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タニグチリウイチさんのレビュー一覧

投稿者:タニグチリウイチ

20 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本自殺サークル 完全版

2002/04/25 22:15

新宿駅から54人の女子高生が飛び降りた。衝撃の映画の謎とその後が記された“完全版”

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 園子温監督の映画『自殺サークル』はもう見たかい? まだ見てない? 心配ご無用。監督自身の手になる小説『自殺サークル完全版』(河出書房新社、1000円)を読んでも、映画への興味は殺がれるどころか、あの強烈なシーンがいったい、どう描かれているのか見てみたくなるはずだから。

 自分は映画を見終わった? そんなあなたは期待を胸に『自殺サークル完全版』を開こう。2002年5月26日。54人の女子高生が新宿駅のホームから「いっせーのせっ!」で飛び降りた。数日後には大阪城天守閣から200人の女子高生が宙を舞った。日本中に相次ぐ自殺の連鎖。その背後にうごめく謎の組織「自殺クラブ」に挑んで、空しく散った刑事たちを描いた映画の“謎”への答えと、その後に世界が歩んだ様が小説には描かれているのだから。

 愛知県豊川市。典型的な地方都市で寝たきりの祖母と父母と妹と暮らしていた女子高生のさやかは、田舎で朽ちていくことへの焦りと、都会へのあこがれから停電の夜に家を出て、ネットで知り合ったハンドルネーム「上野駅54さん」を訊ねて東京へと向かう。待ち合わせの場所に現れたのは妙齢の女性。そして彼女の家族には見えない家族たち。過去を捨て、自分を捨てて請われるままに依頼者の家族となって世話をする、レンタル家族の一員にさやかも、さやかに続いて家出した妹のゆかもなって暮らし始める。

 しがらみに縛られた田舎での、血によって結ばれた家族との暮らしの煩わしさから逃げ出そうとした若者の、迷いさすらった果てに至る胎内回帰、そして再誕生を描いた物語。自殺することで誰のものでもない、自分自身の生の確認に走った人々を描いた映画が動ならば、虚無感に満ちた世界の中で自分自身を再発見する人々を描いた小説はまさに静。コインの表と裏であり、撮られるだろう続編の映画を示唆するビジョンがそこにある。見た人は読め。読んだ人は見ろ。 (bk1ブックナビゲーター:タニグチリウイチ/書評家、新聞記者)

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紙の本NHKにようこそ!

2002/02/04 19:23

ひきこもり世代が放つ、脱・ひきこもり文学の最高峰!

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 佐藤達広。22歳。大学中退。でもって無職。六畳一間のアパートに、もう4年もひきこもっている。どうしてひきこもるのか。世間が笑うからだ。それはなぜ。陰謀がめぐらされているからだ。その正体は。「NHK=日本ひきこもり協会」。そして彼は決心する。NHKと戦おうと。けれども決心しただけで、今もアパートでひきこもり生活を続けている。

 そんなある日。訪ねてきた宗教勧誘の2人組の若い方、岬ちゃんという名の少女と出会ってからというもの、佐藤の生活は大きく変化する。ひきこもりの彼になぜか関心を寄せる岬ちゃんに、引っ張らり回され、振り回される日々がスタートする。

 岬ちゃんに良いところを見せようと、クリエーターになろうとしてエロゲー作りにはまり込み、挙げ句にロリコンになって小学校に盗撮に行ってしまう描写とか、妄想がオーバードライブしていく展開の、ドラッグが染みわたっていく時間にも似た高揚感が心地よい。笑える。笑い死ねる。

 そしてクライマックス。ひきこもりの自分が、どうしてひきこもるのかを等身大のルリルリ人形(アニメキャラ。可愛いんだよ、これが)に向かって叫ぶ場面の、何と滑稽で何と壮絶で何と美しいことか。泣ける。泣きまくれる。

