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  3. 河村 忠男さんのレビュー一覧

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先月(2017年1月)

河村 忠男さんのレビュー一覧

投稿者:河村 忠男

8 件中 1 件~ 8 件を表示

建設技術者の倫理と実践

2001/04/02 15:15

「今,なぜ工学分野の倫理教育なのか」。土木系学生・院生や実務者向けに書かれたわが国初の倫理教育教本

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 平たく言うと建設技術者は,その品位や知徳が問われ,社会・人間の安全と福祉への貢献を求められる存在だが,このような倫理性を実際の仕事との関連でどう理解し,折り合いをつければよいのか。これを説き明かすのが,この教本である。わが国で初めて学部・大学院生向けに書かれた。今,なぜ倫理教育なのか。その必要性が高まってきた背景は,こうである。
 2000年から2001年にかけて「資格の国際化」の問題が,わが国の建設分野で話題を集めた。その走りとして誕生したのが『APEC Engineer』制度である。これは東南アジア諸国,カナダ,オーストラリア,ニュージーランド,日本が協議・締結した制度で,土木と建築分野が先陣を切ってその対象になったもの。今後の2国間交渉などを経て技術士や一級建築士が倫理面を含む審査を受けることで,この技術者資格の共有者になりうる。
 一方,この締結交渉と同時並行的に日本の技術士制度の見直し作業が進められ,新しい制度に移行することが決まっている。注目は,これまで終身制だった技術士資格が有限となり更新義務が課せられること,新しく倫理問題が資格審査の上で問われることになった点である。資格の国際化に伴い避けては通れないハードルということである。さらには安全と福祉の観点が求められる社会基盤整備のあり方の変化とも無関係ではない。
 本書は,このような状況を踏まえて,律儀な文章と構成で工学分野における倫理の要諦が綴られている。「なぜ技術者に倫理教育が必要なのか」「倫理規定の系譜と現行の倫理規定の解説」「倫理教育の実践」「信頼関係と技術者の行動選択」などの目次構成。基本はあくまでも学会ベースでの倫理綱領どまりで,現実社会の苦渋を背負う協会などの実務綱領には言及していない点が少々惜しまれるが,100ページ余の紙幅ではそれもやむをえまい。教科書ではあるが,第一線の技術者が建設倫理を学ぶのにも格好の入門書。時宜を得た発刊である。
(C) ブックレビュー社 2000-2001

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わが国の近代橋梁群を一望できるビジュアル指向の資料集成。英文併記

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 華やかなオーケストラの中にあってのバイオリンにあたるのが,土木技術の分野で言えば橋梁であって,男性的なダムやトンネルに比べるとその姿はたおやかである。
 この橋梁であるが,日本が開国した当時の欧米,たとえば英国においては1826年完成のメナイ橋,1850年のブリタニア橋,1890年のフォース橋と時代を画す名橋が誕生して間もないころであり,米国では1883年にブルックリン橋,1931年のジョージ・ワシントン橋,1937年にはゴールデン・ゲート橋が完成するという長大橋時代のさなかであった。その当時の日本の橋梁といえば人馬が渡るに役立つ程度のものが大多数であって,近代土木の世界に身を置くこととなった当時の橋梁技術者が欧米と日本の間に横たわるあまりにも大きな落差にどのような想いを抱いたか想像にかたくない。
 以来100余年,特に戦後の日本にあっては若戸,尾道,港,関門,大鳴門,瀬戸,横浜ベイなどの巨大橋梁を次からつぎへと生みだし,1998年にはついに支間1991メートルを誇る世界最大の長大橋・明石海峡大橋を完成させたことは周知である。この間の飛翔のかたちは偉大であるとともに,技術史はもとより社会・経済史の中にどのように位置づけたらいいのかこの国はまだ夢の中にある。
 本書は,わが国橋梁界の先達のひとり,隅田川橋梁群の設計者であり東大教授であった田中豊博士の名を冠した土木学会賞の一つ「田中賞」の選考委員会関係者が編集に当たったわが国の近代橋梁の資料集成。わけても秀麗な写真を中心とした “見せて読ませる橋梁絵巻” であり,田中賞創設30周年記念出版としてのほこりとして受賞橋梁150余をベースにした硬派たる内容と構成である。さらには英国などの専門家により与えられた充実の英文解説により,世界各層の求めにこたえられるものであって,欧米にキャッチアップする道程のマイルストンと位置づけられる好書である。
 記録性にこだわらないこの国の国民性故にこの種の図書を編むことは資料収集の段階からして至難であるが,土木学会は幸いなことにその年ごとの田中賞受賞作品を柱として1966年から連綿と『橋』という年報を30年余にわたって発行し続けていることにも助けられての今回の出版と歓べる。
 残念なのは,個々の橋梁ごとに発注者,設計者そして施工者の名前が記載されていないことである。事情承知で願うことは英断をもって次巻からの明記に期待したいことと,絵心ある橋梁写真家の育成である。
(C) ブックレビュー社 2000

