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  3. 上原子正利さんのレビュー一覧

上原子正利さんのレビュー一覧

投稿者:上原子正利

9 件中 1 件~ 9 件を表示

紙の本天才と分裂病の進化論

2002/09/13 22:15

進化の過程で得た創造性と、その代償としての分裂病

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 最初にこの本を見た時、値段や装丁、「英国分裂病協会医療顧問」という著者の肩書きから、分裂病に関する一般向け解説書のような無難な本かと思ったのだが、読んでみると全く違っていた。本書は著者が自説を展開するものであり、その説はどうやら主流ではないようだ。その時点で専門外の私は身構えてしまうし、所々の筆致には冷静さを欠くように感じたりもする。ところが、全体として見るとこれはおもしろい本だ。

 本書は人類の起源に関心を持つ医学研究者の「知的探究の旅」を記したものであり、旅というだけあって幅広い議論が展開されるが、大きく分けて2つの面からなる。1つめは分裂病の新しい治療方法の話だ。現在の薬物療法では症状改善率が低く、副作用もあり、本質的な改善も望めないという。それに対し著者らは、ある種の必須脂肪酸を用いる事で、副作用なしに通常の薬物療法以上の成果を上げたという。

 もう1つは、こちらが主要な面だが、人類進化と分裂病の関係だ。著者は進化の過程で人間を人間たらしめた要因を、脳内脂質のわずかな遺伝的変異に求める。そのような遺伝的変異は創造性をもたらすと同時に分裂病の種となったが、工業化される前の社会では栄養条件の違いから分裂病の病像が穏やかで、その破壊的な側面より利点が目立ったのではないかと考える。この栄養条件は前述の治療方法と関係し、さらには、分裂病を「制御できる『創造的な異常』」に変えられるのではないかという考えにつながってゆくものだ。

 これらの仮説はさらに検証されるべきものであり、正しいかどうかはまだわからない。検証は専門家に任せるが、創造性を得た代償としての分裂病というアイディアに限れば、さほど奇妙でもないように思う。また、それとは別に、ある事を考えていたら全然別の事に辿りついてしまった「知的探究の旅」の様子はそれだけでもおもしろい。人類進化や分裂病に関心のある人はもちろん、そういう面を好む人にも勧めたい。

(上原子 正利/bk1科学書レビュアー、km_bk1@mail.goo.ne.jp)

【目次】
まえがき
1. 「見てパパ、牛の絵よ」
2. 「人間は猿か天使か……」
3. 骨、石器、遺伝子
4. アダムとイヴはどうやって脳を得たか
5. 脳、尻、胸
6. 無限の神秘
7. 「正気を失った悪いひと、知り合うのは危険……」
8. 「思うに、この国の半分は心病み、残りも正気とはいえない」
9. 「ああヴィヨン、どうしようもない物狂い、陽気なならず者、我が兄弟……」
10. 「人生の熱病の苦しみもさり、彼は安らかに眠る」
11. 「ただ結び合わせよ……」
12. 「絶え間なく回りつづける変化の車輪。この世のすべてを支配する……」
13. 「神は誰を滅ぼしたもう? 『創り』たもう? 初めに心病める者あり」
14. 「悪魔のひそむ小さな農場、地球」
15. 「暗い悪魔のような工場」
16. 「天才はたしかに狂気とともにある……」
17. 「人は生きんがために食うべきにして……」
18. 二十一世紀にむけて
エピローグ
訳者あとがき


