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  3. 斜麓駆さんのレビュー一覧

斜麓駆さんのレビュー一覧

投稿者:斜麓駆

40 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本見知らぬ明日

2009/12/14 21:53

ついに最終巻

12人中、11人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 日本でもっとも長大で壮大な物語,故栗本薫氏の「グイン・サーガ」がついに最終巻となりました。
 通常,4話ずつ収録されていた文庫本も,著者の絶筆により通常の半分の長さとなりました。

 斜麓駆とほぼ同時代を生きた栗本氏の冥福を祈るとともに,改めてその偉大さを感じる一冊です。
 現在アニメ本,NHKでの放送,豪華本などさまざまな形で本シリーズが紹介されており,これからも続いていくでしょうが,私にとっては,やはり文字で書かれた文庫がもっとも想像力をたくましく読み,楽しむことができる媒体です。
 あとがきで解説を書かれた早川書房の今岡清氏の文章にも,本シリーズと作家栗本氏に対する切々たる思いが伝わってきます。

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紙の本悲しみに聖女の祈りを

2009/08/23 11:10

愛と悲しみと再生の物語

8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

原題は「囚人」。カナダのヒストリカル作家キャリン・モンクの「孤児」シリーズの第1作です。「囚人」にしろ「孤児」にしろ,あまり興味を惹きそうにない表題ですが,読んでびっくり,まさに心洗われる愛と悲しみと再生の物語です。
19世紀半ばのスコットランド,子爵の娘ジュヌヴィエーヴは,監獄でジャックという名の16歳の少年を引き取りにいきます。ジュヌヴィエーヴは,これまでにも少年少女たちを引き取り愛情込めて育てていたのでした。しかも,自分の家財を少しずつ売って生活費を稼ぎ,さらにはトムスン所長に謝礼を払ってまで,子供たちの身元を引き受け一緒に生活していたのです。当時の監獄はどんな状況だったのでしょう。現代と比べても収監された人たちの人権が守られるような状況でなかったのだろう,看守たちが囚人たちをどのように扱っていたのか,モンテ・クリスト伯(巌窟王)などでも想像できます。それでも,このインヴァレアリー監獄は国内屈指の先進的な環境を備えた場所だったらしいのですが・・・。
まさに,ジャックが看守に暴力をふるわれようとしていたとき,自分の危険を顧みず,ジャックを守ろうとした囚人がいました。明日は死刑台に送られる予定のレドモンド侯爵ヘイドン・ケントでした。少年ジャックは,ジュヌヴィエーヴと所長,看守たちがジャックの引き受け手続きをしている間にわざと騒ぎをおこし,監房の鍵をこっそり開け,ヘイドンの脱獄を助けるのです。ヘイドンは町で暴漢たちにおそわれ,自分の身を守るためにその一人を殺してしまったのです。いわば,正当防衛だったわけですが,誰もそれを見た者もなく,しかも仲間の暴漢たちはすっかり身を隠してしまったため,ヘイドンだけが殺人の罪で死刑が宣告されたのでした。
脱獄したヘイドンはジュヌヴィエーヴの家を訪ねてきますが,ジュヌヴィエーヴは殺人犯かもしれないヘイドンが,監獄でジャックをかばおうと自分の身を危険にさらしたことを知っていたので,ヘイドンの心の奥に真の優しさがあることを見て取り,別人に扮したヘイドンと結婚したことにして一緒に暮らすことにします。
ジュヌヴィエーヴの家にはジャックの外にグレイス,シャーロット,アナベル,サイモン,そして弟のジェイミーという少年少女,執事のオリヴァー,家政婦のドリーン,料理人ユーニスの家事を担当していた大人たちもかつて何らかの犯罪に手を染めた経歴の持ち主でした。しかし,本書の全編を通じて,これら9人が一人一人実に生き生きと描かれ,しかも互いを思いやる気持ちをもって生活し,かつての自分の不幸だったことを乗り越えて生きていこうとするたくましさをもった人たちであることが,読者の心に感動と勇気を与えてくれます。
家族となった人々の生活を支えているジュヌヴィエーヴに収入の道は,持ち物を売るぐらいしかありません。経済的な危機に陥った一家に,ヘイドンはジュヌヴィエーヴの描いた絵を画廊に持ち込み,グラスゴーで個展を開き絵を売るよう画商と取引をします。画商も絵のすばらしさは認めたのですが,女性が描いた絵を素直に才能を認めるほど当時のスコットランドは女性の地位が高くはなかったため,フランスの謎の覆面作家の描いた絵という作り話を仕立てて成功し一家にもやっと光明が見えてきます。しかし,グラスゴーで出会ったヘイドンのかつての親友から正体を見破られてしまい,ヘイドンは家を出ようとしたところに警官が踏み込んでくるのです。
さあ,ヘイドンの運命や如何に,互いに思いを寄せるようになったジュヌヴィエーヴとのロマンスは成就するのか,そして一家の子供たちや大人たちはこれからどうなるのか・・・。物語は急展開し,一気に解決に向かいます。すねに傷をもつ大人たち,不幸な生い立ちで世の中からつまはじきにされた子供たちがヘイドン救出にさらに大活躍します。まるで痛快時代劇,印籠は出ないものの水戸黄門のようなすっきりした解決にすっかり溜飲を下げることができます。一方,その過程で明らかにされるヘイドンと復讐を果たそうとする敵役との不幸な過去,それぞれが乗り越えなければならない後悔の気持ちがこの作品に奥深さをもたらしています。登場する子供たちがそれぞれ活躍する続編が翻訳が期待される傑作です。

