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  3. 川内イオさんのレビュー一覧

川内イオさんのレビュー一覧

投稿者:川内イオ

51 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本亡国のイージス 上

2004/02/04 15:42

右にも左にも。

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

「絶対行かせません。絶対止められます」

数日前、夜TVを見ていると、自衛隊のイラク派兵に反対するデモを
取材したニュースの中で、マイクを向けられた20代前半ほどの
女性が、「派遣は止められると思いますか」という、傍から見れば
デモをバカにしたような質問に、はにかみ顔でこう答えていた。

…長閑だ。私は溜息交じりの欠伸をして、床に就いた。


『亡国のイージス』は、日常という薄っぺらな表舞台とはかけ離れた、
日本・朝鮮・アメリカ、各国の闇に蠢く権謀術数を描いた作品である。

アメリカが研究開発の過程で生み出した、核を凌ぐ威力を持つ物質。
その物質の存在が、沖縄で起きたある爆発事故から明らかになる。
そしてその物質は、腐臭を放つ祖国を真の理想国家に再建するという
使命に燃え、組織を超えて暴走する北朝鮮工作員の手に落ちる。

工作員は、その物質を究極の交渉カードにして、
祖国の体制を崩壊させるために日米が画策した謀略を公式の場で
明らかにさせ、世界に衝撃を与えることで、祖国に居座る売国奴の
排除と、そのための同士の蜂起を画策する。

その「脅迫」に利用されたのが、戦域ミサイル防衛構想(TMD)に
端を発する、海上自衛隊全護衛艦イージス化計画の、一番艦として
ミニ・イージス・システムを搭載した護衛艦いそかぜであった。

信じるものをことごとく失い、狂気を宿す北朝鮮工作員。
息子を亡くし、自分自身をも見失ういそかぜ艦長。
家族に去られ、艦を奪われ、己の存在意義を自問する先任伍長。
特殊工作要員として、いそかぜ奪還の使命を負った孤独な自衛官。

いそかぜは、国家に対抗する意思を持った革命兵器として、
しかしその腹の底に自沈の可能性を内包したまま東京湾に進行する。


私は、『亡国のイージス』に掛け値なしに没頭した。
寝る時間を削って本を読んだのは、いつ以来だろう。
この本が放つ緊張感はありきたりのミステリーや
クライムノベルのものとは明らかに異質である。
そして、その異質な緊張感の正体は「危機感」にあると思い至った。

『亡国のイージス』は様々な問題を提起する。
自衛隊とは? 国家とは? 戦争とは? 平和とは?
政治とは? 国民とは? 情報とは? 命とは?

正義とは?

デモを欠伸で迎える私にも、デモに笑顔で参加する彼女にも、
共通するのは「危機感のなさ」ではなかっただろうか。

放蕩人生を歩む私も、珍しくそんなことを考えさせられた。

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“象使い”を目指せ。

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

自分の体重、仕事の成績、あるいはもっと大きく社会や世界に関することでも良い。今、何かを変えたいと思っている人、何かを変える必要に迫られている人はこの本を手に取ってみてほしい。
この本はまず自分の身辺や会社、社会で起きる問題が「人間の問題に見えて、実は環境の問題であることが多い」と始める。そして、目の前の状況にポジティブな変化を促すための「スイッチ」をどう入れるのかを記している。
著者は人間の本能や感情を巨大で飼い慣らすのが大変な「象」、理性を「像使い」に例え、「変化を起こすには象を動かすことが必要」と説く。ダイエットで失敗する、あるいは仕事で良いアイデアが採用されずに落胆するという経験をしている人は少なくないだろう。本書によれば、それは自分や相手の「象」をうまく動かせていないから。象使い自身が目指すべきゴールを把握し、具体的かつ魅力的に到達する方法を提示できなければ、象は動かないのだ。
この本の良い点は「象使い」が適切な方向性を見出すための糸口と、「象」を動かすためのヒントが単純明快に記されていること。子供の学力向上や児童虐待の防止という身近な話題から、会社の飛躍的成長、社会変革がどう成されたかまで豊富な実例を用いてわかりやすく解説されているため、老若男女問わず共感できるはずだ。そして、読後には「自分もやってみよう」という前向きな気持ちにさせてくれる。