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シートンの少年時代を描いた自伝的作品

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 19世紀後半のカナダ。野生の生き物が大好きで、インディアンの暮しにあこがれる、気の小さい少年ヤン。頭の中は動物の事で一杯で、森の中で遊ぶ事に生きがいを感じ、いつも知識に飢えている。だが、ヤンの父親は「世間に甘く家族に厳しい」人物で、ヤンの森遊びに全く興味を持たず、それどころか許さない。母親は信仰に凝り固まっていて、ヤンに愛情を持っているのかも疑わしい。兄は人から注目され感心される事しか興味を持たない冷淡な人間で、弟は流行を追う事だけが生きがいの虚栄心と怠け癖の持ち主。ヤンはこんな家族との生活から抜け出したいと思いながらも、思いきった行動ができずにいる。しかし、14歳の時、転機が訪れる。開拓地の農場に住み込みで働く事になった彼は、そこで仲間を得、尊敬すべき年長者達と出会い、新しい生活を始める…。

 本書は、『動物記』で知られるシートンが、その少年時代の経験を基に描いた自伝的作品。1903年発表。目次に「少年たちのためのアメリカのウッドクラフトの本」とあるように、本来対象としている読者は子供なのだろう(漢字には読みがなが振ってある)。しかし、大人が読んでも十分楽しめるはずだ。

 本書の骨格は、気の小さかった少年が勇気の何たるかを理解するまでの成長と、それと絡みあう森での生活技術の獲得の過程とその詳しい記述にある。加えて、主人公が体験する、知識を得る事の困難さ、ゼロからモノを作り上げていく事の困難さにも注目すべきだろう(主人公は文明化される前のインディアンの生活を理想とするので、売りもののロープやクギを使う事すら良しとせず、代用品を自然の中から探し出さねばならない)。自らの手で何かを作り上げる苦労と喜び、観察対象と真剣に向かい合う姿勢、物事を学ぼうとする意思。古典とされるだけあって、手本となる点は多いが、説教じみた臭いは全く無い。

 「わたしは、渇きの苦しみを知っているからこそ、みんなが飲める井戸を掘りたい」。序文にあるシートンの言葉での「渇き」とは知識に対するものだろう。多くの人に読まれた『シートン動物記』の著者にふさわしい、素晴しい言葉だと思う。100年前の「井戸」には、今でも水が湧いている。

(上原子 正利/北海道大学大学院工学研究科)

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ファストフードと狂牛病

2002/11/14 22:15

ファストフード化した『ファストフードが世界を食いつくす』

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 アメリカのファストフード関連業界の暗部を指摘した『ファストフードが世界を食いつくす』が昨年話題になったのは記憶に新しい。私も読んでみたが、多くの調査に裏付けられた、興味深い内容だった。本書はその著者シュローサーによる前作『…食いつくす』の関連書であり、内容は前作の要約や後日談、狂牛病への各国の対応などだ。

『…食いつくす』を読んだか読んでいないかで、本書の印象は変わるだろう。まだ読んでいないなら、前作の要約だけでも興味深いのではないだろうか。もう読んだなら、関心は後日談に向かうだろう。中でも、シュローサーの指摘が発端となってマクドナルドがヒンズー教徒に訴えられた事件の顛末がおもしろい。読んでいて笑ってしまった。

 しかし、『…食いつくす』と比べると、全般的に本書は軽い。まず、著者のファストフードへの敵意のせいか、所々で大げさな文章や表現が目に付く。例えば p.63 からの業績悪化の話は、断片的な弱い根拠からファストフード業界の凋落を読者に印象づけようとしているように見える。この特徴は『…食いつくす』にはあまり感じられなかった。また、前作を支えていた調査量の多さは見えない。加えて、ページ数が少なく文字も大きいためあっという間に読めることを考えると、本書でのシュローサーは前作に比べてファストフード的になったと言えるだろう。真に読むべきは『…食いつくす』だが、なにせそちらは読むのに手間がかかる。その代わりとして安く手軽に読める本書は、ファストフードを食べるような気分で読むものだ。

 なお、書名からはファストフードと狂牛病の関連が主題のような印象を受けるが、実際にはファストフードの話と狂牛病の話はほとんど独立している。しかも、わずかに両者が関連する部分では、なんとマクドナルドが善玉として登場する。さて、本当の問題はファストフード(あるいは著者のいう「ファストフード精神」)なのだろうか。