 世間からズレた自分よりも、さらに不思議な少女と出会って、自分に残っている真っ当さを発見し、そこから立ち直りへの道を探す展開は、デビュー作の『ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ』(角川書店、1500円)とも共通。そしてデビュー作に勝るとも劣らない大傑作。落ち込んでいる人には勇気が、悩んでいる人は進路が、ひきこもっている人には外へとつながる出口が、きっと指し示されることだろう。迷っているなら買え。迷ってないで読め。(タニグチリウイチ/書評家、新聞記者 http://www.asahi-net.or.jp/~WF9R-TNGC/)

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その夜オレが出会ったのは「チェーンソー男」と戦うセーラー服の美少女戦士だった

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人生なんて平凡な日々の繰り返し。劇的な変化なんてそうそうに簡単に訪れるも のではない。だからこそフィクションの世界に劇的な人生を見たいと望む。滝 本竜彦の『ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ』(角川書店、1500 円)に描かれた、主人公の少年が巻き込まれた恐ろしくも楽しい日々のような 変化を。

 テストが迫ったり仲の良かった友人がバイクの事故で死んだりして、ユーウツに落ち込んでいたある日、オレは獣道のけやきの根本に体育座りして、「チェ ーンソー男」を待っていた少女、雪崎絵理と出会う。やがて現れた「チェーンソー男」を相手に、絵理は木刀を手に取りナイフを投げて応戦するが、「チェーンソー男」は倒れず闇の中へと去っていく。

 いったいチェーンソー男とは何者なのか。というより絵理はどうしてチェーンソー男と戦っているのか。もしかして美少女戦士って奴? でもって世界を悪から守ってるって感じ? 正確なところは分からないけれど、オレにとって突如訪れた劇的な変化であったことは確か。あれこれ交錯する疑問はともかく脇へとうっちゃって、オレは絵理といっしょにチェーンソー男を倒すため、自転車で絵理を学校に出迎え、いっしょに町を走り回る劇的な日々を送り始める。

 彼女がいない、テストが苦手、家族とうまくいかない等々、セーシュンにつきものの鬱屈した日々に懊悩したすべての人が、「こんなセーシュンを送りたかったんだ!」なんて羨望と嫉妬を抱きたくなる21世紀的青春文学。羨ましさに悶えて吠えろ。
(タニグチリウイチ/書評家、新聞記者 http://www.asahi-net.or.jp/~WF9R-TNGC/)

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闇の底のシルキー

2001/11/05 16:02

『肩胛骨は翼のなごり』の著者が贈る「死」と「再生」の物語

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春の来ない冬はないけれど、冬を越さなければ春にはたどりつけない。季節だった時間が過ぎれば春になる。でも人生の途中におとずれた冬の季節はどうやって越せばいいんだろう? その答えのひとつの形を、田舎の村に引っ越して来た少年が経験した、不思議でちょっぴり怖いできごとを描いたデイヴィッド・アーモンドの『闇の底のシルキー』(山田順子訳、東京創元社、1900円)が見せてくれる。
 祖母を亡くして落ち込んでいる祖父と一緒に暮らすため、父母とともにかつて炭鉱のあった村、スーニゲートに引っ越して来たキット・ワトソンは、黒ずくめの格好で悪魔的な雰囲気を持った少年、ジョン・アスキューに誘われて、暗い洞くつで死んだふりをするゲームに参加するようになる。最初は子供によくある「死」への好奇心ゲームだったはずのに、番が回って来て「死」を経験させられたその日から、キットの目に、100年以上も昔の落盤事故に埋もれて死んだ子供たちの姿が見えるようになってしまった。
 行く先々に現れては「死」の匂いをふりまく幽霊たち、だんだんと老い衰えて
いく祖父、そして酒飲みの父親に反発して家を飛びだし、行方不明になってしまったアスキュー。閉塞感にあふれた村で出会う寒々しいできごとのなかで、ともすれば萎えそうになる気持ち、引き込まれそうになる「死」への誘惑を振り切って、暖かい春へと向かおうとするキットの姿が心に響く。悲しいことを乗り越えて進むための勇気をくれる。
 愛と奇跡の物語『肩胛骨は翼のなごり』で感動の喝采を浴びたアーモンドが紡ぐ死と再生の物語。多感な少年には勇気を、悩める大人には力を与えてくれるだろう。
(タニグチリウイチ/書評家、新聞記者 http://www.asahi-net.or.jp/~WF9R-TNGC/)



