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斎藤 貴男さんのレビュー一覧

投稿者:斎藤 貴男

12 件中 1 件~ 12 件を表示

倒産企業をめぐる不良債権を宝の山に変える異色ビジネスの内幕。グローバリゼーションの真実に迫る

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 大手百貨店・そごうの倒産劇で,融資残高第2位の新生銀行のとろうとしていた行動が記憶に生々しい。金融機関に対する総額6390億円の債権放棄要請に同行だけが応じず,その債権は預金保険機構に売却された。同機構はそのまま債権放棄を応諾,つまり新生銀行の不良債権を税金が埋め合わせるという筋書き。
 新生銀行とは,破たんし国有化されていた日本長期信用銀行をアメリカの投資グループ「リップルウッド・ホールディングス」が買収し,経営権を引き継いだ金融機関である。日本政府との間で交わされた密約が“ウルトラC”を認めていた。そごうは最終的に債権放棄要請を取り下げ,民事再生法の適用申請で再建を図ることになる。したがって実行には移されなかったものの,無関係の一般国民が一方的に負担を強いられかねない理不尽な取り決めが成立していた現実は,日本側の弱腰とともに,グローバル・スタンダードなるものの本質を見せつけた。
 リップルウッドのような存在こそ,アメリカにおいてさえ“ハゲタカ投資家”と呼ばれ,しばしば非難の対象にされる“時代の落とし子”なのである。そんな折に訳出された内幕ドキュメントの意義は大きい。彼らの全ぼうが,読み進むにつれてあらわになっていく。ルーツは1929年の大恐慌。ナチスのベルリンからニューヨークに渡ってきたドイツ系ユダヤ人が,倒産企業の資産価値と,実際の株式・債券との価格差に注目したのが始まりだった。
 ハゲタカ・ビジネスは,そして80年代に開花する。鉄鋼業などの旧来型産業が衰退したのと,78年連邦倒産法の施行が背景にあった。経営権を管財人に明け渡しても,それまでの経営陣が業務を続けることを許した「チャプター・イレブン」の条項が彼らのビジネスを容易にした。不動産王ことドナルド・トランプが経験したドラマと,ロードアイランドのアルメニア人街で育った男が家庭用品メーカー,アリゲニーで展開したM&Aストーリーが特に興味深い。
 嫌われ者の“ハゲタカ”たちはしかし,屍肉を掃除してくれる。自然界と同様に,経済社会でも有用な存在なのだという結論を,著者である本場のビジネス・ジャーナリストは導いた。日本人も相当な覚悟が必要だ。ロスチャイルド出身の“ハゲタカ”が大和證券と合弁事業を立ち上げたのをはじめ上陸も相次いでいる。
 アメリカ経済の活力とともに,かの国に生きる人々の深い悲しみが本書からは読み取れる。著者にそのような意図はないのだろうが,抑えた人物描写と,正確で乾いた経済解説といった執筆姿勢が,無常観漂うアメリカの真実を伝えているように思えてならない。グローバリゼーションを手放しで讃える気にはどうしてもなれない。私の偏見だろうか?                
(C) ブッククレビュー社 2000

