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  3. 岡埜謙一さんのレビュー一覧

レビューアーランキング
先月(2017年8月)

岡埜謙一さんのレビュー一覧

投稿者:岡埜謙一

57 件中 1 件~ 15 件を表示

ラッコの観察記録

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 ラッコの実物を見たことがなくても、名前はほとんどの人が知っている。むしろ一度も見たことのない人のほうが少ないくらいだろう。いまやパンダやコアラと並んで、日本人に極めてなじみ深い動物になった。数ではパンダやコアラよりはるかに多い。本書の舞台になった鳥羽水館にラッコがやってきたのは1983年というから、もうじき20年になり、現在では日本各地の水族館や動物園にラッコが増えている。本書によると、全国28の施設に95頭ものラッコがいるそうだ。私は鳥羽水族館には一度も行ったことがないが、東京・池袋のサンシャイン水族館にはずいぶん通ったものだ。テレビや写真でその姿はよく知ってはいたが、石で貝を割るあのラッコの仕草を実際に見たときには、感激と同時にその大きさに驚いたものだ。あの可愛い姿や仕草から、小さい動物というイメージがなんとなくあったからだ。名前と毛皮の色だけは子どものときから知っていた。私の祖母がラッコの襟巻きを持っていたからだ。戦前に買ったものだそうで、毛皮の柔らかい手触りはいまでもよく覚えている。しかしどんな動物かということは、祖母も知らなかった。あの素晴らしい毛皮が、日本近海にいたラッコに災いをもたらしたわけだ。
 本書は1983年、鳥羽水族館にラッコが来た当時の飼育記録をあらたに再現したもので、受け入れ現場の当惑や混乱、驚きが生き生きと描かれている。著者の中村さんは、当時広報担当の企画室を設立した直後で、ラッコの宣伝にかけずり回っている。いまでは信じられない話だが、当時ラッコの名前を知っている人はほとんどいなかったらしい。日本で初めてラッコを飼育したのは鳥羽水族館だと思っていたら、そうではなかった。静岡県の伊豆三津シーパラダイスが1年早かったということを本書で知った。さて本書では、ラッコの習性や詳しい生態(あくまでも鳥羽水族館での)がたくさんの写真入りで紹介されている。おなじみ石を使った貝割りから、ラッコのいたずら、子育てまで、大人が読んでも子どもが読んでも楽しい話が詰まっている。専門的で難しい話は一切なし。なんといっても面白いのは、毛皮をたるませて、そこにお気に入りの石や餌になる貝などをしまいこんでおくというポケットの話だ。あの石を普段どうしているのか疑問だったが、本書を読んで眼からウロコが落ちた。子育ての詳細な観察記録もたいへん興味を引く。本書に書かれていることはすべて、現場でいつもラッコに対峙している人でなければわからないことばかりだ。観客としてたとえ何回通ったところで、ラッコはそのすべてを見せてくれるわけではないのだから。その見られない部分を本書で補うといい。私も本書を読んでまたラッコを見に行きたくなった。

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紙の本動物の言い分人間の言い分

2001/09/13 11:22

生き物好きには嬉しい一冊

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 タイトルを見て、てっきり動物から人間への苦情、それに対する人間の反論か、などと勝手に想像したら、まるで違った。帯を見たら「かくも不思議な動物たちの論理」と書いてある。論理には「たくらみ」とルビが振られている。つまり生物の体の構造や機能、行動の不思議を、動物行動学の専門家が我々素人にわかりやすく解説した本なのだ。本書は角川書店が新しくスタートさせた新書シリーズ「角川oneテーマ21」の一冊。
 このところ出版界は新書シリーズのラッシュだ。単行本は売れず、文庫も過当競争で苦しいし書店のスペースもいっぱいだ。頼みのツナのコミックも低落気味。「あそこが出すなら、うちもスペース確保のために出す」と、すべてがそんなわけで新書シリーズを発刊したのでもないだろうと思いたいが、これ以上文庫の棚を確保できないからと、書店の棚の確保が第一目的で、単に文庫からサイズを大きくしただけのような新書シリーズも見受けられるので、いささか先行きが心配だ。出版業界は、「活字離れ」と売り上げ低下を他人のせいにして嘆いている。しかし、たとえば小説だけ見ても、そりゃあ面白い本が少ないからだよ。息の長いいい著者が出てこないからだよ。おまけにケイタイだ、インターネットだと、いまはほかにお金の使い道はいくらでもあるんだよ、出版社のみなさん。
 ところが本書を読む限り、こんな値段でいいのかと思いたくなるほど内容が濃いじゃないか。読む前は、最近の新書という先入観があって、あまり期待もしていなかったのに。内容がたまたま自分の好きなジャンルということもあるが、意外なほど力が入っている。動物の眼には現実の世界がどのように映っているのか。タコの足はじつは頭から生えている。マグロの眼は獲物を追いかけるときは出目になる。こういったことは専門家の間では常識なのだろうが、我々素人や単なる生き物好きには初耳かもしれない。何よりもそういった事柄をとてもわかりやすく解説してくれているのがいい。そりゃあ知ったからといって、明日から世界が違って見えるというわけでもないが、生き物好きには嬉しい一冊だ。
 「みんな丸まる」という項目がある。なぜヤマネやネコは眠るときに丸くなるのか、アルマジロやハリネズミ、ダンゴムシは危険を感じるとなぜ丸まるのか、という話である。急所が集まっている腹部を守るためだろうという説だ。ここは笑ってしまった。余談だが我が家にはプレーリードッグというジリスの仲間がいる。この連中は寒いときはダンゴムシ状態で寝るのだが、暑いときは仰向けの大の字になって熟睡する。見てるほうが恥ずかしくなるような寝姿で、揺さぶったくらいじゃ起きない。元々は野生動物なのに、そんなに無警戒でいいのかといいたくなるほどだ。
 どうせお手軽に読める本だろうと高をくくって電車の中で読み始めたところ、えらく読み応えがあり、ついに乗車時間1時間20分の通勤の片道では読み終えることができなかった。自分ではとても読むのが早いと自負していたのに残念。

