八代 尚宏さんのレビュー一覧
投稿者:八代 尚宏
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2000/10/21 00:18
日本経済新聞2000/3/12朝刊
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経済活動の国際化のなかで、市場の役割が高まっている。市場機構が円滑に働くためには、セーフティ・ネット(社会的安全網)が不可欠である。本書は、著者の専門分野である公的・企業年金、医療・失業保険、生活保護、生命保険、預金保険等について、セーフティ・ネットという斬新な観点から統一的な視点でまとめたものである。
セーフティ・ネットの役割としては、(1)万一の事故による被害の最小限度化(2)老齢など予想された事象への備え(3)個人のリスクをともなう積極的な行動の促進等があげられる。この半面、個人が当初からセーフティ・ネットに依存するような制度の悪用(モラルハザード)の問題も生じている。
こうしたセーフティ・ネットの得失は、(1)政府と民間のどちらが運営主体か(2)個人の強制加入か自由選択か(3)公的制度の場合、その財源は税か社会保険料か等によっても大きく異なる。
著者の主要な結論は、(1)長期的な家族や企業等、民間の役割の低下と政府の役割の高まり(2)国民生活のナショナル・ミニマムの確実な保障(3)損得勘定に陥り勝ちな保険料方式から社会全体で負担する税方式への移行とされる。
セーフティ・ネット論では、ナショナル・ミニマムを、どの程度の水準に設定するかが、最大の争点となる。本書では、政府保障の範囲として、公的年金は基礎年金部分に、また医療保険は基礎的医療費を賄う水準にとどめ、その財源を税で賄う「税と社会保障との統合」を提唱している。
著者は年金改革に関して、民営化等、他の改革論への批判に多くのページを割いている。しかし、著者の改革の論理からすれば、基礎的な所得水準よりも、勤労時の所得格差を老後に持ち越す報酬比例年金や、無制限に近い医療給付を保障する現行の社会保障制度自体への批判を、より明確な形で示す必要性があったのではないだろうか。
(C) 日本経済新聞社 1997-2000
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