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    3月のライオン(1)

    3月のライオン(1)

    羽海野 チカ(著),先崎 学 (将棋監修)

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    はらぺこあおむし 改訂

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    エリック=カール (さく),もり ひさし (やく)

    5つ星のうち 4.5 レビュー詳細を見る

里見孫壱さんのレビュー一覧

投稿者:里見孫壱

19 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本ハルビン・カフェ

2002/05/27 22:15

近未来の港町を舞台に警察の内部抗争、アジアン・マフィアの暗躍がドラマチックに描かれる著者会心の一作!

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 いつかこんな日が来るのではないか。そう思って楽しみにしてきた。デヴュー作『灰姫 鏡の国のスパイ』を読んでから、10年近くが経とうとしている。打海文三は、その間、いくつかの派手さはないが光るところのある作品を書いてきた。ここにきてようやく皆さんの前に、著者の決定打ともいえる作品を紹介できる。『ハルビン・カフェ』がそれである。

 表紙をめくると、目次にいたるその間に序文がある。その序文から、既に作品は始まっている。一読して、衝撃を受けた。著者のこの作品に対する並々ならぬ決意がわかったからである。

 時は現在からそう遠くない近未来だと思われる──はっきりとは明示されていない──日本海沿岸、福井県の一都市、海市。蜃気楼を意味するその街は、朝鮮系、中国系それぞれのマフィアが牛耳っている。それに伴い、凶悪犯罪が激化。現場警官の殉職率が急上昇した。それに対し、警察官たちの一部では、マフィアに対する報復を目的に地下組織が発足。ポリスの頭文字をとってPと呼ばれた。Pは統一性のある組織ではない。一つのユニットが壊滅すれば、新たなユニットがまたどこかで誕生し、報復テロルに走った。だが、何事にも終わりは来る。様々な要因により、Pは消滅に向かっていた。
 Pをめぐる物語が終わりを告げたかのように思われた時、遙か東京で新たな引き金が引かれ、再び海市にきな臭い匂いが立ちこめる……。

 読んでいくにつれ、著者が過去のあらゆるジャンルから影響を受けているのがわかる。年代記のような設定、警察官とその周りの者たちの物語は、ジェイムズ・エルロイの作品群から、映画では洪(コウ)とルカの関係は『レオン』、西修平が市場の雑踏を駆け抜ける場面は『功殻機動隊』(または『マトリックス』)から。また、70年代の新左翼の闘争と終焉を警官たちの組織闘争に置き換えることで、組織闘争の行く末を余すところなく書き出している。
 様々な登場人物たちの姿が、優しさを秘めながらも感傷に陥らない、冷徹な視線の文体によって鮮やかに描かれる。打海文三の持ち味が十二分に発揮された作品である。

 あなたがこの本を読み終えたなら、もう一度、序文と「特定の場所」、「反乱が老けゆくこと」を読み返して欲しい。この作品の凄さと、真髄がわかるはずだ。 (bk1ブックナビゲーター:里見孫壱/ライター)

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紙の本神は銃弾

2002/01/30 22:15

2002年版「このミス」海外編を制した傑作ノワール

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 近頃ノワール流行りである。それに乗じて各出版社から次々とノワールと名の付いた本が出版され始めた。文春文庫も『パルプ・ノワール2001』として数作出版されている。『神は銃弾』はそのうちの一点として出されている。

 事の発端は、1970年の秋に遡る。アメリカはカリフォルニア州キャリコ遺跡の近くの人家で、老女が死体となって発見されたのだ。
 それから25年たち、1995年のクリスマス。警察官のボブ・ハイタワーは、離婚して別々に暮らしている娘のギャビと昼食を食べる約束をしていた。ギャビから連絡が無いのことを不審に思ったボブは、別れた妻サラの父親アーサー・ネイリとともに家に向かうが、二人を待ち受けていたのは、むごたらしく殺されたサラと夫の惨殺死体だった。そして殺人犯はギャビを連れ去った。
 タブロイド紙には「ボール紙警官」と書かれた内勤のボブだったが、ギャビを取り戻し、事件を解決するため、必死に捜査する。あらゆる手段で情報を集め、やがてロスアンジェルスのリハビリテーション・センターに入っているケイス・ハーディンから手紙をもらう。ボブは彼女に会いに行くが……。

 現在形の文体が文章にリズム感を与え、比喩を巧く使うことでハードボイルドムードをかもしだす。一方、現在形による描写を積み重ね、登場人物たちの心の動きを表現することもおろそかにしていない。さらに「宗教への挑戦」をモティーフにすることで、暴力描写ばかりが強調されがちな「ノワール」にとどまらない作品に仕上がった。登場人物、特にケイス・ハーディンの造形は素晴らしい。彼女のつぶやく科白が、彼女自身のキャラクターに深みと陰影を与えている。