(上原子 正利/bk1科学書レビュアー、km_bk1@mail.goo.ne.jp)

目次と評者による関連書はこちら

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紙の本蚊はなぜ人の血が好きなのか

2002/10/15 22:15

蚊とそれが媒介する病原体に対する人間の戦い

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 今の日本で蚊と言えば、刺されればかゆい思いをするという程度の、単に不愉快な虫でしかないだろうが、歴史的、世界的な蚊の存在感の大きさはその程度のものではない。病原体の媒介者として人間社会に大きな影響を与えてきたし、今でも与え続けている。本書は蚊に関するものだが、中心的な内容はその生態ではなく、蚊とそれが媒介する病原体に対する人間の戦いである。

 マラリア、デング熱、黄熱、あるいは現在アメリカで流行中の西ナイルウィルス感染症などの蚊が媒介する病気は、昔から人間社会の中に存在してきた。しかし、蚊が伝染病を媒介するという事がわかったのはそう古い話ではなく、19世紀末である。それから100年ほど経った今、これらの病気との戦いにおける人類の旗色はさほど良くない。例えばマラリアでは、1955年に作られた分布地図が現在でもあまり変わっておらず、毎年世界の人口の10%がマラリアに感染し、12秒に1人の割合で感染した子供が亡くなっている。

 マラリアを媒介する蚊との戦いの歴史は興味深い。20世紀前半にはいくつかの勝利があったのだが、その後、一転して大規模な敗北を喫している。かつて勝利をもたらしたのは網戸の設置などの単純な方法の併用だったが、20世紀中盤にDDTが登場することで多くの人々は判断を誤り、それだけに頼る単純な戦い方をする。その結果、蚊は耐性を持つようになってしまった。最後に著者が有効だと述べるマラリアへの対処方法が、新しい薬剤や遺伝子組み替え蚊のような特別な手段に頼るものではなく、かつての勝利を支えたような初歩的な考え方に基づくものだというのがおもしろい。

 対象読者層は広く設定されているようで、文章は平易、科学上や医学上の専門的な議論には深入りしていない。いろいろなことが書かれている割にはさらっと読める本だ。

(上原子 正利 / bk1 科学書レビュアー、km_bk1@mail.goo.ne.jp)

【目次】
はじめに——人と蚊の長い長いつきあい
第一部 小さいけれど手強い相手
 1章 なぜ蚊は血を吸うのか
 2章 蚊の世界へようこそ
 3章 人間界への侵略者
第二部 死の運び屋
 4章 蚊が歴史を動かしていた?
 5章 運び屋の正体
 6章 人類最大の敵
第三部 戦争か共存か
 7章 蚊との聖戦
 8章 国境なき流行
 9章 蚊との共存
蚊が媒介する伝染病の世界分布図
日本版監修者あとがき

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わかりやすく面白い論文を書くための本にふさわしいわかりやすさと面白さ

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 これから初めて論文を書こうという人だけでなく、論文を書いてはきたが慣れてはいないという人や、論文執筆を指導する立場の人にも文句なしに推薦できる一冊だ。技術文書の書き方については既にいくつか解説書が存在するが、本書は目的を論文執筆に絞っているのが特徴だ。

 本書は非常にわかりやすいが、その要因としてまずは全体の構成が挙げられる。議論の展開を実際の論文の構成要素と執筆過程に対応させている事が勝因だろう。論文には何をどのように書くべきかが、“アルプス一万尺”の替え歌、“論文書きの歌”に従って説明される。執筆から掲載までの各過程における注意点がこの歌に短かくまとめられている。この方法は見事だ。