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掲載種類最多も良し悪し

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。


 書店で野鳥図鑑が並んでいる棚を見ると、タイトルに数を表記しているものが目につく。本書はその中で一番の数を誇る(?)ものだ。いま新しく野鳥図鑑を企画するとなると、
(1)とにかく多くの種類を掲載し、情報量もできるだけ多くする。 
(2)掲載する種類を抑えて1種類あたりの情報量を多くし、携帯性も考慮。 
(3)携帯して素早く検索するため情報量は必要最小限に抑え、識別しやすさを工夫する。 本書はこの中では(1)に該当する内容で、掲載された種類は、外来種、今後記録される可能性がある種含めると、実数は641種類。現時点では掲載種類が一番多い。また写真はすべて真木さんが撮影したものだ。ひとりで594種類撮影というのは、これはもう快挙としかいいようがない。しかも真木さんは、迷鳥や旅鳥など、国内で撮影する機会のなかった鳥を外国まで追いかけて撮影しているのだ。彼ははまだ34歳。短期間によくもこれだけの野鳥を撮影できたものだ。なにしろ相手は生きものだ。そこに行けば必ず撮影できるというものではない。すばらしい幸運にも恵まれた希有な人だ。なお写真に付けられた解説は、個々の特徴に重点が置かれているが、限られたスペースに要点がぎっしりと詰め込まれているため、初心者にはちょっとわかりにくいのが残念だ。このほか類似種との識別も丁寧に解説されているが、生態についてはスペースの関係もあってか触れられていない。
 掲載された野鳥の中には「きわめてまれな迷鳥」というのがかなりの数入っている。本書の帯には「現時点で確認されている日本産鳥類594種類」と書かれているが、過去に1回だけ、あるいは数回記録された迷鳥まで日本産鳥類と言い切ってしまうのは牽強付会にすぎるし、誤解を招く言い方だと思う。もちろん本書の価値を損なうものではないにせよ、このコピーを見ていささかがっかりしてしまった。これらは日本産鳥類としての枠から外し、「過去に記録された迷鳥」とでもして、まとめて別枠で扱うべきではなかろうか。たとえばシャチやクジラなどが日本の海岸に迷い込むことがしばしばあるが、誰もそれらを日本産哺乳類として扱うことはないのだから。

著者略歴
真木広造(まき ひろぞう)/1966年、山形県生まれ。山形県立寒河江高等学校卒業後、野鳥撮影を始める。1985年に野鳥写真家として独立。主な著書に、「みちのくの野鳥」(山形放送)、「日本の鷲鷹」(平凡社)など。

大西敏一(おおにし としかず)/近畿大学農学部卒業。中学時代から野鳥観察を始め、現在はムシクイ類の分類、社会構造、野外識別に興味を持って観察している。また、(株)野生生物保全研究所にて、主に鳥類の自然環境コンサルティングや調査研究に従事。

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紙の本ぼくのともだちドゥームズ

2002/03/27 22:15

本書を手にしたひととき、野生動物と暮らす夢を見ることができた

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 猛獣と暮らした記録といえば、すぐ思い出すのがジョイ・アダムスンの「野生のエルザ」だ。あれは雌ライオンの話だったが、本書に登場するドゥームズは、雄のチーターだ。ほとんどの人が知っているだろうが、チーターはアフリカのサバンナに生息するネコ科の猛獣である。私もケニアで何匹も見たが、じつに美しく、目が可愛くてとても猛獣とは思えない。ライオンと比べるとはるかに小型だが、それでも100kg前後になるし、見た目はともかく、れっきとした猛獣なのである。
 著者のホプクラフト一家はケニアで牧場を営んでいる。ここにある日、生後3、4週間のチーターの子供がやってくる。それがドゥームズだ。ケニアでチーターを勝手に飼育していいのかどうか知らないが、そんなことはどうでもいい。動物好きにとって猛獣や猛禽と暮らすのは大きな夢だ。もしもそんな機会に恵まれ、環境が許すならば、チーターでもオオカミでも、ワシでもタカでも欲しい。本書はそうした夢を見させてくれる本なのだ。著者のキサンはホプクラフト家の息子で、本書はキサンの語りを母親のキャロルがまとめたという形になっている。
 写真もたくさん掲載されている。まだ赤ん坊のドゥームズ。犬と遊ぶドゥームズ。赤ん坊のキサンの相手をするドゥームズ。何回見てもため息の出る写真ばかりだ。なにしろロケーションがいい。ケニアのサバンナだから。これが都会の部屋の中や檻に入れられていたとしたら、イヌやネコと同じ、単なるペットになってしまう。ところがドゥームズは人と暮らしていながらも、野生を失っていないのだ。ときどき外に出かけて狩りをする。しかもどの写真を見てもわかるが、けっして人に媚びていない。人とまったく対等につきあっている。これこそ野生動物と暮らす醍醐味ではないか。
 さて、このドゥームズはキサンが7歳のときにとつぜんあっけなく亡くなってしまう。悲嘆にくれるキサンの前に現れたのは、なんと雌のチーターの赤ん坊「シャーラ」だ。ここで一応物語は終わっている。日本に暮らす者にとっては望むべくもない、本当に夢のような話だが、本書を手にしたひととき、野生動物と暮らす夢を見させてくれたことに感謝したい。(岡埜謙一/フリー編集者兼動物里親)