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紙の本伯爵の情熱は海をこえて

2009/08/06 12:19

約束への前奏曲

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

ロレイン・ヒースは,レイチェル・ホーソーン,ジュード・パーカーと3つのペン・ネームを使い分けるアメリカの作家です。1954年の生まれですから今年55歳。作家としても脂ののりきったところといってよいでしょう。彼女はイギリスで生まれたもののすぐにテキサスに移り住み,二つの国を舞台に描かれた本書にも,その生い立ちが十分に生かされています。
1880年ロンドン。レイヴンリー伯爵と再婚した母,姉妹たちとロンドンで伯爵令嬢として暮らすローレン・フェアフィールドは,10年前に14歳でテキサスで出会ったトマス・ウォーナーと将来を誓った仲ですが,イギリスに渡ってからはトマス(トム)からは音信が途絶え,忘れられたと考えていました。そこに,アメリカから来た新しいサクシー伯爵としてローレンの目の前に現れたのは,まさにそのトムだったのです。10年ぶりに会うトムはすっかり男らしさと落ち着きを身につけ,再びローレンの胸を焦がす存在に成長していたのですが,トムから聞いたのは,10年間ずっと手紙を出し続けていたという事実でした。ローレンもイギリスに渡ったはじめの頃は,トムに手紙を出し続けていたのですが,返事が1通もこなかったことから,いつしか手紙を出すのをあきらめていたのでした。そして,トムからの手紙は,イギリスの貴族の生活に早く慣れさせようと,母のレディ・エリザベスがすべて燃やしていたということを知ります。また,ローレンからの手紙も出される前に母が始末していたのでした。しかし,母の行為は自分のことを考えてのことだということが理解できるローレンは,母を責めることはできませんでした。テキサスで育ち,イギリス貴族の伝統と生活の上での細かい規律やルールを身につけるため,ローレンは何度も繰り返し発音練習やマナーを身につけるための努力を重ねてきたのですが,突然自分が伯爵位を継ぎ,イギリスに渡らざるを得なかったトムは,ローレンに上流社会になじむための指南役を頼むのでした。その替わり,自分がテキサスに帰るための旅費を工面してもらうという条件付きで・・・。
興味本位でサクシー伯トマスに近づこうとするローレンの友人の令嬢たちに,次第に嫉妬心も抱き,社交界に次第になじんでいくトムにも腹を立てながら,ローレンの心境はとても複雑になっていきます。「ここはテキサスとは違うの。特に女性は。女性の価値は結婚相手に何をもたらすかで計られるの。社交界にデビューしたときから,女性に唯一認められるゴールは結婚よ。どこへ行っても何をしていても,ひとつの商品としてたず周囲からみられているわ。公園の散歩,コンサート,舞踏会,晩餐会,ドレスは批評され,行動は話の種になる。何から何まで細かく吟味されるのよ。」というローレンのことばに,イギリスとテキサスの文化の違い,価値観の違いがはっきりと示されています。かつて,テキサスの広大な荒野で流れ星に願いを込めていた14歳と16歳の女の子と男の子には戻れないというあきらめの気持ちも,そして爵位を継いでやっとイギリスに渡ってきたトムとは逆にテキサスに帰ろうと考えているローレンの気持ちのすれ違い,運命の皮肉に,読者はすっかり引き込まれていきます。
一方トムは,イギリスで継承した領地サクシーで,テキサスに手に入れた牧場と同じように,領地で働く人々の要望に真剣に耳を傾けたり,生活の面倒をみたりして,領民からは尊敬を得る領主に成長していました。テキサスの牧場主でありながらイギリスの荘園領主でもあるという「ただの伯爵ではない」という存在になっていることに幼い頃に家族に見捨てられ,孤児列車でニューヨークから奴隷同然に連れ回され,里親の元から逃げだして徒歩でテキサスに到達し,ローレンの義父に救われるまでに相当の苦労をしたことが,トムのよってたつ人間の基盤になっていることに,ローレンは尊敬の念を覚え,しかもトムがローレンに対して10年前と変わらない想いを抱いていることに気づき,ローレンも次第に自分の気持ちを抑えきれなくなっていきます。トムがローレンにキスしたときも,「約束への前奏曲(プレリュード)のようなキス・・・ローレンには守れるかどうかまだ自信の持てない約束への」という一節には,深くトムへの愛とテキサスへの郷愁の間で悩むローレンの複雑な心境がよく表されています。
人物造形といい,時にコミカルな会話といい,そしてイギリス社交界とテキサスの比較といい,作者の体験に基づいた深いことばがつづられた傑作,オススメの1冊です。