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紙の本戦前の国土整備政策

2001/04/18 18:16

”公共事業”を議論する際の標準原器となりうる労作

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 東洋大学国際地域学部教授である著者松浦博士の前歴は,建設省(現国土交通省)の河川系技術官僚であり,事業執行の現場体験を持つ。と同時に『水辺空間の魅力と創造』『国土の開発と河川』『明治の国土開発史』(いずれも鹿島出版会発行:1987 1997年)など一連の著作で知られる優れた学究でもある。
 その著者が大学に転じてのち,初めて世に問う本書は ”前職時代から進めてきた研究の卒業論文にあたるもの” との位置づけと聞くが, 内容はこれまでになく読みやすく,かつ良推敲がなされた見事な仕上がり。結果として巷間かしましい「公共工事」の当否を考えるに当たっての,格好な標準原器となっている。
 「まえがき」「本書の課題と近代社会基盤整備史における戦前」「概説 昭和初頭までの社会基盤備」「戦前の社会基盤整備政策」「戦前の地域整備の具体的展開」「戦前のダム技術の導入と自然との調和」「戦後の社会基盤政策の展開」「おわりに」の目次構成で展開される議論は,ややもすれば “公共工事礼賛論” “河川事業偏重” ととれる節なきにしもあらずであるが,”生物としての生身の人間が快適に生活できる空間の整備(本書)” 事業に長年携わってきた体験と,優しき工学者としての軸足の据わりが良く,論旨も明確であり心地よい。
 ややもすれば既に戦前に組み上げられたとされる「日本という国土の青図」 その構想や計画を,戦後体力勝負で消化してきただけではないかとされる国土整備の道筋を,単純に首肯できるものであろうかという問いかけを含め,未消化の部分は多いものの “日本の近代社会基盤史” 構築の戸口を開くための一書として貴重である。
 高度成長期を含め,めくるめく建設の時代にあってこそ,極めておかなければならなかった「公共事業の意義と適正水準」論,そこで必要とされる歴史的検証作業が希薄であるが故の今日の “公共事業要不要論争” に,一つの共通に読み込める話題提供の専門書としてお奨めできる。近時,ようやくにして充実の季節を迎えつつある土木史研究分野での質感ある収穫の書としても,時宜を得た上梓と言えよう。
(C) ブックレビュー社 2000-2001

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デジカメで写真測量ができるという“目から鱗的”着想の実用書

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 Word,Excel,Access,PhotoShop,そしてWindows/MACとくれば今のご時世,技術者ならずとも知らぬ者がいないほどに毎日お世話になるもの。これらに日進月歩するデジカメが加わって『写真測量』ができるとなると「ホントかいな」となるのが,たぶん普通の人であると思う。
 ところが,本書によると「それが比較的簡単にできる」となるからこれは驚きであって“目から鱗的”着想と言える。
 ひとくちに写真測量と言っても多彩な手法があるが,ここでのそれは精度的には少し劣るものの簡易版手法として宅地測量などでの利用には事欠かないと思う。
 かと言って上述の道具が揃っておれば誰にでも写真測量ができると言うほどには簡便ではなく,一般の測量業務に携わっている方にとっての新しい知恵の一つであると理解したい。
 本書は,基本的な理論・解説,デジタル画像処理法,プログラミング手法に加え実施・応用例を加えて1巻としているが,事例をCD化して添付してもらえたらなお有り難かった。
(C) ブッククレビュー社 2000

