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松浦晋也さんのレビュー一覧

投稿者:松浦晋也

26 件中 1 件~ 15 件を表示

お詫びと訂正:ゼンガーではありません。ツィオルコフスキーです

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

「宇宙からのパスポート」に解説を書いている松浦と申します。本日はとても恥ずかしいミスを訂正するために出てきました。

本文中に「ロケットというすさまじき乗り物」というコラムがあります。ロケットがいかにとんでもないエネルギーを消費してやっとこさ宇宙の「底」にかろうじて届いているということを数式も含めて説明したコラムです。

その中に「ここらへんの関係を、はじめて計算で示したのは20世紀前半に活躍したロケット工学の先達、オイゲン・ゼンガー博士だった。」という一文があります。

これが大間違い!いや、数式そのものは合っています。

間違えたのは人名です。ゼンガー博士ではなく、この式を導出したのはこれまたロケット工学の先達、コンスタンチン・ツィオルコフスキーなのです。

したがって上記の文章は以下のように訂正したいと思います。

「ここらへんの関係を、はじめて計算で示したのは19世紀から20世紀前半に活躍したロケット工学の先達、コンスタンチン・ツィオルコフスキーだった。」

以下同コラムには「ゼンガー」と数回出てきますが、すべて「ツィオルコフスキー」です。お詫びいたします。

全く持ってどうしてこんな恥ずかしい言語道断の間違いをしてしまったものか、物書きの端くれとして反省することしきり、反省猿になってしばらく寒風に吹かれていたい気分です。申し訳ありませんでした。

「宇宙からのパスポート」は皆様のおかげをもちまして増刷が決まりました。上記の間違いも増刷分では直る予定です。H−IIA2号機打ち上げというタイミングの良さもあったのでしょうが、それにしてもうらやむべきは著者である笹本さんの運の良さ。畜生め笹本、俺の書いたロケットの本(「H−IIロケット上昇」好評絶版中)は初版で終わってしまったというのに、うぬれ笹本、許すまじ笹本。

いやいや、この本でお金をもらっている者として、「宇宙へのパスポート」が売れることはうれしいことです。この本には打ち上げ現場の生々しい空気が詰まっています。まだ読んでいない方はぜひとも読んで、その突き刺すような緊張感と高揚感を幾ばくなりとも味わってください。

そして空を見上げることがあったら、そこは連続的に宇宙につながっているのだと思ってください。宇宙は冬空のちょっと上、ほんとうにすぐそこなんですよ。

その上で、もしよろしければ「宇宙からのパスポート」を友人親兄弟先輩後輩恋人家族に薦めていただけるととってもうれしいです。

ああ!間違いをあやまる文章なのに図々しいお願いをしてしまいました。
(松浦 晋也 ノンフィクション・ライター)

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誰もが思っていて言わなかったことを言った一冊

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 戦後日本はただ1機種だけ旅客機を開発した。その旅客機「YS-11」は2006年までに全機引退する。YS-11以降、日本は旅客機を作っていない。
 なぜ日本は旅客機を作らないのか。いや、作れないのか。本書はその疑問を戦後日本の航空史をたどりつつ検証する。戦前から戦中にかけて日本の航空機産業は零戦に代表されるように軍用機で華々しい成果を挙げた。それなのに戦後は、自動車産業や家電産業のように世界へと進出していけなかったのはなぜなのだろうか。
 本書を読んでいくと、その理由が少しずつ明らかになっていく。レシプロエンジンからジェットエンジンへの切り替え時期にアメリカ占領により航空研究を禁止されて決定的に技術で後れをとったこと、航空機産業を長期的視点から育成する政治方針がなかったこと、通産省と運輸省が激しく利権を争って効果的な施策を打ち出せなかったこと、軍用機製造に慣れたメーカーがまったく分野の異なる民間機の製造販売についに適応できなかったこと——どれも一部の関係者の間では語られていたことだが、こうやって一冊の本にまとまるのは初めてだろう。それぞれの理由は実例を持って語られており、説得力がある。特に三菱重工業が、YS-11以降に開発した民間機「MU-2」と「MU-300」については、類書が存在しないので、本書の記述は貴重なまとめになっている。
 しかし、読了して思うことは、本書のプロローグ35ページ以降に書かれていることが真の原因ではないかということだ。つまり、航空機産業は「会社を潰しても飛行機を作りたい」という強烈なチャレンジ精神が本質的に必要な分野であり、国にもメーカーにもそれだけの激しさがなかったのだ。
 航空機を作るという夢は、深く激しく、業にも似ている。その実現にはすべてを燃やし尽くし灰になってもなお夢見るだけの執念と体力を必要とする。本書が描いたのは、「結局のところ夢を追いきれなかった戦後日本」という悲しい肖像画なのである。
 航空関係者、航空ファンのみならず、バブル崩壊後の日本に不安を抱いているすべてのビジネスマンにお薦めする。