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紙の本氷の女王の涙

2007/08/26 19:47

いっぱいの冒険とちょっぴりのロマンスと強い女と家族愛に恵まれたヒーロー,そしてたくさんの犬たちの物語

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

始めに,作者チェリー・アデアのウェブページ http://www.cherryadair.com をご覧いただきたい。英語に堪能な方でなくても,これを見ただけでも,アデアの作風と目指すところがおわかりいただけるのでは? 本書を読了後,私もこのウェブページを見て,なるほどと思った。
 私のように,「氷の女王の涙」で初めてチェリー・アデアに出会った人でも,これまで訳出されてきた「T-Flac」シリーズの他の巻をすぐにでも手に取りたくなり,ライト家の兄弟・姉妹たちの冒険に思いを馳せたくなるだろう。
 物語の舞台はアラスカ。アラスカといえば,デイナ・スタベノウのケイト・シュガック・シリーズ(ハヤカワ・ミステリ文庫)がすぐに思い浮かぶが,本書では犬ぞりレースとその競技の関係者のみが登場するので,アラスカの人々の考え方や暮らし方は残念ながら詳細ではない。しかし,そのレースの厳しさやルールなどはよく取材されており,その点では十分に楽しめる。
 ヒロインで獣医のドクター・リリー・マンローの孤独に耐え,生い立ちによる心の奥の深い傷を克服せざるを得なくなるストーリーの展開は,読者に勇気と生きる力を与えてくれる。第19章~20章で登場するヒーローのデレク・ライトの家族たちの深い愛情と,危険を顧みず悪と戦う勇気にも,じんわりと腹の底から沸き上がってくる強い感動覚える。
 悪漢たちのちょっととぼけた感じも強力な最新兵器の出現にもあまり深刻にならずに読み進められ,流血の模様もなにか現実的ではないのが,本書の魅力の一つ。
 そして,犬ぞりを引くたくさんのワンちゃんたち。犬派の人にとっては,もう,たまらなくページをスリスリしたくなるような箇所は,枚挙に遑がないほど。
 わたしの中では,年間ベストに入るオススメの1冊。

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紙の本瞳をとじれば

2009/10/16 23:56

4人姉妹の「空騒ぎ」の第一弾

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 アメリカのヒストリカル・ロマンス作家エロイザ・ジェームズのエセックス姉妹シリーズ第1作です。作者は1964年生まれといいますから40代半ば,まさに脂の乗り切ったバリバリの作家と言えるのではないでしょうか。このシリーズは邦訳では第2作の「見つめあうたび」の方が先に訳されていますので,作者の紹介はあとがきに詳しく紹介されています。それによると,現役のシェークスピア研究家として大学で教鞭をとっているそうですので,本作の原題「Much Ado About You」がシェークスピア喜劇「空騒ぎ Much Ado About Nothing」のもじりであることも頷けます。 さて,エセックス姉妹シリーズのヒロインとなるのは,エセックス家の4人姉妹,テレサ(テス),アナベル,イモジェン,ジョセフィーン(ジョージー)ですが,母は早死にし,父は娘たちよりもこよなく馬を愛し,全財産を馬につぎ込んだため,父亡き後の姉妹は貧乏なまま後見人のホルブルック公爵レイフの基に身を寄せざるを得ませんでした。エセックス家はスコットランドの貴族であり,爵位はイングランド王から戴いたという由緒ある家柄ではありますが,4姉妹だけが残った状況であれば,いずれは姉妹のうちの誰かが結婚し,その夫か,その息子が爵位を継ぐことにならざるを得ないのでしょう。ホルブルック公爵の基に身を寄せた4姉妹ですが,長女のテスは,姉妹の母親代わりを務めていたため結婚よりも妹たちの幸せを優先して考えています。次女のアナベルは蜂蜜色の髪と美しい顔立ちで社交界デビューを待ち望んでいます。三女のイモジェンは美しい黒髪としとやかさを持った美女ですが,メイトランド卿ドレイブンに恋をしていて,しかもメイトランド卿は競馬と馬のことしか頭にない上に,すでに他の令嬢と婚約しています。四女ジョージーは,頭の回転の速い少女で,社交界にデビューするにはまだ間がありますが,自分がちょっと太り気味であることを気にしています。公爵のもとには,メイン伯ギャレット,裕福な実業家ルーシャス・フェルトンなどが出入りし,姉妹との間に,結婚をネタにしたさまざまな駆け引きが行われ,いわゆる「空騒ぎ」状態に陥ります。そのうち,イモジェンとメイトランド卿が駆け落ちしてしまったり,テスに結婚を申し込んだメイン伯爵が式の前日に行方をくらましてしまったりと,トタバタ劇が演じられますが,姉妹はユーモラスな会話で互いを気遣いながら決してくじけません。結局,長女テスが,最も結婚に遠いと思われていたルーシャスとの結婚に至り,二人は互いに恋に落ちることになります。さらにイモジェンとメイトランド卿が加わり,競馬場で落ち合うことになりますが,馬がもとで不幸な事件が起こります。そして,イモジェンとテスの間には,気持ちの上での大きな亀裂が入ってしまいます。一方テスとルーシャスはルーシャスの両親との和解のためにテスが仕組んだ企みをかろうじて乗り切り,家族としての幸せを手に入れていこうとします。
 本作の重要なテーマは馬と貴族社会のかかわり,イングランドとスコットランドの微妙な意識のずれ,19世紀の上流階級の結婚観など,さまざまが入り混じり,互いを尊重し,愛にあふれた結婚と家族という理想の姿を描ききっていると言えます。

