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風野春樹さんのレビュー一覧

投稿者:風野春樹

12 件中 1 件~ 12 件を表示

紙の本遙かなる地平 SFの殿堂 2

2000/10/10 05:52

シリーズを読破してから読めばまた新たな面白さが

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 人気作家のシリーズの外伝を書き下ろしで集めたアンソロジーの2巻目は、ダン・シモンズの〈ハイペリオン〉、フレデリック・ポールの〈ゲイトウエイ〉、ベンフォードの〈銀河の中心〉、マキャフリイの〈歌う船〉、ベアの〈道〉(『永劫』、『久遠』のシリーズ)を収録。こちらは1巻目とは違って未訳のものはなく、日本にもすでに紹介されて人気を博したシリーズばかりである。
 シリーズ読者向けのボーナストラックなので、この本で初めてそのシリーズに触れるという方にはちょっとわかりにくいところのある作品もあるけれど、シリーズを読破してから改めて読めばまた新たな面白さがわかるはず。そんなことしてるヒマはない、などと言わないように。どれをとっても読んで損のない傑作シリーズだということは保証します。

(風野春樹/精神科医 http://member.nifty.ne.jp/windyfield/)

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紙の本傀儡后

2002/04/25 22:15

ドラッグ・パンク・ファッションSF登場!

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 服は人なり。
 衣装とはその人の人格のすべてが表現されているものであり、同時に衣装こそがその人なのである。衣装は人間の能力を引き出し、意識にまで影響を及ぼす……という奇想にもとづいて、華麗な物語を展開したのが、ワイドスクリーン・バロックの代表作といわれるバリントン・ベイリーの『カエアンの聖衣』。
 この奇想の上にさらに何倍もの奇想をまぶし、衣装哲学にドラッグ、フェティシズムに人形愛、それに仮面ライダーの隠し味も加えてぐちゃぐちゃにかき混ぜたドラッグ・パンク・ファッションSF、それがこの『傀儡后』である。

 舞台は隕石の直撃から二十年を経た大阪。落下地点から半径五キロの範囲は特別危険指定地域として立ち入りが禁止されている。特別危険指定地域に足を踏み入れた調査団はすべて消息を絶ち、戻ってきた者はひとりもいないのである。さらに、隕石の落下後より、関西を中心に麗腐病という原因不明の奇病が流行。麗腐病に侵されるとしだいに体はゼリー状になり、特別危険指定地域の中に消え、そして二度と戻らないのだ。そしていつしか特別危険指定地域は、デンジャー、デスなどの意味をこめて、こう呼ばれるようになっていた。——D・ランド。
 ただひとりのD・ランドからの生還者である私立探偵の涼木王児は、見えざる支配者階級の頂点に立つ二人の老人の依頼を受け、危険指定地域内部を探る〈オルガン計画〉を推進していた。そして、麗腐病と関わりのあるドールプリンセス・ミカという人形の製造元を訪れた涼木は、D・ランドを支配する「傀儡后」という存在に出逢う……。

 と、設定とあらすじを紹介してみたものの、実はこの物語にとって、ストーリーはあんまり重要じゃない。
 衣服と人、狂気と正気、人間と人形、女性と男性、内側と外側、モラルとインモラル。すべての境界を侵犯して繰り広げられる、華麗なるイメージの奔流。物語として成立しうる許容量を遥かに超えた大量のアイディアを惜しげもなく投入して描かれる、めくるめく物語。それがこの小説なのだ。
 あまりにも風呂敷を広げすぎて、収束がいささかうまく行っていないきらいがあるのだけれど、そんなことは小さな瑕瑾にすぎない。眩暈。幻惑。陶酔。それ以外の何が必要というのだろう。
 これは、牧野修がベイリーに叩きつけた挑戦状だ。とにかく、怒涛のようなイメージに翻弄され、畸人たちの宴を堪能すべし。 (bk1ブックナビゲーター:風野春樹/精神科医)