(松浦晋也/ノンフィクション・ライター)

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人生の1/3を知るための必読書

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 寝る時間が惜しいという人はいるだろう。また寝ると怖い夢を見るからイヤだという精神状態に陥る人も多分いるはずだ。
 けれども、寝ること自体がそもそも嫌いという人はまずいないのではないか。
 いや、そもそも寝ることから逃れられる人はいない。好む好まざるにかかわらず私達は眠る。

 では眠るということはどういうことなのか、その時我々の心身はどのような状態にあり、睡眠前と睡眠後になにが変化するのか、本書は誰もが毎日している睡眠という行動を、やさしく解説したものだ。著者のデメントは、睡眠中に眼球が激しく動くREM睡眠の発見者。睡眠研究の先駆者だ。

 一読して感じるのは、睡眠という毎日している行為であるにもかかわらず、いかに多くのことを知らなかったか、という驚きだ。自動車を運転している時に眠気を感じている状態では、10秒程度の瞬間的な睡眠に陥っている可能性が高く、重大な事故につながるということ、あるいは睡眠時に喉が狭まって呼吸ができなくなる睡眠時無呼吸症はかなり普通に見られる病気で、多くの不定愁訴の影にはこの病気が隠れている可能性がある——などなど、「そうだったのか!」と膝をたたくような知見が、著者の研究の経緯を含めて紹介されている。
 睡眠負荷という概念で、睡眠不足を測ることができるというのも評者にとっては目から鱗の新鮮な知見だった。巻末には自分の睡眠の質を診断するテストと睡眠の質を改善するための処方も掲載されているので、一種の実用書として読むこともできるだろう。

 眠らない人はいない。だから万人向けの良書だ。もしも睡眠でなんらかの問題を抱えているのなら必読だ。眠りを知るということは人生の1/3を知るということに他ならないのだから。

(松浦晋也/ノンフィクション・ライター)

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数学マニアなら必読、一攫千金を狙う向きもどうぞ

2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 数学というと「頭がいたくなる」人が多い一方で、「実は結構好きでして」という人も決して少なくはない。全国各地の神社に奉納された算額を見ても分かるように、昔から日本人はけっこう数学が好きだった。

 本書は、そんな数学マニアたちにお薦めの一冊である。クレイ数学研究所は2000年5月に、「これらの問題を解決した者にそれぞれ100万ドルを進呈する」として7つの難問を提示した。それらの問題を解説した本だ。100万ドルですよ。今の為替レートなら1億2000万円だ。数学で一攫千金なんて、なかなか素晴らしいと思いませんか。

 20世紀初頭に数学者ヒルベルトが提示した諸問題とその解決の歴史を見てもわかるように、数学は「未解決の難問提示」と「その解決」というプロセスを繰り返してきた。クレイ数学研究所の7問題は、まさに20世紀の数学史でヒルベルトの問題が果たした役割を、21世紀においても再現しようというものといえる。

