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  3. 葉山響さんのレビュー一覧

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    体が硬い人のための柔軟講座 (NHKテキスト 趣味どきっ!)

    体が硬い人のための柔軟講座 (NHKテキスト 趣味どきっ!)

    中野 ジェームズ修一 (講師),日本放送協会 (編集),NHK出版 (編集)

    5つ星のうち 4.0 レビュー詳細を見る

葉山響さんのレビュー一覧

投稿者:葉山響

12 件中 1 件~ 12 件を表示

紙の本殺人症候群

2002/03/27 22:15

著者の作風とエンタテインメント志向が絶妙に合致した一級の傑作

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

『失踪症候群』『誘拐症候群』(共に双葉文庫)に続く、症候群三部作の完結編。正直に告白すれば、僕はこのシリーズの装丁は、内容の徹底したエンタテインメント志向に比してややアーティスティックすぎるのではないかと考えていたが、本書を読んでその思いは消えた。それほどに本書は堂々たる出来栄えなのだ。前二作を質量ともに凌駕する大作であり、貫井徳郎の作風とこのシリーズのエンタテインメント志向が絶妙に合致した、一級の傑作と言えるだろう。

 警察には、正式に人員を割けないような事件を非公式に解決するべく設置された特殊機関がある。今回彼らの前に提出されたのは、一見何の関係も無い複数の事件。だが被害者に共通していたのは、いずれもが殺人事件の加害者でありながら、責任能力を問われ実刑を逃れているという点だった。リーダーの環らは事件の裏に職業殺人者の存在があると確信する。職業殺人者たちの行動を通して浮かび上がるのは、「果たして復讐は正義か?」という究極の難問だった——。

 大量の登場人物を渋滞なく捌く手腕、1100枚の長さを楽々と読ませる文章力には瞠目すべきものがある(蛇足を承知で付け加えておくと、「復讐は正義か」という命題に対し緻密な試行錯誤が繰り広げられるこの作品が、かくも読みやすく楽しめる出来に仕上がっているのは、作者の筆が極めて論理的に進められているからに他ならない)。また、これは貫井作品の全般的な特徴でもあるが、社会的なモティーフを扱っていても、作者の主張は一方的な社会悪の糾弾へは向かわず、飽くまで人の心の問題や、人と人とのぶつかり合いを描くことが主軸とされる。声高に社会批判を叫ぶより、遥かに小説として高級な方針ではないか。貫井作品は文芸的価値においてももっと評価されて然るべきだと考える。

 勿論ミステリとしても、本書には仕掛けが用意されている。大抵の読者は「これだけではない、何かある筈だ」と注意して読むだろうが、それでも見破ることは容易ではないと思う。果たして貫井徳郎は本書のどこに陥穽を仕掛けているのか、是非とも作者と勝負しつつ読んで戴きたい。
 心に残る力作。まだ三月ではあるが、本書もまた2002年を代表するミステリとなることだろう。 (bk1ブックナビゲーター:葉山響/ライター)

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紙の本白蛇島

2002/01/30 22:15

奇妙な風習を持つ島に繰り広げられる青年たちの冒険

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 高校三年生の悟史は、13年に1度行われる大祭のため、故郷の拝島へ戻ってきた。港で彼を迎えたのは、彼の持念兄弟である幼馴染の光市。持念兄弟とは、集落に住む長男同士が持念石と呼ばれる透明な石を分け持つ島独自の風習で、物理的にも精神的にも本当の兄弟よりも近しく過ごし、助け合うものとされている。
 折しも島は大祭を前にして、「あれ」が現れたという不吉な噂が飛び交っていた。島全体の安定を祈る重要な行事を前にして、いったい何が起こるのか。悟史と光市の冒険が始まろうとしていた……。

 強いてジャンル分けすればこれはダーク・ファンタジーだが、本書の魅力はもっと別のところにある。最近では例えば恩田陸の諸作のように、昔読んで面白かった小説の記憶を絶妙にくすぐるタイプの作品があるが、『白蛇島』はまさにそれだ。
 昔の風習が残る島、13年に1度の大祭、謎めいた神域の森、失われた少年時代の記憶、闇との闘い、そして親友とのひと夏の冒険……丹念な描写で綴られるストーリーは、夏の気怠い雰囲気とあいまって、ひたすら懐かしくて心地好い。作中で描かれる男同士の友情は、同性の目から読むとやや気恥ずかしくなるところもあるが、それもまた味わいのひとつだろう。この作品世界の中で飽くまでも「現実」を求めるのは、むしろ野暮というものだ。作者が楽しんで書いているのが伝わってくる、古典的な(決して「古めかしい」という意味ではない)香りの漂う秀作である。