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動物小説とハードSFのハイブリッドになるかも

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 ハードSFの雄バクスターがマンモス小説?
 そう聞いて、てっきり最新のバイオテクノロジーでマンモスを現代に甦らせる物語かと思ったら、これが現代まで細々と生き延びたマンモスの群れの冒険物語。しかも、徹底的にマンモスの立場から描かれていて、まるで動物を擬人化したタイプの動物小説のよう。
 似合わないことをするなあ、と思っていたのだが、読んでみれば疑問は解消。確かにこれはバクスター以外には書けない小説である。たとえばマンモスの生態についての詳細な描写はまさに異星人の生態を描くSF作家の筆致だし、マンモスの視点から見た人間の描写も、異星人から見た人間の描写そのもの。しかも最後には、エコロジー派の動物小説作家なら絶対に選ばないような結末をもってきて驚かせてくれる。異星人や宇宙こそ出てこないものの、この作品は確かにハードSFなのである。
 もちろん、動物を主人公にした冒険物語として読んでもおもしろく、ハードSFはちょっと苦手な読者にも安心。マンモスを主人公にすることによって、ハードSF特有のとっつきにくさを解消し、今までのバクスターの作品に比べ、広い読者に受け入れられる作品になっているのだ。
「広い読者に受け入れられる? 今までのバクスターの濃さが好きだったのになあ」とがっかりするファンもいるかもしれないが、そんなハードSFファンも心配は無用。続く第二部では時代を一気に一万八千年もさかのぼり、伝説の英雄ロングタスクの視点からネアンデルタール人とクロマニヨン人の抗争が描かれ、第三部ではなんと火星を舞台に、本書の主人公シルヴァーヘアの娘の活躍が描かれるのだ。
 やっぱりバクスターがただの動物小説を書くわけがなかった。これは、今までにない動物小説とハードSFのハイブリッドになるかもしれない。今後のシリーズ刊行が楽しみである。

(風野春樹/精神科医 http://member.nifty.ne.jp/windyfield/)

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紙の本遙かなる地平 SFの殿堂 1

2000/10/10 05:50

お祭り感覚でとにかく楽しめるアンソロジーだけれども

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 有名作家の人気シリーズの外伝ばかりをすべて書き下ろしで収めた豪華アンソロジーの1巻目。収録作はル・グインの〈ハイニッシュ・ユニバース〉、ジョー・ホールドマンの〈終りなき戦い〉、カードの〈エンダー〉、ブリンの〈知性化宇宙〉、ナンシー・クレスの〈無眠人〉とどれをとっても人気シリーズばかり。御大シルヴァーバーグ編じゃなかったらとても集まらない贅沢なメンバーである。ただし、当のシルヴァーバーグの〈永遠なるローマ〉だけがシリーズとしては今一つマイナーなのはご愛嬌かな。
 お祭り感覚でとにかく楽しめるアンソロジーなのだけど、〈知性化宇宙〉みたいに訳のあるシリーズでも未訳の最新作の続編だったり、〈無眠人〉のようにシリーズ自体が未訳なものもあったりするのが悩ましいところ。早く訳してくれえ、と身悶えしたくなってくるのだけど、なんとかしてくれますよね、ハヤカワさん?

(風野春樹/精神科医 http://member.nifty.ne.jp/windyfield/)

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紙の本今池電波聖ゴミマリア

2002/01/28 18:16

リアルで問題意識に満ちた未来世界

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 少子高齢化が進むとともに国家財政が破綻した近未来の日本。都会はゴミの街と化し、年金制度は崩壊したため、老人はホームレスとなって街にあふれている。少子化を食い止めるために制定された「中絶禁止法」の施行により、ヤミで殺された胎児は悪徳医師に売られ、望まれずに産まれてきた子供たちは虐待されて死んでいく。未来などとうてい信じられない若者たちは金と暴力だけを信じて互いに殺しあう。
 そんな荒廃した世界で、高校生の森本聖畝は、凶暴で単純な白石の子分としてなんとか生き延びていた。娼婦マリアに入れ上げて金が必要になった白石と、学内の抗争に巻き込まれた聖畝は強盗を計画、政府から金と地位を保証されているサイバーディーラーの少女真紀の家に侵入する。強盗は失敗するが、聖畝は真紀の家で一枚のディスクを手に入れる。その中のデータには、この国の秘密が隠されていたのだった。
 ゴミ。老人。犯罪。借金。子供たちのモラルの崩壊。ひどい政治に失業問題。不景気。性的退廃。児童虐待に子殺し。結末近くで登場人物が数え上げるこの世界の問題点は、まさに現代日本が抱えている問題そのものだ。この作品で描かれているのは、この日本の現実の延長上にあるきわめてリアルなディストピアなのである。
 主人公にとって唯一のなぐさめはインターネットの世界にひたること。あまりに殺伐とした、インターネットの世界こそが平和であり安らぎなのだ。「現実の体験」こそが重要だとお題目のように唱える人々へのみごとな皮肉になっている。
 この作品は映画『バトル・ロワイヤル』に触発されて書かれたそうだ。『バトル・ロワイヤル』の中で、教師キタノは「この国はすっかりダメになってしまいました」と言っていたものだけれど、この作品ではその「ダメになった日本」の姿が事細かに描かれている。まるで『バトル・ロワイヤル』のメッセージを理解できなかった大人たちに対して、噛んで含めるように説明しているかのように。
 強烈な世界像に比べてストーリーが弱いのが少し物足りないけれど、リアルで問題意識に満ちた未来世界の描写は衝撃的。『エリ・エリ』とはだいぶタイプが違うけれど、これもまた、小松左京賞にふさわしい作品である。(bk1ブックナビゲーター:風野春樹/精神科医)