 だから選ばれた7問題は、なかなかどうして半端なものではない。リーマン予想、ポアンカレ予想のような数世紀越しの難問から、P≠NP問題、バーチ・スウィンナートン・ダイアー予想のように20世紀に入ってから浮かび上がった難問、ヤン-ミルズ方程式の質量ギャップ問題のように宇宙論の進展から引き出された問題、さらにはナビエ・ストークス方程式の解の存在問題やホッジ予想のように古くから知られていたが最近重要度が増してきた問題と、非常に多彩で難解だ。しかし、本書では一切手抜きのない解説がなされているので、あなたが数学マニアを自認するならば、本書を読み進むことでそれぞれの問題の核心を理解することが可能なはずだ。

 正直、どれも解ければフィールズ賞ものの難問である。だからといってあきらめるのは早いだろう。100万ドルという金額が微妙に我々の欲望をくすぐるではないか。数学マニアなら必読、もちろん「頭が痛くなっても100万ドルが欲しい」向きもどうぞ。

(松浦晋也/ノンフィクション・ライター)

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実例に即して語るエンジンの神髄

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 日野自動車で長年自動車用エンジンの研究に携わった著者による、『20世紀のエンジン史』に続く第二弾——ではなく、1989年に出版された本の再発売だ。こちらが『20世紀のエンジン史』の前著ということになる。若干の追加はあるものの、基本的には1989年版と同じ内容である。
 だからといって内容が古びているということはない。成功例に失敗例、とにかく実際に開発されたエンジンを分析していく手際はエキサイティングかつ見事だ。そこここに、自らのエンジン開発体験からくる知識が生きており、開発経験を持たない自動車評論家よりも明らかに、二歩も三歩も踏み込んだ分析を展開している。
 第一次世界大戦の航空機エンジンの主流だったロータリー・ピストン・エンジンはどこが合理的だったのか、ダイムラーベンツのV12気筒航空機エンジンを日本がまともに生産できなかった理由はどこにあるのか。高級車の生産で「自動車の王様」と称された米パッカード社は、なぜ倒産の憂き目を見たのか。スピルバーグの映画「タッカー」で有名になった自動車「タッカー」は、設計上どこに問題があったのか。著名なデザイナー、ミケロッティにデザインを断られた乗用車「日野コンテッサ」は結果としでどのような独創的なエンジン冷却法を採用することになったのか。かつて一世を風靡した星形エンジンに新たな将来性はあるのか——話題が多方面に渡りすぎて散漫気味ではあるものの、どの題材も技術者や機械好きなアマチュアにとってたまらなく興味深いはずだ。しかし実例を実体験を持って語られると、なぜこうも面白いのだろう。
 活字が大きく図版が充実しているので、機械好きな大人だけではなく、模型が好きな少年へのちょっと背伸びしたプレゼントとしても好適だ。中途半端に抽象化されている学校の理科や技術科の教科書にはない面白さが、本書にはあふれている。

(松浦晋也/ノンフィクション・ライター)

【関連書籍】
鈴木孝著『20世紀のエンジン史』三樹書房

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ユーモアと共に回想する米社会の機会平等主義

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 アポロ17号の船長として1972年12月に月に向かい,今の所「月に最後の足跡を残した男」であるジーン・サーナンの自伝。アポロ計画関係者からは様々な回想録が出ているが,本書は計画そのものではなく,サーナン自身の生い立ちとアポロ計画で体験したことを,ユーモア混じりの文体で淡々とつづっている。もちろん当事者でなければ知り得ない宇宙飛行士達の確執や葛藤などの記述もあり,それだけで貴重な資料となっている。
 しかし本書の価値は,サーナンがどのように自分を鍛え上げて経歴を重ね,宇宙飛行士になったかという部分にある。祖父の代にチェコスロヴァキアからやってきた移民の子供が,軍の教育制度や大学の奨学金システムを利用して,アメリカ社会のエリートへと自分を鍛え上げていく過程は,アメリカ社会の機会平等で開かれた側面を教えてくれる。
 翻訳は固有名詞にもう少し配慮が欲しかった。ケネディ宇宙センターの通り名であるThe Capeを「岬」と直訳してしまうのは頂けない。

