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武田 雅哉さんのレビュー一覧

投稿者:武田 雅哉

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紙の本中国文章家列伝

2000/10/21 00:17

日本経済新聞2000/4/16朝刊

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 いなみ・りつこ 44年生まれ。京大文学部卒。国際日本文化研究センター教授。専攻は中国文学。著書に『三国志演義』『中国的大快楽主義』など。
 本書で紹介されている「文章家」は、全部で十人。全体を「危機を生きた文人」「快楽を求める文人」「物語世界の創造者」の三章に分けて、ほぼ時代順にかれらを配列している。
 十人のなかには、司馬遷や蘇東坡のようにおなじみの名前もあるだろうし、名前は聞いたことがあるけれど、よく知らない人物、あるいはまったく聞いたことのない名前もあるかもしれない。だが、中国文学史の世界では、いずれも重要な人物たちである。
 たとえば、「物語世界の創造者」の一人に挙げられる明代の演劇作者、湯顕祖(とうけんそ)。中国のシェイクスピアとも称され、いまならさしずめホラーともいえるような恋愛ドラマの傑作『牡丹亭還魂記』を残して文学史に名をとどめた湯は、文壇・官界のあらゆる権威に反抗し、悪徳役人を弾劾した上奏文を書いたことがあだとなって、左遷されてしまう。
 彼はまた、表現が複雑なために歌いにくいとされたみずからの戯曲を書きかえることを断固として拒否し、「私が表現したいと思う趣旨を伝えるためには、世の人々の喉(のど)がひんまがっても、いっこうにかまわない」とまで宣言したという。
 まず対象にする人物を決めると、その作品を全て読み、資料をあさり、そのうえで、まるで友人の想い出話でも綴るように滔々(とうとう)と書き進める。これは氏の著書すべてに通じる手法だ。
 なによりも、著者が描きあげるかれらは、東方の島国がよろず習うべきであるとした中華の聖人君子ではなく、みんながそろいもそろって、ある意味欠点ともいえる治しがたい癖(へき)を持ち、そのために人生のどこかしらで、なんらかの失敗なり挫折なりを経験して、痛い目にあっているめんめんなのだ。それでもかれらは、ひたすら書き続けることだけはやめなかった。
 十人十色、クセのあるエピソードを伝えている文章家たちの生きざまが、ここちよいエクリチュールによって、さながら落語のなかの登場人物のように親しげに物語られる、楽しい中国文学史となっている。
(C) 日本経済新聞社 1997-2000

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