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ブルー・ポイント

2001/10/02 14:23

絶対に逃げ出せない奇妙な世界で青年は”生きる”ことの素晴らしさを知る

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 死んだらすべてが水の泡。ひとつしかない人生だったら、わがまま勝手に生きれば良いさと思った人がいてもそれほど不思議なじゃない。けれども誰もがわがまま勝手に生きたら、世の中は事件や事故であふれかえってしまう。だから人は法律を決めて罰を作って、人が自分勝手に振る舞えないようにしているし、現世の功徳が明るい来世や極楽往生につながるんだと、諌める宗教が幾つも生まれて広がっている。

 日野響子の4年ぶりになる新作小説『ブルー・ポイント』(朝日ソノラマ、476円)の舞台になっている世界には、人は別のもっと素晴らしい世界に行くために、善い行いをして「青ポイント」をためなくてはならない決まりがあった。ふと目覚めると、過去の記憶の一切を失ってその世界に入り込んでいた穂積という青年は、ちまちまと「青ポイント」をためるなんて御免だと、仲間を集めて逃げだそうと企んだ。けれども南を壁、北を山、東西には果てしない荒野が続いているその世界から、どうやっても抜け出すことはできなかった。

 どうして誰も逃げられないのか。「青ポイント」を貯めると一体どこに行けるのか。そもそもここはどこなのか。おしよせる謎がすべて明らかになった時、生きていくことの難しさ、そして生きていることの素晴らしさが心の中へとわき上がって居住まいを正される。わがまま勝手は良くないけれど、功徳を来世への貯金のように捉える打算的な人生でもダメ。優しさや慈しみを、格好良いとか悪いとか、役に立つとか立たないといった価値観抜きにあらわして、この世界を精一杯に生きようとする気持ちでいっぱいになる。

 憎しみで世界が覆われ尽くそうとしている今。幻想世界を舞台につづられた、悔恨と贖罪の物語から浮かび上がる、強くて重たいメッセージを受け止めよう。


(タニグチリウイチ/書評家、新聞記者 http://www.asahi-net.or.jp/~WF9R-TNGC/)

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人の強さ、優しさ、暖かさに出会える

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 タイプでいうなら古橋秀之『タツモリ家の食卓』とか、藤島康介『ああっ女神さまっ』みたいな感じ。そう聞けば、名取なずなの『サンプル家族 乙女ゴコロとエイリアン』(集英社、571円)が、どんな雰囲気を持った話なのかピンと来る人なら分かるかも。平凡な暮らしをしている人のところに突然、ヘンな人とか宇宙人とかバケモノとか女神さまが押し掛けてきては、同居を始めるってやつ。
 けれども『サンプル家族 乙女ゴコロとエイリアン』はちょい違う。というか全然大違い。しょっぱなに繰り広げられるのは、美少女どころかヒューマノイドですらない、ひも状の異星人たちが人間と犬に化けて一家を作って、独り暮らしの少女の家に親戚だと偽って居候を決め込むという展開。でもって一家の目的も、その女の子を”殺す”ことにあるといった具合に、タイプの似た他の話の”愛する”だとか”守る”とかいったテーマとは、まるで正反対になってる。
 地球人を研究してやって来たはずなのに、作った体は服も肉体も一体になっていたとかいった、微妙にズレた疑似家族たちの行動や思考がとても楽しい。自分たちの種族を守るために、別の命を犠牲にしなくちゃいけない理不尽さに悩みもだえる異星人たちの姿も、ありがちだけれど胸に響く。けれどももっと大きく響いて来るのは、「家族ってなんだろう」という疑問。父親は死に、母親は海外で恋人と繰らしているという主人公の少女が、あからさまに奇妙な一家を、遠縁と信じ込んで招き入れてしまう行為に隠された心理、少女の担任と、彼が一緒に繰らしている祖母との間に横たわる、冷たくて痛々しい関係が明るみに出て来るに連れ、任務遂行のために構成された、愛情なんて無縁の疑似家族という鏡を通して、「家族っていいものだな」という気持ちが浮かび上がって来る。
 異星人たちは星を救うことができたの? 少女はやっぱり死んじゃうの? 二者択一の難問にどう挑んだのかというラストのドキドキ感も含めて、人(人じゃないのもいるけど)の強さ、優しさ、暖かさに出会える本。『キャッツ・ワールド』(角川書店)で人気のOKAMAのイラストもポップでキュート。続くといいな。