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紙の本わたしは虚夢を月に聴く

2001/08/29 00:29

リアルであるとともにヴァーチャルな世界

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 なんとなく続く日常。繰り返す退屈な毎日。しかしそれは、遠い未来、月の地下で眠りつづける人類にサイブレータが見せている夢だった。人類は、〈虚空牙〉と呼ばれる謎の存在によって絶滅の危機にさらされているのだった。
 それって『マトリックス』じゃん、と一言で片付けられてしまいそうな設定なのだけれど、上遠野浩平が優れているのは、『マトリックス』風の設定を、思春期の漠然とした不安だとか、日常への違和感とかいったものと結びつけたところにある。
 リアルとヴァーチャル。10代が事件を起こすたび、「現実と仮想世界の区別がつかなくなっている」と評論家は決まり文句のように口にする。でも、リアルとヴァーチャルの区別なんて、そんなに簡単につくんだろうか。この世界はなんだか自分の外側を流れているように思えることもあるし、ネット空間やゲームの中の世界こそがとてもリアルに感じることもある。
 『マトリックス』は結局のところ、リアルと思っている現実は実はヴァーチャルであって、「本当のリアル」は別にあったのだ、という話にすぎない。凡庸な評論家と同じで、リアルとヴァーチャルの区別自体はしっかりつくと思っているのだ。「もやもやとした現実への違和感」は無視されてしまっている。
 上遠野浩平は違う。繰り返される退屈な日常。そして人類が危機に瀕している月の世界。どちらの世界もリアルであるとともにヴァーチャルで、そして「現実」そのものには永遠にたどりつけない。
 ぼくらには世界なんてとても把握できないけれど。「他者」を理解できるなんて幻想だけれど。この世界はもしかしたらニセモノかもしれないけれど。それでも生きていくことの根拠を、生きていかなければならない哀しみを、上遠野浩平は描く。それはぼくらにとって、「現実と仮想世界の区別」なんていう寝言よりも、ずっと切実な問題だ。
 上遠野浩平の描く世界は、まぎれもなくリアルだ。

(風野春樹/精神科医 http://member.nifty.ne.jp/windyfield/)

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紙の本スーパートイズ

2001/05/14 19:13

思弁性に満ちた作風の到達点

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 『地球の長い午後』で知られるイギリスの巨匠ブライアン・W・オールディスの短編集である。調べてみたら、日本でオールディスの本が出るのは『一兆年の宴』以来9年ぶり。短編集が出るのはなんと『爆発星雲の伝説』以来28年ぶりのことだった。
 もちろん、これは表題作である短編「スーパートイズ」がスピルバーグ監督で『A.I.』として映画化されたから。この『A.I.』、もともとは故スタンリー・キューブリックが永年の間あたためていた企画であることはよく知られたとおりだ(オールディスは、本書のあとがきで「キューブリックとスピルバーグに原作を売った唯一の人物になった」と自慢している)。
 さて、「スーパートイズ」は、産児制限が行われている未来社会で、子供のない夫婦が購入した子供型アンドロイドの物語。もとになっているのは1969年に書かれた短編だが、キューブリックの没後に続編2編が書き足されて連作になっている。心を打つ物語ではあるが、抑えた筆致で淡々と進む作品である。オールディスという作家を知らず、単にスピルバーグの大作映画の原作だと思って本書を手にとった読者は戸惑うんじゃないだろうか。
 そして、たぶん先に読み進んでいった読者はさらに面食らうだろう。映画と関係があるのは冒頭の3編だけなのだ。しかも、残りの作品にはエンタテインメント性はあまりなく、難解で思弁的な作品ばかりとくる。
 しかし、もちろんかつてのオールディスの読者にとっては、本書はオールディスの近作がまとめて読める思いがけないプレゼントになることだろう。「遠地点、ふたたび」は『地球の長い午後』を思わせる魅惑的な異世界の物語だし、「数学上の問題」や「草原の馬」は、内宇宙と外宇宙が交錯するいかにもオールディスらしい作品。「牛肉」や「認識能力と電球」など小説というより断章と言った方がいいほど短い作品もいくつか。
 ニューウェーブから30年。思弁性に満ちた作風はますます渋みを増し、円熟の境地に達したオールディス。これは、そんなオールディスの到達地点を一望できる短編集である。

