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波多野 龍 さんのレビュー一覧

投稿者:波多野 龍 

1 件中 1 件~ 1 件を表示

零戦 新装版

2000/08/02 01:41

この優雅で美しい機体を見よ

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 1940年8月、まだ制式前の零戦は中国で空戦に投入され、設計者の狙いどおりの強さを証明する。これが5年に及ぶ零戦の死闘の始まりであった。

 本書は日本海軍航空の誕生を含み、零戦の歩んだ全ての道程を簡潔に過不足なく述べる。工業後進国の日本で、この様な高性能戦闘機を産み出した設計者堀越二郎博士とそのチームの開発コンセプトが解き明かされる。零戦の一つ前に海軍が制式化した96式艦上戦闘機こそ、そのコンセプトの先駆となった画期的な機体であった。
 太平洋戦争前半の2年間、零戦は大空の覇者であり、連合軍は『東洋の神秘』と呼んで恐れた。
 
 1942年6月のミッドウェー作戦と並行して行われたアリューシャン作戦で日本海軍は1機の零戦を失う。米軍はこれを捕獲して慎重に修理し、彼ら自身の手で飛行させ、ここに零戦の秘密が明らかになった。太平洋戦争後半に零戦の好敵手として登場するグラマンF6Fヘルキャットはこの時まだ図面でしかなかった。零戦の秘密は直ちにこの開発に投影され、F6Fの設計は大幅に変更される。2倍のパワーに改められたF6Fは1943年から零戦の前に立ちはだかった。国力に劣る日本海軍の対抗策は遅れざるを得なかった。零戦とはコンセプトの異なる「雷電」「紫電」「紫電改」が戦線に投入されるが劣勢を覆すことが出来ない。真のグラマンキラーと位置づけられた「烈風」は戦争に間に合わなかった。その三面図に眼をやるとF6Fが深く影を落としていることが窺える。
 一方グラマンもまた零戦から強いインパクトを受けた。
 真の零戦キラーとして計画されたF8Fベアキャットは太平洋には間に合わなかったが、その高性能の機体は美しくコンパクトにまとめられ、永遠の宿敵・零戦の面影を宿している。日米双方の開発コンセプトを歩み寄らせたものは、過酷な空の戦いに登場した強敵の面影であった。

 零戦を知悉する翻訳者の名文は、時に原作者の記述を超えて素晴らしい。両者の呼吸はピッタリ合って零戦の過酷な5年間が活き活きと述べられている。それを彩るのが美しいイラストの数々である。
 日本海軍ファンなら絶対に忘れられない生田乃木次大尉機のプロフィルは貴重な一枚であろう。12空所属の零戦21型、栄21型エンジンの構造図、San DiegoのNorth Island海軍航空基地の零戦21型、98式射撃照準器、そして52型のコクピット機器配置図。陳腐な言葉であるが珠玉の様なイラストの数々は眺めて飽きない。このイラストレータの神技に等しい省略表現は、今は亡き名機・零戦の風格を的確に捉えて見る者を魅了する。

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