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紙の本既存企業VS.ドットコム企業

2001/09/13 16:54

顧客のテクノロジーに対する価値観をいかにとらえるかがネット・ビズ成功の鍵

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 インターネット・ビジネスで成功するための鍵とは何か? 現代のあらゆるビジネスマンが頭を悩ませているであろう大テーマに,有効な回答を与えてくれる書物である。電子商取引のコンサルティング会社フォレスター・リサーチ社の副社長で,『BusinessWeek』誌の“The E. Biz 25”の一人にも選ばれた著者は,同社が開発した顧客行動モデル「テクノグラフィックス」を駆使して導いた明快な理論を,惜しみなく公開している。
 それによれば,「顧客を知る」「顧客に本当に喜ばれる商品やサービスを提供する」「競合ビジネスとの差別化を図る」など,いわゆるマーケティングの黄金律はそのまま当てはまる。この際,顧客の「所得」や「ネット利用に対する動機」が重要な要素になってくるのも自明だが,従来と大きく異なるのは,テクノロジーというものに対する顧客の価値観を,企業側は深く知っておく必要があるという点だ。
 楽観派と悲観派。前者は「テクノキャリア」「ニューエイジファミリー」「マウスポテト」など,後者は「アナログエリート」「トラディショナル」「メディア受動派」などと,さらなる分類が可能で,これらと所得の高低とを組み合わせて顧客を把握するとよい。新しいビジネスモデルの開拓も,過去の経営戦略からの脱却も,すべてはそこから始まる——。
 「インターネットを早い時期から利用している顧客層と,インターネットが普及してから利用し始めた顧客層とでは質が全く違う。インターネットが多様な家庭に広く浸透し始めると,顧客の嗜好も,必要とする商品やサービスも異なってくる。顧客層の違いを真に理解した企業だけが,顧客に適切な商品やサービス,メッセージを提供することができるのである」。
 ほんの触りだけを引用してみた。精緻に読み込んでいけば専門的でビビッドな示唆を至るところで得ることができる。生き残りを賭け反撃に転じる既存企業,経済構造の大変革へと挑む新興ドットコム企業(日本語にするとなんとなく奇妙な表現だが),いずれのリーダーにとっても,本書は大いに有用であるに違いない。
 ただ,読み進むにつれて考えさせられてしまう部分が少なくなかった。インターネット・ビジネスの社会的な影響力はあまりに強烈だ。このテクノロジーは自由競争市場をかつてないほど苛酷なものにしていこう。落ち着く先は地域独占であるらしい。個人情報,プライバシーについてはどうか,etc。
 何よりも,人間存在というものがこのような形で仔細に分類され,格付けされること自体に,私はたまらない不安と焦燥を覚える。ビジネスに関係ないなどと言わず,どうか,そうした側面も考慮しながら読んでもらいたいと思う。

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交通殺人

2001/07/23 18:16

日経ビジネス2001/05/14

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信号待ちをしていた乗用車がパトカーに追われた車に追突され、炎上するという惨事が引き起こされた。1994年3月31日深夜、岩手県盛岡市。婚約中だった2人の被害者は焼死した。
 警察は「無茶な追跡はしていない」と主張した。だが現場を丹念に検証してみると、パトカーと追尾していた車との車間距離は50〜75m程度、それぞれ時速90kmは出ていたようだ。何よりも加害者本人が、追突直前まで猛追してきたパトカーの姿をルームミラーで見ていた——。
 これは“交通事故”ではない。危険を承知の行為による“交通殺人”だ。残念極まりないことに、現代のこの国には同種の“殺人”が溢れている。自動車雑誌で交通事件の取材を続けてきた著者が、悲しすぎる現実を突きつけたのが本書である。
 機動隊員によるひき逃げ事件。オートバイの右折時に側面衝突を招きやすい時差式信号機を放置し、果たして悲劇を招いた神奈川県警。道路中央での大型トレーラー駐車が黙認されていた東京・大井埠頭付近の大通り…。
 本書には捜査の過程や結果に大きなミスが介在した5つのケースが収められている。ただし意図的に集めたのではなく、著者が交通事故を追っていくと、どこでもそのような構造が浮かび上がるのだという。
 つくづくやりきれない。何の罪もない人々を死に追いやりながら、組織に守られて責も問われず、高笑いしている連中が心底憎い。
 ところで自動料金収受システム(ETC)が一部の高速道路で稼働し始めた。道路交通の情報化を謳った高度道路交通システム(ITS)時代が幕を開けたことになる。カーナビの普及でわき見運転が激増する道理だが、安全対策は万全だろうか。
 評者は以前、運転中の携帯電話の危険性を取材した。その時に業界団体の部長が吐いた言葉を忘れることができない。「事故は全体的に減っているし、警察が法規制する気はないと言っているのだから問題はない。それ以上のことを業界がやる必要がどこにある。(事故の)新聞記事なんか自慢げに見せてきて、頭にくるんだよ」。
 強気の背景には天下りの構図がある。元警察官の電気通信業界への転職が急増していた時期だった。情報化も景気対策も結構だが、交通殺人のさらなる増加だけは避けなければならない。ITS関係者はせめて本書を熟読し、自分の家族が被害者になったとしたら、と想像しながら仕事に当たってもらいたい。
Copyright (c)1998-2001 Nikkei Business Publications, Inc. All Rights Reserved.