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新世代の人とシステムによる公共デザイン深化の勧め。公共空間熟成へ向けた熱い語りかけ

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 20世紀の終わりに完成・開業した都営地下鉄大江戸線は環状線形式によるルート設定を特徴とするが,わが国初の「公募形式による駅デザイン」を実施した点でも公共空間形成史に特筆される。ここでは,環状部の26駅を対象に公開プロポーザル形式による公募を行い,応募者77人の中から芦原義信委員長等により実施案が選考され実施の運びとなった。このような大規模かつ大胆な施策がとられたことはこの国ではかつてほとんどなく,首都の景観に新しい提案がなされたことを喜びたい。
 これら一連の仕事の中の「新宿西口駅」と「東新宿駅」の設計者の一人として名を残すのが本書の筆者であり日大教授(工学部交通土木教室)である伊沢さんであって,今回の作業に先立って職場を同じくする三浦裕先生との協調により東葉高速鉄道「船橋日大駅」をデザインしたことでも知られている。
 このような公共デザイン活動は戦前の琵琶湖疎水や大阪の橋等建設時にその萌芽を見るものの,その後の育ちは緩やか。著作等にこれを見ると昭和11年に発行された加藤誠平による『橋梁美学』,戦後では昭和42年の中村良夫著『土木空間の造形』等,数指を数えるにとどまる。
 本書は,建築出身であって土木教室で教育に当たる著者,また上述のように研究・教育活動を超えて実務にも携わる己が体験をベースにとりまとめられたたいへんユニークな著書であって,この面での大学・大学院用教科書としても実用に耐える。なお,評者には16ページを費やして記述されている「序章・土木におけるデザイン化と総合化」等に見られる公共空間の熟成へ向けての熱意ある著者の語りかけがこの国への警鐘と響くことが哀しい。
 序章に続いて「第一章・運河 “水の道”−桂離宮と平等院は運河拠点だった」「第二章・港 “海の道”−失われゆく歴史的港湾と海城の再生」「第三章・街路 “人の道”−より豊かな人間的空間を求めて」「第四章・駅 “鉄の道”−駅は駅舎でなく都市である」「第五章・空港 “空の道”−空と海をつなぐ空港の創出」,そして「終章・土木デザイン教育の方法と成果」,全200ページに及ぶ。
 豊饒の近代生活空間が求められるようになった時代が公共財充実には逆風の時と重なったが,本書等によって提案される新公共空間形成の息吹が世論喚起の一助となるよう願いたい。         
(C) ブッククレビュー社 2000

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「ゼロ分のイチ村おこし運動」が語るふるさとの知恵。鳥取県の一山村での過疎対策実践史

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 ここに取り上げる岡田京大教授等の著作は63ページ,岩波ブックレットのならいに従う小冊子であって,たぶんその気になって読もうとすればほぼ1時間程度で事足りる過疎対策の実践史である。また,その内容をほど良く理解しようとすれば3ページに掲載されている「生きた五重塔(五層の社会システム)」を眺めつつ全体をふかんすることによって可能と思えるが,ことはそう簡単には進まない重い内容があとに残って,めまいを覚える。
 この国にあって地域の崩壊が叫ばれて久しく,各地の中核都市に近隣する街央の空洞化をはじめ山村域の過疎化は各地からの悲鳴に近い声によって知ることができるし,その実体を書中に求めると「2000年4月現在,わが国には2,320の地方公共団体(市町村)があるが,そのうちなん1,171団体,全体の36.3パーセントが “過疎地域” の指定を受けている。その面積の合計は180,339 平方キロ,日本の国土の48.5パーセントに当たる」とする記述につながり,この国が綻んでガタが来ていることに連鎖する。この間,当事者はもとより専門家を含め多くの関係者が全国各地でことの対応に当たってきたが,確たる成果がないままに時間のみが走り,未だ良き対策を見定めるに至っていない。
 そのような中,「ひまわりシステム」でも知られることとなった鳥取県の一山村智頭での成功例は見事であって,前橋登志行,寺谷篤の2人がコアとなって始めた過疎の “ムラのクニおこし” の経緯と少し遅れて参加した研究者グループとの協奏譜は,たいへん読みやすい記述と構成に助けられて読者の共感を呼び起こすこと必定である。
 評者は過疎対策に走り始めると「長い歳月の間に定着した地域の体質,すなわち,新しい変革の試みの一切を拒否する地域の保守性」(本書)に事を阻まれる様を己が故郷に敷えんして妙に納得するが,智頭に花開いた新しい芽の形にある種の普遍性を見いだしたいと思う一方で,それをなし得ない地域の多さに首肯して暗たんたる想いに至る。
 21世紀の前半にあってこの過疎対策はわが国の基幹課題となること必定,人と時と加勢を得て見事なつぼみをつけたこの事例をよくよく吟味されることをお奨めしたい。
 