 就職難に立ち向かう女子大生の奮闘を描いた『格闘する者に○』(草思社)という、おかしなタイトルの作品で作家活動をスタートさせた三浦しをんは、続いて古本屋を継いだ青年とその友人の耽美的な物語『月魚』(角川書店)を上梓。本書は彼女の第3長編にあたる。1作ずつ作風を変える芸風(?)の幅広さには今後も大きな期待が持てるだろう。 (bk1ブックナビゲーター:葉山響/ライター)

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原書房ミステリー・リーグ第3作は連作ミステリ。ただし、全体を通した複雑な仕掛に注目

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 本書が連作ミステリであるということは、版元である原書房のサイトでも言及されているから、ここでも特に隠す必要は無いだろう。というより、本書に関しては連作長編であることを意識しながら読み進めた方が——1日1編ゆっくりと読み進めるような読み方はせず、それこそ長編を読むつもりで一気に読んだ方が──数段楽しめるのではないか。

 本書における連作の試みは、幾つか先例を挙げられるもので、従って何が試みられているのかを見破るのは比較的容易かも知れないが、それでも作者のお手並み拝見という楽しみは損なわれない。また全体を通して複雑な仕掛けが用意されているため、個々の短編の内容を忘れてしまわないうちに読み切ってしまうことをお勧めしておく。

 ただ、本書をただの短編集として読んだ場合でも、個々の内容がかなりバラエティに富んだものなので、——例えば、年配の女性の穏やかな語りによる安楽椅子探偵譚風のミステリがあるかと思うと、サイコ・スリラー風多重人格ミステリがあるといった具合で——「さあ、次は何を繰り出してくるのか」という楽しさがある。

 なお、中でも興味深く読んだのが「たったひとつの事件」と「閉ざされた夜の事件」。後者はゼロサム・ゲームの優勝の行方に謎を絡めた斬新なアクション本格ミステリ(?)であり、一方、前者は如何にもメタミステリを好む著者が書きそうな観念的なミステリで、これをもっと突き詰めると凄まじい作品が生まれるかも知れないという可能性を感じた。

 連作長編として、もう少し親切な書き方がされていると更に高く評価できたかも知れないが、たまには完成度を云々するのが虚しくなるようなひねくれた作品があっても良い(探偵役の浦川氏という名も「裏返し」から採られたものだろうか)。斎藤肇のミステリの中で、最も楽しく読める作品のひとつではないかと思う。

 斎藤肇は雑誌《ショートショートランド》で活躍した後、綾辻行人に続く第二の新本格ミステリ作家として八八年に『思い通りにエンドマーク』を上梓、本格ミステリの分野に乗り出した。以降『思いがけないアンコール』『殺意の迷走』などのミステリや、『レイテア——砂の都』『魔法物語』などのファンタジーを執筆。本書は九一年の『夏の死』『あいまいな遺書』以来、ほぼ十年ぶりのミステリの著作となった。 (bk1ブックナビゲーター:葉山響/ライター 2001.10.04)

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償い

2001/10/03 22:16

放火、ナイフ殺人などの陰惨な事件が続く街で、ホームレスと少年が出会う。矢口敦子の新しき代表作

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 矢口敦子は特異な推理作家である。そのことは家族をテーマにした秀作『家族の行方』(第五回鮎川哲也賞最終候補作)や『人形になる』(女流新人賞受賞作)などの作品を読むと明瞭に感じ取れるだろう。ミステリと文芸の境界に位置するような作品を得意とする彼女だが、『償い』は文芸としての側面は勿論のこと、ミステリとしても彼女の最良作と呼べる仕上がりを見せている。

 あまりにも辛い過去に耐え切れず、医師としての自分を捨ててホームレスとなった男。彼は火災の第一発見者となるが、その火事は放火の可能性が濃厚だった。街では障害者、高齢者などの「社会的弱者」ばかりを狙う連続ナイフ殺人をはじめ、ホームレス狩りやウサギ殺しなどの陰惨な事件が続発しており、刑事は男に捜査の協力を求める。一方、男は図書館でひとりの少年と出会うが、この少年が後に男を凄まじい混乱と苦悩の淵に叩き込むことになるとは予測できなかった——。

