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  3. 西川大亮さんのレビュー一覧

西川大亮さんのレビュー一覧

投稿者:西川大亮

19 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本出アフリカ記人類の起源

2001/05/23 16:08

古人類学の多くの研究を紹介している良書

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 アウト・オブ・アフリカ説——人類はアフリカで生まれ、その後放散した——を唱える科学者と、ジャーナリストが、歴史以前の人類に光をあてる。本書は、ホミニド(ホモ属)の化石や遺跡から、人類と他のホミニド(特にネアンデルタール人)との違いを浮き彫りにし、分子生物学の知見から人類の誕生を探った一冊だ。

 人類とネアンデルタール人は、ある時期共存していた。使っていた石器も、似たようなものだった。人類よりも発達した筋肉を持っていたにもかかわらず、ネアンデルタール人が滅亡した理由として、彼らの季節遊動性、社会的交流の乏しさが、気候変動に耐えられなかった点を本書は指摘する。地域コミュニティ間に繋がりが持てたことが、運命を分けたのだ。

 ヒトのDNAは極端に均質だ。同じ森に住むゴリラ同士より、イヌイットとアボリジニの方が遺伝的に似通っている。均質の度合いは、10万年前頃、人類の祖先が成人1万人程度にまで激減したことを示している。その後、人類は世界中に適応放散を遂げる。極端な抑圧が、我々を生み出したのだろうか? 絶滅を免れるため獲得した能力は何か?…興味は尽きない。

 原著が1996年とやや古く、出版当時、根強く残っていた多地域進化説——人類は各地域で先行するホミニドから生まれた——は、現在までのDNA研究によって精彩を失いつつある。だが、本書が多地域進化説を対立軸として置くことで、文章が明確でわかりやすくなっていることも事実である。また解説で訳者が最近の古人類学の情報を提供しており、古さは感じない。

 古人類学の多くの研究を紹介しており、訳も読みやすい。手元におきたい良書だ。

(西川大亮/北海道大学大学院 工学研究科 博士課程)

<目次>
  謝辞
  まえがき
1 キビシュの謎——クリス・ストリンガーによる個人史をまじえたまえがき 1
2 イーストサイド物語 23
3 ぞっとさせられるような連中 71
4 時と機会 111
5 全人類の母? 151
6 時の砂に残された足跡 197
7 肌の下はアフリカ人 237
8 呪術師 257
9 解き放たれたプロメテウス 297
  注
  解説
  索引
(原題)
AFRICAN EXODUS: The Origins of Modern Humanity

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インチキ科学を見抜け!

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

池内了さんも言及しているように、邦題に難あり。本書が扱うのは、インチキ科学を使った騙しのテクニックであって、「科学を使った」ではない。科学は私たちを騙さない。もっとも、著者のつけた原題——Voodoo Science も、ブードゥー教に対してかなり失礼ではある。

 とはいえ本書は、インチキ科学に乗ずる人々の滑稽さが浮き出ていて、非常に面白い。行間から著者の優れた知性と観察眼、徹底したスタンスが感じ取れる。インチキを暴く文章には、読んでいて爽快感がある。

 インチキ科学を見破るのは、難しいようでいて簡単だ。E・O・ウィルソンの著作から、著者は科学とインチキ科学の分岐点を挙げている(p86):

 A.実験を再現し、検証することができるか?
 B.それによって、以前より万物の予測が立つようになるか?

A、BどちらかでもNOなら、それはインチキ科学だ。さらに、インチキ科学者を見分けるコツとして次の二点を挙げている:

 C.自分の新しい考えや実験結果を、全て公開し、他の科学者に自由に実験を再現させているか?
 D.自分の考えや実験結果より完璧な、あるいはより信頼がおけるものが他にあれば、自説と照らしあわせ、いさぎよく自説を放棄したり、修正しているか?

やはり、どちらかでもNOなら、その人は「科学者」から「詐欺師」に成り下がっている。

 「常温核融合」「ニセ薬」「電磁波の健康被害」「永久機関」「超能力」…本書で取り上げるインチキ科学は全て、上記条件のいずれかを破っている。また、権威を信用するのは危険だ。引っ込みがつかなくなった科学者は簡単に道を踏み外す。政治家も騙される。弁護士は承知の上で陪審員を騙す。マスメディアは検証する気がない。結局、科学を装ったインチキを見抜くため、人は常に自分で考え、判断しなくてはならない。

 そして、自己で判断する誠実な人間を、科学は認めてくれる。9歳のエミリーは、二重盲検法を使ってタッチセラピーの嘘をあばき、一流医学誌に論文を掲載された最年少科学者となる(pp.373−375)。肩書きは関係ないのだ。

 政策決定から健康食品まで、インチキ科学が社会の様々な場面に顔を出すことを、本書は教えてくれる。騙されないためにも、インチキ科学の実態を知ろう。なにより本書は面白い。オススメだ。

(西川大亮/北海道大学大学院 工学研究科 博士課程)