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日経ビジネス2001/07/02

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「第2次大戦時のフランスやノルウェーのような軍事占領下に、私たちは住んでいるのではないかという気がする。しかし今回の占領者はナチスではなく、マーケッターだ」
 カナダ・トロント大学の名誉教授が、こんな発言をしていた。それほどまでに世界は、“ブランド”に埋めつくされている。
 ナイキ、ギャップ、マクドナルド、スターバックス…。企業活動は今や、単なるビジネスを超えてしまった。あらゆる空間がマーケティングの対象とされ、関わりを持とうとしない個人は社会全体から排除されていく。
 著者は1994年、ウッドストック25周年記念音楽祭のテレビ中継を見ていて、その現実を思い知らされた。あのベトナム反戦運動の象徴は、四半世紀を経て、米ペプシコなど企業スポンサーによるマーケティング活動の舞台として扱われていたのである。
 90年代、グローバル資本による社会変革が急激に進められた。米国では教育現場さえ企業に“売られて”いる。「全校コークの日」を設けたジョージア州の高校では、ペプシのロゴ入りTシャツを着てきた生徒が停学処分を受けたという。
 ブランドのベースとしての商品が、そして凄まじく劣悪な条件下で作られている。インドネシアや中国、メキシコなどで広がる自由貿易地域は、人権など全く顧みられない無法地帯だ。
 ジョージ・オーウェルの『1984年』さながら、作業中に笑みを浮かべることさえ禁じた工場が稼働している。搾取の実態を暴き、ナイジェリアの石油プラントを占拠した活動家たちは、当の石油会社の支援を得た地元警察に射殺された。
 ビジネスマンの多くは、過激でバランスが取れていない書物と眉をひそめるかもしれない。原書がベストセラーになった英米でも、企業側はそう言って切り捨てようとした。だが、ここに取り上げられた具体的事実の数々は誰にも否定できない。ここまできてしまえば爆発は必定である。
 先進国の若者が強烈な反企業感情を抱くに至った過程を本書は克明に描き出す。99年秋、世界貿易機関(WTO)の国際会議が開かれていた米シアトルに5万人の市民が結集し抗議運動を展開したのは、偶然ではなかった。
 日本の若者はまだおとなしい。だが舐めてはいけない。神ならぬ企業が世界を支配することなどあってはならないのだ。社会における企業の存在感を抑制しつつ、しかし輝くことのできる、まっとうで知性豊かな経営者の登場が、今日ほど待たれる時代もない。
Copyright (c)1998-2001 Nikkei Business Publications, Inc. All Rights Reserved.

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中央省庁再編で示された新“革新官僚”たちの実力。「霞が関の逆襲」は日本人の生活に幸福をもたらすのか