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搾取されたくない人、手挙げて。

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

別に自慢したいわけではないが、私は22才のとき、サッカー観戦のために
一人でイタリア・スペインに渡り、延べ2ヶ月の滞在で、8試合観戦してきた。

私は、この8試合の会場で少なくない日本人を見た。
何人かに話を聞くと、一部の日本人は日本で観戦チケットを購入してきたらしい。
日本人の旅行者の中には、現地でチケットを購入するのを嫌がって、
日本の代理店を通して予め購入してくる人がいる。
その購入代金を聞いてかわいそうになった。
これはあくまで私の個人的な意見だが、彼らはぼったくられていた。

『お金持ちになれる黄金の羽の拾い方』には、お金持ちになれる
「秘訣」が書かれているわけではない。
巷に溢れている「100万円を1億円にする方法」的な「おいしい話」を
期待するなら、それは間違えだ。
お金持ちになるにはどうしたら良いか、この、欲深い人間、要するにほとんどの
人間にとっての永遠の問いに、この本はいたってシンプルに答えている。

・ 収入を増やすこと
・ 支出を減らすこと
・ 運用利回りを上げること

なにを当たり前のことを、と思う人もいるだろう。
しかし、こういう言葉もある。
「当たり前のことを当たり前にこなすことが一番難しい」。

この本に書かれているのは、「情報」だ。
資産運用について、保険について、年金について、不動産について、
この国に住むあらゆる世代の人に有益な情報が惜しみなく公開されている。
いや、公開というより暴露かな。
国や企業、公人が私たちについている「嘘」を簡潔にわかりやすく教えてくれる。
国も企業も人も、嘘をつくのは、その嘘で何か利益が生まれるからだ。
当たり前だが、自分が損をする嘘をつく人はいない。

サッカーの話に戻ると、少なくともイタリア、スペインでは、
・よっぽど大きな試合でもない限り、当日にスタジアムで購入できる。
(前日までにスタジアムのチケット売り場で購入するのがベストだ)

・チケット売り場に怖い兄ちゃんがたむろしていることもない(用心は必要だ)。

・むしろ、チケット売り場にいるおじちゃん、おばちゃんは
 右も左もわからない日本人に優しい(もちろん、そうでない人もいる)。

・言葉がわからなくても、チケットは売ってくれる。
(無論、少しでも話せたほうがいい)

・わざわざ高い金を払って、日本で買うことはない。
(どこで買うのも自由だけどね)

世の中には、知らなくても問題ないけど知っていたほうが有利だ、という
「情報」がある。
そしてその「お得な情報」は、ただぼーっと待っているだけでは手に入らない。
しかし、手に入らない、と言っても別に隠されているわけではない。
その情報は、あなたの手の届くところにころがっているのである。
あとは、あなたが自らの意志で手を伸ばす、それだけだ。

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敵前逃亡

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

「お前は負け犬だ、人生の落伍者だ」

1年前の12月、私は8ヶ月勤めた会社を辞めた。
予め企画されていた忘年会は必然的に私の送別会を兼ねることになったが、
快く送り出してくれる人は、当然と言えば当然だが、誰もいなかった。
日頃から、ありがたくて鼻血が出るほど念入りに私をかわいがってくれた課長は、
酒のせいもあってか、会の終盤の1時間ほどを、私を罵倒するために費やした。
そして、時折優しげな表情で、「考え直すなら今だぞ、ん?」と言った。
私はその顔を見て、ただ、気持ち悪いなぁ、とだけ思った。