目次
第 1章 ニュースなんかじゃない、ただのエンターテインメントさ——問われるメディアの責任——
第 2章 信じたがる脳——科学こそ真実を選び出す戦略——
第 3章 ニセ薬に副作用あり!——「ナチュラル」 な薬に救いを求める人々——
第 4章 「宇宙開発」 の実体——人造の世界を夢見る人々——
第 5章 ブードゥ・サイエンス、議会に登場——科学に無恥な政治家たち——
第 6章 「永久機関」 は実現可能か?——無限のエネルギーを夢見る人々——
第 7章 恐怖の電流——電磁場が白血病の原因というデマ——
第 8章 審判の日——集団訴訟で企業を襲う 「ジャンク科学」——
第 9章 UFO、エイリアン、スターウォーズ計画——当局の秘密主義も悪因——
第10章 「まかふしぎな宇宙」 を利用しろ——ニセ科学としてよみがえる古代迷信——

(原題)
VOODOO SCIENCE: The Road from Foolishness to Fraud

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社会科学者達のサイバネティクス

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 第2次世界大戦直後(1946〜53)に開催された「生物学と社会科学におけるフィードバック機構と循環的因果律に関する会議」。本書は、会議参加者たちの受けた影響を考察した歴史書である。参加者——著者は「サイバネティクス学者」と名づけた——の中には、『サイバネティクス』の著者ノーバート・ウィーナーやジョン・フォン・ノイマンもいた。だが本書が注目するのは彼ら数学者ではなく、心理学・人類学といった社会科学者達だ。
 サイバネティクス——通信と制御に関する理論——は、それまでの原因−結果という一方的な因果律ではなく、要素間の相互作用によって全体の挙動が決定されるというモデルを提案した。出発点は工学と数学であったが、世の中の多くの事象がこのモデルにあてはまる。会議では脳内の神経回路やパーソナリティと文化の関係、社会学における機能分析などが議論され、その研究と発表者に大きな影響を与えた。
 とはいえ、参加者全ての学問領域を、会議が受け入れたわけではない。精神分析学は徹底的に批判され、当時の合衆国の共産主義に対する敵愾心を反映してか、マルクス主義における循環論的思想については言及すらされていなかった。学問世界が社会から受ける影響が垣間見える。
 本書は歴史書だから、全体を通した結論を求めてはいけないのだろう。読み慣れていないせいか、評者はやや戸惑ってしまった。学際的な会議の面白さと難しさを、本書から感じ取って頂きたい。

(西川大亮/北海道大学大学院 工学研究科 博士課程)

<目次>
はじめに
第 一 章 アメリカ合衆国、二十世紀なかば
第 二 章 一九四六年三月八〜九日
第 三 章 「精神の具体化」を論述する——マカラックと仲間達
第 四 章 レインダンサー、スカウト、トーキング・チーフ
第 五 章 明快にする論理、あいまいにする論理
第 六 章 錯乱した精神、芸術家、精神科医の諸問題
第 七 章 メイシー財団と世界的な精神保健
第 八 章 ラザーズフェルト、レヴィン、そして政治の状況
第 九 章 ゲシュタルトからビットへ(その1)——レヴィンからバーヴェラスまで
第 十 章 ゲシュタルトからビットへ(その2)——ケーラーの来訪
第十一章 メタファーと統合
第十二章 当時と今
解 説(橋本毅彦)
付録・サイバネティクス・グループの仲間たち
索引・註

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紙の本私のエネルギー論

2001/01/20 23:44

国内のエネルギー問題を俯瞰するには,良い手引き書

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 「エネルギーの無駄」が許せず、太陽光発電や太陽熱温水、雨水をも利用する“ナチュラルハウス”を建ててしまった(『わが家の新築奮闘記』)著者による、個人からの省エネルギー論。物理学者であり省エネの実践者である著者の文章は、読みやすく話題が豊富でわかりやすい。
 原子力発電は、出力調整が難しく、多くの作業員を被爆させ、二酸化炭素の代わりに長期間分解されない放射性廃棄物を生み出す。決して“クリーン”でもなければ効率的でもない、と指摘する。
 だが、太陽光に代表される自然エネルギーへの変更は、なかなか難しい。もともと自然エネルギーは密度が低いため、大量供給が困難であるからだ。装置を小型・分散・多様化し、地域や個人レベルでシステムを維持管理しなくてはならず、さらに、エネルギーの無駄遣いを減らす必要がある。著者は“個人個人のエネルギー問題への姿勢こそが、未来を考える鍵なのである”とまとめている。
 エネルギーや環境問題といった、世界規模で議論し取り組むべき課題を、個人レベルの思想の転換で解決しようとする発想は、評者には正直理解できない。社会制度を変えることで、認識が変化するのではなかろうか。
 とはいえ、産業界を除く国内のエネルギー問題を俯瞰するには,良い手引き書である。本書によれば、現状の生活レベルを維持したままでも、創意工夫によってかなりの省エネが実現できるのだ。読者の中から、新たな省エネの実践者がきっと生まれるだろう。

(西川大亮/北海道大学大学院 工学研究科 博士課程)

