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先月(2017年6月)

伊奈 久喜さんのレビュー一覧

投稿者:伊奈 久喜

1 件中 1 件~ 1 件を表示

田中角栄元首相のロッキード裁判での弁護人が裁判の問題点を歴史に残し,人間田中も描こうとした労作

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 是非は別にせよ,田中角栄氏が20世紀の日本の歴史に残る人物であるのは間違いない。さまざまな田中論がこれまでに書かれた。政治家田中,人間田中,被告人田中…角度もさまざまである。本書もそのうちの一つであり,被告人田中を描く作業を通じて人間田中を描こうとする。
 人間田中を描く試みは必ずしも成功はしていないが,本書の魅力と価値は,その視点の新しさにある。被告人田中を扱ったこれまでの書物の多くは,検察側に情報の多くを依拠したものが多いように思われる。著者はロッキード事件の弁護人の一人であり,田中無罪論を説得力ある筆致でたたみかける。
 もちろんロッキード裁判の全体の事実関係を本書だけから知るのは無理であり,検察側の視点に立った書物と読み比べる必要がある。したがって本書だけからロッキード裁判を判断するのは適当ではないのだろうが,そうした前提を置いて本書を読んでも,この裁判が多くの問題を抱えていたのがわかる。
 贈賄のいわば主犯であるコーチャン氏を免責にしたうえでの嘱託尋問の正当性,現金授受をめぐる関係者のアリバイのあいまいさ,首相の職務権限など多くの点で著者の説く弁護側の主張には,思わずうなずかされる。しかし残念ながら議論は決着しなかった。最高裁の判決を待たずに田中は亡くなってしまったからである。
 本書はそれを意識はしていないが,長すぎる裁判に対する告発でもある。ロッキード事件が発覚したのは,1976年であり,若い世代にとってそれは歴史上の出来事でしかない。権力には絶えず腐敗への誘惑がある。政治は絶えず腐敗の危険をはらんでいるわけであり,そうであるとすれば,首相経験者が逮捕されたロッキード事件は風化させてはならないのだろう。そのためには事件の事実関係を通り一遍のままにしておいてはならない。ロッキード事件を新しい角度で分析した本書には歴史的な意味がある。
(C) ブッククレビュー社 2000

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