(C) ブッククレビュー社 2000

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日本の近代化遺産 新しい文化財と地域の活性化

2000/12/08 21:15

わが国の近代化を担った土木・交通・産業遺産理解への格好の入門書

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 「小樽港北防波堤」=北海道,「野蒜築港関連事業」=宮城県,「帝都を飾るツイン・ゲイト」=東京都,「猿島要塞」=神奈川県,「木曽川ケレップ水制群」=愛知県,「阪急大宮駅と大宮・西院間の地下線路」=京都府,「大川・中之島の橋梁群」=大阪府,「京橋」=岡山県,「大谷川砂防堰堤」=徳島県,「河内(貯水池)堰堤及び南河内橋」=福岡県,と並べてその共通項は,との問いにいま何人の正解者が得られるだろうか,この日本で。
 さらに加えて東京は江東区にある「八幡橋」をとなると,土木の研究者であってもなかなか正鵠(せいこく)を与えづらいのが現実ではないか。
 そこで「正解」。前者は平成12年11月8日に土木学会が発表した「選奨土木遺産」の第1回指定対象であり,後者は平成元年に米国土木学会賞を受賞した「旧弾正橋」の今日の呼び名,いずれも土木遺産としての顕彰である。
 でも少し戸惑う。表題では「近代化遺産」とあり一方では「土木遺産」と並ぶのでここを整理すべく著者に従えば前者は“近代化を担った各種の建造物や工作物を意味し,土木・交通・産業遺産の3種がある”となるので後者の方が狭義となる。
 とは言え,わが国におけるこの種の努力は建築分野などで見られるものの,土木からの発言の少ないところであったことも事実。他方,芸術・学術分野でのそれは文化勲章を頂点としての長い歴史と奥行きをもって,多くの国民の知るところとなっている。
 ではなぜこれまでわが国において「近代化遺産」あるいは「土木遺産」と呼ばれる分野での活動が顕著でなかったかと言えば,たぶん,それは“産業振興第一たる国策”との相関,さらには国民的コンセンサスの度合いなどに思いいたすと理解しやすいことではある。
 本書はそのタイトルが書き示すように,この間の経緯を踏まえつつ今ようやくにして動きはじめたわが国の「近代化遺産」についての格好の入門書であり,かつまた調査,評価そして保存,あるいは社会生活環境の深化へ向けての活用などのための実践解説書としても有効である。
 ここでは「日本の近代化と世界遺産」「地域環境デザインの思想」「都市を支える土木遺産」「今に生きる産業遺産」「市民運動が守る産業土木遺産」「地域の活性化資産」「地域環境と共生する」そして「まちづくり資産としての近代化遺産」のならぶ目次をもって内容の紹介に代えたい。
 時宜を得た本書の発刊により,これまでややもすれば専門家あるいは好事家の対象内にとどまっていた“近代日本形成の地の塩的存在である近代化遺産に対するまなざし”が日々の生活における質の向上と厚みのある国土景観の向上に効いてくることにも期待がもてよう。
 英国をはじめとする欧米諸国の実践史にはいまだ遠く及ばないにしても,この国にあっても隗(かい)より始める心構えは必要である。
 本書を通底する思想は著者の半生史に連なる豊富な研究・実践歴によるが,それ故にか,筆走って整理が追いつかないところも散見されるなど体系化に今一歩の感あるのが惜しまれる。
(C) ブッククレビュー社 2000