<目次>
第一章 はじめに——私の時代観察——
第二章 「寒暑涼暖」を楽しむに——新築した我が家の場合——
第三章 原子力発電って? ——しくみと問題点——
第四章 自然エネルギーの今——太陽と地球の恵み——
第五章 新しいエネルギー源はあるの? ——水素を燃やす——
第六章 エネルギーの有効利用——「ゴミ」を見直す——
第七章 おわりに——もっと簡素がいい!——

あとがき
参考にした本

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紙の本大井川に橋がなかった理由

2002/02/04 18:15

川越しは巨大な公営企業だった…通説を論破し当時の情景を描く

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 静岡県中部を流れる大井川。「江戸時代、軍事的要害となる川には橋を架けさせなかった」と小中学校で教わり、漠然と封建社会の問題点と信じていたが、本書は通説に異を唱える。“橋”よりむしろ、川越しの実際をさまざまな資料・側面から明らかにした良書だ。

 大井川は季節・天候による流量の変化が大きく、年間の大半は徒歩で渡れるが、川筋が変化しやすく、危険も多い。河床が砂礫層なので当時の技術では杭を深く打ち込むことも難しく、そもそも架橋が困難で非現実的だったのだ。そこに交通量の増加と幕府の街道整備政策が重なって、川渡しの専門の公営企業——川会所が生まれた。

 産業が皆無のこの地域において(茶栽培の発展は失職した川越し人足の開拓による明治以降)、「川越し」は一大産業となり人々の生活を支えた。特に大井川は、参勤交代時に多くの大名が通過するためその収入は莫大。年間収入が八千両を超える(p.106)当時としては破格の巨大企業にまで成長した。

 一方、国家公認の独占企業が生まれてしまうと、それを廃止・改善させるのは至難。渇水時であっても旅人が一人で渡ることを禁じ、仮橋の架橋すらも認めなかった。その際の川会所側の主張——「東照宮(家康)の御意向」——が一人歩きして要害説を生み出したのでは、と評者は勘繰ってしまう。

 だが徒渉し制度は幕藩体制に完全に依存したものであったため、幕府の求心力の低下により制度は揺らぎ、大政奉還後、瞬く間に崩壊した。組織を時代に合わせることの難しさは、いつの時代も変わらない。

 評者はこの川会所があった島田の出身である。子供時代に焼き付けられた大井川のイメージは、石の多い荒涼とした河原だ。水がないのはダムのせいだと信じていたが、本書によると一二七九年の『十六夜日記』に類似の描写がある。遠い昔の人たちが自分と同じ風景を見ていた場面を想像すると、少しだけ懐かしい気持ちになった。

(西川大亮/北海道大学 大学院工学研究科 PD)

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イアンの強さを、見習いたい

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 読みながら泣いてしまった。評者の涙もろさが原因だが、イアンの健気さや強さ、「いつも不幸でいることはできない」というメッセージは、誰の胸にもきっと届く。

 本書は、1歳半で自閉症になったイアンとその家族の成長の記録であると同時に、脳における言語と発話と意識の関係について考察した、優れた一般科学書でもある。多くの人に薦めたい良書だ。

 未だに誤解があるので確認するが、自閉症は現在、脳における遺伝および外因性の器質障害と考えられており、心理的トラウマなどでは決してない。イアンが自閉症になったのは、医薬メーカーが三種混合ワクチンにおいて「絶対的に禁忌」としているアレルギー性過敏症だったからだ。また現在では(原著の出版は1994年)、ワクチン内に含まれる防腐剤(チメロサール)が原因として疑われている。

 自閉症が原因で、イアンは「かたこと」以上の発話ができない。だから家族はイアンの感情・思いを、行動から推し量っていた。だがそれは間違っていたことを、タイピングを覚えたイアンによって、家族(と読者)は知る:

 今日、イアンはクローディアに(コンピュータを通じて)、学校へ行けるように助けて、何か気持ちを落ち着かせるものを与えて学校に行けるようにして、と懇願した。しかもそのあいだじゅう、足をバタバタさせて、「おうち、いる! びょうき! おうち、いる!」と叫んでいたのだ。(pp.237—238)

 イアンが言う(タイプする)には、「自閉症とは悪夢を見ているようなもの」なのだそうだ。慣れきった環境を好み、無意識に無意味な行動を繰り返すのは、絶えず苛まれる不安から逃れるための本能なのだろうか。

 今のところ、自閉症に特効薬はない。イアンと家族はこの病と一生付き合わなくてはならない。だがイアンはくよくよしない。自分が多くの人間に支えられていることを知っているからだ。その強さを、見習いたい。

(西川大亮/北海道大学大学院 工学研究科 博士後期課程2001.12.11)

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男たちのED事情

2001/11/12 22:16

読みやすいルポルタージュでわかる「心因性EDは誰にでも起こりうる」という事実

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 bk1の内容説明は「40〜50代の男性のうち…」で始まる。いかにもED(勃起不全)が中年期以降の病であるように感じられるが、そうではない。本書で取り上げている心因性のEDは、10代にその原因が求められ、20代に発症している例が大半なのだ。仕事や人間関係のストレスによるEDは、それがなくなれば回復しやすい。だがトラウマによるEDは、決して容易ではない。