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紙の本琥珀色の夢をあなたと

2009/09/13 03:32

傑作シリーズ第2弾

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 「麗しのプリンセスとくちづけを」につづく,「悪魔の乗り手」シリーズ第2弾です。前作から続けて読むと,このシリーズでは,ヒーローの男臭さが巧みに描かれており,心理描写,コンプレックスを抱くようになった背景などが,細い糸が絡み合ってやがて太い糸になっていくように,すばらしいストーリーテリングの技が表されています。
 今回のヒーローは前作のヒーローであるゲイブの腹違いの弟ハリー。ゲイブら4人と戦争で仲間意識を強く持ち,「悪魔の乗り手(デヴィル・ライダー)」と呼ばれる一人です。馬をこよなく愛し,競走馬を育てる夢を追って,友人のイーサン・ディレイニーとすばらしい馬屋を持つ屋敷を購入するためにハンプシャー州にやってきます。その屋敷の持ち主だったヘレン・フレイモア(愛称ネル)は,雨の中,荷馬車の荷台で帽子もかぶらず雨に打たれていたところで,偶然にハリーに遭遇します。二ヶ月前に出産し,父を亡くし,しかも赤ん坊を父が連れて行ってしまったという不幸な境遇に出会い,放心状態で屋敷に戻る途中でした。しかもその屋敷はすでに抵当に入っており,ネルが戻れる状況にはなかったのです。ハリーとイーサンはその屋敷を購入しようとしていたのでした。雨に打たれているネルの琥珀色の瞳を見て,ハリーはなぜか惹かれるものを感じるのでした。これらの偶然が重なり,ヒーローとヒロインの糸が次第に絡んでいきます。
 赤ん坊の父親の名前をネルは誰にも明かそうとしませんでした。住む家を失ったネルを,ハリーは結婚すれば,その問題は解決すると持ちかけ,赤ん坊をロンドン中を探しても必ず見つけると約束します。この赤ん坊捜索作戦は,本作の中心的なストーリーですが,ロンドン中の乳児院を回っても見つからず,一時は二人とも捜索をあきらめざるを得なくなります。しかし,赤ん坊の父親(ネルはかたくなにその名前を明かそうとしませんが)をついに見つけたハリーが,懲らしめようとしたときに登場してくる従卒が,かつて戦地でハリーたちの戦いぶりを知っていた男であり,赤ん坊トリーの居所に関わってくる,というしゃれた展開が準備されています。赤ん坊の父親は,敵役としては存在感のない,つまらない男ですが,敵役をそのような人物とすることによって,ハリーやイーサンの男らしさがかえって強調され,読者はますますヒーローに惹かれていくよう意図されているのは見事です。
 敵役との対決があっけない分,作者が用意したのは,ハリーの友人で前作から引き続き登場するイーサンと,前作のヒロインの家庭教師を勤めていたティビーとの遠距離恋愛です。話は巧みながらも貴族の出自ではなく,読み書きが苦手だったイーサンが,ティビーに文字を教わり,恋愛感情を何度も手紙を書き直し,思い切って告白するイーサンの姿と,イーサンに愛情を感じながらも自分が36歳という適齢期をすっかり過ぎていることから,釣り合わないと考えているティビーの関係は,ほのぼのとした,なんとか互いの気持ちを通じ合わせてやりたいという気持ちを読者に感じさせます。このサブストーリーも本書の魅力です。
 さらには,ハリーとネルの面倒を見,さらに家族と疎遠になっているハリーと兄たちの関係を修復しようとするレディ・モード,ネルの赤ん坊が発見された家の惨めな暮らしをしている赤ん坊たちを引き取って育てようとするバロウ夫妻など,愛情あふれた人々が脇を固め,愛することのすばらしさ,あたたかさをたっぷり描ききった作品です。