 これまでの矢口敦子は、エキセントリックとまではいかないが、変わった性格あるいは変わった境遇に置かれた人物を多く描いていたという印象がある。本書にも「人の心の悲しみが声となって聞こえてくる」と語る不思議な少年が登場するが、その人物造形は以前の矢口作品の登場人物たちよりも、かなり厚みを増しているように感じられた。少年や主人公のほか、中年の刑事や若き警察署長の造形にも味があり、一人ひとりの輪郭がくっきりと立ち上がっている。主人公の過去をゆっくりと浮かび上がらせる展開も効果的で、もともと展開の上手い作家だが、とりわけ今回は気迫が籠もっているように感じられた。

 また、本書はミステリとしても丁寧な処理が見られて好ましい。気付いてしまえば簡単なことだが、強烈なインパクトにより真相とは違った方面に目を向けさせる詐術が効いている。

 すべてが丸く収まるハッピーエンドが用意されているというわけではないが、闇の中に一筋の光明を与えるようなラストも暖かな印象を残す。エモーショナルな力作であり、矢口敦子の新しき代表作と呼ばれるべき作品だろう。 (bk1ブックナビゲーター:葉山響/ライター 2001.10.04)

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紙の本ゴッホ殺人事件 上

2002/06/25 22:15

「浮世絵三部作」で知られる著者が、海外に舞台を広げて挑む野心作!

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 記念すべきデビュー作となった第29回江戸川乱歩賞受賞作『写楽殺人事件』、その『写楽』を超える完成度を示した第40回日本推理作家協会賞受賞作『北斎殺人事件』、そして前二作を巻き込んで展開する連作完結編『広重殺人事件』(以上すべて講談社文庫)の通称「浮世絵三部作」は、高橋克彦の代表的作品というばかりでなく、日本推理小説界に聳え立つ金字塔的存在であると称しても決して過言ではないだろう。三部作を終了させた後も、著者は比較的軽いタッチの『春信殺人事件』(角川文庫)や傑作時代推理長編『だましゑ歌麿』(文春文庫)において浮世絵師をモティーフに据えていたが、本書『ゴッホ殺人事件』で遂にテーマは海外へと広げられることになった。過去の名声に溺れず、更にそれを超えるようなスケールの作品を書き上げた著者の気迫に、まずは拍手を送りたい。

 第二次世界大戦中、オランダはナチスによる名画狩りに遭った。その美術品の行方の鍵を握ると目される人物を追って、モサド(イスラエル中央情報局)所属のアジムとサミュエルはスイスへやって来るが、彼らが到着する直前に目的の男は事故でこの世を去っていた。一方、東京ではある老婦人が首吊り死体で発見される。貸し金庫からはドイツ語で書かれた謎のリストが。やがてこのリストは偉才ヴァン・ヴィンセント・ゴッホに関するセンセーションを巻き起こすことになり、壮大な陰謀の幕が開く——。

 まずは読みやすいのに驚かされる。こういった傾向の作品は、実際の事実関係を読者に説明しなければならないために、いかんせん説明調になってしまうのが常だが、本書においては説明が鼻につくこともなく、気持ちよく読み進めることができる。
 構成も大胆だ。上巻ではゴッホの死に関する、非常に奇抜で魅力的な説を示しておきつつ、下巻ではお馴染の名探偵・塔馬双太郎を出馬させて現代に起きた殺人の謎を解き明かす。塔馬の登場の前後で構成は綺麗に二分されており、そこに著者の周到なたくらみが見て取れるのだ。スケールも大きく、終盤の畳み掛けも素晴らしい。デビューしてから今年で20年目を迎えた著者だが、まだまだミステリ作家としての野心は衰えていないと感じた。好著と言うべき作品である。 (bk1ブックナビゲーター:葉山響/ライター)

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絶対零度

2002/04/25 22:15

PTSDを抱えた弁護士が遭遇する現代社会の闇

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 息子の死が原因で軽いPTSD(心的外傷後ストレス障害)を抱える山岡の元に、殺人を犯した覚醒剤常用者の弁護依頼が舞い込む。事件の引金になった可能性のある3Dバトルタイプの「おやじ殺しゲーム」は果たして本当に存在するのか? 存在するとすれば、いったい誰が何の目的で作成したものなのか? 調査を開始した山岡の前に現れたのは、少しずつ変貌を遂げてゆく社会の不気味な縮図だった——。