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 中央省庁の再編成が2001年1月6日に断行されて半年近くが経過した。1府12省庁から成る新しい行政体制を,同じ年の4月に発足した小泉純一郎新政権はどこまで使いこなせるのだろうか。折りしも省庁再編劇の内幕を検証したノンフィクションが刊行された。著者は『霞ヶ関が震えた日』や『大蔵事務次官の闘い』などで知られる評論家の塩田潮氏。定評ある取材力から導かれた膨大な情報量は,読む者を圧倒させずにはおかない。
 昭和初期に登場した“革新官僚”と呼ばれた一群は,腐敗した政党政治や財閥の打倒を掲げて軍部と結託し,国家統制社会を推進していった。70余年を経て,霞が関にはまたもや新しい“革新官僚”が台頭し,省庁再編の過程で実力を発揮したという。
 旧タイプとは逆のベクトルを志向する新“革新官僚”は,官僚支配に終始した旧弊を自ら改革し得るのか。タイトル通りの命題に対する回答を,著者は明快にはしていない。ただ,本書に集められた無数のエピソードを読む限り,新“革新官僚”たちの真摯な姿勢とは裏腹に,その存在はますます国民から遠のいていくように感じられてならなかった。
 権力の中枢となる内閣府人事をめぐる各省庁の思惑が乱れ飛んだ日々。旧自治省と旧総務庁の合併構想に旧郵政省が割り込んだシナリオ。分離された金融監督機能に向けた旧大蔵省の策謀。国土交通省の初代事務次官ポストを確保するための建設省の深謀遠慮等々が,そう感じさせるエピソードだ。
 気になる指摘があった。単独での生き残りに成功し,他省への影響力も増大させた経済産業省(旧通産省)が,一方で存在意義を失いつつあるという。つまり同省の論理が国のあらゆる領域に浸透した結果,従来のような形での官僚支配は終わりを告げるとしても,今度は官僚と資本の融合体による,より強力な支配の時代が訪れる。だとすれば,省庁再編,さらには今後の構造改革路線は,国民に幸福をもたらすとは限らないのではないか。
(C) ブックレビュー社 2000-2001

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日経ビジネス2000/3/20

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傲慢きわまりない書物である。「ニューヨーク・タイムズ」のトップコラムニストが、世界を席巻するグローバリゼーションと地域の伝統文化との対立を分析し、解決のための処方箋までを提示したとの触れ込みだが、本書の内容をそのまま受け入れることのできる日本人がいるとすれば、よほど恵まれた立場にいるか、でなければ軽薄なアメリカかぶれのどちらかだろう。
 何しろ著者は、こんなことを平気で書くのである。〈今や世界の指導者たちはみな、知事のような考え方をしなければならない。(中略)このグローバル時代の傑出した政治指導者が、知事の中の知事であるアメリカ合衆国の統治者、ウィリアム・ジェファーソン・クリントンなのだ〉。
 マクドナルドがチェーンを展開している国同士は戦争をしないという。それだけの経済力を持てるようになれば、むしろハンバーガーを求めて行列に並ぶ方を選ぶのだという指摘は、確かに一面の真実ではあるかもしれない。が、人間とはそれだけの存在ではないはずなのだ。
 伝統文化の重要性を、もちろん著者は忘れていない。市場競争に勝ち残ったからといって、どこに行っても、レストランと言えば「タコベル」しか選択の余地がないような世界はご免だと言い、一流選手が揃っているのにマイケル・ジョーダンがすべてを獲ってしまう(Winner Take All)米プロバスケットボール(NBA)のシカゴ・ブルズこそ現代世界の縮図と嘆きもする。
 が、それらはあくまでも“王様の優しさ”、あるいは異国情緒を楽しむ観光客の目線でしかない。
 本書によれば、未来の世界は何もかもアメリカの価値観に覆われることになる。中産階級がいくら抵抗したところで、富のほとんどを支配する上層と、そのおこぼれにあずかろうとする下層の利害は一致しているとでも言いたげな差別意識丸出しの記述には、正直言って腹が立った。市場はあくまで方便であって、普遍の真理などではないのに。
 〈世界を旅して、費用は請求したい放題、ノルマは週一回のコラム執筆〉。著者のそんな境遇から起こした本書の書評が最近の「朝日新聞」に掲載されていて、妙な書き方をすると思っていたのだ。実際に読んでみて、評者の気持ちがよくわかった。
 だがそれでも、いやそれだからこそ、日本のビジネスマンは本書を読んでおく必要がある。これが、アメリカだ。本書の結論から、ほんの少し外れたところに、きっと真実があるに違いない。
Copyright (c)1998-2000 Nikkei Business Publications, Inc. All Rights Reserved.

