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  3. 金原瑞人さんのレビュー一覧

金原瑞人さんのレビュー一覧

投稿者:金原瑞人

26 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本たんぽぽのお酒 ベスト版

2000/10/02 15:14

たんぽぽのお酒のびんには、夏の輝きがつまっている

10人中、10人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

一九二八年、イリノイ州グリーン・タウンに、夏が来て、去っていった。この夏、十二歳のダグラス・スポールディングは、生の喜びや死の恐怖、人生の孤独や秘密、この世の中に存在する不思議な力や宇宙の神秘など、さまざまなことを知った。この物語は、ダグラスのひと夏の思い出と、ダグラスを取り巻く田舎町の人々の日常を描いたエピソード集であり、幻想的なファンタジーだ。
 
 夏というのは特別な季節だ。盛りには特別な輝きがあり、去っていくときには特別な切なさや哀しさがある。「夏」をとじこめておけたら、どこかにとっておけたら、どんなにいいだろう。タイトルになっている「たんぽぽのお酒」は、その願いをかなえてくれる。夏を、たんぽぽのお酒のひと壜ひと壜に入れておく。秋でも冬でも、壜のふたを開けさえすれば、夏がよみがえってくるのだ。
 
 この作品には、壜に大切に入れておきたい夏の日の思い出がいっぱい詰まっている。不思議な力を持つテニス靴、生きている実感をみなぎらせてくれる〈なにか〉、市街電車のピクニック、料理上手なのに散らかっていないと腕がふるえないおばあちゃん……。描かれているのは、だれでも思い当たるような日常の断片、比喩に満ちたイメージの世界、神秘的な力、想像力に満ちた夢、なつかしい感じを呼び起こすもの、宇宙を旅しているような気分にさせるもの……とさまざまで、読み手によって、いろいろな受け止め方ができる。ただ、だれがいつ読んでも、夏の日の輝きをダグラスと一緒に追体験できるのは間違いない。寒い季節がやって来ても、夏の日の輝きは決して色あせない。たんぽぽのお酒さえあれば、いつでもその輝きの中にいられるのだから。

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紙の本ウエズレーの国

2001/11/22 17:27

人とちがってもいいじゃないか

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 ウエズレーはこの町では浮いた存在だ。町の子は、髪型も、遊びも、みんな同じ。ウエズレーだけがちがっている。別に「同じ」がいやなわけじゃない。自分の好みで選んだら、ちがっていただけ。おかげで友達はできないし、みんなからいじめられている。けれども、ウエズレーは気にしない。悩んでもいなかった。
 そんなウエズレーが、夏休みの自由研究に選んだのは、「自分だけの文明をつくること」。さっそく、家の庭に畑を作ると、そこに不思議なたねが飛んできた。たねは巨大な作物に育ち、実を結んだ。ウエズレーは自分の発明した「きかい」で、作物の実からジュースをしぼり、くきの繊維からぼうしと服を作った。さらに、たねから油をとり、独自の日時計を開発し……。文明作りは着々と進んでいった。
 そのうち、近所の子たちがウエズレーのしていることに興味を持ちはじめ、ウエズレーも自分の考えたゲームをみんなとやるようになった。今やウエズレーの庭はウエズランディア(ウエズレーの国)となり、80文字からなるウエズレー語まで出来た。
 夏休みが終わり、学校が始まったとき……!
 このあとのラストワンシーンは、ご自分の目でどうぞ。
 なんといっても、ウエズランディアのできていく様が、痛快の一言。いじめられっ子がたったひとりで自分だけの文明を作る。そのシチュエーションをおおいに楽しみたい。明るい色調の、のびのびとした絵も、雰囲気を盛り上げている。夏の青い空に白い入道雲、不思議な作物の赤い花と緑のくき。そのコントラストが美しい。ウエズランディアのファンタジックな描写も楽しめる。
 ウエズレーはいじめられっ子だが、実はとても強い。人に迎合せず、いじめもひょうひょうとかわしてしまう。どうしてそんなに強くなれるのか。それは、自分を信頼しているからだ。とはいえ、問題がなかったわけではない。ウエズレーはある意味、人と交わることを放棄していた。だが、それも解決する。ウエズレーは、孤独な時間を過ごすことで、人を受け入れる柔らかさを身につける。それは、町の子と互いに歩み寄ることにつながった。
 人とちがってもいいじゃないか。ユニークで楽しいこの絵本から、そんな声が聞こえてきた。

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紙の本わすれられないおくりもの

2002/03/08 12:31

大好きな友だちが死んだとき、残されたたからものとは?