 本岡類は声を荒げない作家、というイメージがある。彼が描く社会派ミステリでは、当然ながら常に社会問題がテーマに据えられるが、そのテーマに対する作者の主張が居丈高に叫ばれることはまず無いと言って良い。しかし作品を読み終わると、たとえその声は静かでも、内容からは真摯な、揺るぎない意思が感じ取れるのだ。読者に自らの「正義」を押し付けることなく、その筆にはいつも抑制が効いている。反面、その抑制のためか、ストーリーは殊更にお涙頂戴の方向へも向かわないので、一見地味な印象があるかも知れないが、本岡類は間違いなく良質な「大人の作家」であると思う。

 本書は、そんな本岡類の作品の中でもシリアスな部類に属する。今回のテーマの一つは「生命の軽視」という極めて重大なものだ。しかも、いまの若者はおかしい、という大味な社会批判には向かわず、個々の若者の精神の問題としてデリケートに扱っているところはいかにもこの作家らしい。
 また本岡作品では、プロットの組み立て方にも丁寧な配慮が見られる。普通に読んでいると思わぬ方向に話が向かう瞬間があり、この作者のプロット作りの上手さはもう少し評価されても良いのではないか。殊に今回は本格ミステリ的な手法が取り入れられていることもあり、いろいろな方面から楽しめる贅沢な作品に仕上がっている。本岡作品中、最も精神的に不安定な人物が主人公に据えられているのも本書の特徴のひとつであり、読ませどころと言えようか。
 『ガラスの王』『羊ゲーム』『「不要」の刻印』などの旧作のテーマと微妙に絡み合いながら、より壮大な広がりを見せた力作。本書と前後して刊行された貫井徳郎『殺人症候群』(双葉社)に感銘を受けた人にも是非お勧めしたい。 (bk1ブックナビゲーター:葉山響/ライター)

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防風林

2002/03/28 22:15

安定した筆力と流れるような展開の上手さ

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 勤めていた会社の倒産を機に、芝園周治は末期ガンの母・わか子が暮らす北海道へ17年ぶりに戻る決心をした。母の病室で彼は、かつて隣家の住人だったアオイと再会。後日アオイは、周治が幼い頃、若い男が母を訪ねては追い返されていたことを話し、二人の間にはきっと何らかのロマンスがあったに違いないと断言する。
 死が近いわか子のために、その男を一緒に捜してみないかと持ち掛けるアオイに半ば引き摺られるようにして、周治は母の過去を探り始めるが——。

 筋書だけ書くと如何にもテレビドラマ向きの手軽なサスペンスのようにも感じられるが、本書はきめ細かな筆致としっかりした骨格で読ませる丹念なミステリである。仕掛け自体は極めてシンプルなものであり、ドンデン返しの迫力などを求めてミステリを読む読者にはいまひとつ物足りなく感じられるかも知れないが、安定した筆力と流れるような展開の上手さはそれを補って余りある。

 登場人物の造形にも説得力があり、絵に描いたような善人が出てくるわけでもなければ、凄まじい悪人も登場しない。普通の生活を営んでいる人間たちを描くことに長けている作家は多いようで案外少なく、ここに永井するみの貴重な才能の一端を確認することもできるだろう。非常に読みやすく、小説的な側面にも配慮のなされた佳作と言える。なお、敢えてひとつ苦言を呈するなら、タイトルはもう少し記憶に残りやすいものでも良かったのではないか。

 永井するみは1995年、第2回創元推理短編賞の最終候補作「瑠璃光寺」(創元推理文庫『推理短編六佳撰』所収)でミステリファンの前に登場し、続いて96年に「隣人」で第18回小説推理新人賞、更に長編『枯れ蔵』(新潮文庫)で第一回新潮ミステリー倶楽部賞を受賞した。以後はシックハウス症候群を扱った『樹縛』(新潮社)や、1999年に発表された『ミレニアム』(双葉文庫)といった時局的なテーマの長編を手掛けていたが、2000年刊行の誘拐を巡る音楽ミステリ『大いなる聴衆』(新潮社)で飛躍を遂げた感がある。