(タニグチリウイチ/書評家、新聞記者 http://www.asahi-net.or.jp/~WF9R-TNGC/)

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スター・ハンドラー 上

2001/08/03 01:27

異生物訓練士の少女を主人公に愉快で豪快な物語が展開

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 その道ウン10年のムツゴロウですら、油断すればライオンに指をかじられてしまうのが動物相手の商売だ。ましてや相手はライオンなんて目じゃないくらい凶暴な宇宙の異生物たち。相手にするには専門の知識と技術が欠かせない。そこで誕生したのが異生物訓練士の「スター・ハンドラー」。宇宙に散らばりロデオのような競技から牧畜、ハンティングに至るまで、異生物に関わる仕事のすべてに知恵と勇気をふるっている。

 草上仁の『スター・ハンドラー 上』は、そんな異生物訓練士になったばかりの少女、ミリ・タドコロを主人公にした長編の前編。ちょっとしたハプニングから訓練士の養成所で最低の成績をつけられ、職にあぶれそうになっていたミリは、ふとした偶然から拾われた会社で、宇宙最強とも言われるヤアプを捕獲し手なずける羽目となる。それにはどうにか成功したものの、今度は依頼主に敵対する勢力の妨害が入って、乗っている宇宙船ごとピンチに陥ってしまう。

 まずは異生物。ぐにょぐにょだったりぬらぬらだったりする架空の生物を、実存しているかのごとくリアリティたっぷりに描き、そんな異生物たちとのコミュニケーションを、生物学的な知識に立ちつつ、ムツゴロウばりの愛情もまぶして描く筆にベテランらしさがのぞく。それからキャラクター。ぞんざいでケチなミリに、優雅で残酷な元レスラーで女優のユーニス、行動のすべてを心理も含めて口で説明するジャブル等々、立ちまくったキャラクターたちの個性がぶつかりまくって起こる、愉快で豪快な物語がとにかく楽しい。

 危機に次ぐ危機を乗り越えた果てに訪れた最大の危機にどうするミリたち御一行!? というところで上巻は終わりなのが悩ましいやらもどかしいやら。早く下巻を、でもって一大スペース新喜劇シリーズへの発展を、是非にと心底から願う。

(タニグチリウイチ/書評家、新聞記者 http://www.asahi-net.or.jp/~WF9R-TNGC/)

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ロマンチックな感動にひたれる選考委員奨励賞受賞作

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 いまどき「世界は何でできているんだろう」なんて哲学的な悩みにふけって悦にいろうとしたところで、科学の人たちが出して来る分子とか原子とか量子とか波動とかいった真っ当な答えの前に、浮ついた気分はあっけなくうち砕かれてしまう。そこから先、科学を土台に世界の成り立ちを考察していく道も楽しくない訳じゃないけれど、そうじゃない、もっとロマンチックな気分を味わいたいんだという人が挑むのは、科学とは違った概念を持ち出して、「じつは世界はこんなものでできているんだ」と考えること。例えていうなら人の紡ぎ出す”想い”とか”意志”によってによって形作られ、動かされる世界はどんな魅力に富んだ世界なんだろうと、夢を描いてみることだ。