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紙の本里山の道

2001/12/04 18:15

里山の自然と人

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 なんの変哲もない水田やあぜ道、なだらかな山、積み上げてある薪、農家の軒からぶら下がっている干し柿、そしてそこに暮らす人たち。日本人にとって、本当にありふれた風景や物。たとえ都会に住んでいても、ちょっと足をのばせば誰でも同じようなものを見ることができる。それが今森さんが切り撮ると、どうしてこうも美しく、新鮮なイメージになるのだろう。それが一番不思議だ。今森さんが撮すさまざまな里山の写真は、撮影技術などを超えたところに魅力がある。
 今回の写真集も、あの傑作『里山物語』(新潮社)と同じ琵琶湖周辺の村々が舞台になっている。日本に生まれて何が一番嬉しいかというと、やはり四季の移り変わりであり、色の変化だ。同じ場所でも春夏秋冬それぞれの色があり、ときにはまるで別の場所のようになる。都会には都会の四季の美しさがある。3000メートル級の山々では、四季の変化はきわめてはっきりしている。あまりに急激な変化についていけないこともある。しかし日本の原風景ともいうべき里山では、その変化も緩やかで、人の気持ちもゆったり切り替えていくことができる。
 舞台になっている琵琶湖周辺は、南部と北部とではかなり様相が違っている。南部は平地も多く気候も穏やかで人口はこちらに集中している。一方、北部は平地も少なく、冬には積雪量も多くて厳しい土地柄だ。また、東西には比良山系と伊吹山系がそびえている。ちょうど日本の縮図のように思えてくる。
 滋賀は今森さんの故郷であり、ずっとここに腰を据えて活動を続けている。今後も「里山の自然と人」というテーマを追い続けるのだろう。ここ数年来、書籍のタイトルで「里山」という言葉をしきりに目にするようになったのも、今森さんの『里山物語』が契機になったと思う。同じようなテーマを抱えて、ジョニー・ハイマス氏やケビン・ショート氏などの外国勢も精力的に活動している。「里山」が短いブームで終わることのないよう、また、これからも美しい里山の顔をたくさん紹介してくれることを、これらの人たちに期待したい。(岡埜謙一/フリー編集者兼動物里親)

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見る世界の日常生活図鑑

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 「写真記」シリーズと名付けられた大型企画の1冊。同シリーズはこれまで「野鳥記」「昆虫記」「蛾蝶記」など7、8点発行されている。写真集や図鑑というこれまでの枠にとらわれない斬新な構成で、いずれも、内容、デザインともにすばらしい出来栄えだ。

 本書は「見る世界の日常生活図鑑」ともいうべき内容で、まず日常生活を大きく「働く・動く」「学ぶ・遊ぶ」「着る・飾る」「住む・くつろぐ」「食べる・飲む」「町・村の風景」「人間」に分けている。この大テーマをさらに、「道掃く人 掃除をする」「槌打つひびき 鍛冶屋」「カバンの中身 教科書と学用品」「紳士になる 床屋さん」といった、100以上の小テーマに分け、世界のあらゆる国の、それこそありとあらゆる日常生活が登場する。

 旅をして何が一番面白いか、何が一番印象に残るかといえば、やはり人々の何気ない日常生活の様子だ。服装、食べ物、住まい、乗り物・・・。どの写真を見ても、その国に住む人たちの日常生活の臭いがプンプン伝わってくるが、後進国、開発途上国と呼ばれる国々の方が、被写体としてはよりすばらしいものがある。先進国は日本が一番いい例だが、アイデンティティがだんだん希薄になっているからだ。顔を隠してしまえばどこの国もよく似ている。

 本書には2150点もの写真が掲載されているが、それ以上に驚くのは、そのテーマの数だ。写真家・小松義夫氏は、これだけのテーマを創造し、常に頭に詰め込みながら毎日被写体と相対してきたのかと考えると、写真家の「業(ごう)」に圧倒される思いだ。常にテーマ(志しと言いかえてもいい)を持って撮影するか否かが、真の「写真家」と単なる「カメラマン」との分かれ道になるのだろう。

 日常生活を切り取った写真には、人物がまたふんだんに登場している。じつは本書の写真で一番すばらしいと思うのは、これら登場人物の表情である。皆、自然な表情をうまくとらえているし、とくに子供たちの笑顔がいい。小松氏は笑顔を引き出すのがとてもうまい写真家だ。それにしても本書の5,000円という価格は、著者の労力と内容を考えると、お気の毒といいたくなるほど安い。(岡埜謙一/フリー編集者兼動物里親 2001.10.24)

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紙の本生態系を蘇らせる

2001/09/26 22:15

このまま手をこまねいていれば、やがて地球上からあらゆる生物が絶滅するのではないか。

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 生態系の破壊で身近な話題といえば、メダカの減少だろうか。子どもの頃にはあまりにもありふれた魚で、どこにでもいて当たり前だった。それがいまや、私の住んでいる多摩川中流域でも、「探せばなんとか見つかる」というありさまだ。メダカだけではないが、絶滅に近い状態になってようやくそれに気づくのが常だ。

 生態系や自然環境の破壊。これらの要因は自然現象や異常気象がもたらすこともあるが、なんといっても大きいのは人為的なことだ。「そこに人が住む」から自然が破壊され、生態系にも変化がおきるのだ。いわば、人間がこの地球上に誕生して以来、せっせと自然環境を破壊してきたわけである。しかし、自然環境だの生態系だのといったことに、一般の人が関心を持ち始めたのはいつ頃からだろう。せいぜい20世紀後半からか。19世紀まではそういった言葉すらなかったのではないか。