 『歪んだ匣』(祥伝社)や『天使などいない』(光文社)など、短編集の刊行にも精力的だが、個人的には枚数が充分に与えられた長編での活躍をより期待したい。著書はもうすぐ十冊を超えるが、まだまだ伸び盛りの、むしろこれからの成長が気になる注目株である。 (bk1ブックナビゲーター:葉山響/ライター)

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紙の本白光

2002/03/27 22:15

連城作品では久しぶりの本格的長編ミステリ。語りの魔術を存分に楽しめる

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 連城三紀彦の小説には独白が非常に多い。登場人物たちは過剰なほど能弁に自己の心情を語る。だが、言葉を尽くして語りながらも、その独白は真実の周囲を回り続け、なかなか中心に行き着くことがない。話者が嘘をついている場合もあれば、話の核心を語り落としている場合もあり、あるいは自らの心中においての「真実」——それは客観的な「事実」と異なる場合が多々ある——を敢えて語っている場合もある。連城三紀彦が書く小説はすべからくこのような語りの魔術で成り立っている。

 だから恋愛小説として出版された作品であろうと、連城三紀彦の作品は殆ど全てがミステリと呼べる内容を持つ。複雑な、奇怪ですらある人間関係、登場人物の(一筋縄ではいかない)謎めいた心情、そして連城三紀彦の幻惑的な語りが重なり合って、たとえ作品の舞台設定は平凡なものであろうとも、読み進めるうちにやがて何重もの迷宮が目の前に現出したような錯覚を覚えるのだ。

 本書は連城作品では久しぶりの、殺人事件の顛末が描かれた本格的な長編ミステリであり、いつも以上に語りの魔術を存分に楽しめる、見事な作品に仕上がっている。
 娘の通院の付き添いから帰ってくると、義父と留守番をしている筈の姪の姿は忽然と消えていた。数時間後、庭のノウゼンカズラの下に埋められた彼女の死体が発見される。真犯人は果たして誰なのか?
 全編に亙り巧みに仕掛けられたドンデン返しの鮮やかさもさることながら、最後に明かされる真実はあまりに衝撃的なものだ。迷宮的な語りの果てに用意された最後のモノローグは、どのミステリの結末よりも凄味が感じられる。そして考えようによっては、(明言は避けるが)連城三紀彦は本書において、呆然とするような離れ業を達成していると言えるのではないか。まさに本書は連城三紀彦にしか書き得ない傑作であり、本年度を代表する作品となることだろう。 (bk1ブックナビゲーター:葉山響/ライター)

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紙の本爆破屋

2002/02/27 18:16

肝心なのは「美しく」破壊すること。ビル爆破のプロを目指す若夫婦を描く

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 「間が悪い」というのは特別珍しい事態ではない。ミステリなら同じシチュエーションやトリックを使った作品が先に世に出てしまった場合が考えられるが、それは割合よく起こることなのだ。が、この作品ほど「間が悪い」小説には滅多にお目にかかれないだろう。アメリカでビル爆破を習得する夫婦を描いたこの作品が世に出る前に、ほかならぬ世界貿易センタービルの惨事が起こってしまったのだから!
 流石に編集部も気を遣ったか、帯に「このビル爆破は正義だ!」という一文を入れているが、基本的に善悪とは遠い境地で書かれた、飽くまで合法的建設作業としてのビル爆破を扱った爽やかな作品である。

 麻由美と雅也が新婚旅行でサンフランシスコに到着した途端、雅也の父が急死したという報せが届く。即座に帰国した二人は、父に借金があり、3日後までに持ちビルを解体した上で土地を明け渡す契約をしていたことを知った。しかし3日間でビルの解体は無理。そこで雅也は急遽ビルの爆破を思い付くが、見事に失敗してしまい、二人はアメリカへ逃亡せざるを得なくなる。ビザも金も無い二人だったが、ひとりの老人と出会ったことで彼らの運命は急転することになった——。

 本書の面白さは、なんといっても2人がアメリカに渡ってから発揮される。一匹狼の爆破屋人生を貫こうとするボブじいの造形が抜群。いい加減な生き方をし、いい加減な気持ちで結婚し、アメリカに渡ってボブじいに出会ってからは天性の勘で爆破稼業に乗り出す主人公・麻由美の造形も素晴らしい。これは天才的老人の教えによって「伝説の爆破屋夫婦」を目指す、若き夫婦の成長物語なのだ。どこにどのくらい火薬を仕掛け、周囲に全く被害を出さず、如何に目的物だけを美しく破壊するか。そう、肝心なのは「美しく」なのだ。イリュージョンの如く一瞬のうちに対象建造物を破壊する、ある意味で芸術に近い行為。それは世界貿易センタービルのテロなどという醜悪な行為とは訳が違うのである。

