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先月(2017年1月)

崇島紫さんのレビュー一覧

投稿者:崇島紫

2 件中 1 件~ 2 件を表示

紙の本裁判官が日本を滅ぼす

2003/07/15 20:33

声なき声を聞け。『日本を滅ぼしてはならない』

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 高校・大学を共にした25年来の友人は、24歳で弟を癌で亡くし、30歳を過ぎて一念発起。宅浪して医学部に入り直し、医者になった。彼女の弟が亡くなった年に、東京で女子高生コンクリート詰殺人事件があった。事件の裁判のあと、彼女が発した言葉が今も忘れられない。「弟は人を殺したわけじゃない。人を傷つけたわけじゃない。ただ24年の生を自分なりに精一杯生きただけだ。なのにどうして、人を殺したあの事件の少年たちが生きる権利を与えられ、弟は死ななければならなかったのか。あまりにも不条理すぎる」。
 不完全な人間がつくった、不完全な法で裁き裁かれる不完全な人間。筆者は私たち読者に、こう問うているのではないか。「正義や真実、罪の責任を問うのが法なら、法に携わる者は、藪の中にある真実に目を向け、不条理の意味を日々問いかけ、正邪を断ずる剣を持つ者であってほしい。そして、ともすれば、融通のきかない、非常識さすら持ち合わせているように見える法に果敢に挑む、勇気を持つ者であってほしい」と。いや、筆者は、法に携わる者だけではなく、私たち読者にも、「人として罪にどう立ち向かうか」を、同時に問いかけているのではないか。
 この本が発刊されるのと機を一にして、最高裁で、新潟県柏崎市の女性監禁事件・佐藤宣行被告の判決が言い渡された。懲役14年。「監禁罪の最高刑が10年だから」とするこの判決に、首を傾げる思いをした人も多かったのではないか。9歳から19歳までの、人生で最も美しい10年を、被害者の女性は二度と取り戻すことができない。加害者によって選択された彼女の不条理な10年を、法に定められていないという不条理な理由で、有耶無耶にしてしまってもいいものだろうか。
『裁判官が日本を滅ぼす』──この本には、新聞・雑誌等で報道され、誰もが表層を知っている裁判の真実が15例、掲載されている。どの事例にも、行間には、取材の厚みが凝縮され、「そんなことがあったのか」と改めて愕然とさせられる。ジャーナリストとしての筆者の姿勢の根底にある「正義」を見つめようとする目。それは、ジャーナリストである前に、健康な人であろうとする、筆者の真摯な姿勢のあらわれにほかならない。文は人なり。筆者は正義を問うことを諦めてはいない。罪を真っ向から捉えようとする筆致には、今、失われつつある、人の道の善悪を問う気迫がある。
 深いテーマを「誰にでもわかりやすく」書いているのは、筆者の意図だろうか。いい本が売れない時代に、このような本を上梓した筆者に心から敬服する。芸術は武器であり、ペンは剣より固く、優れた書物は人を動かす。読後、行間に溢れた筆者の人柄に、弟を癌で亡くした友人の姿が重なった。友人は今、「死より生に関わりたい」と、都立病院の乳幼児病棟に勤務している。虐待され、瀕死の状態で運び込まれてくる乳幼児にも、彼女は決して諦めない。筆者が正義を問うのを諦めていないように。『裁判官が日本を滅ぼす』。この本の題に託された『日本を滅ぼしてはならない』という声なき声。私たち読者は、この声に耳を傾けてなければならないのではないか。

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紙の本其の一日

2003/08/25 19:29

時代に翻弄される小さき者の、大いなる運命

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 光の当たらないものに光を当て、目に見えないものを見ようとする。
 本書で筆者が投げかけた、小説の試みの一翼を担う「光」と「視線」。
 それは、4人の主人公の、運命の『其の一日』の心の動きを哀しく、切なく、照らし出す。
 お上のため、お家のため、主のために「良かれ」と企てた貨幣操作の廉で更迭。失脚か、自決かの瀬戸際で、時代に翻弄される男の哀れを清浄な目で描いた『立つ鳥』。夫と遊女の心中ののち、夫の亡骸に口づける養母の姿に、夫と養母の人知れぬ悲恋を知った武家の妻。その心の深淵を書いた『蛙』(夫と心中した亡き遊女の面立ちは養母にうり二つだった……)。堅実な遺戒をのこし、自害して逝った父の真の姿(滑稽本の作者)と実母との悲恋、自らの誕生の秘密を知ってのち慟哭する主人公の、父への深い思慕をしたためた『小の虫』。冬の朝、雪片とともに桜田門外の変に消えた愛人・井伊直弼の数奇な運命を、愛人の女性の目で、溢れ出る叙情とともにとらえた『釜中の魚』。
 成功と挫折、生と死、逆境と世嗣、男と女、縁と運命、人の世の表裏、人間の意外性、哀しみと穏やかさ、時代にうねる大小の波、そして、推し量ることのできぬ人々の複雑な心中……。この小説では、江戸に生きる市井の民の、日々遭遇する『運命』が凛とした筆致で凝縮され、歴史小説として昇華している。そして、どれほど時代を経ようが、いかに時を刻もうが、人は時代に翻弄される小さき存在であり、しかし、けれども、その運命は大いなるものであり、自ら運命を自らの手で折り合いをつけようとする人間の、ささやかではありながら真摯な姿に心洗われる思いのする一冊である。
 運命の一日に光を当て、人々の心の動きをやさしい眼差しでみつめようとする筆者の澄んだ「目」。芥川龍之介が言うところの「運命は偶然より必然である。 『運命は性格の中にある』という言葉は、けっして等閑に生まれたものではない 」の言葉が蘇る。運命は人であり、宿命は、私たちの世過ぎと生きざまが伏線を敷いているものなのか。
 運命の一日。私たちはどうやってその運命に対峙するか。
 何よりも、人々の哀しく切ない運命を、瑞々しい心と凛とした筆致で描把した作者の「視線」に感動する。

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