 もうご存知だろうと思うが、本作品は「このミステリーがすごい! 2002」で1位に輝いている。ノワールでありながら、それを超越する素晴らしさを持った『神は銃弾』。ぜひ一度堪能していただきたい。 (bk1ブックナビゲーター:里見孫壱/ライター)

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紙の本時には懺悔を

2001/11/06 22:16

探偵事務所を営む佐竹が活躍するハードボイルド

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 昔、「本の雑誌」で、これからブレイクするであろう作家の特集が組まれていた。そこに花村萬月や、香納諒一といった面々に交じって、今回ご紹介する『時には懺悔を』の著者、打海文三の名もあった。花村が芥川賞を、香納が日本推理作家協会賞を受賞する躍進を見せたのに対し、打海はコンスタントに著書を出し続けているのにも関わらず、いまだ一部の人しかその名を知るのことのない作家にとどまっている。しかし、『時には懺悔を』を読まれたなら、打海の名は決して忘れることのできない、気になる作家として記憶されることになるはずである。

 打海文三は1948年生まれ。1993年『灰姫 鏡の国のスパイ』が横溝正史賞優秀作となりデヴュー。本作品は2作目で、翌年出版された。主人公の佐竹や、アーバン・リサーチの寺西、美しい銀髪と二十年前と変わらぬ体型を維持する鈴木ウネ子はそのあとの『されど修羅ゆく君は』『兇眼』などにも登場する。

 個人の探偵事務所を営む佐竹は腐っていた。数年前勤めていたアーバン・リサーチから、探偵スクールを卒業し今は調査の下働きをしている中野聡子の“教育”を押し付けられたのだ。盗聴の実習をするために、知り合いの探偵・米本を訪ねると、米本本人が死体になっていた。誰が殺したのか。佐竹と聡子は調査を始めるが、事件は意外な方向に転がっていく。

 文体はハードボイルドのスタイルのため、最初はとっつきにくく、また佐竹の性格もそっけないものに感じられるだろう。それが、ページをめくるにつれて、佐竹も実は温かい心を持っており、それを表すのが下手なだけだとわかる。佐竹だけでなく登場人物全員、いや、作品全体に著者の暖かい視線が注がれている。突き放したようなハードボイルドの文体だからこそ、その優しさとの落差が読者に大きな感動を与える。
 ほかにもの特筆すべき魅力がいくつかある。意外な展開を見せるプロットに加え、事件の中で浮かび上がるある問いは、登場人物のみならず読者にも深く投げかけられるものだ。佐竹や中野聡子を始めとするキャラクター造詣の妙も見逃せない。断言しよう。『時には懺悔を』は傑作である。何を読もうか迷っている人におすすめの小説である。 (bk1ブックナビゲーター:里見孫壱/ライター)

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紙の本劫尽童女

2002/05/28 22:15

殺戮に巻き込まれる宿命を負った、常人を超える能力を持つ少女の戦い

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 恩田陸の活動が、最近とみに活発だ。昨年『ドミノ』や『上と外(1〜6)』を上梓し、今年に入ってからは短編集『黒と茶の幻想』ととどまることを知らない。こんなに書いてしまっては、ネタが尽きてしまうのでは、と心配になるくらいだ。
 しかし、そんな心配をしているのは私たち読者だけで、それぞれの作品を読む限り、どれも水準を越えているのだからたいしたものだ。そこへ、この『劫尽童女』(こうじんどうじょ)の刊行である。去年まで雑誌『ジャーロ』に連載されていたものを加筆訂正し、単行本にしたものだ。

 シェパード犬を連れた「ハンドラー」とその仲間たちが、高原の別荘に張り込んでいる。彼らの組織ZOOから7年前に逃亡を果たした伊勢崎博士が潜伏しているからだ。「ハンドラー」たちは訓練を受けた一流の工作員たちだった。彼らの目的は、博士を拉致すること。作戦はすべてが完璧のはずだった。だが、仲間の一人があっさりと殺害され、状況は一変する……。

 伊勢崎博士が研究していたのは、動物の能力を「栽培」しグレードアップすることだった。「ハンドラー」が連れいてるシェパードは普通の犬を遙かに超える五感を持っていた。そして、博士が次に研究していたのは「人間」の能力開発である。その結果、「劫尽童女」が誕生した。

 「劫尽」とは「焼き尽くす」という意味だ。悪いことをした人間は地獄で劫火に焼かれるという。その「火」を劫尽火とも呼び、世界の終わりはこの火によって焼き尽くされるのだとも伝えられている。
 人間を超えた能力を持った主人公は、この「火」なのだろうか? だとすれば、彼女の行く手に待っているものは? そして、彼女の能力は世界を滅ぼす方向へ向かうのか、それとも……。