 具体的な説明に用いられる例文もわかりやすさの要因だ。実際の生物学の論文と架空の論文が併用されるのだが、この架空の論文がおもしろい。「なぜ、ベガルタ仙台は強いのか:勝利を呼ぶ牛タン定食仮説の検証」というこの論文は、実際の論文から専門用語の皮を剥いだ本質的な書き方を示している。また、例文以外の文章もわかりやすい。相当に推敲を重ねたのではないだろうか。

 実用性も高い。論文執筆という目的に特化しているので、レフリーコメントへの対応方法のような、技術文書一般の解説書には含まれにくい話題も扱っている。しかし、実用性が高いからといって皮相な記述の羅列にはなっていない。論文に限らない一般的な技術文書の書き方としても通用する普遍的な内容だ。これは、論文というもの自体が知識や見解を効率良く伝達するための知恵の結晶だからだろう。論文に特化する事で逆に議論が汎化されているかのようだ。本書が文章技術の詳細よりも執筆に必要とされる考え方を重視している事も、この普遍性に貢献している。

 本書は、わかりやすく面白い論文を書くための本にふさわしく、わかりやすく面白い内容だ。今後、「定番」の地位を手にするのではないだろうか。それだけの力を持っている。

(上原子 正利/bk1科学書レビュアー、km_bk1@mail.goo.ne.jp)

【関連書】
Marilyn F. Moriarty『「考える」科学文章の書き方』朝倉書店
木下是雄『理科系の作文技術』中公新書
酒井聡樹『植物のかたち その適応的意義を探る』京都大学学術出版会

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日本の科学界の抱える問題を詳細に報告

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 日本の科学界はその成果という点で問題がある、という認識は日本人の間にもあるだろう。では、その原因は何だろう。アメリカの日本社会研究者の手による本書は、日本の科学界の抱える問題を詳細に報告するものである。日本語を操る著者は、複数の日本の研究室に滞在し、多くの日本人研究者との面談、および日本語文献調査に基づいて本書を書き上げている。序文を寄せるアーサー・コーンバーグは、本書を「私が以前から日本人の同僚や教え子に対して抱いていた印象を裏付け、強めるもの」と評している。日本の科学界に問題を感じる日本人科学者が読めば、コーンバーグに同意するだろう。

 問題の原因はいくつも挙げられるだろうが、著者は研究者の資質よりも研究者を取り巻く社会制度に注目している。中心となるのは、研究成果と所属機関の移動によって構築される「クレジットサイクル」という概念だ。クレジットサイクルを機能させるには、研究者の移動の活性化と、能力の高い個人やグループに資金を適切に配分することが必要だが、現在の日本ではそれらが実現できていない。このような科学者の社会の問題を考えてゆくと、科学の枠を越えた日本社会の問題の姿が見えてくる。年功序列、官僚主義、英語教育……。

 ここには、日本の現状と目指すべき方向は著されている。しかし、当然というべきか、事態改善の具体的な方法は著されていない。それを探るのは当事者である日本人の仕事だろう。改善の道はあるのだろうか。本書の中で、ある研究者はこう述べている。「私たち研究者自身で解決するには問題は大きすぎる」(p.115)。私も読んでいてそう思った。本書を読むと、鍵となるのは研究者と官僚の相互理解のように思える。その意味で、これは研究者だけでなく、むしろ制度を定める者、管理する者こそ読むべきものだろう。

(上原子 正利/bk1科学書レビュアー、km_bk1@mail.goo.ne.jp)

【目次】
アーサー・コーンバーグによる序文
日本語版への序文 / 謝辞 / 凡例
第一章 はじめに
第二章 大学の現状
第三章 政府直属の研究機関
第四章 蛋白質工学研究所
第五章 大阪バイオサイエンス研究所と新たなキャリア・パターン
第六章 OBIに科学者と官僚の関係を見る
第七章 性
第八章 変革をはばむもの
第九章 日本人は特別なのか?
付録
最新インタビュー——二〇〇二年のジャパニーズ・サイエンス概観
参考文献