 本書は生態系破壊の原因や歴史、さらにそれを復元しようとする運動などを紹介しているが、内容が重いだけに決して手軽に読めるという本ではない。しかしこういった問題は、単に動物や植物だけのことではないのだ。人間も含めた生物全体の存続にも関わることだ。世界中で大きな問題になっている地球温暖化や、熱帯雨林の急激な減少。このまま手をこまねいていれば、やがて地球上からあらゆる生物が絶滅するのではないか。今世紀こそポイントになるだろう。

 著者は最後に、未来を切り開く三種の神器として、「ヒト特有の知性」「子孫を思う心」「協働を楽しみとする心」を挙げている。現代の日本人に欠けているものばかりじゃないか、と思うのは私だけだろうか。本書ではもっと社会学的な考察も記述してほしかった。明治維新以来、外国に追いつけ追い越せと官民一体で自然破壊に邁進してきた我が国。政治や行政を根底で動かしているのは利権であって、自然保護や生態系の復元は利権につながらないので腰が重いのも当然だ。 (bk1ブックナビゲーター:岡埜謙一/フリー編集者兼動物里親 2001.09.26)

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ヤマガラの芸から人間心理学まで

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 おみくじを引く小鳥の芸を見たことがある人というと、現在30代前半以上だろうか。私も子どもの頃、祭りや縁日のときに露店の端っこで、あるいは普段の商店街の片隅で、小鳥におみくじを引かせる人の姿をときどき見かけたことがある。田舎で育った私でさえそうだから、都会の人ならそれほど珍しい存在ではなかったのだろう。しかしあの小鳥の芸を見せる人はいつの間にか消えてしまい、現在では決して見ることのできない幻の芸になってしまった。あの小鳥がヤマガラだと知ったのはずいぶん後で、そのときはもう見ることができなくなっていた。小銭をくちばしで受け取って賽銭箱に入れ、次にひもをくわえて鈴を鳴らし、神社の扉を開けておみくじを取り出し、くちばしで封を切る。これら一連の動作がなんとも可愛く、また、小鳥がどうしてあれだけのことを覚えたのか不思議で、いくら見ても見飽きることがなかった。私の偏見かもしれないが、猿回しやサーカスの動物芸を見ると多少の後味の悪さを感じるのだが、小鳥や小動物の芸にはそれがない。「アメとムチ」という言葉があるように、猿や猛獣に芸を仕込む際には暴力で相手を服従させる「ムチ」の部分が絶対に欠かせないのに対し、小鳥や小動物の場合はなにぶんあの小さな体であるから「ムチ」は絶対禁物だからだ。
 本書はサブタイトルに「文化史と行動学の視点から」とあるように、著者の小山さんは動物の行動を研究している学者だ。ヤマガラが餌をため込む貯食行動を調べるために飼っていた三宅島産オーストンヤマガラに、いろいろな芸を教えてみようと思いついたのが本書を書くきっかけになった。いくつかの芸を仕込み、さらに本書でも写真入りで紹介されているが、神社の模型まで作っておみくじ引きに挑戦しているが、この芸は未完成とのこと。本書はヤマガラの生態も通常の野鳥の本以上に詳しく書かれているが、もちろんそれが主眼ではない。また、ヤマガラの芸の考察で完結させているわけでもない。ヤマガラの芸を端緒として、膨大な文献や資料を基に、小鳥の飼育から動物芸の歴史といった民俗学的な領域、さらに動物芸を面白がる人間の心理学的な領域にまで踏み込んでいる。本文わずか200ページ強の本とは思えないほど、内容が凝縮された読み応えのある一冊だ。これまでヤマガラや他の動物の芸について書かれた本を眼にしたことはない。研究論文(その有無はともかくとしても)などを別にすると、一般の読者が入手できるものはこれ1冊ではないだろうか。これら動物芸に限らず、大道芸やサーカス、見せ物といった、たいへんなじみ深いものについて、なぜかまとまった本が極めて少ない。