 恩田陸は小説の中で断定的にテーマを語るような野暮なことはしない。この小説もしかりだが、死と隣り合わせになった状況で主人公と関わってくる人々の言葉は重い。平和を希求しながらも、殺戮を繰り返してきた人類の歴史。その宿命にあらがおうとする主人公の姿に心打たれる。
 恩田陸が主人公に託したメッセージをどう受け取るか。深読みするつもりで読んでいただきたい。 (bk1ブックナビゲーター:里見孫壱/ライター)

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アイスマン

2002/04/26 22:15

フリークス一座に紛れ込んだ泥棒が見たものは?スケールの大きな傑作サスペンス

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 ジョー・R・ランズデールが書いた小説はこの上なく面白い。
 『ボトムズ』、『人にはススメられない仕事』が邦訳されたばかりのハップ&レナード・シリーズ、ノン・シリーズ『凍てついた七月』……一読、骨太の物語を味わえる。ランズデールは稀代のストーリー・テラーだ。今回取り上げる『アイスマン』でも、腕が存分に振るわれている。

 主人公ビル・ロバーツは、花火屋強盗をしてから、沼地を泳いで逃亡、フリークス一座に拾い上げられる。このあたりまでは少々話の転がし方が荒っぽいが、ページをめくらせるテンポの良さには長けている。ところが、ここからはスピード感たっぷりの展開から一転し、「人間であること」を追求する、骨太な物語に変わるのだ。この緩急の付け方がたまらない。
 一座に拾いあげられたビルの視点からフリークスが描かれる。最初、ビルは心の中で彼らを蔑視している。だが、一座と行動をともにするにつれて、ビルの中で何かが変わっていく。彼らが普通の人間と同じであることに気づくのだ。

 物語の後半、ビルは、あることに対して選択を迫られることになる。興を削ぐことになるから、その選択については、ここで明かせない。ただ、その展開の仕方は、ある有名な小説を下敷きにしているのではないかと思われる。その小説の名は解説で関口苑生が挙げているので、できれば本篇を読み終えてから読んだ方がいいだろう。そのほかにも、様々なテーマや、広がりのある内容を含んでいるが、それらもすべて、根幹に据えられた「人間であること」というテーマに集約される。

 ひょっとすると、これは保守層に向けられた挑戦的な小説ではないだろうか。ランズデールが挑発している姿が目に浮かぶ。そういえば、著者が舞台にするのはいつも保守的で知られる南部である……。
 意外な展開や驚愕のラストを用意して、読者を唸らせる作家は他にもいる。だが結局のところ、ランズデールのように、テーマとストーリーを有機的に結びつけ、浮き上がらせる作家はそういないのではないか。一つ一つのエピソードが意味を持っていて、深読みの甲斐がある。スケールの大きな傑作小説である。即買いだ! (bk1ブックナビゲーター:里見孫壱/ライター)

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紙の本デッドウォーター

2002/04/26 22:15

少年犯罪、死刑問題などアクチュアルなモティーフを織り込んだサスペンス

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 社会では暴力はマイナスのものとして捉えられている。それが、防衛のためであっても。ならば、暴力そのものはどこから来るのか。もちろん、人間の内なるものからだ。暴力を抱えた人間が構成する社会は、一個人に対して暴力を行使することもある。永瀬隼介の『デッドウォーター』は、まさに個人と社会の暴力に焦点をあてた小説である。

 しかし、そうした現実を突きつけられると嫌な気分になってくる。正直なところ、この小説の中に出てくる、いかにも実際にありそうなエピソードには気が滅入った。
 中国残留孤児の3世が組織するグループと、ヤクザとの覚醒剤取引、うだつがあがらないノンフィクション・ライターの家庭内不和……。
 愉快な話ではない。では、見ざる聞かざるで、放っておいていいのか? それは、私たちが今まで見過ごしてきたものではないのか。目の前にある現実を、ないようなふりをして。その結果が今の日本社会に与えている影響は大きい。ノンフィクション・ライターとしても活躍している著者は、そのことに目を瞑っていられなかったのに違いない。

 中国残留孤児3世の村越亮介はプロボクシングのチャンピオンを目指し、日夜練習とバイトに精を出す日々を送っている。ある日、残留孤児の不良少年グループ「ブラッディ・ドラゴン」のメンバーがバイト先の牛丼屋にやってきた。「ヘッドが会いたがっている」。ヘッドの正春は亮介の幼馴染みだった。亮介もかつては「ブラッディ・ドラゴン」のメンバーだったが、正春についていけなくなって辞めたのだ。

 事件を追うことが専門のフリーライター加瀬は、死刑確定直前の殺人犯穂積と拘置所で面会する。穂積は未成年ながら、5人の女性を犯して殺していた。加瀬は穂積の内面を暴いたノンフィクションを出版して名を挙げようと野心を燃やしていた。