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紙の本愛の眠りは琥珀色

2009/07/23 20:41

大人の味のヒストリカル

6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

「愛の調べは翡翠色」につづく,Seduction(ギルティ・シリーズ)の第3作です。
原書表紙ではベッドが中心のイラストになっていますが,ラズベリーブックスの本書の表紙は,前作につづき金髪の美女を中心に描かれています。また,このシリーズを通して登場し,前作のヒーローでもあった作曲家ディラン・ムーアは本作にも登場し,本作のヒーロー・ヒロインが訪れるホールではディランの交響曲が,ディラン自身の指揮で演奏される場面がでてきます。これは,前作でディランが苦心しながら作り上げた例の曲なのでしょうか。そうだとすると,かなり前作との連作の要素が強い作品のような気がします。また,ディランがヒーローのジョン・ハモンドに「とにかく提案だけでもしてみろよ。友だちになるように説得できれば,ふたりがうまくやっていくうえで絶対に助けになるはずだ」とアドバイスするところなどは,前作を呼んだ人は,おもわずにんまりするところですね。
斜麓駆は第1作は未読なのですが,本作に頻繁に登場するヒロインヴァイオラ・ハモンドの兄夫婦,アントニーとダフネのコートランド夫妻が主人公であることは明らかです。
さて,本作ですが,子爵のジョン・ハモンドはヒロイン,ヴァイオラと結婚していますが,数年間にわたり別居し,他の女性との浮き名を流し続け,ハモンド夫妻は社交界では同じ場所には決していないということが知れ渡っています。しかし,ジョンの領地を管理していた親友とその子供が病死したことにより,領地を任せたくない親類の手に渡ってしまう可能性が出てきました。それを阻止するには,ジョン自身に跡継ぎが生まれなくてはなりません。そこで数年間別居していた妻のヴァイオラとの関係を修復し,なんとしても跡継ぎをもうけることを決意しました。しかし,ここ数年,何人もの愛人とくっつき,別れるということを繰り返してきたジョンを,ヴァイオラが許すはずもありません。二人の結婚当初は関係もよく,互いの好みもジョンはすっかり覚えていました。ヴァイオラとベッドをともにするため,ジョンはじっくりとあらゆる手段でヴァイオラの気持ちをこちらに向けようとするのですが・・・
全編を通じてあまり大きな出来事が起きるわけではありません。ロンドンの社交界のとても狭い世界でのお話ですが,日常の中で起こるちょっとした出来事(たとえばパーティでヒロインがヒーローの愛人と鉢合わせするというような)がいくつか登場し,ヴァイオラとジョンの気持ちの移り変わりを中心に物語は進行します。とても静かな感じのストーリー展開ですが,ヴァイオラの気持ちの変化,ジョンが次々に繰り出す新たな誘惑の手,そんな小さなことが,次第に読者をヒロインよりもヒーローの涙ぐましい努力の方に感情移入していくことになります。それにしても既婚の夫婦が主人公を務めるロマンスという設定も,意外性があります。
やがて,おきまりの「欲望よりも愛,そしてその証明」というロマンス小説の永遠のテーマと,さらにはヒーローが愛に目覚め,ついにはジョンと愛人との間の子供を育てようとするヴァイオラの健気な姿に,そして「愛とは何か」を実感的に気づいていくジョンの心の変化に,読者はすっかり取り込まれてしまうのです。「愛情が伴わない欲望は風と同じ。実体をもたないから,つかまえておくことも不可能だ。そのことをつねに心にとどめておいたほうがいい。」などという警句の静かなトーンの中で,ストーリーの面白さより,主人公たちの心の変化の面白さに気づいていける大人の味のヒストリカル・ロマンスです。

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紙の本公爵と百万ポンドの花嫁

2009/07/19 06:43

花嫁の値段は?

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

カナダのヒストリカル作家ジュリアン・マクリーンの「アメリカの女相続人」シリーズの第1巻です。2003年から2007年までに4巻出版されているようです。
 原題が「公爵と結婚する法」ということからも,アメリカ人(の富豪)がイギリスの爵位や貴族階級にどれほど執着心を持っているかということがうかがわれます。階層社会であるアメリカと階級社会であるイギリスとが私たち日本人からみると,そう大きな違いがないように見えるのですが,実は意識の上ではかなりの開きがあるのかもしれません。イギリスとアメリカのライフスタイルの違い,男女観・結婚観の違いに至るまで,事細かにヒーローとヒロインに語らせながら,作者マクリーンは明らかにしていきます。
 「ミス・ウィルソン(ヒロイン)は,このロンドンへ称号を金で買うためにやってきたのだ。そして彼は非常に価値の高い称号(公爵)をもっていて,さらに彼女が用意している代価を必要としている。これは取引だ。それを彼女は了解している。彼も了解している。その点を忘れてはいけない。」ヒーローはこのように自分に言い聞かせてヒロインに惹かれる気持ちを自分で抑えようとします。つまり,貴族のつとめとして,結婚は子供を得るための仕組みであり,妻を愛するためではないと考えているからです。
 一方,ヒロインであるソフィアはアメリカ人らしくヒーローに惹かれる自分の気持ちを抑えようとはせず,「あなたは,愛が幻想だと思っているの?」「わたしはあなたのためにすべてを捨てたのよ,あなたを愛していたから」と心から訴えます。国民性の違いばかりでなく,幼い頃から愛されて育ったソフィアと,逆に小さい頃から父母に愛情をかけられず,逆に父親からは疎まれ,しかも祖父の代からの自分の家族に架せられた血のせいだとも考えていたウェントワース公爵ジェイムズとの,家族との関係からくる感じ方の差でもあるのです。
 結婚後,ソフィアはジェイムズの領地であるヨークシャーで義母や義妹と過ごします。義母は前公爵夫人として,頑ななまでにマナーやしきたりを重んじ,アメリカ人であるソフィアに対してもつらく当たるのですが,義妹は身近なところに姉ができたことを喜びます。夫であるジェイムズは,ときにソフィアに惹かれるのを逃れるようにロンドンに行ったり,領地にいるときでも食事の時間をずらしたりと,ソフィアを避けるのですが,領地の農家の盲目の老女に聖書を読んで聞かせる姿や,館の使用人たちとよい関係を築いていくソフィアの姿を見ているうちに,次第に「癒し,慰め,愛」という,これまであえて目を背けようとしていたことが周囲の人々によい影響を与えてることに気づき,ついに本当の愛に目覚めるのです。忌まわしい過去のことがらにも自らの力で乗り越えようとするジェイムズに変身していったとき,ソフィアとジェイムズは本当の夫婦に,なっていくのでした。
 そのために使われたお金が百万ポンドであっても,決して高くはないのよ,と作者はページの裏でほほえんでいるようです。

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紙の本エデンの彼方に

2007/08/11 11:11

エデンの彼方に

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

コールターと言えば,FBIシリーズが二見文庫から訳出されているスリラー作家と思いがちだが,原書の一覧で見るとヒストリカル・ロマンスを含め幅広いジャンルの作家であり,ベテラン作家であることは間違いない。
この「エデンの彼方に」も重厚な家族愛とヒロインと出会い,ヒロインを守ることに自分の人生を賭けていくヒーローの11年前からの出会いを縦糸に,16歳からのヒロインの精神的な成長と,レイプという重いテーマに真剣に向き合ったストーリー展開など,アメリカの倫理観を十分に踏まえた作品に仕上がっており1992年という書かれた時期から見てもさらに作者自身の持っているアメリカの良心が息づいた作風になっている。

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紙の本見つめあうたび

2009/10/16 23:44

「じゃじゃ馬」は誰?