(松浦晋也/ノンフィクション・ライター http://www.bekkoame.ne.jp/~smatsu/)

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紙の本アインシュタインの宿題

2000/08/29 02:20

本物の勉強への足がかりに

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 相対性理論を,アインシュタインが折々に残した言葉を手がかりに解説した本。章ごとにマンガも挟んだあたりの柔らかい構成で一気に読むことができる。
 特殊相対論から一般相対論,そして宇宙の構造を記述したアインシュタイン方程式と多彩な相対論の世界を,アインシュタインの思考の軌跡に沿って一つひとつ解きほぐしていく。相対論の核心が「世界をとらえる思考の大転換」であることを実際の物理現象に即して教えてくれる。数式は最小限だが,押さえるべきところはしっかり記述してある。しかも非常にわかりやすい。有名なE=MC2という公式を高校並みの知識であっさり導出しているのには驚かされた。相対論に挑んだものの理解できなくて悔しい思いをした人は一読の価値あり。また,「ゆとり教育」のせいで年々薄味で不徹底なものになりつつある学校理科に物足りない思いをしている中高生が,「本物の勉強」への足がかりとするのも良いだろう。

(松浦晋也/ノンフィクション・ライター http://www.bekkoame.ne.jp/~smatsu/)

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月に関する最新の科学的描像を得たいとき、2冊目に読む本

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 月そのものにについての最新の科学的描像を知りたいと思ったときに2冊目に読むべき本だ。
 月は地球にもっとも近い天体であるにも関わらずその実態は意外なほど知られていない。一般の興味は潮汐を初めとした地球とのとの相互作用や、民族学的な月のイメージといった、月と人間の関わりといった部分に集中しがちで、実際、大部分の月関連書籍はそれらの記述に多くを割いている。科学探査の分野でも、地図作製用探査機が周囲を回っている火星のほうが、月よりも細かい地形が判明しているほどだ。
 とはいえ、アポロ計画で持ち帰られた岩石の研究などを通じて、月の科学的理解は徐々に進んでいる。本書はそれらを理解しやすい形でまとめている。まず、別の解説書で月全体のイメージをつかんでから読むと、よりいっそうの理解が得られるだろう。類書が少ないだけに貴重な一冊だ。
(松浦晋也/ノンフィクション・ライター http://www.bekkoame.ne.jp/~smatsu/)

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入門量子コンピュータ

2002/10/25 22:15

日本初の量子コンピューティングの入門書

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 ここ数年、量子力学ならではの現象を利用して既存の技術では思いもよらなかったことを実現するという研究が進んでいる。超高速演算を可能にする量子コンピューティング、原理的に盗聴不可能な量子通信、究極の暗号である量子暗号、さらには特定の粒子を遠隔地に「転送」する量子テレポーテーション——どれも実用化したならば、社会に大きな影響を与えるであろう技術だ。しかしそれらの実態は「量子」という言葉の向こうに隠れており、今ひとつきちんと理解されているとは言い難い。例え技術者であっても「なにかすごそうな、しかし自分の仕事に関係するのはずっと先のこと」という認識ではないだろうか。しかし、いざ自分の仕事の領域に関係してきた時には、最先端ははるかに進んでしまっており追いつくのが困難になっている可能性もある。今からこれら量子技術に対するきちんとした定量的理解をしておくことは決して無駄ではない。
 本書はおそらく日本語で読める最初の、そして現在のところ唯一の量子コンピューティングの教科書である。一般科学解説書ではなく教科書である以上、その内容は一切の手加減なし。本書を理解するためには、最低でも電子工学と情報科学の基礎、そして量子力学に対する理工系大学卒業程度の知識が必要だ。チューリングマシンとブール代数に関する準備体操的な説明の後に、いきなり量子デバイスを使った計算アルゴリズムの解説に突入するあたりなかなかハードだし、著者が多いせいか各章の間で記述が系統立っているとは言い難い。しかし文章は平易で翻訳もこなれているので、基礎知識さえ確実ならば、量子コンピュータとはなにかを理解できるだろう。
 正直なところ評者も本書の内容を完全に理解するには至らなかった。ただし、キュービット(量子コンピューティングにおける「ビット」と同等の概念)が頭の中でイメージできるようになると、その先もおぼろながら理解できるようになった。あきらめずに読み進み、来るべき未来をかいま見てみよう。