 本書は二部からなる心因性EDのルポルタージュだ。第一部ではEDになった人たちへのインタビューと解説を、第二部ではED治療の現状を綴っている。他者の性の深い霧を冷静に覗く機会はあまりない。一般科学書ではないが評者は楽しく読めた。

 第一部で語られる6つの症例はどれも興味深い(恋人の強姦体験を聞かされるうちにEDになった話を深く掘り下げていないのは残念)。ケース5など、なぜ授乳シーンで興奮できるのか評者には全く理解できない。だがそのわからなさも含めてとても面白い。原因も本人の性格や、精神バランスの崩れ、マザーコンプレックス、性の希薄化などさまざまだ。男性も傷つきやすく脆い存在なのだと実感できる。

 第二部は著者によるED治療体験記から始まり、現在の治療体制について簡単に概説。日本はとても遅れている。大学病院での予約は1〜3ヶ月待ち、保険は使えず自己負担、極端に少ない専門医…。バイアグラの個人輸入に手を出す気持ちも理解できるが(心因性のEDにも有効)、模造品も多くあまり勧められないそうだ。正に八方塞がり、どうにかならんのか。

 『悩み多きペニスの生涯と仕事』を読んだときにも感じたが、性の問題を解決するためには、パートナーの理解と協力が必須だ。性がコミュニケーションの一形態である以上、当然といえば当然だが、悩んでいる当人たちはあまり意識していないように感じる。性教育の問題なのかもしれない。(西川大亮/北海道大学大学院工学研究科博士後期課程)

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“母子の良好な相互作用”の一助に

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 読後の第一印象は「タイトルと内容にズレがあるなぁ」であった。ヒトの意識が「いつ」生まれるか、何をもって意識と名づけるべきか、そこに議論が集中していることを評者は期待していた。

 本書のスタンスは胎児・新生児心理学の紹介であり、それを取り巻く大人、特に未熟児(早期産児)を持つ親の心理的問題や子育て・親育ての重要性にまで話が広がる。新生児の応答性や選択性、母や周囲との相互作用…本書が扱う「意識」も、この文脈から語られている。

 例えば、胎児は音に反応し、「音の記憶」を持って生まれてくる。子宮内音を聞かせると、新生児が安静状態になるのは、古くから指摘されている。さらに、母親と他の女性、母国語とそれ以外の言語の区別もつき、慣れ親しんだ環境を好むようだ。逆に音環境が大きく変化すれば、胎児は驚き、時に暴れる。胎児の働きかけに対して、妊婦が胎児に声をかるなどの応答をする、そこに「ヒトの意識の芽生え」を、筆者は感じている。

 意識の議論をするために、研究事例を集めたのではなく、胎児・新生児心理学の事例を集めた結果、胎児の意識の存在を主張しているように読めてしまう。評者がタイトルとの違和感を感じた理由だ。

 とはいえ、評者のような、意識が発達のある段階で生まれると漠然と考え、出産を経験することも決してない人間にとっては、とても勉強になり、かつ面白く読めた。著者は「出生前の母親における胎児への意識の高まりは、出生後にもつながる母子の良好な相互作用を生むはず(P195)」と考える。本書もまた、“母子の良好な相互作用”の一助となるであろう。そういう視点で読むべき本なのだ。

(西川大亮/北海道大学大学院 工学研究科 博士課程)

目次
第一章 胎児の心理学
 1 胎児をとらえなおす 14
 2 通過点としての「誕生」 20
 3 行動主義心理学から認知心理学へ 25
 4 「相互作用」という視点 36

第二章 胎内という世界
 1 胎児が急速に発達するとき 42
 2 「感覚」がヒトの意識を生む 52
 3 胎児の視覚能力 56
 4 胎児の聴覚能力 61

第三章 認知能力を検証する
 1 初期視覚能力を探る 76
 2 新生児の「選択的嗜好性」 83
 3 新生児の学習メカニズム 96

第四章 早期産児研究は何を語るか
 1 早期産児の睡眠リズム 108
 2 新生児のまばたき、胎児のまばたき 119
 3 擬似的体内環境が与えられたとき 124
 4 「模倣」はなぜ行われるか 129

第五章 親と子の交流
 1 育児日誌を読み解く 142
 2 父親の育児意識 150
 3 変容する育児意識 155

第六章 人間の意識の誕生
 1 胎児というヒト 162
 2 親子交流がもたらすこと 170
 3 「応答性」からみた意識 178

エピローグ 「交流」と現代 187
参考文献 197
あとがき 203

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従来のパラダイムに固執する人間の悲哀

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 6500万年前、それまで繁栄を極めた恐竜が、突如絶滅した。原因は、ユカタン半島に衝突した直径10Kmの隕石が引き起こした大爆発と、その後に続いた大規模な環境破壊である——今ではおなじみになった隕石衝突説、本書はこの提唱から、定説に至るまでの流れを綴ったドキュメントだ。当初、隕石衝突説は当時の地質学におけるパラダイム(斉一説)に反していたため、地質学者からの猛攻撃を受けた。一つの革命的学説が認められるまでの生々しいプロセスを、読者は追体験できる。