 海羽超史郎の『天剣王器 Dual Lord, Reversion』(発行・メディアワークス、発売・角川書店、570円)の舞台は、人間が持つ意志が物体を構成する素子に作用することが分かった世界。素子の働きを制御する技術つまりは「魔導技術」が発見され発展し、人間は自然を操り物理法則を操って文明的な暮らしを送れるようになっていた。群雄割拠する国々を統治するのは、そんな魔導の力を誰よりも持った「王器」と呼ばれる執政者と、「天剣」と呼ばれる武人。なかでも台樹と呼ばれる小国は、卓越した才能を持つ「天剣」「王器」の指導によって、2大国の狭間にありながら繁栄を保っていた。

 台樹には15歳になった子供から「天剣」「王器」の候補から探し出す制度があって、幼なじみの若葉という少年とアユミという少女も連れだって王都へと出向たいところ、そろって候補になってしまった。そこから始まる勉強あり、試練あり、三角関係ありの寮生活描写は青春モノには定番で、主役の2人がやっぱりそれなりのポジションへと駆け上っていくのもお定まり。とはいえ一見落ちこぼれ風ながら、内にとてつもない力を秘めている若葉と、そんな若葉が気になって仕方がないのに、頭突きは入れるは蹴りは落とすわと、なかなかに激しい”愛情表現”を見せるアユミの際だったキャラクターは、読んでいてじつに楽しい。無骨ながらも魔導の知識で他を圧するファナガン、美貌の内に圧倒的な戦闘力を持ったツォウといった魅力的なキャラクターたちが絡み合い繰り広げられる物語は、恋に成長、挫折に勝利といったありがちな展開を超えて、読み進んでいく楽しさを与えてくれる。

 なにより魔導が根幹となって成り立っている世界の構築にかける情熱が目にまぶしい。さまざまな”想い”が交錯しながら動いてく世界の描写に注ぐパワーが心にうれしい。物理法則に流されるのではなく、人の”意志”が切りひらく未来への希望にあふれた物語が与えてくれるロマンチックな感動に、科学の人も哲学の人も思う存分ひたってみてはどうだろう。「第7回電撃ゲーム小説大賞 選考委員奨励賞」を受賞したデビュー作。

(タニグチリウイチ/書評家、新聞記者 http://www.asahi-net.or.jp/~WF9R-TNGC/)

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紙の本BIOME 深緑の魔女

2001/06/05 17:35

自然のすさまじさと人間のおろかさを感じさせる重厚な一冊

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 クリスマス島に生息している、ふだんは陸上にいて繁殖の時だけ海へと大移動するカニが、人間によって持ち込まれたアリに攻撃されて、森からどんどんいなくなっているという話をテレビで見て、生態系のバランスの繊細さに驚いた。カニがいなくなったくらいで現代の人間が生命の危険を感じることはないけれど、自然と隣り合わせで生きていた時代の人間だったら、激変する生態系の中であるいは滅亡といった危機に瀕していたかもしれない。
 
 伊東京一の『BIOME(バイオーム) 深緑の魔女』(エンターブレイン、640円)は、圧倒的な自然を相手に生き抜こうとあがく人間たちを描いた物語だ。地表の96%が樹海に覆い尽くされたその星で、人間たちはわずかな土地を切りひらき、国を作って生きていた。襲いかかる虫や動物や植物に対して人間たちができるのは、生態系のを熟知した「森林保護者(フォレストセイバー)」を雇って虫や森を管理したり、ハンターに頼んで害獣を駆除してもらうことくらい。主人公の少女・ライカもそんな「フォレストセイバー」として、樹海を渡り歩いては、そこに暮らす人々を自然の脅威から守ることで生計を立てていた。
 