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数学に影響を及ぼす神への信仰

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 無限に関する数学上の概念を初めて聞く時、ほとんどの人は奇妙な感じを受けるのではないだろうか。私の場合、対角線論法や「無限集合はその真部分集合と同じ濃度を持つ」という話を初めて知った時、何か騙されているような気がしたことを覚えている。本書にもあるように、それは日常的な直感がまったく通用しない世界だ。

 本書では、無限の世界がどのように切り開かれてきたかが、多くの人物の人生と貢献を通して描かれている。著者のアクゼルは、フェルマーの最終定理を扱った『天才数学者たちが挑んだ最大の難問』で知られているだろうが、そちらと比べてずっと読みやすい。

 日常的な直感が通用しない世界に立ち向かうのは、論理を武器とする数学者が中心だが、意外なことに、ここでは宗教も大きな影響力をもつものとして描かれている。紀元前に現れた無限の概念が数学の世界で本質的な進展を見せるにはガリレオの登場を待たねばならないが、それ以前からユダヤ神秘主義者たちは、神と関係した進んだ無限の概念を持っていたという。そして、私には意外だったが、数学の世界で無限の概念を決定的に深めたカントールもその影響を受けているというのだ。

 本書の主人公と言うべきカントールは、誰も考えなかった問題に1人で向きあい、歴史に足跡を残すことと引き換えに心を病む。カントールの精神を狂わせた問題が、同じく歴史上に不朽の名声を残すゲーデルの心も蝕んでゆくのは、何か薄気味が悪い。人が覗くことを許されない神の領域を見ようとした罰を受けているかのようだ。

 文章は読みやすく、数式はほとんど登場しないが、内容をきちんと理解しようすると、やはりいくらか数学を理解していることが要求される。しかし、これは数学解説書というよりは数学者の物語なので、数学的な理解は後回しにしても読めるだろう。何より、カントールの暗く劇的な生涯は、多くの人の関心を引くものだと思う。

(上原子 正利/北海道大学大学院工学研究科、km_bk1@mail.goo.ne.jp)

★詳しい目次はこちら→【目次】

【関連書】
アミール・D・アクゼル著『天才数学者たちが挑んだ最大の難問 フェルマーの最終定理が解けるまで』早川書房
エンツェンスベルガー著『数の悪魔 算数・数学が楽しくなる12夜』晶文社
戸田山和久著『論理学をつくる』名古屋大学出版会

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凍る体 低体温症の恐怖

2002/02/28 22:15

症状が現われてから、約三時間後には死が待っている

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 人間の体をコアとシェルに分ける。コアは心臓や脳などの臓器からなる。シェルはコアを覆う筋肉や皮膚を指す。人体はシェルの血流量を変化させるなどして、周辺環境の温度によらずコアの温度を37度に保とうとする。しかし、外気温が極端に低いなどの原因によってコア温度が維持できなくなり、36.5度まで下降すると、人体に異常が現れ始める。さらに下降し、35度以下となって各種の機能障害が生じた状態を低体温症と呼ぶ。

 本書は、1981年にモン・ブランでヒドン・クレバスに落下し、16時間後奇跡的に救出された当時医学生、現在医者の著者による、自伝的内容を含む低体温症の啓蒙書である。2部構成となっていて、前半はモン・ブランでの遭難と後遺症からの回復の過程、後半は低体温症の医学的実用的解説である。

 低体温症にどのように対処すれば良いか。これが単純ではない。体表をマッサージしたりして体温を上げることは、場合によっては正しいが、場合によっては症状を悪化させる。また、初期の低体温症は疲労や高度障害と見誤りやすい。一度発症すると急速に進行するので、判断ミスが致命的になる。場合によっては「症状が現われてから、約三時間後には死が待っている」という。冬にかかるとも限らない。「大雪山では、年に一回の割合で凍死事故が起き、その半分は七、八、九月に起きている」。山に行くにもかかわらず低体温症のことを知らないなら、本書を読む価値は間違いなくあるだろう。