 穂積が入っている拘置所に刑務官として勤めている白井は、死刑執行に立ち会うことに不安を覚えていた。先輩の刑務官の話を聞いたりもするが、心の中は晴れなかった。そして、ついにその日が廻ってくる。

 社会の底辺で生きる者たちが織り成す物語──と思いきや、途中から、思いもよらない展開になっていく。その意外さに読者は驚くだろう。
 登場人物たちが抱えている問題は、物語の最後に至っても、すべてがすっきりと解決されるわけではない。しかし、逆にそのことが、この世の中心にあるのはデッドウォーター(よどみ水)であることを証明している。 (bk1ブックナビゲーター:里見孫壱/ライター)

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紙の本左手首

2002/04/26 22:15

関西弁の歯切れのいい会話と巧みなストーリーテリングが光る短篇集

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 帯に「喰うか、喰われるか! 7つのノワール」とある。話題作『国境』に続き、黒川博行が新作を引っさげて登場した。短篇集である。
 『国境』こそ直木賞候補になったが、それまで黒川の作品は、不思議なことにそれほど脚光を浴びてこなかった。おそらく『このミステリーがすごい!』などの年間ベスト10上位に入らなかったからだろう。黒川はサントリーミステリー大賞の佳作賞を『二度のお別れ』『雨に殺せば』で連続受賞し、その後『キャッツアイころがった』で大賞を受賞している。その輝かしい経歴からすると、その後の活動は地味に映る。
 しかし、ベスト10上位に入る作品がなかったからと言って、黒川作品の価値を貶めるものではない。むしろその間、玄人好みの良質の作品を送り出してきた。この『左手首』では、その腕にますます磨きがかかっている。

 どこか違うところへ。別の世界へ抜け出したい。この生活から脱出したい。そういった願望が、欲と合致して危険な賭けに挑むとき、それはノワール(の一形態)になる。さらに、著者の持ち味である歯切れのいい関西弁の会話が、それぞれの短篇にいいリズムを作り出している。

 「7つのノワール」と書いてあるものの、厳密に言えば、表題作『左手首』と『帳尻』、『解体』はノワールではない。『左手首』は、定番パターンとも言える、警察の捜査陣と犯人の攻防を描くサスペンス。『帳尻』はコン・ゲームだ。『解体』は、著者がデビュー作以来手馴れている刑事2人組みの捜査行である。
 残りの4篇は、主人公(とその仲間)が、無謀と思われる犯罪に手を染めて一攫千金を狙うもの。はたして計画は成功するのか。
 いずれも、専門知識を織り交ぜ、関西社会独特な雰囲気を背景に展開する物語だ。ぜひ楽しんでいただきたい。 (bk1ブックナビゲーター:里見孫壱/ライター)

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紙の本戦士たちの挽歌

2002/03/28 22:15

巨匠の名に恥じない最新短篇集

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 フレデリック・フォーサイスが戻ってきた。彼は『イコン』で2度目の断筆宣言をした。が、前にも断筆宣言を翻した過去があったので、短篇集を上梓する形で帰ってきてもそれほど驚かなかった。むしろ、新刊が読めるのだから読者にとっては嬉しい。

 フォーサイスのことは、皆さんよくご存知だろう。1971年、『ジャッカルの日』でデヴュー。フランス大統領ド=ゴールを暗殺しようとするジャッカルと、それを阻止せんとするルベル警視を中心としたフランス警察の捜査を描いた。当時の状況を顧みたなら、この本を手にとった当時の人は、どれほどの衝撃を受けたことか。他にも、ナチス党員たちを南米に逃亡させる秘密組織、オデッサを追うジャーナリストの姿を書いた『オデッサ・ファイル』、冷戦当時のソ連の南下への野心と、クレムリン内部の政治闘争、対するアメリカの策謀を描いた『悪魔の選択』など必読の傑作ばかりをものにしてきた。

 今回我々の前にあらわれた短篇集『戦士たちの挽歌』は、表題作を含む5つの短篇が収められている。
 ロンドン北東部の暗部の一つ、メドウディーン・グローヴ。ヤクを手にいれようとする若者たちの溜まり場だ。そこで、明らかによそ者と思われる初老の男が殺された。警察の捜査により容疑者の2人組の男たちは逮捕されたが、被害者の身元は不明のままだった。被害者は一体どんな目的でその場所を歩いていたのか? 時折挿入される戦闘シーンが否応なく読者の興味を高めていく表題作『戦士たちの晩歌』。
 仕事にありつけず、ぎりぎりまで追い詰められた役者トランピグトン・ゴア。ゴアは最後の頼みの綱とばかり、汚れた絵を競売しているダーシー社にある絵を持ち込む。ダーシー社の若き社員、ベニ—・エヴァンズは、その絵に注目する。だが……。罠にかけられ、損をした者たちが反撃に転じる『競売者のゲーム』。
 イタリアを訪れた夫婦が聞かされた話は、戦時中起こった奇跡の物語だった。人生には希望と絶望が並立していることを描いた『奇跡の値段』。
 バンコクからヒースロー空港まで、麻薬の密輸劇。登場する疑惑の人々は、仲睦ましげなヒギンズ一家。怪しい風体のヒッピー風の男。どこをとっても、一流の服装と物腰のヒューゴー・シーモア氏。加えて機長のエイドリアン・ファロンや麻薬取締官ビル・バトラーもこの道中に参加する。『囮たちの掟』。
 フロンティア時代のアメリカを舞台にし、カスター将軍の敗北から、現代にいたる恋愛成就劇『時を超える風』。
 以上、どの短篇も硬質の文章とディテールの確かさに感嘆させられる。逸品ばかりの短篇集である。 (bk1ブックナビゲーター:里見孫壱/ライター)