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ネズミが苦手な人にも

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 ラットとはいろいろな実験用に使われている大型のネズミのことで、一般によく知られているのは白い色だ。元はドブネズミのアルビノ(白子)を実験用に家畜化したものだそうだが、普段眼にするドブネズミとはまるで別の生き物のように可愛い。この本によるとヨーロッパではペットとして人気があり、色も様々だそうだ。日本でペットとして元祖ドブネズミを飼っている人は聞いたことがないが、色が違うだけで忌み嫌われるのも本書を読んだ後ではいささか可哀想な気もしてくる。ちなみにマウスというのはハツカネズミ系の小型ネズミのことである。こちらは日本のペットショップでも白いのを筆頭に、様々な色のマウスを売っている。服部さんは病気療養(何の病気かは明らかにされていない)のために夫妻でドイツに移り住み、ペットショップでフェレットに一目惚れする。しかしご主人はフェレットには反対し、代わりにラットを薦める。ご主人もじつは大の動物好きなのだ。やがて手元に届いた1匹の子ラット。このラットは2年後に寿命を全うしていなくなるが、次に飼ったのは2匹のペアで、ここから服部さんのラット観察が本格化するのである。何の観察かというと、本書のサブタイトルに「ネズミたちの育児風景」と付いているように、ラット一家の出産・育児・グループ行動だ。
 ラット一家といっても、本書に登場する家族はなんと5家族だ。本書の冒頭に、それら5家族の家系図が掲載されていて、名前もちゃんと付いている。ときどきここを見ながら読み進まないと、あまりに頻繁に出産が行われ、ときには前の子ラットたちの育児と次の出産とが重なったりして話がとてもややこしくなり、読んでいて混乱することがある。ネズミの一生は約2年程度と、とても短く、それゆえに早熟であり、生後2カ月前後でもう親になり、その子たちがまたすぐ親になるのだ。おまけに1回の出産で多いときは十数匹も生むのだから、あっというまに大きい群ができてしまう。服部家のラットは最多時には150匹にもなったという。服部さんは本来が学者でもあり、その観察たるやじつに詳細を極めている。出産直前の巣作りから授乳の様子、さらに離乳から自立まで、その行動は家族ごとにずいぶん違う。さらに行動だけでなく、ラットたちの恋愛感情や出産と育児を経験したことによる性質の変化、個体によるそれらの違いなどもよく捉えており、むしろそういった内面的な部分の観察が興味深い。
 服部さんはラットを知的な生き物といっている。私はラットのことは知らないが、元々ネズミ系も好きなので家に出没するハツカネズミ一家の餌付けをしたことがあり、ネズミの学習能力の高さと意外に人に慣れやすい性質は知っていたが、本書を読むと知的という言葉も納得できる。それだけでなく、犬や猫に劣らずとても感情豊かな生き物だということがわかった。ネズミ系ではハムスターが世界的に大人気で、飼育の手引き書や飼育記録は書店にいくつも並んでいるが、こうしたラットの飼育記録が一般の本になるのはとても稀なことだ。この本の帯に「犬、猫、ハムスターが好きな人もぜひ・・・」とあるが、ネズミは苦手という人にこそぜひ読んでもらいたい。ネズミたちの思いがけない一面を知ることができるだろう。また本書のカバーには素敵なイラストが描かれ、本文中にも可愛いラットのスケッチがたくさん挿入されている。これらはすべて服部さん自身の作品だ。服部さんはあとがきで、「ラット社会のもう一つの側面、付き合い・闘争・性行動なども、後でまとめたい・・・」と述べている。早く続編を読みたいものである。

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生き字引的存在漁師の知恵と技術

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 この本は昨年10月まで約2年間、小学館のアウトドア情報誌「BE-PAL」誌上で連載されていた記事を、1冊にまとめたものである。鳥や動物の話は出てこない。まるごと川魚漁の話で埋め尽くされているのだが、これがじつに面白い。半世紀に渡って川魚漁一筋に生きてきた仁淀川の生き字引的存在漁師の、知恵と技術が写真と図解入りでこと細かに書かれている。いや、語られているというべきか。私は雑誌連載中に読んではいたが、なにぶん長期間の連載となると最初の頃の話がうろ覚えになってしまう。こうして1冊の本になったものを読むと、面白さも倍加するというものだ。川魚漁師・宮崎さんが仕事場とする仁淀川というのは、愛媛県の石鎚山系から高知県まで流れる四国第三の大河だ。四国の川というと四万十川があまりに有名だが、仁淀川もそれに劣らず水質のきれいな川らしい。そういえばつい最近、宮尾登美子さんが「仁淀川」というタイトルの新作を発表したばかりだ。
 本書で語られているのはあくまでも職業としての川魚漁であり、われわれが趣味でやる釣りとは違う。真似をしたくとも職業漁師としての鑑札を持たない限りできない。しかし、長い経験と、それに裏打ちされた勘が生み出す知恵や技術は職人芸ともいうべきもので、タイトルの通り本書ではそれらを余さず語ってくれている。ただひとつだけ、カニ漁の秘伝だけはまだ極秘ということでついに明らかにしていないのはご愛敬か。たとえ釣りマニアが本書を読んだからといって釣果が上がるわけではないのだが、それでもこんなに面白いのはなぜか。それは宮崎さんの語り口がとても生き生きしているのと、これでもかといわんばかり微に入り細に入り話を引き出し、漁師としての専門的な話もわかりやすく要領よくまとめたライター・かくまさんの力量によるところが大きい。もちろん高知弁で語られているのだが、宮崎さんの語り味(という言葉があるかどうか知らないが)をうまく活かしながら、だれが読んでも意味がわかるような文章に仕上げるのはとても難しい作業である。こういった企画は、短期間のやっつけ取材ではとうてい語り手との信頼関係を築き上げることはできないし、それができないと上っ面の話しか聞けないだろう。
 全編ウナギやアユ、カニ、テナガエビ、ナマズなどの川魚からアオノリまで、本当に漁の話ばかりなのだが、つい宮崎さんの高知弁に引き込まれてしまううちに仁淀川流域で暮らす人々の生活の一端も見えてくるし、河川改修やダム建設がもたらす生態系の変化までわかってくるから不思議である。これは語り手宮崎さんの人柄でもあろう。この本は、職人の世界を捉えた民俗学ジャンルとしても優れた一冊といえる。それにしてもいつも思うことだが、「BE-PAL」誌はこの手の企画をやらせるととてもうまい。いい語り手の発掘だけではなく、それを上手にまとめる優れたライターを揃えているからだろう。