『どこにでもある場所とどこにもいないわたし』には、
「どこにでもある場所」を接点に、希望を抱く「個人」と
顔の見えない「世間」が描かれている短編集である。
みんな一緒がだ〜い好き、出る杭はみんなで仲良く打ちましょう、
個性は大切に、でも目立ちすぎは仲間外れのもとだからほどほどにね、
そんな「世間」から、物語の主人公は「逃亡」するのだ。

主人公は、「世間」を代表する日本社会に敢然と戦いを挑む、わけではない。
信頼する人間にしか本心を告げず、周囲にバレたら全てがオジャンになる、
とでも言うようにひっそりと、自分に大切なものだけを抱えて旅立つ。
言いかえれば、彼らは「世間」の力を恐れているのだ。
しかし、彼らが恐れるのは、自分が仲間外れにされることではない。
自分に、つるっとした表情のない能面を付けることを笑顔で強要する「世間」、
夢や希望、個性を濾過し無力化する装置としての「世間」である。

私は会社を辞めて、収入が3分の1ほどになって、後悔しているのだろうか。
していない、と思う。
私が信頼する人間のほとんど皆が私に、辞めて良かったね、と言う。
目が楽しそうだから、だそうだ。
自分の目がどう変わったか、なんて私にはわからないが、
確かに私には会社員時代にはなかった「希望」がある。
どんな「希望」か?
それは教えない。
ただひとつ私に言えることがある。
「逃げるが勝ち」

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紙の本アフリカの王 上

2005/08/17 02:05

ミトコンドリア・アダム

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

人類のルーツを辿ってゆくと、およそ14〜29万年前、
アフリカに生きた1人の女性に行き着く。
その人類の母を「ミトコンドリア・イヴ」と呼ぶ。
『アフリカの王』には、創世の地であるアフリカに
狂おしく惹かれた男たちの眼を通して、神々しいほどに
豊かな大地の色彩が、余すことなく描き出されている。
「一度アフリカに足を踏み入れた人間は
アフリカの手に掴まえられてしまう」
アフリカに伝わるその言葉通り、主人公である雑誌編集者、
黒田十三は撮影で訪れたマサイ・マラの雄大な自然、そして
偶然出会った画家ムパタとその絵に強烈に魅せられる。
まだ見ぬ何かを捜し求めるかのように、
1つの場所に留まることを知らない黒田。
スラム街に沈み、日々の生活にも困窮しながらも
澱みのない視線でアフリカの空気を描くムパタ。
それが必然であるかのように惹かれ合う2人に触発され、
フランス人女性パスカル、世界的な建築家・藤巻、
経歴不詳の現地コーディネーター・吉元、
天才ホームレス・ポチをはじめ、多様で多彩な人間が、
黒田の壮大な「思いつき」に真正面から向き合うことになる。
啓示にも似た湧き出る思いに衝き動かされるように、
夢の実現に邁進する男の姿がこの物語の根幹だ。
しかし、何より胸に届くのは、恵みの緑、燃える夕映え、
抜ける空色、夜の漆黒、黄金の大地…。
原色のマサイ・マラの風が、心の奥底に眠る記憶を撫でる。
黒田は夢を見る。
夢に現れるのは、誰かに似た優しげな微笑を浮かべる男だ。
その男は、オロロロの丘の上に据えられた王の椅子に腰掛けて、
きっと今も陽光に満ちたマサイ・マラの草原を見下ろしている。

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紙の本地雷を踏んだらサヨウナラ

2003/11/27 21:46

夢破れ命散る、夢諦めて命残る。

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

2年前、夢を追って街を離れた私の友人が、最近、夢破れて地元に帰ってきた。
私は、かける言葉がなかった。
簡単に夢を諦めるな、と言いたい自分と、何の結果も見ないうちに諦めるぐらい
だから、はじめからその程度の気持ちだったんだろう、と呆れる自分がいた。

『地雷を踏んだらサヨウナラ』は、フリーの報道写真家、一之瀬泰造が家族や友人知人に宛てた手紙を編纂した、写真・書簡集である。
彼は、1972年、24歳のときバングラディッシュに入りフリーの戦場カメラマンとして活動を開始、その後ベトナムを経て、1973年、当時戦禍の真っ只中にあり、一般人は足を踏み入れるどころか近づくことすらできなかったカンボジアのアンコールワットに単身乗り込み、若干26歳にして命を落とす。