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 物知りでやさしく、友だちみんなから頼りにされていたアナグマが死にました。だれもが悲しくて寂しくて、どうしたらいいのかわかりません。けれどもやがて、みんなは気づいたのです。アナグマのからだはなくなってしまったけれど、すばらしいものが消えずに残っていることに……。
 
この絵本は、たいせつな友だちの死という、一見、暗くて悲しい出来事を扱っていますが、なんともいえない暖かさと明るさに満ちています。どうしてかというと、まず、アナグマは死ぬことをまったくおそれていません。歳とって死ぬことは自然なことですし、自分が死んでもちゃんと残るものがあることを知っていたからです。年取ったアナグマは、若いころのように走ってみたいなあと思うのですが、死ぬ直前、力強く走っている夢を見ます。心もからだも軽く走っているときのアナグマのうれしさが伝わってきます。そして、死ぬ瞬間アナグマは、すっかり自由になった、と感じるのです。死ぬことはやはり、こわいことではなかったのです。また、残された友だちは、最初こそアナグマの死から立ち直れずに悲しみに沈んでばかりいますが、アナグマが残してくれた「わすれられないおくりもの」のおかげで、だんだん元気になります。
 
大好きな友だちの死を乗り越えたみんなは、アナグマがいちばん喜ぶ方法できっと恩返しをすることでしょう。アナグマにおくってもらったものを、これからは自分たちが友だちにおくるのです。

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八歳の少女の質問に、新聞社が愛のこもった粋な返事を出したという百年以上まえの実話

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

「あたしの友だちに、サンタクロースなんていない、といっている子がいます。おしえてください、サンタクロースって、ほんとうに、いるんでしょうか?」

 今から百年以上まえ、バージニアという八歳の女の子が、ニューヨーク・サンという新聞社に手紙を出しました。この本は、その質問に対する返事として、実際に新聞に掲載された社説です。書いたのはフランシス=P=チャーチという記者で、当時の編集長によると、不正をどこまでも追求する記者魂と、繊細な暖かい心を持ち合わせた人物だったそうです。なるほど、この社説には、あふれる想像力と愛が感じられます。「サンタクロースはたしかにいるのです」と断言した上で、目に見えないものを信じることの大切さを、心に染み入るようなわかりやすい言葉で訴えています。当時から始まっていた物質主義や合理主義の風潮は、現代ではもっと強くなっている反面、そんな世の中に嫌気がさし精神的なもの求めている人が増えている、ともいえるでしょう。愛や思いやり、まごころや信頼、夢や想像力といった目に見えないものこそ、世の中を美しく輝かせているのだと、この社説は語りかけてきます。バージニアという少女に、すべての子どもに、そして子どもだった大人に。クリスマスシーズンにはもちろん、心がかさかさしているような気がしたら、何度も読み返したい一冊。きっと、暖かい気持ちになれることでしょう。この社説は、クリスマスシーズンが近づくたびに紙面に掲載され、今も古典として語り継がれているといいます。