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声が聞こえる!野鳥図鑑

2001/03/21 13:44

鳥の声が聴けるスキャントークリーダー

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 野鳥の月刊誌「Birder」の発行元・文一総合出版からつい最近発売された、ちょっと面白い図鑑である。なにが面白いかというと、野鳥の鳴き声を聞くことができるのだ。目的のページを開いてしばらくにらみ、おもむろに目を閉じると頭の中で鳴き声が聞こえてくる。というのは冗談だが、各ページに鳴き声のデータが印刷されていて、そこを「スキャントークリーダー」という小さな機械でなぞるとデータが読み込まれ、内蔵スピーカーから鳴き声を再生することができるという仕掛けだ。つまりこの本だけでは鳴き声を聞くことはできないのである。この「スキャントークリーダー」という機械はオリンパス光学が開発した製品で、日本野鳥の会でも販売している。ただ、価格が8,000円といささか高価なため、この本のためだけにおいそれと買えないのがネックだ。この本と同じような仕掛けをした本は、いまのところは児童書が何点か発行されている程度で、これを活用するコンテンツが今後増えて価格も下がることを期待するしかない。
 私は以前、東京・神田にあるオリンパス販売のショールームにこの「スキャントークリーダー」を試しに行ったことがあり、今回もそこに本書を持ち込んで鳴き声を聞いてみた。スキャントークリーダーでなぞるときにちょっとコツがあり、あまり急いでなぞるとうまくデータを読み込んでくれない。二、三回試すうちにコツはつかめてくる。別に難しい機械ではない。子どもでも簡単に扱える。音質は、CDやビデオに録音されたものと比較するのは酷というもので、まあ価格相応というか、こんなものだろうと納得できるレベルである。それでも手軽に鳴き声が再生できるのは便利というべきか。
 さて肝心の図鑑としての出来はどうか。掲載されている野鳥は約200種類。昨今は掲載種類の豊富さを競う傾向が見受けられるが、本書のように比較的見つけやすいものに絞った図鑑のほうがむしろ実用的だ。また、日本で見ることのできる野鳥をすべて掲載したとしても、写真はともかく、全種類の鳴き声までは無理だろう。本書はサイズ、ページ数とも携帯性を考慮した造りになっているが、さらに中を見ると視覚的にも工夫を凝らした構成になっていることがわかる。章の扉が棲息環境別に色分けされていて、各ページの上部には同じ色の帯が付けてあったり、鳥の名前の前には分類ごとのイラストが描いてあったり、収録されている鳴き声のところは文字が赤字(さえずりや高鳴き)や青字(こちらは地鳴き)にしてあったり、漢字には適宜ルビをふってあったりと、子どもが見てもわかりやすいようになっている。1ページ1種類の構成のため、解説は必要最小限にまとめてある。解説が短いからといって決して著者が手を抜いたわけではない。解説を書く方にとってはたっぷりしたスペースに長々と書いた方が楽なのはいうまでもないことで、必要最小限にまとめるのは何事に寄らずやっかいな作業なのだ。なお本書の写真はすべて、代表的な野鳥写真家、叶内拓也(かのうち たくや)氏の作品である。
 親子で野鳥を見に行って、見つけた鳥の鳴き声をすぐスキャントークリーダーで再生したり、あるいは家で鳴き声を覚えてバードウォッチングのために役立てたり、いろいろな使い方を考えるのも楽しい。もちろん本書だけでなくスキャントークリーダーも買った場合だが。

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図説日本の野鳥

2001/02/07 11:57

鳥はなぜ飛ぶ?その答えがここにある。

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 本書を書かれた多くの執筆者や、編者である京極さんにはたいへん失礼な言い方だが、本書は思いがけない拾いものだった。書店でぱらぱら開いて見たときは、野鳥好きに受けそうな「さわり」を広く浅く解説した本かと思った。買ってきた後も、しばらく本の山に積んでおいたままだった。
 本書はいわゆる野鳥図鑑ではない。野鳥に興味を持ち始めた人たちがやがて疑問に感じること、あるいはもっと深く知りたくなるような事柄について、15名の方たちが原稿を分担している。編者の京極徹さんは、日本野鳥の会の機関誌「野鳥」編集長をされた方だ。原稿を書いた方たちは、長年に渡って日本野鳥の会で野鳥についての知識普及と、野鳥保護の啓蒙活動を続けられた松田道生さんをはじめ、野鳥写真家の吉野俊幸さん、佐渡トキ保護センター所長の近辻宏帰(ちかつじ こうき)さんなど、いずれも錚々たるメンバーだ。さらに本書の企画には、(財)山階鳥類研究所が協力している。
 冒頭にも書いたように、じつのところあまり期待しないで読み始め夢中になって読み終えてしまった。というのも、まず、各章の内容がとてもうまくポイントを押さえていること。たとえば「なかま分け、あれこれ」「分布と渡りの謎を科学する」「飛ぶメカニズム」「日本の鳥はどこからきたのか」といった具合だ。どれも、野鳥好きなら必ず興味や疑問を持つようになる内容だ。
 なかでも私が一番面白かったのは「飛ぶメカニズム」だ。我が家のすぐそばに小さな川があり、毎日のようにカワセミを見ている。カワセミは川面すれすれを矢のように直進するが、どうして羽根を上下に羽ばたくだけであんな飛び方ができるのか、私は常々不思議に思っていた。その疑問が本書を読んで氷解した。私は野鳥が大好きだが、専門書はほとんど読んだことがない。おまけに理科系に弱い。そんな私にもよく理解できるほど、ていねいでわかりやすい解説だ。鳥の体がいかに効率よくできているか、その精緻なメカニズムに脱帽した。
 ほかの章もすべてそうだ。内容が内容だけに、もちろん専門用語はふんだんに登場する。にもかかわらず、いずれも文章はとてもわかりやすい。専門家の書く文章というと、野鳥に限らずとにかくわかりにくい文章、日本語として疑問を感じるような文章、というのが定説だ(いや、私だけの偏見か?)。余談だが、私は長年コンピュータ関係の書籍を企画・編集している。それこそ専門家やテクニカルライターのわかりにくい文章には嫌と言うほどお目にかかっているのだ。しかし本書に限ってその偏見を棄てざるをえない。野鳥初心者にもわかりやすくということを前提に、筆者の方々はたいへん苦労されただろうし、あるいは元々文章の達者な方たちが多かったのかもしれない。だが、それだけではない。編者の京極徹さんが、「野鳥」誌の編集長としての経験を遺憾なく発揮している。野鳥の会の会員というのは、年齢、性別、学歴、職業など、それこそ千差万別だ。その誰にでもわかりやすい内容構成、文章を心がけてこられた。筆者と編者の人選の妙が、本書を誰が読んでもわかりやすい、面白いものにした大きな要因だろう。

