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先月(2017年8月)

くらたさんのレビュー一覧

投稿者:くらた

1 件中 1 件~ 1 件を表示

紙の本シンクロナイズド・

2003/07/08 03:16

読みにくさの向こうにあるものを求めて

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 技術はみな、例えて言うならF1と汎用国産乗用車の二重構造を隠し持っている。安全を保証しつつ供される汎用車の魅力の背後には、日常には向かない車体による過剰なスピードの追求と不可避なクラッシュがある。「シンクロナイズド・」はクラッシュの記録だ。
 
 ある程度まで読んで「池袋ウエストゲートパーク」に似ていると感じた。「確かあれはこれのにおいがしていた」。それをかけると、ただの肉がなぜだかかけがえのない、たまらないものになるスパイス。無意識のうちに選び出されるそのにおいを、普通は誰もそれ自体では食べないが、「シンクロナイズド・」はほとんど「それ自体」である。本来薄められて少量使われるべきものが、そのまま塊としてある。読みやすさ(乗り心地)という価値を無視して追求されたエンジン、それ自体。
 
 このスパイスとは、ものそれ自体が持つ意味よりも、その並び方、並んだ量が総体として無意識に作り出す意味のほうが決定的だという確信、信仰のようなもののことだ。自動販売機から手紙を受け取る。その行為は奇妙だが、実はそれらの「奇妙な行動」自体からは決定的な変化は生じない。それが生じるのは、「これは変だ」と感じてしまった人物によって、その収集が積み重ねられることからなのである。原因としての奇妙さではなく、結果として集積した量=数、あるいは意味の積み重なりのありよう、が別の空間を開く。
 このとき、意味は意味としての重さを失い、重ねられるものはなんの意味もないもので構わなくなる。手紙からティッシュに、歩幅に、老人の身ぶりに。行為者、追跡者、計測者は一見恣意的なこれらの「つながり」を再構成することで世界の配列を模倣し、別の空間を開こうとする。これはデジタルな新呪術だ。
 
 昨今、こういった、対象自体の意味ではなくその配列にこだわる「デジタルな呪術的行為」を行う人物像が、他との差別化のための現代的なスパイスとして多数採用されている。そしてそれを採用するとき、エンタテイメントが目的とするのは彼等のワクチン化である。新しい「呪術行為」をする人物を取り入れることで、その背後で「世界」を「そのような呪術行為」にもびくともしないより堅固なものとして描き直してみせることが娯楽小説の役割なのである。このような本は目新しい匂いがし、かつ舌触りがよい。
 
 それに対してこの本の中では呪術の顕現の背後にある堅固な現実というものが設定されていないので、読みにくい。が読みにくさはそれが読者の認識の限界を刺激している証拠だ。
 書き下ろしの「シンクロナイズドW」によれば、ここに列挙された呪術行為は「生半可なシンクロ事件」であり、これらの作品において再現されるような、分かりやすい「デジタル呪術行為」、およびそれに陥って帰ってこられなくなった人というのは、より本質的なシンクロ事件からの堕落者なのである。
 つまりここで背後にある世界は、呪術を行う彼等よりも、さらに本質的に曖昧なものなのだ。「自動販売機」で妻子を失う男は、自分が妻子を失ったことは分かる(生半可なシンクロ事件。)が、自分が持っていた紫のカッターが定規に変わったことは認識できない。

 生半可な呪術は、真のすりかわりのアリバイとしてある。この本は世界がすりかわるシステムを呪術によって模倣する人間の失敗(クラッシュ)の記録だ。そのクラッシュの中、本質的な入れ替わりの残り香が一瞬かすめる。これはそのような、猛スピードの居心地悪さの中に認識不可能な真のいれかわりを見るための美的試みなのである。

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