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日経ビジネス1999/3/8

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 ビル・ゲイツとは何者だろう。世界のパソコン基本ソフト(OS)とアプリケーション市場の9割を制圧するマイクロソフト帝国の総帥にして世界一の大富豪である彼は、ネットワーク時代の英雄か、はたまた支配欲の亡者なのか──。
 時代の寵児ちょうじに対するこのような問いかけは重要だ。実力派コンピュータージャーナリストの手になる本書は、現代という時代を理解するための必須文献に仕上がっている。
 小さな会社を相手にプログラム作りをしていたゲイツが最初に飛躍するキッカケになったIBMとの関係は、彼の母親メアリーによって与えられた。慈善団体の理事職だった彼女のコネクションが、ゲイツの第一歩だったのだ。
 しかし、コンピューター界の表舞台に登場したゲイツは、その後、市場制覇のためにはありとあらゆる手段を講じてきたという。裏切りと詐術。略奪的なマーケティング戦略。法律や契約を盾に取り、取引相手をどこまでも追い詰める商法。
 ビジネスとはそういうものだ、と訳知り顔の識者たちは口を揃えるだろう。実際、ゲイツの独占のおかげでパソコンは今日ほどに普及し、その結果、世界中に大量の雇用が確保されたではないかとする評価も一面の真実である。
 マイクロソフトが提供する商品の特性が、しかし、ここで考慮されなければならない。パソコンネットワークというインフラストラクチャー(社会資本)は、人間社会のありようを根底から覆すだけのパワーを持ち、そのくせどこまでもブラックボックスであり続けようとする。
 そのような世界では、独占はやがて、恐怖をもたらすに違いない。“帝国”の内幕と、その商法を反トラスト法違反として問題視するアメリカ司法当局との法廷闘争を精緻せいちに描き出した本書の意義は、だからこそ大きい。
 テレビの映像では涼やかに見えるゲイツの素顔は、絶えず苛立ち、思い通りに事が運ばなければ部下や取材に訪れた記者たちを罵倒することがしばしばだという。だが一方、ドイツ法人の女性スタッフに心を奪われ、懸命に求愛を繰り返す純情さを持ち合わせているのも、またゲイツなのである。
 独占や支配を夢見た人間の末路は、歴史が教えてくれている。彼は今後、どのように生きていくのだろうか。
 ドラマ仕立てを意識しすぎ、やや読みにくい文章をたどりながら、私はそんなことを考えた。もちろん訳者の後書きにあるように「驚くべき示唆に富んだ現代マーケティングの実践教科書」として読むのも自由である。
Copyright (c)1998-2000 Nikkei Business Publications, Inc. All Rights Reserved.