彼は、病に冒され、撃たれ、ときにカメラに命を救われながら前線に漂う死の匂いを嗅ぐ。しかし、戦場にありながら、彼の書いた手紙からは「戦争」という言葉のイメージにありがちな悲壮感、恐怖感、非現実感よりも、女性に惹かれ、友と酒を酌み交わし、夢を追う、まさに青春を過ごす若者の姿が見える。
そして彼は、同じように若者特有の無邪気さで、「写真が撮れたら死んでもいい」というほど魅せられたアンコールワットに独り前進してゆく……。

私は、一之瀬泰造を哀れだと思わない。この話を悲劇だと思わない。
恐くなかったはずはない。
もし彼が「やっぱりやめた」と言っても、誰も笑わなかったはずだ。
しかし彼は、自分の夢を追い、夢に散った。それは、彼が自分で選んだ道なのだ。

夢は追い続けるのも、諦めるのも恐い。
私の友人は、勇気があるし、腰抜けでもある。それは、私も同じだ。
それでは、夢を叶えることなく死んでしまった泰造は夢に酔った愚か者だろうか。
私にはわからない。
ただ、私もどうせ死ぬなら夢に酔ったまま死にたい、そう思った。
千鳥足で気持ち良く前に進んで「地雷を踏んだらサヨウナラ」、
私も人生これでいこう。

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ワイルド・ソウル

2003/10/25 17:33

3割打てば。

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

あなたにとって、勝ち組と負け組って何?
人生勝ち負けじゃない、引き分けだってあるんだ。
野球の打者は、3割打ち続けられたら大打者だけど、
でも逆に言うと、いつも7割は失敗してる。
人生3割うまくいったなら、それは幸せなんだって俺は思う。

これは、ある著名な人物の言葉だ。
『ワイルド・ソウル』を読んで、私はこの言葉を思い出した。

「ブラジル移民」について、あなたは何を知っているだろうか。
1960年代、国策として移民が奨励され、多くの、本当に多くの
日本人が大志を抱き、海を渡ったという歴史。
外務省の偽りの情報に騙されて、南米の僻地、つまりジャングルや
作物不毛、耕作不可能の荒地に送り込まれ、多くの、本当に多くの
日本人が怨念を抱き、死んでいったという事実。
私は何も知らなかった。

主人公の衛藤は、生き残りだ。
共に海を渡った仲間も家族も財産も、強いられたジャングルでの生活で
残らず全てを失った。
彼はジャングルを脱け出し、ただ、生きる。
絶望、怨念、悔恨に塗れて、ただ生きる。
そうして、生きた結果、転機が訪れる。
彼は財産を手にし、死んだ仲間の息子ケイを受け入れる。
ケイは、親の死後、ジャングルに独り残され、半野生化しつつ、
生き延びていた。

衛藤とケイは、同じ境遇で同じ絶望を味わった仲間を引き入れ、
外務省、日本政府、日本国を相手に復讐を決意する。
抱えきれないほどの報われない魂を抱えて。


幸せってなんだろう。人生が3割うまくいくってどういうことだ。
私にはわからない。
衛藤たちは、復讐というセレモニー、いやフェスティバルに向かって
走った。彼らは、そのとき確かに自分が「生きている」ことを感じて
いただろう。
祭りは、準備しているときが一番楽しい。
それでいいじゃないか。
私は、幸せなんて考えず、ただ生きて、祭りに向かって走りたい。

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紙の本13歳のハローワーク

2003/12/10 16:05

妹よ

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

私の妹は「理系の大学に行きたい」と言って親を困らせている。
妹は、現在高校の英語科に通うバリバリの文系だからだ。
直接話はしていないが、漏れ伝わるところによると
どうやら妹は「バイオ」に興味があるらしい。
どうしても「生物系」の学部のある大学に進みたいそうだ。

