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先月(2017年8月)

吉野蕉子さんのレビュー一覧

投稿者:吉野蕉子

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キモノ文様事典

2001/06/18 12:26

掘り出し物の柄も見つかる事典

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 黒留袖に、逆巻く波や水の流れを思わせる模様を目にすることがある。ご存じのとおり、黒留袖は結婚式や披露宴といった婚礼の席で着られるミセスの第一礼装で、花嫁花婿に近しい者だけにゆるされるその装いには、当然心からの祝意が込められている。そういう晴れの場に、「波」や「水」といった「流れ流される」イメージを呼び起こす柄ゆきのものを、はたして身につけてかまわないのだろうか。良縁を流しやる「水」、いまにも呑まれ足をすくわれそうな勢いの「波」。しかし、これを慎むべき忌み柄でないと考えるのが、きものの文様の世界なのだ。不吉な事を連想させて縁起がよくない、とは受けとらない。そこには、現在のきものの意匠に連なる文様が何百年もの歴史を刻んで織りなす、きもの独特の世界がある。

 著者はきものの文様と資料収集に約50年の歳月を費やして、ライフワークの集大成ともいえるのこの事典を著わした。「水」がけっして慶事に水差す文様でないことを教えてくれると同時に、伝統文様のかずかずを、簡潔な文でその由来や意味を説いてみせている。だから「事典」であっても、一気に読める。取り上げる伝統文様は304、そのすべてに写真が添えられている。名品は桃山時代から江戸時代にかけての小袖や能装束に多いのだろうか、当代の匠たちが技の粋を集めて紡いだ夢がそこにある。国宝級の品もあれば、明治から昭和初期のきものも見られる。写真は白黒だが、白黒ゆえにむしろ文様のデザインに本来そなわった気品のようなものがよりいっそう引き立っている。この情報量にして1800円という値段は手頃ではないだろうか。

 読みすすめていくうちに、興味深いいくつかの発見があった。先に挙げた「水」につながる文様が思いのほか多いのもそのひとつ。また100年以上つづいてくりかえし織られ描かれて、いまに息づいている伝統文様というものは、形の美しさから文様に取り込まれたものよりも、吉祥柄や忌み柄のように何かしら縁起につながるものが残されていくようだ。そのなかには、昔の中国の思想や故事にちなむものも少なくない。日本に渡来したころには異国情緒とそのめでたい縁起から珍重されたものが、風土に かしずかれるままに、いつしか日本の情趣に富む意匠としてこの国の文化に根を張った文様たちである。

 文様は50音順に並んでいるが、「あ行」の最初にあるのは「アール・ヌーヴォー」だ。1900年のパリ万国博覧会に出かけた人たちがつくった流行らしい。蝙蝠(こうもり)文もぜひ一度ご覧いただきたい。吉祥柄だというが、このように現在ではまれにしか見られなくなった文様も探しあてられる。事典として調べものに重宝するのはもちろん、思い出したように手元に引き寄せて眺めてみても楽しい。さらには、ひとつひとつの文様の物語を順をおって読みついでいくのもいいだろう。なにか意想外の発見につながるかもしれない。このようにいろいろな接し方ができる事典である。家庭実用>習い事

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