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 エロイザ・ジェームズのエセックス姉妹4部作の第2弾ですが,邦訳はこちらの方が先に出ています。
 時代は1817年。絶世の美女であるヒロインのアナベル・エセックスは社交界デビューを果たしますが,子爵であった父親が全財産を馬につぎ込んで亡くなったため,4人姉妹(長女テス,次女アナベル,三女イモジェン,四女ジョージー)の持参金はそれぞれに一頭の馬だけでした。スコットランドの厳しい自然と貧しい生活の中で,一家の中での切り詰めた家計をやりくりする役目を任されていたアナベルは,裕福なイングランド貴族を結婚相手に選ぼうと考えていました。しかし,結局,スコットランドから来たばかりの,そう裕福そうにも見えないアードモア伯爵ユアン・ポーリーからのプロポーズを受け,自分の理想とは違うものの,結婚を承諾します。結婚式をスコットランドの領地で挙げるための,前編の半分以上を占めるこの旅の物語は,互いに愛し合った二人の旅というよりは,互いのことをよく知るための旅になるのでした。
 その途中で,貧しい農家に立ち寄った二人は,牛と鶏だけの,食べるものや寒さを防ぐ薪すら自分たちで準備しなければならない,極貧生活を経験することになります。数日間のこの生活の体験が,結婚に必要なのは,財産や社会的地位など,アナベルが求めていたものではなく,愛だということに気づかせてくれるのでしょうか。読者としては,そんな展開を望むところですが,まだまだどうして,スコットランドまでの旅には,ヤジキタ珍道中のような,かなりの紆余曲折が用意されています。
 そして,アードモア伯爵の城に着いたとき,アナベルは貧乏貴族と結婚するのではなく,とてつもない大富豪が相手だということを実感するのでした。
 作者のエロイザ・ジェームズは現役のシェークスピア学者。どの作品にも,ひねりの効いた会話が作者の魅力ですが,本作では,ご想像のとおり,「じゃじゃ馬ならし」がもじられています。しかも,じゃじゃ馬はヒロインのほうではなく・・・というところに,もじりのもじりという,一味も二味もひねった楽しみが隠されています。絶世の美女でありながら,自分を常に美しく見せようと幼い頃から訓練と工夫を凝らす生活をしてきたアナベルが,自分の見せかけではない姿と内面の美しさに気づくのでしょうか,そして,ヒーローに伝えられるのでしょうか。「見つめあう旅(たび)」の途中で,「見つめあう度(たび)」に二人の愛が深まる,愛の物語です。

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紙の本麗しのプリンセスとくちづけを

2009/09/13 03:39

男臭さたっぷりの新シリーズ

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 イギリス生まれながら,大陸の小国ジンダリア公国の大公妃となったキャリーは一人息子ニコライ(ニッキー)を伴ってイギリスに逃げ帰ってきます。大公の死後,ニッキーの命が狙われていることを確信したからでした。元の家庭教師ティビーを頼ってイギリスにたどり着きますが,密漁船に乗ったために,ある人気のない海岸に密かにおろされ,船は去ってしまいます。海岸からの崖を登ってやっと道路にたどり着いたところに,馬が疾走してきてニッキーの上を馬が飛び越えます。親子を避けるため馬を跳躍させたのは退役軍人ゲイブでした。こんな冒険譚のような幕開けで始まる本書ですが,ヒロイン,キャリーとその息子の皇太子ニッキー,ヒーロー,ゲイブとその腹違いの弟ハリー,ゲイブに拾われる漁師の息子ジムなど,親や家族の愛情薄く育った人々が,強力な仲間意識で互いに信頼を寄せ合うデヴィル・ライダー(悪魔の乗り手)と呼ばれる屈強な男たちの助けを受けながら,心を通わせ合い,信頼と成長を互いに見守り,凍った心を溶かしていくヒューマンなストーリーが展開していきます。脇役を固めるバロウ夫妻,ゲイブとハリーを実質的に育てた大叔母や,社交界に絶大な力を持つ叔母など,不幸な少年時代を送ったにもかかわらず,暖かく,愛情深い心を持つ大人に成長させてくれた周囲の人々の姿がとても生き生きと描かれ,ストーリーにふくらみを持たせています。
 反面,ジンダリア公国の伯爵アントンのように,自分の地位を固めるため甥の命を奪おうとする敵役が登場し,悪巧みをしますが,それから逃げずに立ち向かっていこうとするキャリーの心の成長も描かれ,読む者に勇気と感動を与えてくれます。
 大団円でキャリーに向かって語られるゲイブのことば「君は僕の家であり,家族であり,目的であり,心なんだ」には,涙を禁じ得ない傑作です。