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紙の本あしながおじさん 改版

2000/11/24 15:55

とびきりハッピーでごきげんな、シンデレラ・ストーリー

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 ジュディは、十八歳まで孤児院で暮らしていましたが、ある匿名の紳士の好意で大学に行けることになりました。その紳士はたいしたお金持ちらしく、ジュディが学生生活を手紙で報告することだけを条件に、寮費やお小遣いまで出してくれるというのです。孤児院のきゅうくつな生活しか知らないジュディにとって、初めてのことだらけの夢のような日々が始まりました。
 この物語はジュディの、正体不明の紳士あての書簡集です。手紙の宛名は「ジョン・スミス」にするように言われたジュディですが、そんな平凡な名前では自慢の想像力が萎えてしまうからと、「あしながおじさん」というあだ名をつけます。ジュディは、あしながおじさんの想像画や、さまざまなシチュエーションの自画像など、見ているだけでくすっと笑ってしまうような挿し絵を交えて、思うがままに正直な手紙を書きます。大親友のサリーのこと、気が合わない同級生ジュリアのこと、試験で落第したこと、読書のこと……。あしながおじさんについてわかっていることは、背が高くてお金持ちだということと、女の子が嫌いだということだけ。“つるっぱげなのか白髪頭なのかくらい教えてください”などと、いくら質問をしても、返事は来ません。けれどもおじさんは、クリスマスプレゼントを贈ってくれたり、病気見舞いにバラの花束をくれたりと、ジュディの乙女心をくすぐるのです。やがてジュディの手紙には、同級生ジュリアの叔父で、十四歳年上の青年、ジャーヴィが頻繁に登場するようになりました。ジュディとジャーヴィの関係はどうなるのでしょうか? あしながおじさんの正体が明かされる日は来るのでしょうか? 
 お茶目でおっちょこちょいで底抜けに明るいジュディが書く手紙は、とにかくユーモラスで愉快です。ジュディの想像力の豊かさには、読みながら何度もくすくす笑ってしまうことでしょう。ラストには、女の子ならだれでもあこがれるような、すてきなハッピーエンドが用意されています。

(金原瑞人/翻訳家)

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紙の本ヴァン・ゴッホ・カフェ

2000/10/26 14:37

だれもが幸せになれる魔法のカフェ

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 カンザス州にあるヴァン・ゴッホ・カフェは、魔法に満ちた不思議なお店。魔法が常につきまとうのは、カフェがむかし、劇場だった建物の片隅にあるから。なにしろ、劇場というところは、なにが起こってもおかしくない場所なのだ。
 カフェの持ち主は若いお父さんのマークと、10歳の娘クララ。カフェの魔法はどれも一つには、クララのおかげで起こっている。
 カフェではなんだって起こる。だから、魔法が起きても、だれもおどろかない。そして、カフェでは、たしかにいつでも、魔法が起こっている。窓のそとの木に、とつぜん、オポッサムがあらわれたり。いなずまが光った日から、店の料理がひとりでに出来上がり、マークが将来を予言するようになったり。旅の女の人がカフェに魔法のマフィンを置いていったこともある。往年の映画俳優がカフェに現れたことも。カフェにくるようになった迷いカモメが、大騒動を引き起こしたこともあった。そして最後に魔法にかかったのは、カフェを訪れた男とわたしたち……?
 アットホームで居心地よさそうな店構え。壁にしみついた魔法が、ひとりでに不思議な出来事を巻き起こす。ヴァン・ゴッホ・カフェはすてきな店にちがいない。そんな魅力的なカフェと魔法をめぐる七つの短編が、リレー形式で語られていく。
 短い話のなかには、さりげなく様々な人間模様が盛り込まれている。また、さらりと読めるのに、奥が深い。そのあたり、作者ライラントの力量が光る。挿し絵も、作品の雰囲気にとてもよく合っている。
 魔法のことが書かれた本はたくさんあるが、この作品はどれとも違う。不思議で、やさしくて、温かい。ヴァン・ゴッホ・カフェでつぎつぎと起こる魔法は、どれもみんなを幸せにしてくれる。だから、読んでいるこちらも幸せな気分になれる。読んだあともしばらく幸福な余韻にひたれる作品だ。

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紙の本赤毛のアン

2000/08/16 16:58

時代をこえて、世界中の読者を魅了し続けるアンの物語

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 カナダの片田舎アボンリーで、ある老兄妹が、畑仕事を手伝ってくれる男の子をひきとることを決めた。そこに手違いでやってきた女の子が、赤毛のアンだ。アンは、おしゃべりで空想好きな、風変わりな女の子。老兄妹はともに独身で、子育ての経験もなく、アンの人なつっこさに戸惑いながらも、いつしかアンが、かけがえのない家族になっていることに気づく。アンは、アボンリーの豊かな自然につつまれて、いろんな騒動を起こしながらも、愛情に満ちた幸せな人生を歩んでいく。
 