 立ち寄ったパドゥーラという国で、ライカは大量発生したバンクシアワームを退治するよう頼まれる。持ち前の知識を総動員してワーム発生の原因を探りあてたライカだったが、その向こうにあった、パドゥーラを滅ぼそうとする怨念に根ざした凶悪な陰謀に巻き込まれてしまう……。自然を熟知して、これを制御するライカの姿は『風の谷のナウシカ』のヒロイン、ナウシカとも重なるけれど、ライカが頼りにするのは虫と心を通わせる力なんかじゃなく父親譲りの知識と行動力のみ。時には金品を奪って逃げ出すことも厭わないしたたかさもあって、高潔なナウシカとは違った力強いヒロイン像を見せてくれる。
 
 パズルのように入り組んだ生態系を解き明かしていく楽しみのなかで、自然のすさまじさと人間のおろかさをひしひしと感じさせる重厚な1冊。「第2回ファミ通エンタテインメント大賞」入賞作。

(タニグチリウイチ/書評家、新聞記者 http://www.asahi-net.or.jp/~WF9R-TNGC/)

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電撃ゲーム小説大賞の<金賞>受賞者の新・神話大系、開幕!

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 TVアニメのヒロインを思わせる巫女さん姿の美少女イラストに、ふしぎな能力を持った少年が幼なじみ美少女のせいで事件に巻き込まれていくストーリー。渡瀬草一郎の『パラサイトムーン 風見鳥の巣』(メディアワークス、570円)は、平安時代の陰陽師たちの、呪法を駆使したバトルを描いて好評だったデビュー作の『陰陽ノ京』(メディアワークス、610円)から心機一転。現代が舞台のラブコメにでも挑戦したのかと思ったら大間違いで、ラブはラブでもラブクラフトを思わせる異神と人間との激しいバトルが繰り広げられ、文字通りの驚天動地な展開へと読んでいる人を引きずり込む。
 人間の感情が色で見えてしまう不思議な力を持った少年・希崎心弥は、幼なじみの露草弓に誘われて、弓の父親が生まれ育った徒帰島へと向かう。そこでは「波谷様」という島にだけ伝わる神様が崇められていて、住民にいろいろと恵みをもたらしてくれていた。
 ところが時を同じくして、「波谷様」の言い伝えを聞いて島にやって来てはいろいろと嗅ぎ回る謎の一味があって、心弥と弓はそんな一味と「波谷様」を守ろうとする島民たちとの争いに巻き込まれてしまう。謎の一味が探し求め抹殺しようと企む「迷宮神群」とは何なのか。「波谷様」は「迷宮神群」の関係は。弓はどうして「波谷様」に呼ばれたのか。心弥の力の秘密も含めて数々の謎が明かされた時、人間たちを闇から動かして来た暗黒の神々たちがその姿をのぞかせる。
 有力作家を続々と送り出す電撃ゲーム小説大賞の<金賞>受賞者による新・神話大系、ここに開幕!
 
(タニグチリウイチ/書評家、新聞記者 http://www.asahi-net.or.jp/~WF9R-TNGC/)

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美少女たちが動かす宇宙戦闘艦が強大な軍事国家に挑む

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 戦争は最高のコンテンツだ。CNNが視聴者数を一気に伸ばしたのも湾岸戦争の中継をしたからだったし、今だって戦争が起こると、世界中のテレビマンが危険を省みず大挙して戦場に向かう。戦争の”見せ物性”を『ベトナム観光公社』でいち早く指摘したのは筒井康隆だったけど、多チャンネル化の進展で状況は改まるどころか逆に競争が激しくなっている。そのうち本当に「戦争は我が国の財産だ」なんて言って、サッカーのワールドカップみたいにテレビ局に入札させて巨額の中継料を稼ぐ国が出て来るかもしれない。
 水野良『スターシップオペレーターズ』は、西暦2300年の宇宙を舞台に、戦争を”見せ物”にしなくてはならなくなった若者たちを主役に据えたスペースファンタジー。宇宙強大な軍事国家”王国(キングダム)”に攻められ降伏してしまった惑星国家キビ。その話を研修航海中の新造戦闘艦で聞いて憤った防衛大学士官候補生たちは、乗り込んでいた船を製造元から買い取って”王国”と戦うことにした。もっとも戦闘艦の維持には莫大なお金が必要。そこで船の購入資金や運転資金を出してもらう条件として、宇宙規模のTVネットワークと戦闘の様子を独占中継させる契約を結んだのだった。
 かくして始まった前代未聞の生中継つき祖国奪還戦争。テレビ映りを良くするために艦橋に集められた士官候補生の美少女たちは、時間を気にするスポンサーの理不尽な要求に応えながらも、持てる才能を駆使して巨大な軍事国家へと挑む。シビアでシリアスな戦闘シーンの一方で、頭脳明晰な香月シノンや惑星キビ前首相の娘で策略家の間宮リオら、続々と登場する多彩なキャラクター(もちろん美少女)も大きな読み所。『ロードス島戦記』などで知られる異世界ファンタジーの俊英が宇宙を舞台に挑む新シリーズの開幕を喜べ、読者。