 前半は後半と全く趣きが違い、自伝的なものだ。事故状況やリハビリの方法だけでなく、当時の著者の気持ちが綴られている。できたはずのことができなくなっていることや医者の態度が事務的であることに暗くなったりしながらも、周囲に励まされ、徐々に回復してゆく様が描かれている。卒直に書かれていて、読んでいて気持ち良かった。

(上原子 正利/北海道大学大学院工学研究科、km_bk1@mail.goo.ne.jp)

【目次】
プロローグ 「モン・ブランへの道」
第一部 クレバスへの落下
 モン・ブラン滑降計画
 ヒドン・クレバス
 十六時間後の救出
 蘇生
 リハビリテーション
 記憶力の回復
第二部 低体温症
 体温調節のメカニズム
 低体温症の症状
 低体温症の原因と予防
 山での低体温症症例
 低体温症・山での治療
エピローグ 「未来へ」
あとがき

【関連書籍】
北海道雪崩事故防止研究会編『決定版雪崩学』山と渓谷社

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ギャンブル好きなのに数学のことを考えていない人は必読

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 評価の難しい本だ。本書の目的は、ギャンブルとその背後にある数学をつなげることにある。そのため、著者は読者にギャンブルと数学を両方理解させねばならないが、どちらも消化不良になっている。対象読者を明確に設定できていないようだ。分量的限界もあるが、もう少し煮詰めることができたのでは。本としての完成度は決して高くない。

 だからといって存在価値がないかというと、そうでもない。ギャンブルに興味のない私のような読者にとっては、その仕組みを考えるきっかけになる。ギャンブルが好きなのに確率を考えていない人なら、自分が何をやっているのか理解するため読んでおいて損はない。というより、読むべきだ。本書の敵はオカルト必勝法の類で、それを攻撃するだけの力はある。

 登場する数学的な道具は、二項定理、ゲームの木などのごく普通のもの。多変量解析にも少し触れるが、表面的に終わっている。これらを知っている人に新しい何かをもたらすわけではないが、だからといって初学者向けの親切な説明ができているわけでもない。これらを知らない人に存在を知らせる程度のものだ。

 テーマの関係上、個々のゲームには深く立ち入っていない。最も熱心に取り上げられるのはブラックジャック。数学との関係が強いゲームらしいが、肝心のここで著者の意識が表面的なゲーム方法に移ってしまっている。かといって実戦的かというとそれも疑問で、紹介されるカウンティング手法は現在主流ではないと聞く。おそらく、専門的な知識を持つ読者には物足りないであろう。

 と、きつめの評価になったが、ギャンブルと数学の関係を考えたことのない人なら読んで損はないと思う。また、本書の文章には著者のキャラが強く現れている。「谷岡一郎オンステージ」という言葉が頭に浮かんだ。そこも楽しめる。

(上原子 正利/北海道大学大学院工学研究科)

【本書で参照・推薦される主な文献】
デボラ・J・ベネット著『確率とデタラメの世界』白揚社
レイモンド・スマリヤン著『スマリヤンの究極の論理パズル』白揚社
藤田岳彦著『これでなっとく金融数学の基礎』講談社
清水誠著『推測統計はじめの一歩』講談社

【目次】
I. 直観に頼るギャンブラーはなぜ負けるのか
—あなたの「確率論センス」をテストする—
II. 儲けとテラ銭
—「期待値・控除率」と「シミュレーション」—
III. ルーレットに「流れ」はあるか
—独立事象ゲームのシミュレーション—
IV. ブラックジャックの必勝戦術
—従属事象のゲームについて—
V. 胴元はなぜ儲かるか?
—大数の法則—
VI. スポーツ・ブッキングの要
—多変量解析とその応用—
VII. 現代社会は「ランダム」な世界
—ギャンブルとビジネスの密接な関係—

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