 物語の後半では、雅也の父親が巻き込まれていた事態の真相が明らかにされ、なんとボブじいの過去をも巻き込んでクライマックスへと雪崩込む。待ち受けるのはほろ苦い結末だが、ただの夢物語で終わらせなかったラストは鮮やかに、爽やかに読者の胸に残ることだろう。

『とんかつ協議会』『姥捨てバス』『床下千人』など、ユニークな作品を発表している原宏一の長所が発揮された秀作である。 (bk1ブックナビゲーター:葉山響/ライター)

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探偵は吹雪の果てに

2002/02/27 18:15

ススキノ便利屋探偵シリーズの第5長編は、シリーズ最高の出来栄え

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 デビュー作『探偵はバーにいる』(ハヤカワ文庫JA)以来書き継がれている、ススキノ便利屋探偵シリーズの第5長編。第54回日本推理作家協会賞(受賞作は『残光』角川春樹事務所)受賞後第一作である。

 このシリーズは新作が出る度に懐かしい気分にさせられるのだが、それもその筈、このシリーズは第3長編『消えた少年』(ハヤカワ文庫JA)以来、ほぼ3年に1冊という緩いペースで新作が刊行されているのだ。懐かしく感じられるのも無理はない。

 といっても作中を流れた時間は3年どころの話ではなかったらしく、読み始めて驚いたが、なんと今回はシリーズ前作『探偵はひとりぼっち』(ハヤカワ文庫JA)から15年後の話なのである。前回は探偵が恋人の妊娠を知らされるところで幕を閉じたが、今回はその恋人と結婚し子供も生まれたが離婚、子供も中学生になっているという状況で幕を開け、正直この設定の激変には驚かされた。

 45歳になった探偵の「俺」は、仕事絡みでヤクザに袋叩きにされ、担ぎ込まれた病院で昔の恋人に再会する。定職に就かず、根無し草のような生活をしている探偵の境遇を知って彼女は失望するが、彼に一通の封書を渡し、それを道北に住む知り合いに直接渡して欲しいと依頼。目的地は、高校生がバットで同級生と自らの姉を殴り殺し失踪したという事件が起こったことで一躍有名になった田舎町だった。探偵は気軽に引き受けて町へ向かうが……。

 今回はススキノを離れ、主に雪の田舎町が舞台となるため、これ単独では「ススキノ便利屋探偵シリーズ」とも呼べない話になっている。つまり今回は二重にも三重にも前作までと異なる点が多いのだが、物語のカラーまで変更されていないのは嬉しいところだ。田舎町の住人を徹底的にカリカチュアライズして読者の笑いを誘う(老タクシー運転手との会話など非常に可笑しい)など、いたずらに深刻ぶらない軽妙な作風が好ましい。しかし今回は、多少どぎついとも言えるその諧謔の裏に、深刻な問題や登場人物の優しさなどを潜ませる筆致が印象的で、小説的技巧ではこのシリーズ中、最高の出来栄えと言って良いだろう。時折流れる切ない情感も良い。またミステリ的にも、「いったい託された手紙には何が書かれていたのか?」「なぜ探偵はこんな目に遭わなければならなかったのか?」という謎が用意されていて楽しく読めた。

 設定が激変したため、シリーズ途中の本書から読んでも大きな支障は無いだろう(勿論、登場人物たちの過去を知りたい方は最初から読むことをお薦めするが)。東直己の小説を齧ってみたいと思う方にも恰好の作品だ。 (bk1ブックナビゲーター:葉山響/ライター)

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紙の本十三の黒い椅子

2002/01/30 22:16

作品全体に執拗なまでに張り巡らされた暗号を堪能すべし

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 いったい今年、倉阪鬼一郎は何作の新刊を上梓したのだろう。本領発揮の怪奇短篇集『百物語異聞』(出版芸術社)や唖然呆然の長編ミステリ『四重奏』(講談社ノベルス)、異色のユーモア・ファンタジー『ワンダーランドin大青山』(集英社)、更にはヒュー・ウォルポール『銀の仮面』(国書刊行会)と訳書まで刊行していて、一昨年あたりから続いている怒涛の活躍ぶりにはただただ恐れ入るばかりだ。『十三の黒い椅子』は、そんな彼の二〇〇一年の活動を締め括るに相応しい、凝りに凝った異形の秀作である。

