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先月(2017年8月)

佐和 隆光さんのレビュー一覧

投稿者:佐和 隆光

1 件中 1 件~ 1 件を表示

地球環境問題を一望。地下帯水層枯渇,短命化,生態系の破壊,環境負荷,人為的自然災害などにふれる

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 環境問題にいささかたりとも関心のある人で,レスター・ブラウンの名前を知らない人はまずいないだろう。オイルショックの翌年の1974年に設立されたワールド・ウォッチ・インスティテュート(WRI)の所長としてブラウンは,『地球白書』をはじめとする数々の刊行物を通じて,地球環境の危機に警鐘を打ち鳴らし,「危機」を回避するために私たちは何をなすべきかについて,その都度,衆目を引きつける有意味な提言を行ってきた。隔月刊のWRI機関誌に発表された9つの論考(WRI研究員のリポート)を,1巻の書物にまとめたのが本書である。レスター・ブラウンの総論(序章)に続いて,HIVとエイズ,地下帯水層の枯渇,短命化の進行,ヒトとモノの海を越えての移動に伴う生態系の破壊,人間の経済活動が環境に与える負荷,遺伝子組換え作物のはらむ危険性,人為的(不自然な)自然災害,風力発電の潜在的可能性,以上8つの各論が並ぶ。
 各章とも簡にして要を得ており,しかも各章が別々の筆者によりつづられているにもかかわらず,問題意識と論の進め方に首尾一貫性が保たれており,あたかも本書が一人の著者によりつづられたものと錯覚するほどに,地球環境問題を一望できたという満ち足りた読後感を味わうことができる。評者のいう,著者たちが共有する「問題意識」とは,概略,次のとおりである。人間活動が環境に及ぼす影響を「予見」することは難しいかもしれないが,社会と環境のかかわりに関して的を射た「予見」なしには,地球環境の持続可能性を確保できない。社会経済活動に従事するものは,みずからの活動がいかなる影響を環境に及ぼすのかを「予見」することを怠ってはならない。
 地球環境を持続させるように経済システムを改編する,すなわち「環境革命」の成就こそが,21世紀の人類に課せられた最大の課題だとブラウンはいう。18世紀末の産業革命以来,「革命」というに足るだけの,人間による人間のための社会変革は何一つとして見当たらない。しかし,産業革命以降の人間の経済活動が「意図せざる」自然環境の破壊をもたらしたこと,そうした破壊が非可逆的であること,そして今ある経済システムを維持し続ける限り,環境の持続可能性は確実にそこなわれ,結果的に,経済システム自体が持続不可能となること。20世紀末になって,私たちはようやく,そのことに気づいたのである。だとすれば,21世紀が始まると同時に,私たちは環境革命の成就へと向けて舵をとらなければなるまい。
 個別の環境問題の分析は,十分とはいわないまでも,枚挙にいとまがないほど多い。しかし,その半面,本書に盛り込まれたWRIの研究成果,すなわち環境と社会のかかわりを全体論的にとらえるという営みは,これまで余りにも少なすぎた。ブラウンの著作が多くの読者を得るのは,社会と環境の相互依存関係の包括的な分析が,他に類例を見ないためだろう。21世紀を見据えて編まれた本書は,環境革命の一翼を担おうとするものにとって必読書の一つといえよう。
(C) ブッククレビュー社 2000

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