編者略歴;1960年、東京で生まれ、津軽で育つ。和光大学卒業。在学中からニホンザルの生態調査に従事。世界自然保護基金日本委員会を経て日本野鳥の会に勤務。「野鳥」編集長を務める。現在は(社)日本環境教育フォーラム事務局勤務。

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「里山」が死語になる前に。

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「里山」という言葉は昔からあったのだろうか? 手元にある古い辞書「三省堂国語辞典」には出ていない。広辞苑ではどうかと思ったが、本棚の前に本の山があり、その陰に隠れていて出すことができない。この言葉をよく目にするようになったのはここ数年のことではないだろうか。とくに、今森光彦さんの写真集「里山物語」(新潮社)が評判になって、それ以来「里山なんとか・・・」という本がちょくちょく書店に並ぶようになったのではなかろうか。それ以前は里山という言葉は聞いた覚えがない。
 で、「里山」って何だ、ということになるが、とくに厳密な定義はないようだ。低い山あるいは丘陵、雑木林、谷津田、小川に水田、畑。これらの要素があれば、そこは里山だ。私はある地方都市(都市というほどの規模でもないが)出身だが、町中を少しはずれるとどこもそんな具合だった。つまり、どこの町にもある郊外の環境そのものだし、我々日本人にとってごくなじみ深いというか、あまりにも当たり前の風景でもある。東京近辺で言うなら、狭山丘陵や町田市、八王子市の郊外などがその典型だ。だが、その当たり前の存在が、段々と「以前はあった」「前はそうだったが」という言い方のほうがふさわしくなってきているのも事実だ。ゴルフ場の乱立や住宅地の開発、これらのおかげですっかり過去形になったり、土地はそのままでも農薬や河川改修なんかで生態系が変わってしまって形だけの里山が残っているところも少なくないだろう。日本のことだから、そのうち死語になる日が来るかもしれないなあ。そうした危惧があるからこその「里山ブーム」ではないだろうか。私の住む都下青梅市周辺でも徐々に里山が住宅地に姿を変えつつあり、本当にいまのうちにその姿を目に焼き付けておかなくちゃと感じている。
 本書は3人の写真家による共著で、里山の自然を四季に分けて紹介した構成になっている。季節ごとの草木や昆虫、野鳥たちの生態と、里山で暮らす人の生活とを、約800点の写真と短い文章で美しく紹介している。また巻末の索引には、写真すべての撮影地が記載されているのが親切だ。中でも、野鳥や昆虫の生態を紹介した写真が見応えがある。大人のための里山図鑑というところか。価格は高いが、サイズが大きいだけに写真もインパクトがあるし、文章も「ひとつ、次の休みには近くの雑木林か谷津田にでも行ってみようか」と里山ウォッチングをそそるものがある。我が家の近くにはまだ里山の風情を残した雑木林や谷津田(谷地とも言っている)があるので、よく野鳥を見に行っている。四季それぞれに楽しめるが、いまの時期、秋から冬にかけてが一番おもしろい。木の葉が落ちて鳥も見つけやすいし、ときには美しいヤママユが拾えるし、うずたかく積もったクヌギの落ち葉を踏んで歩くだけでも楽しいのだ。本書の写真を見て、近くの里山に出かけてそうした楽しさを味わってもらえたらと思う。

著者略歴
平野 伸明(ひらの のぶあき);1959年、東京生まれ。山梨学院大学卒業。在学中から動物写真家を志す。主な著書に「チョウゲンボウ 優しき猛禽」(平凡社)など。写真集だけでなく、NKHの自然記録番組「生きもの地球紀行」の制作にも加わり、最近はハイビジョンカメラによる自然科学番組の制作にも力を入れている。

新開 孝(しんかい たかし);1958年、愛媛県生まれ。愛媛大学農学部で昆虫学を専攻。教育映画の演出助手を経てフリーの昆虫写真家として独立。主な著書は「ヤママユガ観察事典」(偕成社)など。1999年には、平野伸明氏らと「生きもの地球紀行」の「武蔵野台地の四季」を制作。

大久保 茂徳(おおくぼ しげのり);1957年、埼玉県生まれ。日本大学農獣医学部で農学を専攻。現在、私塾主宰のかたわら、園芸専門学校の講師。自治体主催の自然観察会の講師も務める。