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紙の本晴れた日にあなたと

2009/08/15 18:18

再読に耐えるロマンス

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 視覚障害者と暮らすということがどういうことなのか。このテーマをロマンス小説で徹底的に描ききった作品です。
ヒロインのカーリーとヒーローのハンク,それにカーリーの親友ベスとハンクの家族,コールター家の人々が,まるで舞台の芝居を見ているかのようにくっきりと描かれ,また,ヒーローとヒロインの心の中が徹底したリアリズムで描かれており,これでもかというぐらい,これまた「愛」と「犠牲」の尊さ,それを追求しきった傑作です。
 ロマンス小説は再読に堪えないといわれがちですが,この作品はまさに何度でも繰り返し読んでみたくなる作品と言ってよいでしょう。
 ストーリーやヒロインの心の中を読者が再び文章で表わそうとするのは,この作品についてはあまりに無謀と思わせる圧倒的な存在感のある作品。おススメです。

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ホワイトチャペルの雨音

2010/02/27 16:33

切り裂きジャックのロマンス

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19世紀のロンドンを恐怖に陥れたホワイトチャペルの殺人鬼を時代背景に描かれたヒストリカル・ロマンティック・サスペンスです。
 ホワイトチャペルの殺人鬼(切り裂きジャックとも呼ばれますが)は,ウィキペディアによると,「1888年,たった2ヶ月の間にロンドンのイーストエンド,ホワイトチャペル地区で少なくとも5人の女性をバラバラ殺人にした連続猟奇殺人犯」と描かれています。結局この事件の犯人は特定できず,現代でも性的猟奇殺人があると,この事件が思い出されるほど有名になっているようです。そのため,この事件を扱ったり背景にした小説・評論が書き続けられ,彼のシャーロックホームズとの対決やパトリシア・コーンウェルによる研究書など,多くの人々の関心を集めてきました。
 本作も,当時,ホワイトチャペルの殺人鬼が医者ではないかという説がでたことを背景に,大学から追放された解剖学者ダミアン・コールをヒーローに,ダミアンを愛するようになる20歳の娘,ダーシー・フィンチをヒロインに描かれています。数々の疑わしいダミアンの行動にも関わらず,ヒロインのダーシーが,愛するダミアンをどこまで信頼しきれるかという一点が,本作品の主題になっているようです。そこに集眼できるところが,本書の柱を明確にし,単なる謎解きや,ゴシックミステリ的雰囲気だけの作品から,サスペンスフルなロマンスに昇華され,成功を収めている最大の原因のように思われ,とても暗い題材を扱いながらも,最後にほっと癒される読後感をもつ傑作です。

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紙の本公爵代理の麗しき災難

2009/11/15 09:59

ビルドゥングス・ロマンの王道

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 「ためらいの誓いを公爵と」に続く,リース兄弟ものの2作目です。前作で問題児として兄の結婚に一役買ったリース家の弟デヴィッドですが,兄夫婦が大陸に新婚旅行に出かける期間,公爵の代理を引き受けてしまいます。しかし,これまで放蕩者として,公爵の仕事など,何一つこなしたことのない自分が,何とか役に立ってみようと決意したことも確かです。そんなデヴィッドをいくつもの不幸が待っていたのですが・・・。
 公爵の身分を表す紋章付き指輪をして,兄の仕事と場へと急ぐため,乗った乗合馬車が,追いはぎの一味に襲われ,指輪をとられてしまいます。そして,同乗していた美しい未亡人を守ろうとして殴られ,昏倒してしまいます。兄の仕事を完遂するためには代理であることを示す指輪がとても大切なものであると考えたデヴィッドは,すぐさま,ロンドン中の質屋をめぐり,指輪に懸賞金を掛けたのでした。そして,連絡のあった質屋で指輪を売ろうとしていた人物を待ち構えていると,そこに現れたのはなんと,乗合馬車の美しい未亡人ではありませんか。捕り手に突き出すか,追いはぎの一味を自分の手で突き止めるか。未亡人がその場には指輪を持っていなかったため,女性を自分の家に連れて行き,仲間のことを探ろうとします。それまでは,数人の悪い友達とロンドンで放蕩の限りを尽くしていたデヴィッドですが,幼い頃から自分をかばってきてくれた兄に恩返しをしようと本気になっていたデヴィッドは,公爵としての仕事を兄の家の執事や事務員の助けを借りながら,何とか果たしていきます。しかし,家に連れてきた未亡人はなかなか自分のことや仲間のことを話そうとはしません。しかし,女性が図書室にある戯曲に興味を持っていることに気づいたデヴィッドは,美しいドレスを着せてミセス・グレイと名乗っている女性を王立劇場での観劇に伴います。初めて劇場での観劇に興奮したミセス・グレイは,デヴィッドの本当の優しさに次第に心引かれ,自分の本名がヴィヴィアン出るあることや出自を語り,ついにはデヴィッドのキスを受け入れます。しかし,弟がいて,いやいやながら追いはぎの一団と一緒にいることは告げられないでいます。そのころ,街道でブラック・デュークという盗賊団の台頭が噂となり,一度はデヴィッドもその仲間ではないかという疑いを掛けられます。ブラック・デュークこそが自分の指輪を持っていると推測したデヴィッドは,街道の乗合馬車に乗り,捕り手よりも早く盗賊団を見つけ出そうとします。ミセス・グレイことヴィヴィアンも,下々の言葉を自由に話せるという特技をデヴィッドに納得させ,一緒に行動することになります。そして,二人は盗賊の首領に出会うことができるのでしょうか。さらにヴィヴィアンの弟サイモンを救い出すことができるのでしょうか。絶体絶命の危機に陥ったとき,果たしてデヴィッドを救うのは誰なのでしょうか。物語は意外な展開を見せ,すべては収まるところに収まるのですが,本書は,たとえ,過去にどんなことがあっても,自らの努力や才覚で,人は自分の人生を切り開いていくことができるのだというビルドゥングス・ロマンの王道が示された秀作です。