『13歳のハローワーク』は、「現代日本の職業紹介辞典」である。
著者自身が「最後の仕事」と評す小説家から一般的に「安定の象徴」と
認識されている公務員まで、世の中にはこんなに仕事があったのか、と
思わずにはいられないほどの職業が網羅されている。
この本は職業を「あいうえお」順に掲載していない。この本の中から
自分が知りたい職業を検索するには、唯一「自分の興味」が指標となる。

「辞典」と書いたが、ひとつひとつの職業について概略だけが
記されているわけではない。「どうやったらその仕事に就けるのか」
という具体的な記述や「この仕事だけで食べていける人は少ない」
といった、ぶっちゃけ的なコメントが漠然とした職業イメージに
リアリティを与える。

「13歳の」とタイトルにある。確かに、文章は平易でわかりやすく、
自分の将来に目を向け始めた中学生にとって、貴重な情報となるだろう。
私が教師だったら、この本を学級文庫にする。是非読んでもらいたい。
しかし、大人、例えば24歳の私、が読んでも十二分に楽しめる。
子どもの頃なりたかった職業(サッカー選手)、今の職業(秘密)、
家族の職業(公務員もいる)、友人・知人の職業(大工もいる)、
これらを探して読むと、思春期にひとりこそこそ国語辞典でHな言葉を
引いてほくそえんでいた頃と同じ気分が味わえる。

私は妹の机の上に、『13歳のハローワーク』を置いておいた。
帰宅した妹は怪訝そうな顔をしていたので、「面白いから読んでおけ」
とえらそうに言っておいた。多分ムカつかれた。
やりたいことがあるならやればいい。
けど、世の中はどうやら想像以上に広いみたいだぞ。
これが、放蕩兄貴の妹へのメッセージである。臭っ。

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紙の本ウォーレスの人魚

2003/11/12 15:39

帰海

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

生まれたばかりの人間の赤ん坊は、泳ぐことができる。

地上で暮らす他の動物は、生まれて数時間で立ち上がり、走り出す。
それは、外敵から身を守るために必要だからだ。
人間の赤ん坊は立ち上がるまで1年もかかる。
それは、自分で外敵から身を守る必要がないからなのだろう。

生まれたばかりの人間の赤ん坊が立てないけど、泳げるのはなぜだ。
遺伝子だけが記憶する太古の時代、人間は生まれた瞬間に
「水の中」で外敵から身を守る必要があったのかもしれない。

私は『ウォーレスの人魚』を読んで、こんなことを考えた。


この物語は、遠い昔、ある1匹、いや1人の人魚が香港で捕獲され、
ウォーレスという名の学者がそれを記録に残した、という歴史から始まる。

「人魚は実在する」「人魚が人間と結婚した」「人魚が子どもを生んだ」

突拍子もないこの記録は、世の中のほとんどの人間に呑気なおとぎ話として
一笑に付されたが、その数十年後、南洋で人魚が捕らえられる。
人魚が持つ「特別な何か」に魅せられ、群れ集まる人間達。
そして、一つの可能性が浮かび上がる。
あの記録が事実だったら……。

あなたは、生まれたままの姿で泳いでみたことがあるだろうか。
私は、ある。
波打ち際から小さな魚が泳ぎ、水は胸までつかっても足の先が
見えるほど透明、そんな「生きた海」で友人達と水着を脱いで裸で泳いだ。
なんでそんなことをしたのだろう。
なんとなく気持ち良さそうだった、としか言いようがない。
そして本当に、最高に、気持ち良かった。
どれくらい気持ち良いか? もう水着を着て泳ぐのが嫌になるくらい、だ。