 『赤毛のアン』から始まるアンブックス(『アンの青春』、『アンの愛情』、『アンの友達』、『アンの幸福』、『アンの夢の家』、『炉辺荘のアン』、『アンをめぐる人々』、『虹の谷のアン』、『アンの娘リラ』)は、やせっぽちでおてんばな女の子だったアンが成長していく過程を軸に、美しいカナダの自然と、そこで生活する平凡な人々の日常をいきいきと描いた名作だ。作者モンゴメリは、繊細な観察眼と抜群のユーモアセンスで、人間をあたたかい目で見つめている。料理や畑仕事、勉強や遊びといった日常生活のひとコマから、恋愛や結婚、誕生や死に至るまで、人生のあらゆる断片がみずみずしい筆致で丁寧に描かれ、アンを始めとする登場人物ひとりひとりが確かな存在感を持っている。
 
 『赤毛のアン』が世に出た一九〇八年から、百年近い歳月が流れている。それでもアンのファンは絶えることがない。インターネットには、数千件に及ぶアン関連のホームページがあり、日本での翻訳書も、既に十人以上の訳者によって、完訳や抄訳が次々に出されている。それほどまでに人を惹きつける理由が、この本にはたしかにある。思い込みが激しく失敗も多いが、楽天的で行動的なアンは、これからも多くの読者に愛され続けるだろう。

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紙の本種をまく人

2002/03/08 16:22

ひとりの女の子がまいたマメの種が、たくさんの人を結びつけていく

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 アメリカの貧しい地区の一角に、生ゴミや古タイヤが捨てられた空き地がありました。春、ヴェトナム人の女の子キムがここにマメをまきます。キムの家族は、ヴェトナムから移住してきました。キムはお父さんに会ったことがありません。お父さんもキムのことを知りません。キムは、お父さんが死んで八ヶ月すぎてから生まれたのですから。お父さんの命日の夜、お母さんやお姉さんが泣いている声がきこえてきました。キムも涙が出てきましたが、泣いている理由は、お母さんたちとはちがうのです。だって、思い出して泣けるようなお父さんの思い出がキムにはないのですから。キムは思います。お父さんの霊がやってきても、あたしのこと、わからないんじゃないかな……。ヴェトナムにいたころ、お父さんがお百姓をしていたのは知っています。キムはいいことを思いつきました。家の前の空き地にマメをまいて上手に育てたら、お父さんはあたしが娘だって気づいてくれるんじゃないかな。
 
こうしてキムがまいたマメは、この地区に住む人種も年齢も境遇もさまざまな人々を、いつのまにか仲間にしてしまいます。やがてゴミは消え、みずみずしい菜園が出現しました。この菜園には、マメだけでなく、ナスやカボチャも実りました。でも、収穫は、目に見えるものだけではなかったことが、この物語を読めばわかります。
 
ひとつの種から始まった、全部で十三人の口から語られる、宝物にしたいような心温まるすてきなお話です。

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紙の本あなたがもし奴隷だったら…

2001/02/16 14:03

魂の叫びが聞こえる

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 かつてアメリカには、ほぼ400年にわたって奴隷制度が存在した。その歴史的事実を知る人は、おそらく少なくない。しかし、それぞれの奴隷の人生にまで、思いを馳せる人がどれほどいるだろう。レスターは訴える。絵の中の奴隷が「もしも自分だったら」と想像してほしい、と。
 
 黒人たちはある日とつぜん捕らえられ、アフリカ西海岸から新大陸へ向かう奴隷船に乗せられた。理由も行き先もわからぬまま、弱い者は死んで海に投げ捨てられ、生き残った者は奴隷として売られていった。
 奴隷は“もの”でしかなく、奴隷制度はビジネスだった。白人は売買し、虐待し、奴隷たちはよく逃げ出した。大半は捕まり、つれもどされ、拷問される。それでも、何度も逃げた。恐怖から逃れるために。自由を得るために。
 1861年、南北戦争が起きた。奴隷制度に終止符を打つための戦いだ。黒人たちは自ら北軍に加わり、南軍と戦った。制度によってもっとも苦しんだ者が戦い、死んでいった。
 自由! 自由になった! けれども、解放された奴隷たちは、自由がどんなものか、知らなかった。自由とは自分に責任を持つこと。自分を所有すること。自由をどう守っていくのか、彼らも、我々も今なお学び続けている。
 