 きっかけは、白亜紀と第三紀(6500万年〜)の間に、高濃度のイリジウムを含んだ薄い層が、離れた2ヶ所で観測されたことだった。提唱者であるアルヴァレス親子は、このイリジウムが隕石起源であり、「衝突の冬」が恐竜の大絶滅を招いた、と主張したのだ。

 反対する地質学者達の攻撃は執拗だった。まずこのイリジウムが隕石起源であることを認めず、ついで発見された直径250kmのクレータの信憑性を疑い、さらには化石の出現頻度から、恐竜は徐々に滅亡した、とまで主張した。どうあっても認めたくない、という熱意(?)が、行間から伝わってくる。

 賛成派はこれらの疑問や反論に対して、一つ一つ証拠を集め丁寧に反論していく。反対派の主張には、明らかな言いがかりや我田引水があるので、よい意味で、勧善懲悪の物語を読んでいるような気にもさせられる。

 部外者の目から見ると、隕石による恐竜の絶滅が、どうしてこれほどまでに非難を浴びるのかよくわからないが、そこが「常識」の怖さ、なのだろう。提唱者の一人が古生物・地質学者ではなく、物理学者であったことも(そして彼の人柄も)影響していたかもしれない。

 反対派の滑稽なまでの反駁は、従来のパラダイムに固執する人間の悲哀を感じる。評者は素直に笑えなかった。明日は我が身、かもしれないからだ。

(西川大亮/北海道大学大学院 工学研究科 博士課程)

目次
まえがき 8
プロローグ 最大のミステリー 12
I 青天の霹靂
 1 アルヴァレスの発見 28
 2 過去は現在への鍵である 59
 3 空から降る石 80

II K−T衝突はあったか?
 4 裁かれる学説 110
 5 反撃 130
 6 火山 159
 7 クレーターを捕まえる 176

III 衝突がK−T大量絶滅の原因か?
 8 化石記録からの手がかり 220
 9「めそめそとか、パーンとか?」 245
 10 恐竜の死 270

IV 地質学の変容
 11 全ての大絶滅は衝突が原因か? 306
 12 絶滅とクレーター形成は周期的か? 330
 13 地質学の黄金時代 349

訳者あとがき 367
参考文献 vii
索引 i

(原題)
Night Comes to the Cretaceous: Dinosaur Extinction and the Transformation of Modern Geology

<関連書籍>
『絶滅のクレーター』(ウォルター・アルヴァレズ/新評論)
『再現!巨大隕石衝突 6500万年前の謎を解く』(松井孝典/岩波書店)
『小惑星衝突』(日本スペースガード協会/ニュートンプレス)

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高次認知と外部世界との関係

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 『認知科学の新展開』4分冊の第2巻。本書ではいわゆる言語や思考といった、高次の認知機構を取り扱う。現在の認知心理学は、高次認知と外部世界との関係を強調し始めている。本書もその流れを汲み、コミュニケーションの視座から認知機構を論じている。第1巻も面白かったが、本書もやはり、面白い。

 これまでの認知心理学では、高次の認知は内的に完結したプロセスと位置づけていた。だがヒトは、例えば視覚認知では、あまり複雑な内部モデルを持てないことが明らかとなりつつある(第1章)。どうやら私たちは、外部の豊富な情報と単純な内部モデルをうまく組み合わせる事で、一貫した認識を獲得しているに過ぎないらしい。

 そしてパズルを解くといった非常に内的な思考においても、ヒトは外界情報の影響を強く受けている。例えば逆ハノイの塔を、外部世界の物理法則に直感的に従う/従わない問題として解かせた場合、その本質的意味が同じであるにもかかわらず、前者のようなルールを外的に表現した条件で、解答時間が短い。図形パズルでは、ヒトは間違いを認識しながらも、ピースを基準線に平行・垂直になるように置きたがる(第6章)。ヒトにおける問題解決の思考プロセスは、外部世界の常識で枠をはめる事で、無駄な探索を避けているように見える。

 また、ヒト固有の能力とかつて見なされたシンボル操作は、近接種にも萌芽的に存在することが明らかとなってきた(第3章)。霊長類・類人猿が必要とした社会的知性こそが、シンボル操作の能力を生み出したのでは、と想像したくなる。

 本書は研究事例が豊富に記載されているので、評者のような門外漢でも興味を持って読み進むことができた。多くの領域を俯瞰しているという点からも、初学者が持つべき良書である。

(西川大亮/北海道大学大学院 工学研究科 博士課程)

目 次
コミュニケーションと思考への招待 v
1 環境と認知システムの変化
1.1 運動による認知システムの変化
1.2 視覚認知における外部情報と内部情報の相互作用
1.3 メンタルモデルの構成による環境の理解

2 鳥のコミュニケーション
2.1 コミュニケーションの次元
2.2 信号の進化
2.3 コミュニケーション信号と学習
2.4 視覚次元
2.5 聴覚次元
2.6 鳥の心
2.7 ボールドウィン効果——文化と遺伝の相互作用
2.8 コミュニケーションの収斂進化