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紙の本河口堰

2000/10/06 15:22

長良川河口堰は自然環境をどう変えたか。それにこたえる理学者3人による調査報告

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 1960年代なかば,聖橋を仰ぎ見る国鉄お茶の水駅のプラットホームで東京行きの電車を待っていた人のなかにわが国を代表する衛生工学の大家が居られた。「なんでこの川はこんなに汚いんですか」と黒くよどんであちらこちらでメタンガスなどが吹き出す神田川の川面を眺めての質問に「えっ,この川ですか。昔からこうでしたね」とつぶやくように答えられた時の驚きを今でも思い出す。
 川というものは清冽な水がさらさらと流れるものと思い育ち来た身にとって,この独り言ともとれるごく自然に語られた言葉に権威者のもつもろさを覚えたころから日本の川,特に都市河川は自滅の道筋を歩み始め,それは昭和をくぐり抜けて21世紀の声を聞くに及んで川辺の人々の呼びかけなどにより本来の川の姿に回帰する手だての兆しが見えはじめてのここ数年である。
 一方,大河川では事情が異なる。世界一とも言える水害大国日本の川に対する基本姿勢は1964年(昭和39年)制定の河川法では「治水」と「利水」が柱であり,1997年(平成9年)に改正された現行河川法はこれに「環境」が加わったことにより“川を制御する欧米,川をなだめる日本”と言うべき構図がより鮮明になった。それとともに,“治水・利水か環境か”から“治水・利水も環境も”へと大きく舵を切ったと読める。
 その過渡的な時代の象徴として記憶に新しいのが「長良川河口堰問題」であり,現在進行中の事業としては「吉野川第十堰」を挙げることができる。
 本書はこの長良川河口堰問題を契機として1980年代の終わりごろからこの川とのかかわりを持つこととなった著者たちが手掛けた調査結果と,河口堰がもつとされる“海と川とのかかわりを絶つ治水・利水方式”への疑義などをとりまとめたものであり,理学者としてのほこりをしての記述は冷静である。
 ここでは「プロローグ・長良川河口堰問題とは」「第1章・小さな生物の視点から見た川と河口堰」「第2章・河口堰とは」「第3章・河口堰の環境影響」「第4章・河口堰の環境影響をめぐって」「第5章・河口堰の環境影響についてどのような議論がなされてきたのか」そして「第6章・環境影響評価」の目次立てである。記述の大半は第3章に割かれ「浮遊藻類の発生」「川底の堆積物の変化」「水の中の酸素」「川から湖へ」の4節に詳記されている。
 一読して困惑することは,治水の大切なところとしての人命保全と本書で述べられているプランクトンなどのかかわりへの理解を深める手だてが薄いことであり,両者のあいだに横たわる溝幅の見えにくさとthesaurus(宝庫)化への道筋が明快に見えて来ないという哀しさである。
 これまでの河川事業ではその多くがスタティックな対応で事足りたが,新河川法下では新たに加わった環境という課題に対峙していくためにダイナミックな思索の実践がより必要となり,そのための知恵の蓄積が求められる時である。本書はこのような時代背景のもとに読まれることとなろうが,調査・検討方法などを含め今後の研さんに待つべきところも多いことは否めない。ただ分かりやすい記述を目指した著者たちの努力が報われることを期待したい。
 以下は蛇足である。現行の建設省のホームページ(http://www.moc.go.jp)上で公開されている「朝日新聞の長良川河口堰に関する報道について」全8本の公開討論集を参照されることをお勧めする。
 上掲の著作に共通する課題についての見事な討論はたいへん読みごたえがある内容であって,わが国至高の財産である“日本の自然”に対する考え方の多様性が示されて見事である。
(C) ブックレビュー社 2000

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