(タニグチリウイチ/書評家、新聞記者 http://www.asahi-net.or.jp/~WF9R-TNGC/)

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紙の本ウィザーズ・ブレイン

2001/03/05 23:38

テクノロジーへの想像力が生み出す魔法の世界

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 テクノロジーのとてつもない進歩が、昔は魔法でしかなかった現象を次々と科学的に解明して来た。だったら現時点では夢や魔法に過ぎない現象が、将来テクノロジーによって現実のものとなる可能性はあるのかもしれない。多分ないだろうけれど。
 電撃ゲーム小説大賞で銀賞を受賞した三枝零一のデビュー作「ウィザーズ・ブレイン」(メディアワークス、610円)が描くのは、特殊な脳「I−ブレイン」が生みだす力で物理法則を自在に操れるようになった「魔法士」たちが活躍する未来の地球。ある事件によって極寒の地と化した世界で、人類は7つだけ残ったドーム都市とその周辺に住んで命を長らえていた。
 ドーム外に住み”何でも屋”のような仕事をしている「魔法士」の少年・錬は、謎の人物から依頼されて神戸シティに輸送中のサンプルを奪う。だがサンプルと言われていたのはフィアという少女で、神戸シティの命運を握る存在だったことから、錬はフィアを取り戻しに来たシティ側の「魔法士」祐一との間で、魔法を駆使した戦いを繰り広げる。
 命の価値を問うテーマの重さ、深さはそれとして、テクノロジーが実現した魔法の描写はなかなか楽しい。近接空間内の全物質の座標、運動量を初期値に3秒先までのニュートン力学的未来を予測する「ラプラス」とか、気体分子の運動を制御し、超低温から超高温まで温度を自在に操る「マクスウェル」とかいった力は、物理用語を聞きかじっただけの耳には妙にリアルに聞こえてくる。可能性の是非は別途考えるとして、テクノロジーへの想像力が生み出す魔法の世界をのぞいてみては如何。

(タニグチリウイチ/書評家、新聞記者 http://www.asahi-net.or.jp/~WF9R-TNGC/)

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紙の本激突カンフーファイター

2001/02/09 03:21

選考委員、よくぞ通した!

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 読み始めて絶句。読み終えて呆然。浮かぶ言葉は一言「スゲエ」。古今の小説を読み尽くして来た強者にも、これが小説初体験という幼子にも、果てしない賞賛かもしくは底知れない罵倒をもって迎え入れられるだろう物語。それがこの本『激突カンフーファイター』だ。
 何がそんなに凄いのか。それは主役のヒーロー「カンフーファイター」が、3歳の女児のワンピースを着て悪人の前に姿を現す筋肉モリモリの70過ぎた爺さんだということだけで分かるだろう。あるいは敵の女ボスが突然、盗んだ札束1億円を積み上げ壁を作り丸めてボールを作って、スカッシュをやり出すエピソードからも分かるはず。
 あまつさえ女ボスはこう言い放つのだ。「この札束の何百分の一のお金で道具を買えばもっといいスカッシュができるのよ」「お金なんて使うこと意味があるの」「郵便局に閉じこめておくなんて可愛そう」。何という論理の飛躍! にも関わらず何という説得力!!
 もちろんこれはほんの一端。全編これナンセンスなギャグのジェットストリームアタックが、あらゆる読者を巻き込んで不条理の彼方へと連れて行く。「富士見ファンタジア長編小説大賞」準入選作。選考委員、よくぞ通した!