あなたも機会があったら、是非試して欲しい。
人目のあるところでそんなことをしたら「捕獲」されてしまうが、
誰も見ていなければ、何も気にする必要はない。

裸で海に潜って仰向けになり、水の中からきらきら輝く太陽の光を
眺める、そんな不思議で心地好い気分を「ウォーレスの人魚」は
教えてくれる。

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紙の本闇の子供たち

2004/05/25 17:50

闇の大人たち

21人中、19人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

「あの人たちは異常だわ」

最近メディアを賑わせている、戦地における捕虜への拷問。
屈辱的な格好をさせられた捕虜と楽しげな兵士の映像を見、
性的虐待など、漏れ伝わるさらなる下劣な仕打ちを聞いて、
私の母はそう吐き捨てた。

果たして彼ら兵士は異常者なのだろうか?
同じ環境に置かれて拒否の姿勢を貫ける人間は
いったいどれほどいるというのだろうか?

『闇の子供たち』には、タイにおける幼児売春、幼児売買、
幼児臓器売買の実情が、圧倒的なリアリティを持って描かれている。

10歳そこそこの娘を売った金で家電製品を揃え、
金が尽きるともう一人の娘も売り捌く農村家庭。

宿に卸されたその日から始まる、性の手ほどきという名の
レイプと絶対的な服従を促すための壮絶な虐待。

自分の子どもを助けるために、金にものをいわせて
タイの売られた子どもの臓器を買う日本人。

こう書くと、よくあるルポ形式の社会問題告発本のように
思われるかもしれないが、この物語にそんな生温さはない。
物語の中では、児童虐待、ペドフィリア、無残な死が
吐き気を催すほど克明に、精緻に、詳細に描かれているのである。

『闇の子供たち』を読んで、凄惨な描写に目を背け、
「怖い怖い、タイ人は異常だわ、あー気持ち悪い」
と嘆いてみせる人もいるはずだ。そして、そういう人間は
この物語を異常性が売りの「キワモノ」として扱うだろう。

しかし、悲惨さに顔を覆った指の隙間から覗く好奇心に揺れる目は
その瞳の色こそ違えど、虐待を犯した兵士と何ら変わりはない。
ある行為を犯した者に「異常者」だと烙印を押して拒絶するのは、
自らの内に秘める同様の異常性を認めるのが耐え難いからだ。

私は、エイズに侵され、袋に詰められゴミとして捨てられながら
数百キロを彷徨って家に帰り着いた少女の姿が忘れられない。
彼女は衰弱から体を動かすこともできず、ウジにたかられた挙句、
生きたままガソリンをかけられ燃やされる。

彼女の体を食む暗い炎は、私たち大人の抱える闇を照らし出す。

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紙の本桶川ストーカー殺人事件 遺言

2005/03/14 00:38

遺言執行

17人中、15人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

キャバクラ嬢まがいの派手な生活をしていた女子大生が、
ストーカーに付きまとわれた挙句、殺された—。
桶川ストーカー殺人事件について、
これ以上の認識を持っていない人。

はっきり言おう。
その人は、メディアを通した警察によるプロパガンダ
-大衆操作-に「まんまと」はめられている。
正直に言おう。
私も「まんまと」はめられているその1人だった。


『桶川ストーカー殺人事件—遺言』には、
新聞、テレビでは知りえなかった事件の真実、
底知れぬ深い闇、そして被害者を死に追いやった二組、
逮捕された犯人グループと、逮捕をする側であるはずの
警察組織-桶川署-の姿が綿密に描かれている。

1999年10月26日。
埼玉県のJR桶川駅で21歳の女子大生が刺殺された。
翌日の報道で早くも明らかになる容疑者。
被害者の女性は、元交際相手であるこの容疑者による
常軌を逸したストーカー被害に遭い、警察に被害届を出していた。

さらにこの女性は身の危険を感じ、家族と友人に宛てて
犯人を明確に名指しし、その男との出会いからストーカー
被害の詳細までを記した遺言を遺していたのだ。

捜査を担当するのは桶川署。
女性が被害届を出したのも桶川署。

単純に考えれば1本で結ばれそうな点と線が、しかし
警察という強大な権力組織によって強引に捻じ曲げられてゆく。

そしてたまたま事件の担当になった某写真週刊誌記者で、本書の
筆者である清水氏は、取材の過程で出会った人々、知らされた事実、
ある意図を持って一方的に塗り替えられていく真実に直面し、
背負った「何か」に衝き動かされるように事件の真相に迫ってゆく。