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日経ビジネス1999/1/25

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 原題を“The Commanding Height”(管制高地)という。経済全体を支配する根幹を指す表現で、1922年、共産主義インターナショナル第4回大会において、かのレーニンが用いたのを嚆矢こうしとする。
 管制高地を国家が握ることこそが最も重要だと、レーニンは言った。だが、今日、ソビエト連邦は消失し、ロシアの大地は市場経済の大波に晒さらされている。
 20世紀とは管制高地をめぐる国家と市場の攻防の歴史だった。2人のスーパーライター(ヤーギンは英国ケンブリッジ・エネルギー研究所会長でピュリツァー賞受賞者。スタニスローは同研究所所長)が、この間の壮大なドラマに真っ向から取り組んだ成果が本書である。
 国家から市場への時代のうねりを体現していたというモスクワ郊外の屋外市場を起点に、彼らの視点と足跡は現代を形成する世界のすべてに及んでいく。混合経済で戦後の疲弊から脱出したヨーロッパ諸国は、やがて市場を重視した連邦への道を突き進むことになった。建国の理念を大恐慌によって打ち砕かれたアメリカは、再び徹底した市場主義を取り戻し、いまや絶頂にある。そしてロシア・東欧は、中国は、インドは、そして日本は──。
 膨大な文献と現地取材の積み重ねが、著者らの目指した野望を完遂させた。地域や歴史的段階別に構成された全13章の内容はそれぞれに充実し、互いに関連しあって、優れた歴史書を読むことの喜びを感じさせてくれる。
 それでいて主要なプレーヤーは国家でも大企業でもない。この種の書物には珍しく、生身の人間たちの群像と彼らの思想、考え方に焦点が合わされていて、このことがまた、本書を深みのあるものに仕上げているようだ。
 個人的には第9章「ルールにのっとったゲーム──中南米の新しい潮流」に強く引かれた。たとえばチリの項で、「なんとも皮肉なのは、国の役割を最小限にまで縮小すべきだとする経済理論に基づく政策を遂行するのに、軍事独裁政権の力を使ったことである」などという記述には、経済学以前に、社会の本質を見据える哲学が込められている。
 本書は市場主義に向かう世界の現状を基本的に肯定しているが、それを絶対視する愚からは最も遠い位置にある。公正さが保たれるか、文化のアイデンティティーが維持できるかなど、市場経済への信認を決定する要件が最終章で挙げられているが、まったく同感だ。
 どんなスタンスの読者にとっても、ものすごく面白い。ビジネスマン必読、と声を大にして叫びたい。
Copyright (c)1998-2000 Nikkei Business Publications, Inc. All Rights Reserved.

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遺伝子技術とハイパー資本主義が人間の尊厳を破壊していく。市場や政府だけに任せておいてよい段階ではない

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 厚相の諮問機関である厚生科学審議会はこのほど,第三者の精子や卵子,胚を利用した不妊治療を認める方針を固めた。匿名の第三者の精子を使う人工受精だけを認めていた現状が大幅に緩和される。出生後の親子関係が複雑になりかねない兄弟姉妹からの提供も可能になるという。
 いずれ人間のクローンが製造されよう。たかが人間が,神の領域にひたすら近づいていく。日本のこんな現状は,しかも,“本場”から見たら,まるで赤子のレベルだった。
 この分野での法律エキスパートとして知られるローリー・B・アンドルーズ教授が,米国生殖医療の現場を詳細に報告したのが本書である。WHO(世界保健機関)をはじめ,世界各国でアドバイザーを務める彼女の調査は精密で,クリントン大統領をしてクローン科学に厳しい姿勢を採らせてもきた。にもかかわらず,その程度ではどうにもならないほど,事態はすさまじい局面を迎えてしまっているようだ。
 カリフォルニア州エスコンディードには,“天才”のものばかりを集めた精子バンクが存在する。これらの精子を,経営者のグレアムは誰にでもは売らない。知能テストで上位2%以内に入り,「メンサ」なる国際団体に入会した女性だけが顧客になれるのだ。
 精子や卵子は,インターネットでも売買されている。こんなサイトもあった。「ユダヤ人の卵,売ります。……当方,容姿端麗で,健康状態も万全。優良な遺伝子をお求めのカップルに,卵をお譲りします」。
 アウシュビッツの記憶を持つユダヤ人の間でさえも,優生思想が市民権を取り戻したというのだろうか。ナチス・ドイツの時代と異なるのは,現代のそれは,すべて“市場原理”によって拡大されていることだ。後々の家族関係が崩れようが,代理母を仲介する弁護士が気にも止めないのは,ひとえに金のためである。また前出のグレアムは,「社会がすでに受けて入れている方法,すなわち,社会的および経済的な奨励によって,自分はことを進めている」と説明した。
 歯止めの効かないハイパー資本主義が,とめどなく事態をエスカレートさせている。頭部のないカエルのクローンが登場した。そこで研究者たちは,臓器提供用に頭のない人間のクローンを作ろうと計画中だ。脳がなければ,法律上,人間と見なす必要がないという。
 男性を妊娠させる技術も開発された。ダイアナ妃の複製を作ろうと夢見る人々がいる。米国の狂気は,やがて世界中に及んでいくだろう。もはや市場や政府だけに任せておいてよい段階ではない。本書のメッセージを,誰もが真しに受け止め,深く考えることが重要だ。現代人必読の書である。           
(C) ブッククレビュー社 2000