(松浦晋也/ノンフィクション・ライター)

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「ルネサンスの幕を開いた」天才建築家の魅力的な生涯

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 イタリア・フィレンツェのサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂には、石造としては世界最大のドームがある。直径42m、高さは91m。通称「ドゥォーモ(大聖堂)」と呼ばれる八角形のドームの建設は「中世の幕を閉じルネサンスの幕を開いた」と評価される偉業だった。1296年に最初の礎石が置かれた時、あまりの巨大さゆえ誰も本当に完成すると信じていなかった建築物が1436年に一応の完成を見るためには、一人の天才が必要だった。本書の主人公であるフィリッポ・ブルネレスキである。

 本書の魅力はまずブルネレスキの異形のプロフィールにある。背は低く顔は悪相、猜疑心と嫉妬心が強く生涯独身、しかして当時の機械技術の水準を超えた土木機械をいくつも設計製作し、ドームに適切な力学的な構造を与え、ついに巨大なドームを完成に持ち込む天才建築家。本書はそんなブルネレスキの生涯を、ドームの建築過程、さらにはブルネレスキがドームの構造に込めた数々の工夫とともに追っていく。

 異形の天才の行動は、周囲の人々を波乱の中に巻き込まずにはおかない。さらには彼の業績である大聖堂の存在そのものも、歴史に大きな影響を与えていくのだ。大聖堂に子午線観測の仕組みが組み込まれ、それが航海図の高精度化に貢献して大航海時代の基礎となったという指摘には、恐れ入ってしまった。

 大変優れたノンフィクションだ。文系の人も理系の人も読もう。奇矯の人ブルネレスキに注目して読んでも面白いし、ドームの構造やブルネレスキがドーム建設のために製作した土木機械の構造を読み解いていくのも面白い。その結果立ち現れてくるのは、不可能と思われる目標を、たゆまぬ努力でクリアしていく人間の精神の偉大さである。確かに大聖堂の建設は「ルネサンスの幕を開いた」のだ。

(松浦晋也/ノンフィクション・ライター)

【目次】
1 美麗かつ堂々たる聖堂
2 サン・ジョバンニの金細工師
3 宝探しの男
4 でたらめで笑止千万
5 宿敵たち
6 名もなく家柄もなく
7 前代未聞の機械
8 抗張力環
9 太っちょ大工の物語
10 五分尖頭(クイント・アウト)
11 れんがとモルタル
12 環から環へ
13 アルノの怪物
14 ルッカの水攻め
15 不運の連続
16 献堂式
17 ランタンの設置
18 偉大なる天才、ここに眠る
19 喜びのねぐら
年表 / ノート / 参考文献 / 謝辞 / 索引
訳者あとがき

【関連書】
ジョヴァンニ・ファネッリ著『イタリア・ルネサンスの巨匠たち 7 ブルネレスキ 新しい空間の創造者』東京書籍
辻茂著『遠近法の誕生 ルネサンスの芸術家と科学』朝日新聞社
岡崎乾二郎著『ルネサンス経験の条件』筑摩書房