(風野春樹/精神科医 http://member.nifty.ne.jp/windyfield/)

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紙の本横田順弥のハチャハチャ青春記

2001/04/10 05:41

SFも、SFファンもまた若かった60年代の熱気

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 「一の日会」を知っているだろうか?
 「一」のつく日に渋谷の喫茶店に集まっていたから「一の日会」。マンガ界の「トキワ荘」ほど有名ではないけれど、1960年代の日本SF草創期に活動し、多くの作家を輩出したSFファンの伝説的な集まりである。
 この本の絶妙な例え話によれば、
「星新一、矢野徹、筒井康隆さんらが、やってきて馬鹿話の根を植付けた。それを引き継いで伊藤(典夫)さん、豊田有恒さん、高斎正さん、平井(和正)さんたちが馬鹿話の木に水をやり肥料をやって育てた。やがて平井さん、伊藤さん以外の有名人は〔一の日会〕畑から去っていったが、そこにぼく(横田順彌)や、鏡明や、谷口高夫や、亀和田武や、川又千秋やらが、肥たごをかついで現れ、馬鹿の木の育成に精を出して、みごとに花を咲かせたという。むろん指揮をしたのは伊藤さんだ」
 ということになる。今から見ればいずれ劣らぬ錚々たるメンバーではないですか。
 この本は、「一の日会」メンバーのひとりだったヨコジュンこと横田順彌が、当時のSFファン活動と、法政大学落研時代の日々を書き綴った青春記。今まで、「一の日会」の時代の物語は断片的には語られていたけれど、まとまった形で本になったのは意外にもこれが初めてではないだろうか。落研部員たちのむちゃくちゃな行状、鏡明や堀晃といった仲間たちとの交流、小松左京や平井和正といった先輩作家との出会いなどが克明に描かれていて、実に楽しいかぎり。そうそう、こういう本が読みたかったのだ。
 SFが若く、SFファンもまた若かった60年代。熱気に満ちたかつてのSFファンダムの様子を思い返しながら、今のSFを考え直してみるのもいいかもしれない。

(風野春樹/精神科医 http://member.nifty.ne.jp/windyfield/)

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ジュヴナイルSFの「今」

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 21世紀のジュヴナイルSFがここにある(ちょっと大げさかな)。
 今でこそ同世代の作家が同世代向けに書くヤングアダルト小説にとってかわられてしまったが、かつてはほとんどのSF作家が少年向けのジュヴナイルSFを書いていたものである。もともと少年を描くのはSFの十八番だったのだ。
 「ハイブリッド・エンタテインメント・アンソロジー」と銘打たれてはいるものの、本書は実質的にはSFアンソロジーと考えていいだろう。SFへの指向は、執筆者の選択や、本書と続巻『少女の空間』のタイトルが、往年の名SFアンソロジー『時間と空間の冒険』(ハヤカワSFシリーズ、当然絶版)から取られた、というところからも明らかだし、実際、収録されている作品は、西澤保彦の一篇を除いてすべてSFである。ベテランから新鋭まで多彩な作家が「少年」をテーマに競作した本書は、21世紀流のジュヴナイルの形を提示したユニークなアンソロジーといえるだろう。
 まず、上遠野浩平の「鉄仮面をめぐる論議」は、「虚空牙」シリーズに属する一篇で、『ぼくらは虚空に夜を視る』と『冥王と獣のダンス』をつなぐ物語。菅浩江「夜を駆けるドギー」は、ネット用語や引きこもり、ペットロボットと、現代的な道具立てを使ってはいるが、少年の成長を描いて普遍的な感動を呼ぶ作品。平山夢明「テロルの創世」は、意外にも、本書の中でもっともストレートで力強い往年のジュヴナイルSFへのオマージュ。まさか猟奇ホラーで知られる平山夢明がこんな瑞々しい作品を書くとは、うれしい驚きである。杉本蓮「蓼喰う虫」は幻想的な「永遠の少年」ものだけど、やや荒削りで雑然としているのが欠点。西澤保彦「ぼくが彼女にしたこと」は、この本唯一のミステリだけど、この作者にしては水準作といえよう。山田正紀「ゼリービーンズの日々」はいかにもこの作者らしく想像力を爆発させた作品だが、設定に凝るあまり少年の内面にまで踏み込めていないのが残念。
 作品にはややばらつきがあるものの、続巻の『少女の空間』ともども、ジュヴナイルSFの「今」が知りたい人は必読のアンソロジーである。