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日経ビジネス2000/6/26

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 日本は土建国家である。いや、より正確を期すなら、土建関連業界とそれに連なる政治家および官僚を潤すためにのみ日本という国がある、と言うべきか。
 吸い上げられた血税は、ほとんどすべて、彼らに費やされてしまう。それでも昨今は公共事業の無駄が多少なりとも省みられ始めていなくもないようだが、厄介なのは田畑の区画を広げたり水路を引いたりする、農地での土地改良事業だ。農林水産予算の3分の1を占める巨大利権であるにもかかわらず、農業復興を前面に掲げられると、食糧自給も覚束ない国の民としては、攻撃の刃がどうにも鈍くなりやすい。
 本書は、そのような“日本の聖域”に深く切り込んだルポルタージュである。福島県会津地方の集落に材を取り、今なお罷り通る封建制収奪の構図をあぶり出していく。
 「土建屋の課長がな、ヒソヒソ声でこんなことをいっていた。公共事業の中で一番儲かるのは土地改良事業で、二番目が道路工事、そして建物の建設は赤字だとな。田んぼや畑の工事はデタラメができる。ヤツらにとっちゃ、一番おいしい仕事だというわけだ」
 ある農民が吐き捨てた。甘い蜜に群がる手合いが始めることは決まっている。工事に同意しない農民の署名を偽造する、田畑にクギを放り込む。兼業農家の勤務先に圧力をかける…。
 農民などは「スイッチさえ入れれば、なんぼ反対していても黙ってしまう」。関係者が公言して憚らない会津の集落では、町役場が未同意者の村八分を主導した。連日のように届けられる脅迫状を警察に通報したら、お前の方が悪いとばかり、両手10本指全部の指紋を採られた。
 無条件でお上に服従しない者は、犯罪者同然に見做される。江戸時代の話でも、地方だけにとどまる因習でもない。情報技術(IT)革命に沸く経済大国日本は、今なおこのような仕組みに動かされているのだ。
 著者は終盤、この国の壮大な虚構に気づかされて天を仰ぐ。帳簿上は国家財政から支出されたはずのカネが、いつの間にかどこかに消えてしまっている“二重帳簿システム”が存在する可能性が示唆されて、物語はしかし、やや唐突に終わるのだが——。
 そうとでも考えないと説明がつかない愚かな営みが、日本社会には多すぎる。何よりもまず、この封建時代そのままの構造が覆らない限り、日本人は永久に幸福になれっこない。グローバリゼーションなどといったところで、市民にとっては、企業の力が国家権力に上乗せされるだけのことだ。
Copyright (c)1998-2000 Nikkei Business Publications, Inc. All Rights Reserved.