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紙の本無防備都市

2002/03/27 22:15

禿富鷹秋警部補—通称「ハゲタカ」が渋谷で大暴れするシリーズ第2弾

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 本シリーズの第1作『禿鷹の夜』は、硬質という言葉がぴったりな小説だった。上野から移ってきた禿富鷹秋警部補—通称「ハゲタカ」が、渋谷を舞台に、暴力団と外国人組織との縄張り争いに絡んで暗躍する話である。
 このシリーズは、禿富鷹秋の強烈なキャラクターが根幹を支えている。禿富を一言で表現するなら「型破り」だろう。とにかく、やることなすことすべて規格からはずれているのである。警察官としても、人間としても普通じゃない。「まとも」とか「ワル」とか、そういった言葉で片付けられない、何かだ。

 禿富は自分の気に入らないことに対しては、すぐ実力行使に出る。そのやり方が半端ではない。敵対した相手を殴る蹴るは当たり前。周りで見ている人間が、死なせてしまうと危惧するぐらい暴力をふるう。その激しさは、ヤクザや同僚の警察官ですら畏怖するほどだ。何を考えているのかわからず、俳優リチャード・ウィドマークによく似た顔は冷酷そのもの。禿富の役割は、地元の暴力団、渋六興業のお目付け役となって南米組織のマスダの脅威から渋谷を守ることだが、もちろん渋六興業から報酬が出る。たかっているのだ。いや、たかっている意識もないかもしれない。出して当然と思っている節さえある。

 ところで、この著者には警察官を主人公にしたもう一つのシリーズがある。『裏切りの日々』『百舌の叫ぶ夜』に代表される公安シリーズがそれだ。ハゲタカシリーズと公安シリーズにはまともでない警官、悪徳警官がたくさん出てくるという共通点がある。逢坂はある雑誌のインタヴューでこう語っていた。「警察小説をたくさん好んで読んできたが、『87分署シリーズ』だけはどうもだめだった」。一方、好んだものの方では、結城昌治の『夜の終るとき』や、ウィリアム・P・マッギヴァーンの著作が挙げられていた。これらは悪徳警官物だ。87分署はその逆である。悪徳警官物に魅せられたようで、ハゲタカ、公安量シリーズの起源はこういったところにあるようだ。

 それではシリーズ2作目の『無防備都市』の紹介をしよう。前回殺し屋ミラグロを返り討ちにされたマスダだったが、渋六興業との抗争は続いていた。マスダは上海から呼び寄せた王展明なる殺し屋を禿富に差し向ける。ぜひとも一作目と合わせて読んで欲しい。禿富の心の揺れ動き、時折見せる人間らしさなどが、併せて読むことで鮮明になると思うからだ。読み逃して欲しくないシリーズである。 (bk1ブックナビゲーター:里見孫壱/ライター)

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紙の本ダイスをころがせ!

2002/03/27 22:15

衆院選に立候補する友人の選挙を手伝う主人公が見たものは?

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 聞いた話である。「いくらいくらくれれば、あそこら辺の票をまとめてきてやるよ」「ちょっと(金を)用立ててくれないかな」すべて選挙に絡んだ話だ。これらの発言を行なった人たちはなぜこういうことをしたり、言ったりするのか? 無論、自らの利益のためであろう。しかし、本当にそれでいいのか。選挙とはそんなものなのか。確かにある程度、自分の(自分たちの)利益を考えてくれる人を支持するのは当然だ。だが、それだけではいいのだろうか—。

 ここに一冊の本がある。『ダイスをころがせ!』という本だ。著者の真保裕一は、『連鎖』で第36回江戸川乱歩賞を受賞して以来、綿密な取材に裏打ちされた重厚な小説を書いてきた。代表作は『ホワイトアウト』『奪取』『ボーダーライン』。ところが、『ダイスをころがせ!』は違った。今までの小説は、犯罪が絡んでいたので、ミステリーに分類できたが『ダイス…』には犯罪が出てこない。将来に不安を抱える34歳の男が、友人が出馬する選挙を手伝う話なのだ。手伝う、というのは適当ではないかもしれない。ともに選挙を戦うのだ。

