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先月(2017年6月)

関川夏央(作家)さんのレビュー一覧

投稿者:関川夏央(作家)

1 件中 1 件~ 1 件を表示

紙の本奥本大三郎自選紀行集

2002/01/11 13:15

生きた青い銀紙のような先生

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

「私はギンヤンマの飛ぶ姿さえ見れば幸福なのである。子供の時からそうであった。大人の今もそうである」
 奥本大三郎先生は、青い銀紙のような熱帯のチョウチョや、南フランスのフンコロガシや、大阪郊外のカブトムシを見ても幸福なのである。要するにムシならなんだっていいのである。
 いやとなったらテコでも動かない。がさつなやつに会うと、ホントに額に青筋が浮かぶ。そのくせ、ムシを見に行くといいさえすればドコヘだって出掛ける。そしてムシと出会うと、それこそ「舌切り雀の善い方のお婆さんのように」喜ぶのである。
 それにしても、蚊柱立ち、人を呑む水棲大蛇うごめくアマゾン河からアフリカのサバンナ、果てはブータンの深い谷間までムシ見物とは驚いた。
 西洋人はアフリカヘ行くと地平線を見るという。それは弱肉強食の世界観、肉食獣や草食獣を撃う姿への期待のあらわれである。できうべくんば、草食獣群中に自ら雄叫びあげてとぴこんで行きたいのである。
 日本人もアフリカで地平線を見る。それは西洋人の悪影響である。「我々日本人は自然をそんな風に見てきたであろうか」と先生はいわれる。「草の葉に溜まった露の玉、それを飲もうとするツユムシ−− 日本人の目の特質は、本来、自然の細部を見ることにあるのではなかったか。細部にこそ神は宿るという」
 偉大かつ精密な自然に、愛着と畏怖とを等量抱く火山列島の民のひとりとして先生は、ゆえに、「いわばアフリカの花鳥風月を味わおうと考えた」のであった。
 ムシとりに地の果てまで出掛けたはずなのに、当地にムシ屋さんがあれば標本は買って済ませ、あとはすんなり飲み食い昼寝に転向する。そんな自在さもまた日本人たる先生のエラいところだが、この人、グルメというより悪食である。ネズミのカラアゲからセミの油炒め、アリのスープまで食べる。人の道をはずれているとしか私には思えないのだが、そのおなじ口で、「ソリチユード」などという名のワインを味わうのである。「液体の中の微粒子が舌に感じられるような、ゆっくりと噛みたくなるような、実体のある、重い、香りの高いワインである」「畑の赤い土、プロヴァンスの青い空を想い浮かべる」
 先生(いくつも年が違わないのに、つい「先生」と呼びたくなつてしまうのは、すでに位負けしているわけだが)は、ジプシーの占いおばさんによると八十六歳まで生きられるそうだ。それはよい。それはよいが、先生を「妬んでいる人間がいる」らしい。
 なにを隠そう、私だ。私が妬んでいる。『八十日問世界一周』の主人公フィリアス・フォッグのようにつねに上品にわがままでおられる奥本大三郎先生を、いつもいやいや有能な助手パスパルトゥーたらざるを得ない私が妬んでいる。そして悪どく欲深な私の、さわやかに欲深な先生に対する妬みは、この本を一読再読、いやがうえにも増したのである。(JTBより提供)

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