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日経ビジネス2000/2/7

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帝国主義からイデオロギー対立、そしてグローバルスタンダードへ。時代の進展とともに、メディアの世界も激しくうつろっていく。本書はそうした歴史のただ中で、己の信念に賭けて必死に生きる男たちの物語である。
 主な舞台はロイター、時事、ブルームバーグの各通信社と日本経済新聞社。いずれもこの間、ドラマチックな変化を遂げ、あるいは新たに勃興したメディア企業体だ。
 かつて通信社とは、国家そのものだった。ロイターも大英帝国の栄光と落日とともに歩んできたが、名経営者ジェラルド・ロングの登場で、創業の原点である商況ニュースに活路を見いだし、やがて世界の金融市場に独占的な地位を築き上げていく。
 日本では戦時中まで国の情報機関だった同盟通信が、戦後、共同と時事とに解体された。不利な条件を押しつけられたどん底から社をもり立てた時事の総帥・長谷川才次は、それだけに頑な独裁者となり、幾度かめぐってきたチャンスを生かせなかった。
 長く“眠れる獅子”の状態を続けていた日本経済新聞社。ここでは新聞社には珍しく記者経験の短い社長・圓城寺次郎が、東京証券取引所の電算化を契機に黄金郷の扉を開けた。
 金ピカの1980年代、アメリカ金融革命は新しいメディアを生んだ。1人の為替トレーダーが立ち上げた、市場経済のためだけに存在する、ブルームバーグ通信社であった——。
 現代メディア史を俯瞰しつつ、著者はその一コマ一コマに脈打つ人間の生を丹念に捉え、活写していく。メディアの興亡を通して、人間の営みとは、幸せとは何なのかを描いていくのだ。
 95年7月、著者がコロンビア大学のジャーナリズム・スクールに留学していた際に交流していた「ニューヨーク・ニューズデイ」紙の廃刊を伝える報道に接したのが、本書に取り組む引き金になったという。調査報道の牙城だった同紙もまた、利益市場主義の流れには抗いきれなかったのだろうか?
 それから4年余り。著者は出版社勤めの傍らコツコツと地道な努力を積み上げ、この大作をモノにした。
 〈国家と経済。市場と個人の幸福。こうした概念は時に鋭く対立し、時に絡み合って往復運動をしながら、複雑な歴史を編んでいくことになる〉
 膨大な情報量や登場人物のドラマばかりではない。ある意味で平凡な結論を得るまでの間に著者が流した汗の量が、読者の胸を打つ。メディア・ノンフィクションの白眉である。
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日経ビジネス1999/4/19

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 昨今の大不況はBIS規制のせいだ、とは時折聞かれる論調である。言うまでもなく国際決済銀行(BIS)が定めた「国際業務を行う銀行は自己資本比率が8%以上でなければならない」とする基準のことだ。
 日本の銀行はこれを遵守しようとするあまり、収益率の低い融資案件には見向きもしなくなった。かくて公益性は完全に失われ、中小企業に対する“貸し渋り”が常態化してしまったというわけだ。
 銀行経営が健全でなければならないのは当然だ。とはいえ、8%という数字に根拠があるのかといえば、ない。しょせんは一握りの人間が、人為的に決めた数字にすぎなかった。
 にもかかわらず、この問題に関する議論はあまりに乏しい。昨年秋に成立した金融早期健全化法でも、BIS規制は天から授けられたものででもあるかのように受け入れられた。
 何かおかしくはないか?
 本書はそんな問題意識を出発点に、BIS規制の実像を徹底的に検証した。
 世界経済の分水嶺は1985年だった。市場を神とするレーガノミックスはこの年で終わっていた、と著者は説く。いわゆる双子の赤字が深刻化していく中で、新任のベーカー米財務長官はそれまでの不介入主義を放棄。経済立て直しのためにアメリカの持てる政治力をフルに活用する道を選んだ。
 5カ国蔵相会議でプラザ合意が演出され、8%規制を決定するバーゼル合意へと至る。ターゲットは日本。果たして経済大国になりかけていた日本は、一時的な花見酒を享受したものの、やがて現在のような惨状に陥った。
 著者は強調する。すべてはアメリカの、アメリカによる、アメリカのための戦略だったのだ。そのような現実もわきまえず、経済は経済だけだと、一切の政治的要素抜きで語られる現状は愚かしい。経済ほど政治が跳梁する舞台はほかにないのに、我々は世界経済がそれ自体で自立的に動いているのだと信じ込み、無謀にも丸裸で闘技場に出ていこうとしている──と。
 国際的な政治・経済を動かす酷薄な原理に、改めて戦慄した。と同時に、バブルに狂奔していたころの銀行員たちの振る舞いを思い出さないわけにはいかない。彼らがもう少し真っ当であったなら、銀行経営を圧迫するBIS規制に対する社会の認識は、また違ったものになっていたはずだ。
 文献取材の出典がその都度明示されていない点は残念な気がする。読みやすさを考慮したとのことだが、明示すればはるかに説得力が増したと思う。
 頼むから、これ以上叩かせないでほしい。銀行の経営者たちに、改めてそう伝えたくなった。
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