 なぜ、人間が人間としての尊厳を奪われるようなことになったのか。逆になぜ、奪うようなことができたのか。本書は、奴隷の子孫である黒人たちに、奴隷制度をつくりだした黒人以外の人たちに、あらためて問い、自由の尊さを訴えている。
 本書の絵を描いたブラウンは、「奴隷」をテーマに7年かけて36点の絵を制作、そのうち21点をこの絵本に収めた。レスターはブラウンの絵を見たとき、「まだまだ書くべきことがある」と強く思ったという。息を飲むほどの迫力は、レスターだけでなく、見る者すべての心を激しく揺さぶる。ブラウンもレスターも共に、アメリカの過去を、祖先の魂の叫びを、なんとか絵や文にうつしとろうとした。この作品は、ふたりの魂の声が出会い、せめぎあい、高めあい、ひとつにまとまった結晶なのだ。
 
 人間は過去にさまざまな過ちを犯してきた。二度と繰り返さないためには、ひとりひとりが、過去を知ることから、始めなくてはならない。痛みを「想像」することから「理解」が生まれると、本書は語る。子どもから大人まで、多くの人に読んでもらいたい作品だ。

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紙の本綿菓子 新装版

2000/10/02 16:23

綿菓子みたいにふわふわしててほどよく甘くて、しゅわんととけちゃいそうなお話

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 みのりは、次郎君に恋しています。次郎君は、お嫁にいったお姉ちゃんが三年間つきあっていたボーイフレンドです。表題作『綿菓子』は、お見合いしてさっさと結婚してしまったお姉ちゃんの話。次郎君への淡い恋心と、好きかどうかもわからない相手と結婚してしまったお姉ちゃんに対するみのりの複雑な心境が描かれています。

 『メロン』と『手紙』は、中学にあがってからの親友みほの、両親の離婚と転校のこと。大人っぽい友だち、みほと、みのりとの付き合い方がすてきです。

 『絹子さんのこと』は、おばあちゃんの友だち、絹子さんの死のことと、それでわかった、絹子さんとおばあちゃんのすてきな秘密のこと。絹子さんもおばあちゃんも、とても潔くてかっこいいおばあちゃんです。

 『昼下がり、お豆腐のかど』と『きんのしずく』は、みのりの切なくて甘い初恋のこと。かなり年上でしかもお姉ちゃんのもとボーイフレンドの次郎君への、凛としてて、でも揺れる乙女心が描かれています。
 
 どの作品にも、小学校高学年から始まって中学生になってからの、少女でもない女でもない微妙な年ごろのみのりの気持ちがあふれています。大人から見ればまだ子どもでも、この年ごろの女の子は、男の子と違って、かなり成熟しているのです。そのあやういバランスが瑞々しく描かれています。ほかの登場人物も皆、それぞれの事情を抱えながら、その中で精一杯生きています。そんな人たちを、みのりは、ときには批判的に、ときには暖かい目で、ときにはあこがれの気持ちで、見つめています。
 
 タイトルの綿菓子そのものの、甘すぎないけれどしっかり甘くて、はかないけれどちゃんと芯が通っていて、なつかしいけれどいつの時代にも変わらない魅力を持っているような作品です。

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次はなにが起きるか、ページをめくるのが楽しみな、ゆかいな絵本

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 もしもこぶたにホットケーキをあげたら、どうなると思いますか? ホットケーキをもらったこぶたの身になって考えると……それはもう、メイプルシロップをかけたいに決まってますよね。ページをめくると、やっぱりこぶたは「シロップもほしい」とおねだりしています。では、シロップをかけてあげると、どうなるでしょうか? 今度は、色んなケースが考えられます。ジュースが欲しいと言い出すか、お腹がいっぱいになって昼寝がしたいと言い出すか……。
 
