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先月(2017年4月)

町田康さんのレビュー一覧

投稿者:町田康

1 件中 1 件~ 1 件を表示

霊魂の嵐のなかで無目的な語りが響く

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 パーソナルな、といえばよいのだろうか、新聞雑誌テレビラジオなどでは絶対に報道されぬのだけれども、まあそういうこと、という情報がある。なぜ報道されぬのかというと、まあ、その価値がないからで、情報といって、取るに足らぬ、くだらない情報なのだけれども、例えばどんなことかというと、この並びにはまつ万といううどん屋と八重といううどん屋があって、まあ、まつ万の方がうまいと思って間違いない、といったようなことであり、こういうのは穏健な、というか、本当にもう、心の底からどうでもよい話であるが、なかには奇怪な話もあり、例えば、といって俄に思いつかない、まあ、例えば、これはいま我が考えた話だけれども、三味線の皮を破るとひからびた黒いものが入っている。これは普通、乾燥したバナナなのだけれども、稀に干涸らびた指であることがあって、これは非常に音がよい。なんてなことをいう。或いは、市販の炊飯ジャーで炊いた飯を三年食うと色魔になる、とか。

 はっきりいってアホらしい。何の意味も目的もない話で、この話をすることによっておっさんがなんにかの利益を得ることもなく、したがって、こういう話をしているおっさんの口調はいつも淡々としたものであり、その目は澄みわたっている。この話をするおっさんの行為は最初から最後まで無私、無償の行為である。そしてその背景になんらの思想も信条もなく、ただ荒涼とした礦野、平生の虚無が展開しているばかりである。

 同様にこれは怪談咄ではない。なぜなら怪談咄の主役は、たとえそれが見かけ上のことであっても因果・因縁であるからであるが、現実に絶望したような、したがってドライで明るい文章は因果・因縁にまるで興味を示しておらず、それよりは、おっさんの話にでてくるような、とるにたらぬ、実にリアルであるのにもかかわらず、ドラマや映画の小道具としては見過ごされがちな日常生活のなかの細物や、変形する人体などを、いかにも物として語っているからで、したがって話は唐突に終わるのであり、ひっひっひっ、その断面にグロテスクな俺らの想念が。現代版「怪談・奇談」 (bk1ブックナビゲーター:町田康/作家・パンク歌手 2000.7.11)

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