酒井 綱一郎さんのレビュー一覧
投稿者:酒井 綱一郎
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紙の本反面教師アメリカ
2000/10/26 00:19
日経ビジネス1999/9/20
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ヘッジ・ファンドの帝王ジョージ・ソロスが自著『グローバル資本主義の危機』の日本語版を出す際、「ある日本人にゲラをチェックさせること」という条件を出版元(日本経済新聞社)に突き付けた。ソロスが指名した人物こそ、ここで紹介する本の著者、堀武昭である。
米日財団副理事長、豪日交流基金アドバイザーなど日本と海外との架け橋役を務めてきた堀。ソロス論について1章分を割いているが、おべんちゃらを並べてはいない。それどころか、世界的な山師ソロスを相手に“闘論”を仕掛けた足跡を紹介する。
英国政府やマレーシア首相のマハティールを敵に回して通貨戦争を仕掛けながら、「開かれた社会」の建設のために世界中に莫大な資産をばらまく慈善家。その矛盾に満ちたソロスの人物像に迫ることで、米国の実相をえぐり取ろうと、この本は格闘している。
堀は米国を「時代錯誤の十字軍」と規定する。自分の国の主張が世界的な普遍性を持っていると信じ、その思想(米国的民主主義)を世界に適用しようとする米国。この本は、その米国を動かすエリートたちに喧嘩を仕掛けた「知的ゲリラ」による闘争記である。
堀が「プライドの化け物」と呼ぶ元国防長官マクナマラへのインタビューを試みた時、相手は1時間半の約束を途中で打ち切り、堀を部屋から追い出そうとした。堀はドアに足をかけ、さらに15分のインタビューを続行した。
ベトナム戦争の指揮官としての反省の弁を引き出そうとして、堀はマクナマラの子供たちがベトナム反戦運動にのめり込んだ事実を突き付けた。心の奥底に踏み込まれたマクナマラはやっとの思いでエリートとしての体面を保ちつつ、堀を途中で追い返そうとしたが、堀は得意の“喧嘩英語”を使って相手を怒らせ、ついには本音を聞き出している。
この本を読んだ時、『アメリカ精神の源』(中公新書)の著者ハロラン芙美子の告白を思い起こした。米国に30年近く住み、米国本8冊を書いた彼女が、「アメリカ人をかなり理解していると思っていたけれど、それは思い上がりだったのかもしれない」と本の中で語っていた。人口の95%が神の存在を信じる米国人の「魂」に触れてこなかったことへの反省だ。ハロランが米国人の信仰を新著で書いたのは、そのためだ。
ハロランとは取材対象が異なる堀だが、米国人の魂を描き出そうとする試みにおいて、両書には共通点がある。違いがあるとすれば、信仰から発する米国民の善意、お人好しぶりが、「巧妙に仕組まれたプログラム」に従い、米国の覇権に利用されていると堀が見て取る点だ。=文中敬称略
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