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川村伸秀さんのレビュー一覧

投稿者:川村伸秀

3 件中 1 件~ 3 件を表示

紙の本これから 五〇代の居場所

2001/01/29 10:18

笑いのオブラートで包んだ人生哲学の書

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 人生七〇年、あるいは八〇年と考えるとすれば、五〇代はもう折り返し地点を過ぎて人生の後半を生きる年齢ということになる。本書は、その年齢にさしかかった著者が、近況報告という形で五〇代を生きることの意味を本音の部分で語っている。といっても、決して堅苦しい本ではない。断崖絶壁のようになってしまう白髪頭の話や耳からはみだす耳毛の話、老眼ゆえに遠目に見るため妙に姿勢がよくなる話、行きつけの喫茶店の常連達と作ったコーラス・グループの話などなど、いずれもユーモアたっぷりに描かれていて読者を飽きさせない。だが、そうした笑いのオブラートで包みながらその一方で、本書は著者のこれまでの経験を生かしつつ優しく語る人生哲学の書でもある。老いることの意味をむしろ積極的に捉え、これからの人生をどう生きていくのかが述べられている。本書を読んでいて「老いじたく」という言葉が浮かんだ。著者と近い年齢の人はもちろんのこと、もっと若い人にもおすすめしたい。五〇代の人の視点でものごとを覗いてみることで、ちょっとだけ世界が違って見えてくるかもしれない。

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紙の本明治のおもかげ

2000/11/08 18:07

次世代に明治を語り継いだ遺言の書

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 淡島寒月翁の『梵雲庵雑話』に続く、岩波文庫から明治モノの嬉しい贈物である。著者は、『団団珍聞』を皮切りに明治期のジャーナリズムの世界に飛び込んだ雑誌・新聞記者であり、同時に雑俳、落語、長唄、都々逸などをものした才人である。親本は昭和29年に翁が86歳で亡くなる前年に出版されているから、まさに次世代に明治を語り継いだ遺言と言ってもよい。
 浅草の見世物の話に始まり、松や狐火にまつわる怪奇譚、廓話、芝居見物の話、福地桜知・森田思軒・谷斎(尾崎紅葉の父)らの思い出話などなど、翁自身が体験したものもあれば、他人からの伝聞もある。次々と並べられる昔語りは、決して整理されたものではない。むしろ、混沌とした記憶の中から翁は筆の赴くままに語っている。だがその一つひとつの話を読み継いでいくうち、やがて読者は、明治という時代のもっていた空気を知らずしらずのうちに著者と共に呼吸し始めている自分に気づく、これはそんな本なのである。

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陸軍が作った左翼たちのアジール

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 戦時下の日本軍というのは、何とも不可解な組織であった。兵士を人間以下に扱った話は野間宏の『真空地帯』をはじめ数々の記録が残されているが、その一方海軍では手塚治虫を感動させたアニメ「桃太郎 海の神兵」を瀬尾光世に作らせている。全編を貫く牧歌的映像は、プロパガンダという名の下にほとんどノーチェックで完成に至ったとしか思えない。同じくプロパガンダの名目で、陸軍の予算を湯水の如く使って作られた雑誌が『フロント』である。当時のグラフィックの最先端を行くこの雑誌は、東方社に結集した林達夫、岡正雄、原弘、木村伊兵衛、中島健蔵、濱田浩といった錚々たるメンバーにより製作されていた。東方社は“アカ”の巣窟として目をつけられていたが、陸軍に庇護されていたため遂に特高は手を出すことができなかったという。さながら東方社は左翼たちのアジールであった。本書は、この幻の雑誌と呼ばれた『フロント』が如何に作られていったかを克明に追った貴重な記録である。

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