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佐藤亜紀さんのレビュー一覧

投稿者:佐藤亜紀

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われはフランソワ

2001/03/23 10:30

山之口洋『われはフランソワ』

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 『オルガニスト』で日本ファンタジーノベル大賞を取ってデビューした山之口洋氏が、次はヴィヨンの伝記を書くのだ、と言うのを聞いた時には、幾らかの驚きを感じたものだった。まず第一に言うなら、山之口氏は極めて温厚な紳士である。泥棒詩人ヴィヨンと目の前の柔和な紳士との組み合せくらい意外なものはちょっと思い付かないと言っていいくらいだった。『オルガニスト』もまた極めて抑制の効いた、もしかするとやや効きすぎかもしれない佳品であった。究極の音楽に向って限界を踏み越える狂気が描かれてはいるものの、たとえば高野史緒嬢の小説を満たしているバッカエの狂乱とは正反対の、随分とひんやりした狂気だった。ある意味では、それが不満だった。或いは作品自体に対してではなく、作中で極めて透明な叙情に純化されてしまった、本来ならもっと熱く煮え滾っているべき何かが感じられたからかもしれない。
 温厚な紳士というのは、結構侮りがたいものなのだ。
 山之口氏が書こうとしたのは、ヴィヨンの伝記ではない。実証主義に徹するなら、実在の人物に関して作家が書き加えるべきことなど驚くほど少ないのだ。「われはフランソワ」の主人公は必ずしもフランソワ・ヴィヨンと言う名の歴史的人物ではない。これは、人間の命が途方もなく安価で、その束の間の生が限りなく輝かしかった「中世の秋」——ベリー公の時祷書だの「一角獣の貴婦人」のタペストリだの、シャルル・ドルレアンの歌比べだの、当然ヴィヨンの「疇昔の美姫の賦」だのと同時にイノサンの墓地の「死の舞踏」を思い浮かべる方ならお判りだろう——死と腐敗に縁取られた、あまりにも色鮮やかな中世末を、火箭のように過って堕ちていく一個の才能の物語なのである。
 十五世紀のフランスを扱った小説が書かれるのは、必ずしも本邦初という訳ではない。何年か前、この本と重なる時代、重なる場所を扱った作品が書かれてはいる。ただ、山之口氏のように鮮やかに「時代」を切り取った作品ではなかったのは間違いないし(同じパリ大学の学生を扱っても、この小説にあるような暴力性と若さへの陶酔は、もう一人の作家には無縁だった)、山之口氏ほど大胆に、その時代を我々の時代に結び付けた者もまたないだろう。悪と汚辱と美、という、おそらくは中世人の知らなかった倒錯の三位一体を、山之口氏はヴィヨンの生涯に重ね合わせる。それがこれほどよく似合うものだったというのは、驚くべきことではなかろうか。
 詩の鏤め方もまた素晴らしい。こういう形でヴィヨンの詩に出会うことのできる読者は幸せだと言わなければならないだろう。再会する読者にとって幸せなのはもちろんとしてもである。

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