(タニグチリウイチ/書評家、新聞記者 http://www.asahi-net.or.jp/~WF9R-TNGC/)

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紙の本グレイ・チェンバー

2000/12/27 03:13

協力して怪物と闘う子ども達の姿を描く青春物語

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 たとえば学園祭の時。旗振り役となってクラスをまとめようと頑張る生徒がいれば、子供には付き合ってられないと非協力的な態度を見せる奴がいる。しょせんは学校の行事、出なくたって命まで取られる訳じゃないというのも正直なところで、そんなシニカルな風潮が蔓延して、頑張ろうと張り切る人たちをスポイルしている状況が広がっている。
 だったらクラスが文字通り命がけで団結しなければならない状況に陥ったとしたら。小川一水の『グレイ・チェンバー』は、そんなシチュエーションに置かれた生徒たちの姿を描く。授業中、突然机の上にあらわれ生徒に襲いかかって来たカエルのような怪物を殺してしまったのが大災難の始まり。怪物を追ってやって来た2人組の言ういには、死に際の怪物がまきちらした情報片に引っ張られて異次元からやって来る別の怪物に、今度はクラス全員が狙われることになるという。
 怪物を倒す力を持った少女を中心に、クラス全員一致団結して戦わなければやられてしまう。そうなった時、非協力がカッコ良く見えるシニカルな風潮を乗り越え、ふざけ合いながらも協力して怪物と戦う生徒たちの明るさと強さが、今時の子供たちだってやればできるんだなんて期待を抱かせてくれる。気恥ずかしいほど青春してる物語。だけど読み終えて嬉しくなる物語。学校嫌いだった人でも、こんなクラスでだったらもう1度、学生やりたくなるかもね。

(タニグチリウイチ/書評家、新聞記者 http://www.asahi-net.or.jp/~WF9R-TNGC/)

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紙の本イーシャの舟

2000/12/04 05:30

天邪鬼に対する恩返しは人類全体への恩返しとなって…

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 罠から助けた鶴は高価な反物を織ってくれたし、傘をあげた地蔵は夜中に宝物を届けてくれた。だったら天邪鬼に親切にしたらどうなるの? 物事をあべこべに取る天邪鬼は恩を仇で返すんじゃないの? 答えはノー。訳を知りたかったら『イーシャの舟』を読もう。
 宮脇年雄は不幸を固めて人間の形にしたような生い立ちの持ち主。父は不明で母とは死別し、借金を抱えた身で廃品回収業を営む老婆に引き取られ、朝から晩まで重労働をこなしている。友人の助けで企業に就職し悲惨な境遇から抜け出そうとしたものの、ある夜、車を立ち往生させていた女性に頼まれて入った沼地で天邪鬼にとりつかれたのが運の就き。就職先で暴れた天邪鬼のせいで借金はさらに増え、年雄は老婆の下で一段の重労働に従事することになる。
 けれども根が優しい年雄は、つきまとう天邪鬼を邪険にせず、世話をし食事をあげて教育まで施す。そんな天邪鬼に対する心からの親切が、やがて人類全体を巻き込む恩返しとなって帰って来る。だからどんな恩返し? その答えも『イーシャの舟』で。
 デビュー作『星虫』に登場した、発掘された宇宙船が消えてしまったというエピソードの詳細が語られ、10年ぶりの新作『鵺姫真話』で過去にタイムトラベルして生死をかけた大冒険を繰り広げる純の子供時代が描かれる。9年ぶりのリメイクで強まった他の2作とのリンク。楽しみたいなら全部まとめて読むのが大吉。

(タニグチリウイチ/書評家、新聞記者 http://www.asahi-net.or.jp/~WF9R-TNGC/)

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