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図版を通じて19世紀の人々が感じた驚異を楽しむ

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 一般に機械文明は20世紀に入ってから進展したと思われているが、その萌芽はすでに19世紀にあった。自動車も映画も電話も無線通信も、すべて19世紀に発明されたものだ。本書はそんな19世紀のさまざまな発明を描いた当時の図版を集めたもの。原著は1971年に出版され、77年に「ヴィクトリアン・インベンション」という題名で邦訳されている。92年にも再出版されており、今回みたび邦題と版元を変えて出版された。

 内容は非常に多彩だ。自動車のように今や社会を支える一大インフラストラクチャとなっている発明から、「口ひげ保護器」「携帯用シャワー」のような大バカ発明までが図版とともに紹介されている。収録の方針は「手当たり次第なんでも」らしい。すべてが実際に作られたものではなく、コンセプトスケッチと思しきものや結局実現しなかったものも収録されている。

 本書の魅力は、まずなによりも多数収録された当時の図版にある。時代からいえばすでに写真が一般化しているのだが、本書ではあえて写真ではなく図版を集めている。このため新しい発明の内容のみならず、「その発明を当時の人がどのように見ていたか」という人々の視点をも読みとることができるのだ。電球を使って喉の奥を診察する医師というような、今となっては当たり前のことが細密なタッチで描かれているのを見ると、当時の人々が次々と出現する新発明に対していかに大きな驚異を感じていたかを理解することができる。量的にはやはりというべきか、自動車、自転車、船舶、飛行機械といった移動手段が多数を占める。19世紀の特徴は、なによりも移動速度の高速化だったということなのだろう。

 本書に横溢する未来への期待感は、そのまま20世紀につながり、2回の世界大戦と爆発的な科学技術の進歩へとなだれ込んでいくことになる。できればレトロ・フューチャーな感覚を楽しむだけではなく、当時の人の気分になって機械がもたらす漠然としたわくわくする気持ちを追体験しながら読みたい一冊だ。

(松浦晋也/ノンフィクション・ライター)

■本書に収められた図版を一部ご紹介します。
八方破れ型飛行機死体の電気メッキシャワー式自己鍛錬器テスラーの高電圧実験

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追悼コメント

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 「グールド」で最初に思い出すのが、ピアニストのグレン・グールドという私は、決してスティーブン先生の良い読者ではなかった。それでも「ワンダフルライフ」は読んでいる。感心しながら読んだ。
 この本の魅力は 絶妙な語り口はあるにしても、なによりも題材——奇怪にして魅力的なバージェス生物群だろう。それは「あり得たかも知れないもう一つの生命」という夢を我々に見せてくれる。スティーブン先生はなによりも、どこのツボを押せば読者を生物の世界に招き寄せられるかを熟知していた。その影響力たるやたいしたもので、tanomi.comでアノマロカリスのぬいぐるみが人気を集めたときには心底びっくりした(NHKの科学番組と言うには感傷的過ぎるアレはとりあえず忘れよう)。
 「あり得たかも知れないもう一つの生命」へのあこがれは、そのまま宇宙生命への興味とつながるはずだがスティーブン先生はそこには踏み込まなかった。一歩手前で留まったのだ(なにの?)。しかし留まる必要を感じない人種の中には「ワンダフルライフ」に影響されて、そっちに行ってしまった人がいる。清原なつののマンガ、その名も「ワンダフルライフ」は母星を失い地球に漂着した宇宙人のおとうさんと地球人のおかあさん、ハーフの娘という家族が織りなすコメディだ。おとうさんは滅んでしまった自分の星の生物を復活させるプロジェクトに寄付を続けている。
 滅んでしまった生き物を思って空を見上げるおとうさんの姿は、ちょっとだけスティーブン先生を思い起こさせる。的確な語り口の後ろには、常に生命をいとおしむという感覚があったように思えるから。

