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田中 優子さんのレビュー一覧

投稿者:田中 優子

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日本経済新聞2000/5/28朝刊

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 かつて都市や教会建築は書物だった。構造とパーツから物語が読みとれたからだ。本書ではそれとは逆に、『西遊記』という書物が巨大な宇宙建築物であると知った。書物は線的なものだと思っていたが、ここで語られている『西遊記』はまるで構造物である。この内部では自分の位置を常に知ることができ、そこから空間的に移動することができる。さらには今いる位置から全体を眺め渡すことさえできそうだ。これはじつに爽快な気分で、これこそ高度なゲーム感覚と言える。
 たとえば『西遊記』は、五五回を境目に二つ折りにできるほどシンメトリーになっていて、対称的な位置に良く似た物語が設置されているという。シンメトリーなエピソード群はなるほどその位置に配置され不思議な鏡像感覚を覚える。思えば物語とは、「どこかで知っている」という既知なるものと未知なるものとのせめぎ合いのはざまに立ち上がるものだ。私たちは線的に書物を読みながら、頭の隅ですでに読んだものを探しているが、『西遊記』ではもう探すべくもなく、自分のいる場所から対称をなす向こう側の山頂を眺めてみることもできそうだ。
 ちなみにこの五五という数は「天地数」にあたるという。『西遊記』では回の数や困難の数、登場人物の寿命、距離、日数、経典数、重さなどが、一二、三六、八一、さらにはプラトン数一二九六〇〇などによって表され、あらゆる数が意味を担って登場してくる。このことは日本の古典文学でも見られることで、かつて物語は言葉の意味だけでなく、易や陰陽五行などから読み手の身体感覚となった「数」の秩序が大きな役割を果たしたのである。秩序は数だけではない。孫悟空その他の登場人物の着ているものの色からも物語の行方は予測できる。虎や龍やさまざまな動物怪物も単にこけおどしに出てくるわけではなく、宇宙秩序のパーツとして配置されている。このような物語世界の壮大な組みたて工事現場に立ち会った読者は、必ずや自分の建築物を作りたくなるはずだ。
(C) 日本経済新聞社 1997-2000

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