 会社を辞め、職安通いが続いていた駒井健一郎は、旧友の天知達彦に会う。達彦とは、親友の間柄だったが、あることがきっかけで疎遠になっていた。一緒に食事をしながら、達彦は言った。「無所属で次の衆院選に出ようと考えてる」。その選挙に、信頼できる仲間、自分と一緒に走ってくれる、心強い伴走者が欲しい、と。つまりは、健一郎に秘書になってくれというのだ。最初は一笑に付し、諸事情から断った健一郎だったが……。

 著者の小説の特徴である、細かく取材したであろうデータを文章にうまく織り込んで、読者にわかりやすく伝えるところは今回も健在。読者は知らず知らずのうちに知識が増えるばかりか、臨場感を感じられるようになっている。また、岐路に立たされた男の、微妙な感情の揺れ動きを書くのがあいかわらずうまい。ミステリーでなくても、十分に面白さを堪能できること請け合いだ。著者の才能とその広がりが感じられる小説だ。 (bk1ブックナビゲーター:里見孫壱/ライター)

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紙の本遠ざかる祖国

2002/02/27 18:16

第二次世界大戦開戦前夜。大国の暗闘がはじまる

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 少し前の話になるが、新聞紙上で、10代の若者に1941年12月7(8)日は何の日か、アンケートをとった結果について述べていた。記事には、大部分の者が答えられなかったことについて、若者の歴史認識の浅さを嘆いていた。客観的に考えるなら、それは仕方のないことかもしれない。彼らは戦争の中を生き抜いた世代ではないし、時が経てば経つほど、世の中全体がその年月からどんどん遠ざかっている。その日は彼らにとって、特別な日ではない。現在は平和なのだ。そんな昔の歴史のことなど、受験勉強や試験のときに機械的に勉強して、それが終わったら忘れてしまうのだろう。だが、風化させてはいけない歴史がある。1941年12月7(8)日は、日本が世界を相手に戦端を開いた日であることを、十代の若者ならずとも、記憶にとどめておくべきだ。

 逢坂剛『遠ざかる祖国』は、1941年1月よりまさにその日に向かって、スペイン・マドリードで繰り広げられる、各国の諜報戦を書いた、サスペンス小説である。帯には、「熾烈な諜報の世界を描き尽くす、著者渾身のライフワーク第二弾!!」とあるが、第一弾にあたるのは『イベリアの雷鳴』である。
 率直に言って、『イベリア〜』は話のクライマックスが見えにくかったが、今回は終着点がわかっているため、著者のサスペンス小説づくりの腕前を堪能できる。登場人物も前作より引き続いているので、『イベリア〜』から引き続き読んだ方が面白く読めるが、単独で読んだとしても一向に差し支えない。
 逢坂剛の過去の作品には、第2次世界大戦の前哨戦とも言えるスペイン内戦と現代をつなぐ、秘められた過去を描いたものが多い。『幻の祭典』、『斜影はるかな国』、そして『カディスの赤い星』……。
 だが、『イベリア〜』と本作では現代がまったく登場せず、一貫して過去を舞台にしているところが逢坂作品としては珍しい。その姿勢から、「著者渾身のライフワーク」という惹句もあながち嘘ではないように思える。

 また本書は、日米開戦前夜の情報戦を描いた佐々木譲の傑作『エトロフ発緊急電』と一緒に読まれることをおすすめしたい。面白さが上乗せされるだろう。

 本作でもすべての決着がついたわけではない。史実とは別に第2次大戦がはじまって、主人公の北都とヴァジニアの仲はどうなるのかなど、物語の行方も気になる。第3作が待ちきれない。 (bk1ブックナビゲーター:里見孫壱/ライター)

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曇りなき正義

2002/02/27 18:16

ワシントン・サーガに続く新シリーズは黒人私立探偵が主人公

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 ワシントン・サーガと言われる、傑作『俺たちの日』に始まり、『生への帰還』で終わる4部作を読んで、感動しなかった方は稀だろうと思う。ワシントン・サーガの著者はジョージ・P・ペレケーノス。サーガは、1930年代から現代まで、ギリシャ系アメリカ人たちの物語を紡いだもので、作者自身もギリシャ系である。しかし、今回ご紹介する、ペレケーノスの新シリーズ第1弾『曇りなき正義』の主人公は、ギリシャ系どころか、黒人。私立探偵を職業にしている。