 享年六十。「長生きして欲しい人ほど早く死ぬ」というジンクスは、また一つ実例を増やしてしまった。合掌。
(松浦晋也/ノンフィクション・ライター)



■スティーブン・ジェイ・グールド氏が5月20日急逝されました。ご冥福をお祈りいたします。(bk1)
■追悼・スティーブン・ジェイ・グールドはこちら

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ITの基本をその足腰から徹底解説

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 題名だけだと環境問題の本かと思えるがさにあらず、地球全体をおおうまでになった情報テクノロジーに関する解説書である。全部で228ページの中に、必要な知識がほぼすべてコンパクトにまとまっている。

 特徴は、基礎の基礎からきちんと解説しているということだ。半導体はどのような仕組みで動作するのか、光ファイバはどのようにして作るのか、メールサーバーはどうやってメールを配信するのか、バーコードは何を表しているのか、コンピューターの内部はどのような回路構成になっているのか、携帯電話はどのようにして周波数を利用しているのか——などなど、IT技術の基本となる技術の核心を、おそらくはこれ以上簡単にしようがないといえるほど簡明に説明している。

 世間には高年層をターゲットにしたIT解説本があふれているが、本書のようにきちんとインフラストラクチャの基礎の基礎に当たる部分から解説した本は少ない。その意味では非常に貴重であり「メールを使ってみよう」「ホームページを見てみよう」といったよくあるタイプのIT本とはかなり趣の異なる、ずっしりとした内容を持っている。

 もしもあなたが、ITに出遅れたと感じている中高年ならば本書は必読といってもいいだろう。それまで薄気味の悪いブラックボックスと思えていたIT技術が、地味で巧みな技術の積み重ねで実現してることが理解できるはずだ。

(松浦晋也/ノンフィクション・ライター http://www.bekkoame.ne.jp/~smatsu/)

【目次】
I コンピュータの基礎を徹底的に理解する
II コンピュータを安心して使う方法
III どんな技術的ブレイク・スルー(突破)があったのか
IV コンピュータ的発想法を身につけよう
V IT技術の賢い利用方法
VI ITで世界はどう変るか
VII ITの未来像とソフトウエア

★詳しい情報はこちら→【はじめに】(上) (下) 【目次】

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ジパング江戸科学史散歩

2002/04/02 15:27

江戸の学者達の業績を鳥瞰する

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 明治以前の日本で、自然科学はどのように進歩してきたのかという命題を、46人の学者、実践家の足跡をたどることで鳥瞰しようとした本だ。その人ゆかりの地に赴いて現在の状況をエッセイ風に描き、同時に業績を紹介していく。紀行読み物でもあり、日本の科学史を概観するガイドでもある面白い一冊である。

 登場するのは平賀源内や佐久間象山といったよく知られた人物から、渋川春海(天文と暦)、最上徳内(蝦夷地探検)などの特定分野に興味のある人なら知っているであろう人、そして伊能忠敬以前に日本地図を作製した長久保赤水や、放浪する和算の天才、山口和などほとんど知られていない人と多彩だ。著者の興味は明治にまで至り、野口英世や長岡半太郎までを描いて、46人目の宮沢賢治で筆を置く。

 本書を読むとさまざまな天才が日本にはいて、それぞれの興味の赴くままに知見を積み上げてきたことがわかる。その業績は18世紀以降の西欧に引けを取らないほどだ。本書は人物本位の日本の科学史入門として読むのにちょうどいい。もしも興味があるのなら、著者のガイドに従って現地を尋ねるのもいいだろうし、さらにはそれぞれの個人についての本を探して読み進めるのもいいだろう。

 通読してもっとも強く感じるのは、「これほどの才能ある人々が努力を重ねていたにもかかわらず、なぜ日本では綿密な体系としての科学が成立しなかったのか」という疑問である。例えば和算の分野では、独自のやり方でさまざまな関数の多項式展開を可能にし、行列式を思いつくまでになっていた。しかしそれが一般の方程式論に結実することはなく、まして無限を扱って微分積分を体系化することはなかった。結果として産業革命は起きず、ペリー来航と共に共同天地の大騒ぎとなる。