3 霊長類のコミュニケーション
3.1 霊長類の自然「言語」
3.2 霊長類の人工「言語」
3.3 霊長類の「言語」は言語か
3.4 まとめ

4 表情によるコミュニケーション
4.1 顔面表情知覚の基本カテゴリー
4.2 カテゴリー知覚説と多次元空間配置説
4.3 顔の中の手がかり
4.4 文脈効果
4.5 課題と展望

5 言語とコミュニケーション
5.1 言語の理解と一般的認知能力
5.2 参照点能力と意味解釈のプロセス
5.3 〈参照点起動の推論モデル〉と発話理解のメカニズム
5.4 伝達の指標性と〈参照点起動の推論モデル〉の有効性
5.5 むすび

6 思考と相互作用
6.1 制約論的アプローチ
6.2 類推における制約の相互作用
6.3 洞察における制約の相互作用
6.4 外的制約と内的制約の相互作用
6.5 制約研究のこれから

7 問題解決とその神経機構
7.1 人工知能学から見たプランニングモデル
7.2 神経生理学から見たプランニングモデル
7.3 運動関連領域における情報処理
7.4 経路選択課題におけるサルの行動戦略
7.5 経路選択課題におけるヒトの脳内活動
7.6 問題解決行動のモデル
7.7 問題解決と意図・言語
7.8 課題と展望

参考文献
索 引

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認知科学に少しでも興味があれば必読

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 ヒトの進化と発達を認知科学の枠組みから捉える。認知科学を一言で乱暴に表現すれば「思考のモデル化」。すなわち本書では、進化と発達による思考メカニズムの変化を概説する。研究事例が豊富に紹介されており、認知科学に少しでも興味がある・勉強する必要がある人ならば、手元に置くべき良書だ。

 扱う領域は多岐にわたる。1章では、サルとヒトの比較から社会的知性の進化を論じている。2章では発達における運動の出現機構を、3章では推論メカニズムを扱う。乳幼児が生物・無生物といったカテゴリーを獲得し、それぞれに異なる因果律を適用する過程は、非常に興味深い。そして4章では、臨界期における神経回路のモデル化を,5章では脳活動部位の計測による機能解明を概説している。生命の想像から哲学・宗教の誕生までを一気に綴った5.3節は、読み物としては面白い。

 章ごとに著者が異なり、関連性がほとんどないが、逆にそれが認知科学の包含領域の大きさを示している。1章でも興味があるのなら、残りの章も興味深く読めるだろう。本書は全4巻の第1巻であり、続刊も楽しみだ。

(西川大亮/北海道大学大学院 工学研究科 博士課程)

目 次

認知発達と進化への招待 v
1 認知システムの進化
1.1 比較認知科学の視点 2
1.2 ヒトの認知の起源——How から Why へ 15
1.3 まとめにかえて——比較認知科学の説明責任 35

2 運動の発達
2.1 運動発達と人間理解 37
2.2 運動発達の機構 43
2.3 自己生成する行動 57
2.4 運動の共有 64
2.5 運動発達研究のフロンティア 66

3 乳幼児の推理の発達
3.1 推理を支える認知の基礎仮定の発達 68
3.2 推理の道具の発達 77
3.3 推理を制約するもの 83
3.4 推理の発達 88
3.5 素朴理論の発達 93
3.6 今後の課題 95

4 認知システムの発達
4.1 発達過程のモデル化 98
4.2 コネクショニスト・モデル 100
4.3 統計的モデル 115
4.4 ダイナミックシステム 120
4.5 まとめ 130

5 脳の可塑性と進化
5.1 脳の可塑性と発達——非侵襲的脳機能画像法によるアプローチ 133
5.2 脳の可塑性のメカニズム 144
5.3 脳の進化 163

参考文献 197
索 引 211

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紙の本サイエンス言誤学

2001/05/28 19:43

普段科学系の本に興味を持たない人に

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 科学雑誌『サイアス』(休刊)連載のエッセイ集。文章の軽妙さとサイバラ氏のイラストがあいまって、なかなか良質な本になっている。

 本書のスタンスは身近な話題を科学的に扱うことではあるが、科学そのものに対する理解も深まる。科学とは“わからない”にたどり着くこと(わかる)、常に修正が入り変化していくもの(訂正)という認識が随所に出てくる。文中でも、訂正が幾度か発生する。間違いを認め訂正する姿勢こそが、科学的なのだ。

 著者は、教育が終わった人々にその訂正が届かないことを、幾度も指摘する。子供時代に習った、富士山は休火山やコニーデであるという説明が、今では使われなくなっていることに驚き、“昔小学生に教え込んでおいて、後にそれが変わっても知らん顔というのはひどいんじゃないだろうか?”と嘆く(火山)。サイバラまで挿し絵で、小学校で習った理想の農地コルホーズが今や荒れ果てている、とツッコミを入れる。『サイアス』のような科学雑誌が届かせる役割を担うべきだったのか、それとも一般雑誌に科学コラムを乗せるべきなのか。

 それにしてもサイバラのツッコミは鋭い。“人類史上最高の発明は何か”に対して「商い」と答える(発明)。評者はファンなので、贔屓目に見ているのかもしれないが。

 各エッセイが短いので、肩肘張らずに気軽に読めます。この本から科学書読者が生まれれば、『サイアス』もすこしは浮かばれるかもしれない。普段科学系の本に興味を持たない人に、薦めてみたい。