(風野春樹/精神科医 http://member.nifty.ne.jp/windyfield/)

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紙の本Domesday

2000/12/14 04:51

SFへの批評でもある、ノンストップホラーSFの佳作

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 第一回小松左京賞佳作受賞作品。
 タイトルは"DOOMSDAY"のスペルミスではない。題名通り、これは「ドームの日」の物語なのだ。
 まず、設定がすごい。ある日、東京に突如巨大なドームが出現。高層マンションを含む直径376メートルの範囲が外界から隔離されてしまう。ドーム内には「天使」と呼ばれる無数の球体が出現して人間を連れ去っていく。天使に連れ去られた人間はドームに飲み込まれ、はじめは白かったドームは、瞬く間に肉色のドームと化す。ドーム内に残った生存者は100人余り。しかも、「天使」はそれ以上の人口減少を許さないようで、自殺者は無理矢理ゾンビとして復活させられ、生存者たちに襲いかかるのである。
 というわけで、全編に渡ってロメロばりのスプラッタシーンが展開するホラーSFなのだが、それだけではなく、物語全体がSFというジャンルへの批評になっているところがミソ。事態についていかにもSF的な解釈を披露するSF作家は徹底的に戯画化されているし、結局のところ事態を収拾する役には立たない。価値観の相対化といえばSFのお家芸だが、この作品では相対化がSFの価値観そのものにさえ及んでいるのだ。中には、SFファンにはちょっと耳が痛い場面もあったりするのだけど。
 もちろん、そんなことを考えず、ノンストップホラーSFとして読んでも充分楽しめる一冊。まだまだ荒削りなところはあるが、今後とも期待を持てそうな作家である。

(風野春樹/精神科医 http://member.nifty.ne.jp/windyfield/)

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紙の本ラクトバチルス・メデューサ

2000/11/12 01:23

直球真っ向勝負の本格医学パニックSFの傑作

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 「ラクトバチルス」とは乳酸菌。「メデューサ」は人を石にする怪物。つまり、これは乳酸菌が人体を石化させて死に至らしめるという話なのである。
 そんなバカなことがあるのか、と思わずにはいられないのだが、作者は現役開業医、リアルな医学的ディテールを積み重ねて、読者にこの大ボラを信じさせてしまう。もちろん、医師、保健婦、看護婦など、地域医療にたずさわる人々の活動描写も的確でリアリティにあふれているし、遺伝子組み替えという現代的なテーマを扱っていて、情報小説としても優秀。
 確かに処女作だけに、文章の硬さが目立つところも多いし、医療問題に対する作者の主張が生のままぶつけられていて、小説の流れを阻害しているところも多い。でも、一方で、言いたいことをすべてぶち込んだような過剰さには、処女作ならではの荒削りな魅力がある。
 SFフェアの多数の文庫の中の一点としていささか地味に刊行されてしまった作品だが、久々に登場した直球真っ向勝負の本格医学パニックSFの傑作である。読みのがしのないように。

(風野春樹/精神科医 http://member.nifty.ne.jp/windyfield/)

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紙の本パヴァーヌ

2000/09/13 16:55

歴史改変SF幻の傑作、今ここに復刊

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SFファンの間で名のみ高かった歴史改変SF幻の傑作、今ここに復刊!
 エリザベス女王が暗殺されて400年、ヨーロッパではカトリック教会が大きな権力を持ち、科学の発達は厳しく抑圧されていた。舞台は、蒸気機関車が轟音を上げて道路を走り、腕木式の信号塔による通信網が国家全土に引かれたもうひとつの20世紀イギリス。見たこともないけれどどこか懐かしい世界を背景に、市井に生きる人々の日常が情感豊かに描かれていく。
 静かに語られ始めた物語は、やがて大きなうねりとなって世界の変化を呼び起こすことになるのだが、壮大な物語を描いていながら、作者の筆はあくまで抑制が効いていて最後まで穏やか。そのあたりがまさにイギリス流。
 SFファンのみならず、ふだんSFをあまり読まない人にこそ読んでほしい、滋味あふれる逸品である。

(風野春樹/精神科医 http://member.nifty.ne.jp/windyfield/)

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