 このこぶたの場合は、からだがシロップでべとべとしてきたので、おふろにはいりたいと言い出しました。あわのおふろにはいって、アヒルのおもちゃで遊んだこぶたは、アヒルを見てうまれた農場を思い出し、みんなに会いたい、と言い出します。このように、こぶたは次から次へと、あれがしたい、これがしたい、と言いたい放題。こんなわがままこぶたに、うかつにもホットケーキをあげてしまった女の子は、こぶたの願いをかなえてあげようと、てんてこ舞い。でも、絵をみればわかるように、こんなかわいいこぶたの願いだったら、だれだってきいてあげたくなるでしょう。
 
 ということは、読み出したら最後、いえ、表紙の「もしもこぶたにホットケーキをあげると」という文字を見たら最後、ページをめくる手を止められなくなってしまうのです。こぶたは次に何を言い出すだろう、と想像しながら、とても楽しく読めます。そして最後のページにきたときには、この女の子と同じように、くたくたになりながらも幸せな気分になっていることでしょう。
 
 アメリカでも大人気のシリーズで、ほかに『もしもねずみにクッキーをあげると』、『もしもムースにマフィンをあげると』があります。

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紙の本チョコレート工場の秘密

2000/10/02 15:22

わくわくどきどきのチョコレート工場見学。笑いと感動がいっぱいです。

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 チャーリーの家族は、ふた組のおじいちゃんとおばあちゃん、お父さんとお母さんの六人。暮らしはひどく貧しいけれど、チャーリーはとても心の優しい男の子だ。チャーリーが大好きなのは、チョコレート。けれども食べられるのは、年に一度、誕生日に一個だけだ。チャーリーは、家族がこの日のためにお金を貯めて買ってくれるチョコレートを、一ヶ月以上かけて大事に食べる。町には、ワンカさんという人が経営している、世界一のチョコレート工場がある。この工場にはさまざまな謎がある。まず、だれも製法がわからない素晴らしいチョコレートを次々と発明している。そして、ワンカさんをはじめ、工員が出入りするところを、だれも見たことがない。工場の窓にうつる人影は、まるで小人のように小さいという。ある日、新聞に、この秘密に包まれたチョコレート工場の中に入れるという、夢のような発表がのった。チョコレートの包み紙の中に隠された金色の券をあてた子ども五人に、見学を許可し、一生かけても食べきれないほどのお菓子をプレゼントしてくれるというのだ。偶然に偶然が重なって、この券を手に入れたチャーリーは、工場見学に出かける。門の前に集まったのは、食べることしか頭にない男の子、ガムを連続でかみ続ける世界記録に挑戦している女の子、テレビにかじりついている男の子、欲しいものをなんでも買ってもらっているわがままな女の子、の四人だ。いよいよ、工場の秘密が明かされるときが来た……。
 
 チャーリーといっしょに、夢いっぱいの探検ツアーが体験できる。ページをめくるごとに、次の部屋にはなにが待っているのか、こうご期待だ。そして、ただ楽しいだけでなく、風刺もぴりっときいている。工場の中のようすは読んでのお楽しみだが、最後まで読むと、とびきりごきげんな気分になれることうけあいだ。

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紙の本星空のシロ

2000/09/01 15:38

多くの人に、シロの話をきいてもらい、命について考えてほしい

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

実験で背中の神経を切られたイヌのシロは、必死で痛みに耐えながら、死ぬのを待つばかりの日々を送っていました。皮膚病で毛は抜け落ち、からだは膿みでどろどろ、立つのもやっとです。そんなシロを、施設からこっそり連れ出してくれた人がいました。治療を受け、愛情を注がれたシロは、見違えるほど元気になります。シロはやがて、クリスマスの夜、車にひかれて死にました。苦しみや痛みのない世界へ、仲間たちの待つ世界へ、旅立っていったのです……。
 これは、実際にあった話です。シロは、最後は人々のやさしさに包まれて死にました。けれども、最後まで苦しんで死んだ動物も、たくさんいるはずです。苦しんでいる動物の姿に、かわいそうだから、見るにたえないから、と目をそむけてしまうのは簡単です。けれども、現実を知らなければ、なにも変わりません。この本を多くの人が読んで、悲惨な現実を知って欲しいのです。シロを施設から連れ出した人や、檻のかぎをこっそりあけておいてくれた施設のおじさんのような人たちは、自分たちが「やさしいことをしてあげた」とは思っていないはずです。人間だけではなく動物にも思いやりを持って接することは、人間として、あたりまえのことなのですから。
 つらい思いをしすぎて、なくことさえできなくなっていたシロは、元気になってからのある日、「ワン!」とひとこえなきます。この絵本からは、命の大切さがストレートに伝わってきます。

