杉安佐子。
 そんな彼女が旅行中のローマ空港で出会った男は独身主義を貫く水の会社の役員だった。二人はあっという間に恋におちる。
 一夜かぎりにしましょう。という約束は守られるのか?
 一千年の時を超え、平安王朝と現代がいつしか朦朧と混ざりあう。
 そして、恋のゆくえもまた…。
 恋はけっこう遠い日の花火になってきたかなあ、と感じている四十二歳の私も、思わず知らず引き込まれ、一九五八年生まれのヒロインとともに源氏物語の秘密を解き明かす旅に出てしまうのである。
 全8章からなるこの小説の面白さはそれだけではない。なんとそれぞれの章が全く違う文体というか書式で書かれているのだ。短編小説形式であったり脚本スタイルだったり年代記のようだったりと、さまざまな趣向を凝らした構成は読んでいて飽きない。
 しかし、難点をひとつ挙げれば、丸谷才一独特の旧仮名遣いが嫌いな人は、おそらく最初の一章でくじけてしまうのではないか。しかもこの一章は主人公が中学生の頃に書いた短編小説の形をとっているのだが、これが現代の泉鏡花みたいで、ものすごくレベルが高い。本当にこんなものが書ける中学生がいたら大天才である。その上これが滅法面白いときている。丸谷才一が書いたんだと判っていても、ヒロインがあまりにも生き生きとしているものだから勘違いする。この小説を書いた女子中学生に憧れてしまう。恋をしちゃう。あげく自分の中学時代と引き比べあまりにも情けなくなってしまって、ついでに過去の挫折とか青春の蹉跌とかいらんことまで思い出して絶望のあまり読書を投げ出すかもしれない。危ない。うますぎる小説というのはいろんな意味で危ない。
 ここんところさえ気を確かに持って読み抜けてしまえば、旧仮名遣いはむずかしそうに見えて実は凄く読みやすいことに気づいてしまう。そうなるともうダメだ。もうどっぷりだ。丸谷追っかけだ。
 登場人物に曰く「この国の続く限り、人は『輝く日の宮』の巻の不思議とそのゆくえを追わずにはいられない」のだそうな。
 「源氏」という古典中の古典を主題に、松尾芭蕉、為永春水、泉鏡花から吉川英治の「宮本武蔵」に至るまで、日本文学の面白さがストーリーに絶妙に絡められて語られる。縦横無尽である。
 日本語でこの小説が読めて良かったと本気で思える傑作。ページをめくる手が本当に止まらなかったのである。
 あともうひとつ。この本の装丁は和田誠なのだが、驚くべきことに、あの興ざめのバーコードがどこにも見当たらないのだ。しかし、これでレジは大丈夫なのか。買うほうとしてはうれしいんだけどね。

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扉の書

2003/06/22 18:08

ファンタジーをオトナ(年齢じゃなく)に取り戻せ!この味わいはまるで良質のドキュメンタリー

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 恐るべき力を秘めたまま廃墟の塔に眠る魔術書『扉の書』。しかし、いまだかつてそれを読み解いた者はおろか、本の留め金さえもはずした者はいない。所有者・老魔術師キルムスが途方に暮れていると、謎解きの鍵を持っているという若い女エリルが訪ねてきた。読めぬ文字、閉じた扉を巡って二人の魔法使いの冒険が始まる。
 本格ファンタジー『扉の書』。
 キルムスの住まうユルト山の荒涼としたたたずまいや、エリルが暮らした砂漠の町モリジンは、中東のようでもあり、アジアのどこかのようでもある。
 また、地底の不思議な木の実コルーラ、精気を吸い取る水蜘蛛の仮面等々、食べ物や魔法などの細部は夢想を煽り立てるオリジナリティーに満ちていて、作者独自の世界を確立している。
 しかし、一方で、魔法使いが本名を知られることで魔力を失うなどの伝統的なファンタジーの鉄則も頑なに守られている。それもいちいち説明したりしないのがうれしい。ファンには自明の理なのだ。
 ここで苦言を呈すると、X文庫ホワイトハートをオジサンが買うのはけっこう恥ずかしい。でもこの本は藤原ヨウコウの表紙イラストが凄くよくて、いわゆるアニメ絵でないのでかなり助かった。

 で、この物語、単なるおとぎ話でなく、魔法使いという職業の大変さがよくわかる貴重なルポルタージュとしての価値もある。魔法使いとは呪文を唱えて杖を振れば火の玉が飛び出して敵をやっつける楽な商売だと思ったら大間違いだ。ある魔法を解くために様々な厚さ形のガラス容器を作って組み合わせて叩いて周波数を探ってみたり、滅多に手に入らない貴重な薬草を湿らせたり乾燥させたりと、本当に毎日苦労が絶えないのだ。
 その上、妖精やモンスターが住む世界のリアルな旅行記としての側面もある。地霊の小人・ハルクス族や、すべてを呑みこむ巨大軟体生物バールとの遭遇場面はまさにファンタジーの醍醐味であろう。

 二人の魔法使いは、野望を達成するべく、知恵を巡らせリスクをとり、突発的に襲い掛かる災難からは必死に身も守り、ある時は自分の背負い込んでしまった夢の重さにたじろぎながらも、慎重に狡猾に歩を進めて行く。ベンチャーな起業にも似ている。だからこそ人生の苦味を知っているオトナ(年齢じゃなく)のほうがハマってしまう。読後感はまるでドキュメンタリー。その叙述は平明にして硬質。間違っても魔法使いが「マジで?」などと口走ったりラ抜き言葉で会話したりすることはない。文章に対して高潔であります。
 もちろんエキゾチックなロマンスだってある。
 砂漠に散った悲恋が吟遊詩人の詠ずる歌のごとくに哀切に語られ、魔法使い同士の例えて云うなら管理職のオトーサンが部下の清楚なOLに対してふと抱いてしまう淡い想いみたいな感情もにじんだりする。でも、どこか低カロリー。甘すぎない。非常に抑制が効いていて、そこがまた大人にとってはホッとするのだ。(年齢じゃないよ)
 基本的には少年時代に感じたあの夏休み初日のきらめき感を取り戻したくてオジサンはファンタジーを読む。または、人生は不条理だから面白い、という真理を思い出すために読む。「扉の書」は、いつのまにか不条理に慣らされてしまい、たいがいのことには鼻くそほしりながら生アクビで対応してしまうような、屈辱感も痛みも悲しみも感じなくなって感情がミイラになってしまった自分を救けに行くためのガイドブックなのだ。
しかも、ここで通用するのは魔力や神通力ではなくて、むしろ大人の判断力であり常識であり、知恵によって磨かれた交渉力なのだよ。ふっふっふ。ガキどもよざまをみろなのだ。(何度も言うが年齢のことじゃないかんね)

 さて今宵も世間の子供たちが安逸の眠りをむさぼり始めたら、再び静かに扉の書を開くつもりだ。俺も行く。君も行け。ファンタジーの荒野で会おう。あー、オトナでよかった、の快作である!

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