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構成に工夫あり、な一冊

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 本棚を調べてみると、いつのまにか野鳥図鑑の類が7、8冊もある。にもかかわらず、またこの本も買ってしまった。図鑑なんて1冊あれば事足りるじゃないかと思われるかもしれないが、それがなかなかそうではないのだ。できるだけ鳥が判別しやすいように工夫されているから、きれいな写真がたくさん使われているから、収録されている鳥の種類が多いから……。いろんな理由を見つけては、ついつい新しい図鑑を買ってしまう。野鳥の好きな人には、私と同じようにいろいろな図鑑を持っている人が多いのではなかろうか。もっともいまだに、これ1冊あれば間に合う、という決定的な図鑑がないせいもある。たとえば日本で見られる全種類の野鳥が収録されている図鑑だと、ページ数の問題もあって1種類ごとの写真は何枚も掲載されていないし、携帯するには重い。イラスト版の図鑑は識別が目的なので、特徴が強調されていて実際の姿とは少し違うし。たとえ実物を見ることはできなくても、いやできないからこそせめて写真ででも全種類見たい、とか。
 この図鑑は『水辺の鳥編』と2分冊のシリーズ構成の予定になっていて、合わせて271種類が収録される。これだけ収録されれば、棲息地が極めて限定されていたり、よほど運が良くない限り見られないようなもの以外、身近に見られる鳥はすべて間に合うだろう。本書の一番の特長は、大きな切り抜き写真を使って、引き出し線とキャプションで鳥の各部分の特徴を細かく紹介していることである。わざわざ切り抜いて背景をカットしたのは、引き出し線とキャプションを見やすくするための工夫だ。特徴の中でも大切なところは青色で表記してあるのも親切といえる。なにしろ、双眼鏡やフィールドスコープの中に鳥を捉えても、図鑑をめくって特徴をすべて調べる間、じっと持っていてくれるとは限らないので、こうした配慮はぜひほかの図鑑も真似てほしい。また種類ごとの写真も、全種類ではないが雌雄別、夏羽・冬羽別に掲載されているのがありがたい。鳥の多くは雌と雄ではずいぶん色や模様が違うし、逆に季節によっては雌雄の区別が付かない場合や、まるっきり別の鳥のように変わる場合があるからだ。
 鳴き声も記載されているが、いろいろなバリエーションが紹介されているためか、これはかえってわかりにくい。鳥の鳴き声はすべての人に同じように聞こえるものでもないし、まして、文字で表した鳴き声を頭の中で想像して再現するのは不可能だ。
 ちなみに私自身は、鳥を見に行く際に図鑑は携帯しないが、まじめに図鑑を携帯する人のためにも、野鳥図鑑全般にいえることだがもっと構成を工夫してほしいと思う。たとえば本書のように「野山」と「水辺」に分けた後、さらに「夏鳥」「冬鳥」「一年中いる留鳥」に分け、その中でサイズの順の科別に掲載するとか、あるいはサイズ順を先にするとか。それに図鑑によって掲載順もじつにまちまちだ。本書の場合、分類学上の科別を基準にして掲載されているらしいが、見つけた鳥が何という鳥かを早く知りたい人にとっては分類学にこだわるより、使いやすさ(調べやすさ)にこだわってもらいたいのだ。本書も前書きに初心者から中級者を対象と書いてあるし、わざわざタイトルに「フィールドのための」と謳っているならなおさらだろう。

著者略歴;1935年、名古屋市生まれ。小学生時代から野鳥に興味を持ち、高校生のときウグイスについての論文を発表。大学生時代から野鳥撮影をはじめ、社会人になってから本格的に取り組む。会社役員を経て現在フリーで野鳥撮影に専念。日本野鳥の会評議員。愛知県支部所属。

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紙の本グレイのしっぽ

2001/02/06 17:59

楽しくて悲しいエッセイ3部作

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 画家の伊勢英子さん一家とシベリアンハスキー・グレイの日常を、いせさんの素敵なスケッチ入りで描いた、楽しくて悲しいエッセイ3部作だ。3冊とも主な登場メンバーは、伊勢さんとそのご主人(ごくたまに登場)、ふたりの娘、そしてグレイ。1冊目の『グレイがまってるから』が発売されたのが1993年。この1冊目では、伊勢さんの家族に加わった子犬グレイの成長記録や近所の犬たちとの交友録、娘さんたちの日常などが淡々とした筆致で書かれている。抑制の効いた文章であるがゆえに、なおさら深い愛情を感じさせる。随所に多数挿入されたスケッチがまた、画家としての伊勢さんの観察眼の確かさを感じさせる素敵な出来映えだ。
 2冊目の『気分はおすわりの日』では、グレイがてんかんの発作を起こし、入退院を繰り返す闘病記が克明に記されている。最後の『グレイのしっぽ』では、てんかんに加えてさらに脾臓と肝臓がガンに冒されていることが判明。伊勢さんは手術にも立ち会い、その様子が文章とスケッチで詳しく描かれている。このシリーズ、何冊続くかとても楽しみにしていたのだが、たった3冊で終わりがやってこようとは。このときグレイはまだ5歳になったばかりである。しかし伊勢さんが冷静に観察して文章やイラストに残しているからといって、決して人より悲しみが小さいわけではない。グレイを失った悲しみがどれほど大きかったか、文章の端々からよくわかるのだ。
「1999年、まもなく3度目の夏がくる。スーパーのドッグフード売場やペットショップの前を、ようやく歩けるようになった。もう買うことも立ち止まることもない。グレイが好きだった風景を歩く時、そっとひとりでみえないしっぽをふっている」

著者略歴;1949年、北海道生まれ。東京芸術大学デザイン科卒業。絵本をはじめ、子ども向けの本の仕事を中心にしながら、タブローの制作にも取り組む。ライフワークとしている宮沢賢治の絵本に「よだかの星」「風の又三郎「水仙月の四日」、童話に「マキちゃんの絵日記」、絵本では「ぶう」「雲のてんらん会」、本シリーズ以外のエッセイには「カザルスへの旅」「空のひきだし」などがある。これまで絵本や童話でいろいろな賞を得ている。

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