 知性が足りなかったということではない。では日本には何が欠けていたのか、あるいは何が過剰だったのか。
 軽く読める本だが、内容について考え出すとかなり重い文化的な疑問に突き当たる一冊である。

(松浦晋也/ノンフィクション・ライター http://www.bekkoame.ne.jp/~smatsu/)

【目次】
散歩のまえに
第一部◎西国篇
八板金兵衛 / アルメイダ / 毛利重能 / カルロ・スピノラ / 吉田光由 / 貝原益軒 / 宮崎安貞 / 稲生若水 / 山脇東洋 / 麻田剛立 / 平賀源内 / 本木良永 / 橋本宗吉 / 華岡青洲 / 岩橋善兵衛 / 古川古松軒 / シーボルト / 飯沼慾斎 / 高島秋帆 / 緒方洪庵 / 島津斉彬
第二部◎東国篇
三浦按針 / 支倉常長 / 関孝和 / ジュゼッペ・キアラ / 渋川春海 / 長久保赤水 / 杉田玄白 / 礒村吉徳 / 本多利明 / 佐久間象山 / 安島直円 / 会田安明 / 最上徳内 / 藤田貞資 / 山口 和 / 伊能忠敬 / 下岡蓮杖 / 伊藤圭介
第三部◎明治以降
エッセル / 南方熊楠 / 田辺朔郎 / 野口英世 / 長岡半太郎 / 寺田寅彦 / 宮沢賢治
散歩のあとで

★詳しい目次はこちら→【目次】

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ライト兄弟の思考過程に迫り、航空機の誕生を追体験す

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 航空機誕生にあたっての思考を追体験できる非常に面白い本だ。
 1903年12月17日、風の強いキティーホークの浜でライト兄弟の手により最初の飛行機が飛んだ。それまでも飛行機械は数々試みられ、その一部は短時間のジャンプにも成功していた。しかし動力を用い、自由に操縦可能という条件を満たしたのはライト兄弟が初めてだった。

 本書はライト兄弟が成功に至るまでの過程を、当時の流体力学の発達を踏まえて追っている。ライト兄弟が飛行機械開発を決意した当時、そもそも、なぜ翼が揚力を発生するかすら分かっていなかった。粘性と圧縮性を持つ実在流体の中を翼が運動するとき、どのような力が発生するのか、誰一人として理解していなかったのである。兄弟は不完全な理論を実験で補い、ありとあらゆる知恵を絞ってライト・フライヤーを成功させたのだった。その過程はとてもスリリングだ。流体力学についてある程度の理解がある人ならば、知的興奮に巻き込まれること間違いない。

 たとえ流体力学を理解していなくても、19世紀末から20世紀にかけての技術者と科学者の肖像とそれぞれのからみを読んでいくだけでも面白い。偉大な実践家だったがエンジニアとしてはなにかが欠けていたリリエンタール、ライト兄弟への協力を惜しまなかったシャヌート、ライバルとして兄弟の前に立ちふさがるラングレー教授、そして飛行成功後のビジネスにおいて仇敵となったカーチス——個性の強いパイオニア達が興味深いドラマを織りなしていく。

 本書の末尾はライト兄弟が飛行機の特許に固執して、結果として時代の波に乗り遅れる様を描いている。しかし著者が兄弟に向ける視線は暖かい。たとえ寂しいその後であったとしても、飛行機の製作に熱中していた時の彼らは、間違いなく一流の才能だったとする意見は深くうなづける。
 すこしでも飛行機に興味があるならば読んで損はない。工学部の学生なら必読といえるだろう。

(松浦晋也/ノンフィクション・ライター http://www.bekkoame.ne.jp/~smatsu/)

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