 私立探偵デレク・ストレンジは、昨年起こった、白人警官が黒人警官を撃ち殺した事件の再捜査を頼まれた。事件のあらましはこうだった──私服の黒人警官が、道端で立小便をしていた白人の男を組み伏せ、銃を突きつけてた。黒人警官の名は、クリス・ウィルソン。たまたま通りかかった巡回中の警官2人が、その場面を目撃し警告した。ウィルソンが警告を無視して、銃を二人に向けたため、白人の警官が発砲した。ウィルソンは死んだ。
 普段の生活にも非の打ち所がない、模範的な警官が、なぜ道端で市民に銃を突きつけていたのか。また、ウィルソンは普段アルコールをそれほど口にしないのに、その日に限って飲んでいたのはどうしてか。デレクは、ウィルソンを射殺したテリ—・クインに会いに行く。クインは事件をきっかけに警察を辞めていた。

 ペレケーノスは、以前にニック・ステファノスを主人公にした私立探偵ものを書いていた(『硝煙に消える』『友と別れた冬』)。その後、ワシントン・サーガを書くわけだが、使い古された感のある私立探偵を主人公にしたのはなぜだろうか。この作者の実力ならば、ノワールなど他のジャンルに挑戦しても不思議ではない。その疑問の答えは、読了後にはっきりとわかるはずだ。
 ペレケーノスが書きたかったのは、人と人との関わり、触合いである。それも、べたつく書き方でなく、さらっとしているところに好感がもてる。あえて古典的なスタイルをとることで、ペレケーノスの狙いは成功したといえるだろう。期待のもてる新シリーズは順調な船出を果たした。 (bk1ブックナビゲーター:里見孫壱/ライター)

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紙の本国境

2002/01/30 22:16

『疫病神』の迷コンビが北朝鮮へ。痛快冒険小説

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 建設コンサルタント(元は解体屋)の二宮と、二蝶会幹部でヤクザの桑原。『疫病神』で迷コンビぶりを発揮したあの二人が帰ってくる—。それだけで期待に胸が膨らむ人もいるだろう。そう、黒川博行著『国境』がそれである。しかも舞台は北朝鮮、というからますます期待が募ろうというもの。

 話は二宮、桑原と彼らに同行する柳井が参加した北朝鮮パック・ツアーの飛行機の道中から幕をあける。二宮と桑原は、それぞれ在日の趙という男を追っていた。趙は詐欺師で、ショベルローダーやクレーンなどの作業車の輸出詐欺や、パチンコ店のオーナー。組筋からカジノ話の投資詐欺で金を引っ張り、逃亡したのだ。二宮は仲介した業者から追い込みをかけられ、桑原は船上カジノの儲け話に乗せられて金を取られた組の若頭の命で、趙が高飛びした北朝鮮まで行って、趙から9億円あるとされる隠し金のありかを聞き出すつもりなのだ。

 北朝鮮に着き、次々と北朝鮮独自の社会や常識が明らかになるにつれて、「なんや、どえらい国にきたみたいやな」桑原が漏らした一言に対し、柳井が言う。「とにかく、日本の常識では理解できないということを念頭においておくことです。電話一本かけるのも大変な国なんです」「北朝鮮は徹底した監視社会です(後略)」柳井を含めた三人は趙を探すが、どこへ行くにも監視がつき、窮屈極まりない。何とか探し当てたものの、逆に察しされ逃げられてしまう。趙の逃げ込んだ先がわかったものの、時間切れになってしまう。 帰国した二宮を待ち構えていたのは、まったく面識のないヤクザの追い込みだった。二宮は何とか桑原を巻き込み、再び北朝鮮にわたって趙の居所を探そうとするのだが…。

 北朝鮮—近いようで遠い国。私たちが知っているようで知らない国。北朝鮮の矛盾した社会と絶望が覆う現実を、二宮と桑原の二人に観光ガイドのような形を取らせて、巧く小説内に取り込むことに成功している。また北朝鮮の不自由さが、逆に二人の冒険行を制限し、冒険小説としてなりたたせている。二人の会話も関西弁同士の掛け合いで、まるで漫才かコントのよう。小説内に登場する暗い北朝鮮の現実も、この二人の会話があるからこそ、それほど重くならず読み進むことが出来る。

 批判を交えた鋭い視点と、テンポのいい会話にハラハラドキドキの冒険行が混ざった面白い小説が読みたいなら、『国境』に決まりである。 (bk1ブックナビゲーター:里見孫壱/ライター)

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紙の本緋色の時代 下

2002/01/30 22:15

アフガニスタンから混沌を極めるロシアへ。船戸与一が描く驚愕の物語

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 かつて北の大地にソヴィエト連邦という国家があった。レーニンが打ち立て、スターリンの独裁と粛清により、人民平等のはずが、国家独裁になっていった共産主義の国。超大国の名をほしいままにし、衛星国を従え、アメリカと角を突きつけあい、代理戦争や兵器拡張競争に身を費やしたスーパー・パワー。だが、そのソ連も、建国以来わずか70年余の短い歴史に幕を下ろす。1991年、ソヴィエト連邦は消滅した…。