 詩人の赤池朗馬が編纂した『十三の黒い椅子』。編者を含む十二人の書き手——十三番目の椅子は読者のために空けてあるという趣向——が「椅子」をテーマに競作したホラーミステリー・アンソロジーだ。このアンソロジー成立の背景には、様々な思惑や策謀が隠されていた……。

 本書の内容を細かく説明することにあまり意味は無い。前提などいずれは覆されるからだ。本書は赤池朗馬編『十三の黒い椅子』に収録された十二の短編小説のほか、ネットの掲示板やメーリングリスト、編者の日記、対談記録など様々なテキストで構成されており、その多種多様なテキストを追いかけてゆくだけでも単純に楽しいが(構成に合わせた造本が更に楽しさを引き立てている)、作品全体に執拗なまでに張り巡らされた暗号が、任意に選び取られ組み合わせられることによって真相(と思えたもの)が幾度となく変容してゆく、その迫力こそが本書の醍醐味だろう。

 前提が次々と粉々にされる過程に一種の酩酊感を覚えながら、計算されたミステリとしての楽しみも同時に味わえる。倉阪鬼一郎の著作の中でもとりわけ技巧的な一冊。あまりのドンデン返しの多さ故に、果たして辻褄が合っているのかどうか要らぬ心配をしてしまいそうになるが、本書においてそれは些細なことでしかない。過剰な暗号とドンデン返しの迫力を楽しんで戴きたい。 (bk1ブックナビゲーター:葉山響/ライター)

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紙の本波のうえの魔術師

2001/10/03 22:16

『池袋ウエストゲートパーク』の俊才が経済コン・ゲームに挑んだ、読み応えある秀作

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 デビュー作を表題とした連作短編集『池袋ウエストゲートパーク』で好調なスタートを切った石田衣良は、続く『うつくしい子ども』や『エンジェル』などの長編で徐々に筆力を上げ、『池袋ウエストゲートパーク』の続編『少年計数機』では安定した筆力に感心させられた。更には作風も大きく拡げようと試みており、男娼の青年の遍歴を描いた非ミステリ作品『娼年』は現時点での石田のベストである。ひとつの作風に留まらず、様々なタイプの作品に挑戦する意欲的な作家として、現在最も注目すべき存在と言えるだろう。本書『波のうえの魔術師』は彼の今年三冊目の新刊で、今回はなんと経済コン・ゲームに挑んでいる。

 1998年春、卒業はしたものの就職できず、日々パチンコ通いを続けていた青年は、ふとしたきっかけでひとりの老人と出会う。その日から青年の世界は全くの変貌を遂げることになった。経済の「魔術師」である老人に見出された彼は、老人の指導により徐々にマーケットの値動き感覚を身につけ、やがては預金量第三位の都市銀行を相手とした「五週間戦争」に乗りだしてゆく——。

 日本経済を丁寧に調べた上で執筆したと思われる作品で、時折織り込まれる98年当時の出来事の描写が一層のリアリティを醸し出している。
 同時にこれはかなりファンタジックな物語でもある。冒頭の、主人公が老人に見出される場面からまるでシンデレラ物語のようで、この時点で読者は「ああ、これはそういう作品なんだな」と了解することになる。勿論そこが本書の魅力なのであり、飽くまで現実的な世界を舞台としながら、そこにどことなくファンタジックな香りと青春小説の爽やかさを持ち込んでみせるのが石田衣良の魅力なのだ。ただし、決して童話的な仕上げに終始することなく、現実的な部分は現実的に、非情な部分は非情に処理してみせる辺りがまた心憎い。

 さてこのストーリーは果たして童話的ハッピーエンドか、それとも苦いエンディングを迎えるのか、或いはまた別の余韻が待ち受けるのか? 実際に読んで御確認戴きたい。

 幸田真音や池井戸潤ら経済ミステリの注目株の作品にも匹敵する、読み応えある秀作と言えるだろう。 (bk1ブックナビゲーター:葉山響/ライター 2001.10.04)

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