(西川大亮/北海道大学大学院 工学研究科 博士課程)

<目次>
科学的/火星/火星人/気圧/仕事/わかる/漬物/発酵/2001年
焚き火/台風/花の名前/流体力学/ヒトラー/たまごっち/無理数
蝶と蛾/デジタル/老眼/超能力/南半球/橋/野球/血液型/ツインズ
人口/宇宙の年齢/栄養/月/ゴミ/年賀状/アルバム/電話/ロマン
電気/ビッグバン/質量/開花予想/遠い星/圧力鍋/2分半/花
本/予言/環境/火山/わからん/科学知識/バイアグラ/ツボ
飛行機/空気—「飛行機」の答え/遺伝子/海/冥王星/訂正/テレビゲーム
栄養/合成樹脂/老化/ダイオキシン/植物/閏年/発明/惑星/マンモス
ヒトゲノム/豪雪地帯/時間の矢/宝石/地図/確率
「赤」「同」「鈴」「之」「助」問題が加熱/心理テスト/新訳電話/インターネット

「赤」「同」「鈴」「之」「助」問題解答編
あとがき

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肉食からヒト化のプロセスを考える

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 ヒトを含む霊長類の一部は肉も食べる。肉は高カロリーだから重要な食料だ。だがチンパンジーやオマキザルにとって“肉”はボーナスであり、オスによる狩りは採取活動の合間、散発的に行う。だが狩猟民の男性は、狩りだけを専門かつ積極的に行う。なぜヒトは、このようなリスクの割に報酬の低い戦略を取るのか?

 本書はサル学と人類学の知見より、類人猿+サルの肉食性とヒトとを比較。かつて起こったヒト化のプロセスを考察する。そこから“肉”を政治の道具として捉え、社会的知性がヒト化に与えた影響を議論する。非常に興味深い。

 ヒト化における狩りの重要性を訴えた「人間−狩りをする者」なる概念は、一九六六年に提示された。だが、当時の主張は女性軽視・蔑視的であり、ゆえに多くの反論と攻撃を受けた。実際、狩猟民における栄養の大半は、女性の採取行動によって獲得される。

 著者はこの概念をいま一度取り上げ、肉の分配行動とメスの役割の重要性を指摘することで、修正を試みる。チンパンジーのオスは獲物の分配権を独占するが、パラグアイ東部、アチェのハンターは自信が獲得した肉の分配権を持たない。チンパンジーのメスは、交尾の権利とオスが獲得した肉とを交換する。アチェの女性は最良のハンターを恋愛対象として好む。

 階層制から平等主義の強い狩猟社会に変化することで、狩猟の腕前は男性にとっての数少ない政治的カードとなり、女性にとって肉は、自己の繁殖に大きな影響を与える戦略物資となる。肉の獲得に関する性的不均衡が、異なる繁殖戦略を取る男女間の通貨となり、食料以上の価値を持つ。つまり「肉の利用から起こる操作と社会的なずるさ」がヒトの行動のルーツである、と著者は解釈する。

 高いリスクの割にエネルギ効率的の劣る食材 “肉” に、栄養面以外の付加価値がある。だから私たちは、他の食材より “肉” が美味いと余計に感じるのかもしれない。訳がやや硬いが、サルからヒトへと進む道に、新たな光を与える良書だ。

(西川大亮/北海道大学大学院 工学研究科 博士課程)

目次
前書きと謝辞
第1章 消すことのできない刻印
第2章 「人間−狩りをする者」とその他の話
第3章 類人猿の性質
第4章 鮮新世からの見解
第5章 狩猟民
第6章 ゴリラの中の幽霊
第7章 肉の家父長制

参考文献
訳者あとがき
索引

(原題)
THE HUNTING APES : Meat Eating and the Origins of Human behavior

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飛行機恐怖症克服の書

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 人身事故ゼロの世界一安全な航空会社であるオーストラリアのカンタス航空が支援する、飛行機嫌い克服講座“フィアレス・フライヤーズ”。本書は、講座の卒業生と講師達への取材を元に構成された、飛行機恐怖症克服の書である。不安は飛行機を知らないことに起因する。そこで本書は、航空システム全体について詳しく・わかりやすく説明する。読了すれば、普段飛行機に乗る際に気になる多くの事柄について、一通りの理解が得られる。だから、飛行機嫌いではなくても、読む価値がある。

 パイロットや整備士、管制官、客室乗務員による講義の形で本書は進行する。適性検査や整備の厳格さ、トラブルに対する訓練の徹底、様々な安全対策がなされていることが読み取れる。

 トラブルを想定した多くの訓練が、慌てずに職務を果たす糧となる。例えば操縦シミュレーターを使い、2基のエンジンが故障した状態で香港啓徳空港に着陸させる、離陸決定速度(V1)到達直後にエンジンの1基を爆発させ、それでも安全を確保させる。

 旅客機がかなり頑丈に作られていることも、あまり理解されていない。乱気流で機体がバラバラになることなどありえないし、B747−400は尾部を擦りながらでも、離陸することができる。私たち乗客が心配することなど何もないのだ。