 さまざまな、民族や国家を背景とした小説を書いてきた作家・船戸与一。今回、彼が選んだ舞台は、そのソヴィエトがなくなって、誕生──というより復活──したロシアが舞台だ。
 1979年以来アフガニスタンに侵攻したソ連軍と、山岳にこもって戦うムジャヒデ
ィン。その争いは長期化していた。1986年4月、パンジシール渓谷。戦いのさなか、ソ連・特殊部隊の兵士である4人の男たちが、基地の副司令官を殺す。副司令官はあこぎな商売に手を染め、あろうことか、それに対して抗議したセミョーン・メルクロフを叛逆罪の名で殺したのだ。彼ら4人は、一緒に戦火をくぐり抜けてきたセミョーンを殺した副司令官を許せなかった。その1人、異教徒グローニンの提案で血をすする儀式をする。彼らはこれで兄弟よりも濃い血で結ばれたはずだった──。
 その後復活したロシアは無秩序状態を極め、いまやマフィアの存在なくしては物事が成り立たなくなっていた。
 そして2000年、ロシアはウラルのふもと、エカテリンブルク。ここでは、パンジシール・グループとドニエステル・グループが激しく争っていた。そしてその戦いは、かつてパンシシール渓谷の4人のアフガンツィ(アフガニスタン帰りの軍人)たちを呼び寄せた……。

 船戸の小説には、欲を剥き出しにする人物たちが多く登場する。船戸の小説に触れたことの無い人には、それがどぎついものに映るかもしれない。しかし、それは船戸の小説が、政治や経済がぎりぎりの極限状態の地を舞台にしているからだ。その地の裏社会で生きていく人間たちにとっては、欲望を剥き出しにして生きていくことはある種当然なのかもしれない。
 小説中である登場人物がこんな科白を言う。

 「混沌!混沌!混沌!尽ることのない混沌! 心底望んでいるのはそのことなのだ。それはまた別の場所を使い、何らかの方法によって用意できるだろう。」

 これこそ、船戸が望んでいるものなのかもしれない。その“混沌”をとくと味わって欲しい。 (bk1ブックナビゲーター:里見孫壱/ライター)

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紙の本堕天使は地獄へ飛ぶ

2001/12/20 22:16

ハリー・ボッシュ第6弾は、コナリー独自のL.A.に注目すべし

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 普通、小説の主人公はそれほどその行動に不安を与えないものである。だがマイクル・コナリーの看板シリーズ・キャラクター、ハリー・ボッシュはどうも違うようだ。このボッシュ、毎回冒頭から読者を不安に駆り立てる。
 デヴュー作『ナイトホークス』ではドールメイカー事件で独自に行動したためハリウッド署に島流し。『ブラック・ハート』の時はドールメイカー事件の捜査に不備があったとして訴えられ、『ラスト・コヨーテ』では上司を殴ってカウンセリングを受けている次第。
 『ラスト〜』で積年の懸念事項だった母親の事件が解決したため、ボッシュもまた違った方向に進むのかと思わせたが、今回の『堕天使は地獄へ飛ぶ』は再び本来のボッシュに戻った、そんな印象を抱かせた。

 今回も冒頭、前作で結婚した妻が帰ってこない不安にさいなまれているところから話は幕をあける。そこに、L.A.市警副本部長アーヴィングから電話がかかってきた。エンジェルズ・フライトで死体が発見されたので至急急行せよというのだ。本来ならボッシュのチームが担当する管轄でもなければ、当番でもない。不可思議な思いを抱いて現場に駆けつけたボッシュたちを待っていたのは、L.A.全体を揺るがしかねない殺人事件だった。
 死体で発見された黒人弁護士ハワード・エライアスは、人権弁護士として市警本部をここ10年間で100回以上も訴え、その半数以上を勝訴して名を馳せていた。折りしもエライアスは、市警強盗殺人課に虐待されたと訴え出た男の訴訟を手がけていたのだ。犯人は何者なのか? 街の不穏な動きは時間がたつごとにきな臭くなり、連日のマスコミ攻勢がそれに拍車をかける。ボッシュの懸命の捜査は、この事件を解決に導けるのか?

 かつてシリーズ2作目の『ブラック・アイス』でボッシュにL.A.観を語らせていたが、今回はそれに正面から取り組み、コナリー独自のL.A.を書いた点でも注目したい。L.A.を舞台にした作家にジェイムズ・エルロイがいるが、ハリー・ボッシュの生い立ちは、エルロイをモデルにしているとされる。ならば今回はコナリーからエルロイへの返答とも読める。この機会に、エルロイの『ブラック・ダリア』に始まるL.A.4部作と、コナリーのハリー・ボッシュ・シリーズを合わせてお読みになれば、裏L.A.史のとりこまちがいなしである。 (bk1ブックナビゲーター:里見孫壱/ライター)

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