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巽孝之さんのレビュー一覧

投稿者:巽孝之

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模型夜想曲

2002/07/30 14:49

推薦文

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 新人作家のデビューには、とてつもないリスクが伴う。だが、仮に広く受け入れられなくとも、熱狂的な読者がつけば、カルト小説として確立するかもしれない。批評家にとっていちばん怖いのは、いくら感銘を受け、その魅力と可能性を熱っぽく語ったとしても、その新星がデビュー作ただひとつで筆を断ってしまった時だ。逆にいえば、まったくの新人作家に関する評価をいかに定着させていくかにこそ、批評家最大の醍醐味があるといってよい。

 その意味で、ここにご紹介する新人作家・白鳥賢司とその第一長篇『模型夜想曲』に関する限り、何ひとつ心配する必要がないのは、まったくうれしい限りだ。同書解説にも書いたように、彼は一九七〇年生まれのウィーン育ちで、大学時代にはわたしのアメリカ文学ゼミに在籍していたが、だからといって揚げ底めいた褒め言葉を連ねる必要は、いささかも感じなかったからである。

 もちろん十人十色、趣味の問題はあるだろう。けれど、もしもあなたがポウやブレイク、ボルヘス、ディックやスティーヴ・エリクソン、スティーヴン・ミルハウザー、我が国では澁澤龍彦や中井英夫、寺山修司といった作家たちを、そのすべてでなくてもいい、ひとりでも愛読してやまないならば、ぜひとも手に取ってほしい。これはまぎれもなく彼らと文化的遺伝子を共有する真の幻視者の文学、あなたのための本だ。幻視者とは、現実の内部に何らかの神秘的本質を「視てしまった人々」を指す。もう二度とあともどりはできず、ただひたすらにそこで得た「宇宙の真理」を「書き続ける」しかない作家たち。本書が時として探偵小説から幻想小説、SF、果てはスプラッタ・ホラーにすらズレこんでいくように見えるのは、必ずしも計算ずくのジャンル論的境界解体でもなければマーケット論的模索の成果でもなく、作家本人が本質的な幻視者であるがために必然的に採らざるを得なかった方向性なのである。

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