もり・まさこさんのレビュー一覧
投稿者:もり・まさこ
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紙の本化粧坂
2001/06/07 18:50
著者のことば
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突然ですが、鎌倉って、ケイタイがとても通じにくい所らしいですね。
今回、鎌倉を舞台にホラー小説『化粧坂』を書き出して、ふとそのことを思いだしました。山に囲まれているからというけど、もしかしたら、何か目に見えないバリアでもあるんじゃないかと。
化粧坂とは“けわいざか”と読み、鎌倉に入る七口の一つ。京から鎌倉に入るには、この入り口しかなかった。艶めかしい名前ですが、源平合戦で討ち取った首をここで洗って化粧した……とか、鎌倉幕府が出来たとき、ここが色町として栄え、遊女の化粧の匂いがした……といういわれもあったりして、おどろおどろしい場所なのです。
私はそれに、異界への入り口という意味を重ねました。そう、七百年前の鎌倉時代への、これが入り口なのだと。
鎌倉は武都であったせいか、そこかしこに白兵戦の碑があったり、山の崖に横穴を掘って墓地とした“やぐら”がどこにも残っていて、なんとなく凄みがある町です。観光客の溢れるこの町の奥には、どんな異形の人々が棲んでいるのかしらん……と想像を巡らしたのが発想の源です。
きっかけは、前に『東京怪奇地図』という、地霊とそこに生きた幻視者たる作家を絡ませて怪奇短編連作を書いたのですが、その時“鎌倉を舞台にそれが出来ないか”“文芸ホラーor古典ホラーというような新分野を開拓できないか”という注文を、編集者から頂いたことです。
あれからもう四年あまり、他の仕事に追われたり、プロットが行き詰まったりで、もうやめようかと迷いつつ、何とか完結に漕ぎ着けた次第。たまたま北条時宗ブームで鎌倉が脚光をあびていますが、別に合わせたわけではないです。強いていえば、向こうがこちらの磁力に引かれたのでしょう。
使わして頂いた古典は、後深草院二条の『とはずがたり』。奇しくも時宗の時代なんですね、二条が生きたのは。
この古典には、数ヶ所に渡って切り取られた部分があって、そこに何が書かれていたか、今もって不明という大きな謎があります。そのミッシングの部分を謎の根幹に据え、七百年の時空の彼方を推理するホラーです。
勝手なこと書いて、二条さん、ごめんなさい。
また正当派『とはずがたり』研究者には、神聖なる古典を汚す大馬鹿小説と罵られること請け合いですが、私の推理、かなり当たっているんじゃないかな。
とはいえ、半分まではホラーではなく恋愛小説、職場小説として書き、ホラーへの入り口はじょじょに開いてくるように仕掛けました。この世の中、どこにも入り口は開いているのですからね。
だからホラー嫌いのかたでも、どうぞ安心して読んでください。鎌倉の案内書でもありますよ。それにしてもあの町は、魔都です。
鎌倉にお出かけの際は、ケイタイはお使いにならぬがいい。だってケイタイでメールを送ったら、○◎‥●|……◆□☆☆□♂♀……だって!
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