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紙の本夜風はひそやかに

2009/07/31 22:39

周回的露萬州小説

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医師の娘サラとその姉の未亡人キャロリン,富豪で伯爵の一人娘ジュリアン,貴族の娘エミリーの四人は,「ロンドン婦人読書会」なる組織を作り,定期的に集まっては1冊の本を巡って女性らしい感想を述べあう楽しい仲間です。最初に選んだ本はシェリー夫人の「フランケンシュタイン」。夫を亡くして落ち込んでいた姉を励ますため,サラは,「完璧な男性」を四人で作ろうと持ちかけます。ハウスパーティに集まっていた男性たちからシャツや靴などそれぞれ1品を借りて「完璧な男性の人形」を作ることにしたのです。そのとき,サラの頭の中には,当家のホストであるラングストン卿マシュー・ディヴェンポートのことが浮かんでいました。リンダ・ハワードの「ミスター・パーフェクト」もこんな設定ではなかったでしたっけ?
サラは,美貌の姉とは違い,「あけすけな物言いをし,褐色の瞳と黒い髪をもつ,背が高く眼鏡をかけた典型的な美人とほど遠いオールドミス」で,すっかり結婚話などはないものとあきらめていました。しかも友人のジュリアンやエミリーも相当な美人。さらにジュリアンに至っては経済的にも恵まれているという,男性にとっては結婚対象としてはこれ以上ない条件の持ち主です。
ラングストン卿のシャツを借りようと部屋に入ったところに,卿が帰ってきて,とっさにカーテンの陰に隠れたサラが目にしたのはラングストン卿の入浴シーンでした。卿の肉体はまさに完璧な男性だったのです。サラは美貌にこそ恵まれませんでしたが,ラテン名で植物の名前を覚えているとか,人物が今にも動き出しそうに見えるすばらしいデッサンを描くことができるとか,すばらしい才能を持っていました。そのことに気づいたラングストン卿は,次第にサラに惹かれていきます。しかし卿には領地を守るため財力のある娘と結婚して子孫を残すという義務があるのでした。サラと卿の思いは悲劇に終わるのでしょうか?そして卿の父が残した遺言の遺産は本当に存在するのでしょうか。
本書はとにかく細部にわたる書き込みと,サラとラングストン卿の丁々発止のことばの応酬,さらにサスペンスたっぷりの筋立てなど,読み応えのあるすばらしい作品に仕上がっています。また,章ごとに独立した出来事がきっちりと書かれ,周回小説のような楽しみも味わえます。仮に斜麓駆は各章に次のような表題をつけてみました。
第1章 サラ,3人の美女とロンドン婦人読書会を設立し,完璧な男性を作ることを宣言する
第2章 サラ,ロンドン婦人読書会で完璧な男性の条件をまとめ,ラングストン卿の秘密を探ることを決意する
第3章 サラ,朝の散歩で犬のブラッドリーとその飼い主のラングストン卿に出会う
第4章 サラ,ブラッドリーと庭で遊び,ラングストン卿の秘密を疑う
第5章 サラ,ディナーでジャンセン氏との会話に大いに盛り上がる
第6章 サラ,ラングストン氏の部屋に侵入し,ラングストン卿のシャツを手に入れる
第7章 サラ,他の3人と人形の着衣を集め,ラングストン卿の兄妹が亡くなった話に大いに同情する
第8章 サラ,ラングストン卿と冗談を言い合い,互いの家族のことを語り合う
第9章 村の鍛冶屋が殺害され,ラングストン卿とサーブルック卿がサラのことを話し合う
第10章 ラングストン卿,サラの入浴中に部屋を訪れる
第11章 ラングストン卿,サラに夜の庭の穴掘りの理由を語る
第12章 ラングストン卿,サラに父の遺言の秘密を語る
第13章 サラ,バラ園でラングストン卿の庭の穴掘りを手伝い,湖でラングストン卿の幼少のことに心を動かされる
第14章 ロンドン婦人読書会が開かれ,サラ,ラングストン卿に人形の秘密を明かす
第15章 サラ,ラングストン卿と一夜を過ごす
第16章 ラングストン卿,サラとの結婚を考える
第17章と第18章はネタバレになるので省略
第19章 大団円
エピローグ サラの飼い犬とラングストン卿の飼い犬が出会う
いかがでしょうか?
また,サラと卿のことばの応酬として後半何度も登場するのは,サラが「全く理解できませんわ」ととぼけるとマシューが「ご心配なく,僕が二人分理解しているから」と答える場面です。思わず読者の笑みを誘う,とても気の利いた台詞ですね。このシリーズは他の3人の美女たちがヒロインとなるシリーズものの第1作として,はじめにサラが選ばれたことに,作者の慧眼が光る期待作です。

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