 また途中途中に、受講生達が飛行機恐怖症になった経緯と、その克服の過程が掲載されている。機内でひどく恐い思いをしたり、その時精神的に不安定だったりすると、恐怖症になる。そして「何としても治したい」という強い意志と、フィアレス・フライヤーズの助けを借りて恐怖症を克服するのだ。

 評者は飛行機嫌いというわけではないが、揺れたりすると“最悪の事態”を考えがちになる。飛行機恐怖症予備群なのかもしれない。でもこれからは本書の内容を思い出し、「大丈夫、心配はいらない」と考えることができるだろう。

 もちろん、信頼できる航空会社に限られるのだが。

(西川大亮/北海道大学大学院 工学研究科 博士課程)

<目次>
 第1章 飛ぶのが恐い? あなただけじゃないわ
 第2章 私の場合——恐怖との戦い
 第3章 「フィアレス・フライヤーズ」って何?
 第4章 崖っぷちに立たされて——キャスリン・ベンダールの場合
 第5章 恐れに負けるな——飛行機恐怖症克服の心理学
 第6章 心にひそむ悪魔たち——スチュアート・スペンスの場合
 第7章 私が本日の機長です——知りたいのに訊けなかったこと
 第8章 どうぞご安心を——ピンチを切り抜けるパイロットたち
 第9章 「飛行機嫌いが」「飛行機好き」に——リチャード・ハードウィックの場合
第10章 大きさは関係ない——飛行機はなぜ浮くのか?
第11章 こぶしをギュッと握りしめて——カレン・トムリンソンの場合
第12章 嵐に遭っても——シートベルトは強い味方
第13章 ジェット機の整備——隅から隅までしらみつぶしに
第14章 勇気を出して立ち向かえば——ウェイン・ノーマンの場合
第15章 客室乗務員——空のウェイトレス? それとも特殊部隊?
第16章 航空交通管制——空の「大きな手」
第17章 ホントのことを知る——ドナルド・エヴァンスの場合
第18章 フライト中の「ガタガタ」「ブーン」は何の音?
第19章 飛ぶときの心得
第20章 飛ぶ前に急いでおさらいしたい?

(原題)THE FEARLESS FLIER'S HANDBOOK

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管制に従わない操縦士までいる空の実状

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 1972年12月29日,イースタン401便トライスター機は,マイアミの西側に広がる大湿地帯に激突,大破した.101名が死亡したこの事故の原因の一つとされているのが,管制官の言った“EA401,how are things comin' alongout there?”における,“things”という言葉であった.操縦士達は“things”を,先ほどから気にしていた「前車輪のライトが点かないこと」だと思い,管制官の側は,「高度が下がっていること」を意図していた.あいまいな言葉“things”を使わなければ,事故は避けられたかもしれない.

 ここまで悲劇的な事例は少ないが,それでも管制当局とのやりとりがうまく行かず,ひやりとすることは多いらしい.本書はこの「ひやりとした事例」を類型化し,最後に具体的な解決策を示す.誰も飛行機を落としたいとは思っていない.それでも,低い通信品質や混信,怠惰といった条件が重なり,ミスを犯してしまう姿が,本書から浮かび上がってくる.

 事例の大半はケアレスミスだ.単位の付け忘れから方角を速度に,速度を高度に勘違いする.「じきに許可できる」を「許可」と取り違える.別の機に出された指示を自分への指示と思い込む.だがチェック機構が働くので,多くは事故には至らない.

 ところが時々とんでもない話も混じっている.評者が驚いたのは,通信をしない,または管制に従わない操縦士がいることだった.アメリカでの小型機や軍用機の事例だ.彼ら空を自分の庭だと思っているのだろうか? 正直,恐ろしい.

 本書が薦める,齟齬を回避する素直な方法は,復唱(リードバック)を正しく行うことだ.“OK”などは論外.相手の発言の内容を理解し,意図したことを復唱する.正しい復唱によって,内容の食い違いが確認できる.

 最後に,現在開発中の音声認識システムを応用した発話のチェック機構を紹介.コンピュータというフィルターを通して,上に挙げたような言葉の曖昧さを排除する.

 全体として,航空管制業務の実状が垣間見えて面白かった.ただ,訳が多少読みづらかった.特に,専門用語・それ以外を問わず,カタカナ英語が頻出するのが気になる.専門用語については,巻末に用語集があればずっと読みやすかっただろう.

(西川大亮/北海道大学大学院 工学研究科 博士課程)

<目次>
第1部 言語をベースとしたコミュニケーションの諸問題
 第1章 言葉の持つ諸問題
 第2章 レファレンスの諸問題
 第3章 推測からおきる諸問題
 第4章 リピートに関わる諸問題

第2部 言語をベースとしないコミュニケーションの諸問題
 第5章 数字のもたらす諸問題
 第6章 無線に関する諸問題
 第7章 応対に関する諸問題
 第8章 全般的な諸問題

第3部 解決に向けて
 第9章 すぐに打つべき手
 第10章 解決への長期的展望

訳者あとがき

(原題)Fatal Words

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