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紙の本ひとしずくの水

2000/08/16 16:37

科学が見せる新しい世界

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 ひとしずくの水からいろんなことが見えてくる。ミクロの世界で起こっていること。身近な生活のなかで起こっていること。高い空の上で起こっていること。自然のなかで起こっていること。それらはみんなつながっている。ひとしずくの水は、海や、草木や、人の肌から蒸発し、水蒸気となって空気中を動き回る。しかし、冷たいものや、水面に触れれば、すぐに凝結して、水にもどる。雲となり、雨つぶとなって、また川や海をうるおす。ひとしずくの水は“終わりのない旅”を続けている。わたしたちはひとしずくの水を通して、人間を含めた自然の営みが、すべてつながっていることを思い出す。
 
 本書は科学絵本だ。「表面張力」「蒸発」「凝結」などの現象を、平易な文章と美しい写真でわかりやすく説明している。その文章に、叙情性はない。それは現象の説明に説得力を持たせるためだ。この絵本の姿勢はあくまでも、科学的な視点に立ち、ひとしずく水の背後にある不思議、つまり自然界の法則を示すことにある。
 
 この絵本の特徴は、なんといっても写真の美しさだろう。まるで水をテーマにした写真集を見ているかのように楽しめる。著者は自然そのものの驚異をとらえるために、あえてオーソドックスな写真技術で撮影したという。ひとしずくの水が落ちて、しぶきをあげた瞬間。表面張力によって、さまざまな形を見せるシャボン玉。クモの巣にできた露のしずく。それらの写真は、見慣れているはずのものを別の角度から映したり、肉眼では見えない瞬間をとらえたりしている。視点を変えただけで、日常の世界がこんなにも美しく、不思議に満ちていることに驚かされる。

 「科学的にものを見る」というと、なんだか難しい感じがするかもしれない。しかし、本当は身近で楽しいことなのだ。知的探求心を刺激してくれる絵本。

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紙の本たのしい川べ ヒキガエルの冒険

2000/07/28 19:32

美しい自然のなかに生きる動物たちの、楽しくてかわいいファンタジー

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 この物語は、モグラ、川ネズミ、アナグマ、ヒキガエルの四人を主人公に、川や森の動物たちの生活に起きるさまざまな出来事を、ほのぼのと描いたものです。モグラは、おっとりしていて、ちょっと抜けたところがあります。けれどもとても気持ちがやさしい動物です。ネズミは、友だち思いで正義感が強く、どんなときでも前向きな性格です。かっこいい、男の中の男です。アナグマは、川と森の動物みんなから一目置かれています。物言いがはっきりしているので、きついようにも感じられますが、行動力抜群のリーダー的存在です。ヒキガエルは、おだてに乗りやすい単純な性格です。見栄っ張りでうぬぼれやですが、素直で憎めません。

 こんな四人の中で、問題を起こすのはいつもヒキガエル。新しい物が大好きなので、自動車に熱中するあまり、とうとう事件を起こして警察につかまり、牢屋に入れられてしまうのです。でもそこは抜け目のないヒキガエルのこと、まんまと洗濯ばあさんの変装をして逃げ出します。けれども、うまくいきそうになると、ついいつもの癖が出て、調子に乗って墓穴を掘ってばかりいるのです。ヒキガエルが家に帰りつくまでの冒険話は、実にユーモラスで笑えます。


 一方、モグラとネズミの話は、心温まるものばかりです。ふたりが、まいごになったカワウソの坊やをさがしていて、動物の守護神パンの神に出会うエピソードは、胸がはっとするほど静かで美しいものです。活気に満ちた夏が終わり、秋が近づいて、動物や鳥が冬支度を始めるときの寂しさも、心に染みいるように伝わってきます。読み終わったあと、自然を見る目、動物を見る目が、きっと変わってくることでしょう。

(金原瑞人/翻訳家)

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