警察より早く実行犯を特定し、その潜伏場所を暴く筆者。
その過程で、筆者はある疑問を抱く。
「警察は一体何をしてるんだ?」
そうして筆者が辿り着いたのは、凍結した湖面に
穿たれた穴の底に横たわる暗く冷たい現実だった。


このノンフィクションは、単なる「事件の真相本」ではない。
筆者が単なる取材者としてではなく、1人の人間としての怒り、
憤り、そして被害者自身とその周囲の人々から託された
「何か」に正面から向き合った結果として生まれた、
まさに被害者の「遺言」を執行するルポタージュである。

私はこのルポを読んで、自分の認識の浅はかさを
被害者である女性に謝りたくなった。
できることなら冥福を祈って遺影に手を合わせたくなった。
と同時に、真実を隠蔽する警察とそれに便乗したメディアが
垂れ流した情報が、事件から6年が経った今も自分の脳裏に
刷り込まれている、という現実に背筋が寒くなった。

騙すより騙される方がいい、なんて暢気に言う人は、
このルポを読んで警察権力による一市民、しかも
殺人事件の被害者の遺族へのえげつない攻撃を知るといい。
その警察に娼婦のように寄り添う一部メディアの、
ジャーナリズムとは程遠い姿勢、いざとなったら
手の平をあっさりと引っくり返す節操のなさを見るといい。

人を疑うのはよくないことかもしれない。
しかし、権力を疑うことを怠ってはいけない。
被害者の女性は、実行犯と警察に2度殺された。

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終わらない青春

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

『終わらない歌をうたおう クソッタレの世界のため
終わらない歌をうたおう 全てのクズ共のために
終わらない歌をうたおう 僕や君や彼等のため
終わらない歌をうたおう 明日には笑えるように』
(THE BLUE HEARTS『終わらない歌を歌おう』より)
『グミ・チョコレート・パイン グミ編』には、
無駄に熱く、そしてあっという間に過ぎ去った、
本当は爽やかさなんてどこにもない高校生活が、
匂いそうなほど濃密な筆致で描かれている。
勉強もスポーツもできず、当然モテることもない、
クラスでもマイナーな存在として、ひたすら
悶々とした高校生活を過ごす大橋賢三17歳。
しかし賢三は「自分は凡人とは違う」という思いを胸に、
志を同じくする親友カワボン、タクオと日々を過ごし、
映画やロックに誰よりも精通することでプライドを保つ。
そんな賢三が、あるとき街中でクラスメートの美甘子と
偶然出会い言葉を交わしたことで、傍から見れば
全く冴えない高校生活に少しずつ変化が訪れる。
初めて味わう甘美な時間。
自分を認められることの充足感。
持て余す妄想とエロリビドー。
そして、何か行動を起こさずにいられなくなった賢三と
その仲間がついに動き出す。バンドをやろう、と—。
「普通に埋没することを恐れ、才能に憧れ、
思い通りにいかない社会に苛立ちながらも、
頭の中は溢れんばかりのエロに支配されている」
この物語で描き出される賢三達の姿は、間違いなく
世のほとんど全ての高校男児そのままの姿である。
それだけに、大人になった元高校男児にとっては、
なんともほろ苦く、気恥ずかしい。
しかし、それ以上に、意味なく全力で自転車を漕いで
いたあの頃の、無我夢中で風を切って走る爽快さ、
人を好きになって胸を焦がす、やりきれない切なさ、
そして何より、17歳だから抱けた青く純な思いを、
もう一度、思い起こさせてくれる。
賢三は全てのクズ共に向けて、クソッタレの
世界のために、今も歌い続けている。
あなたは、私はどうだろう?

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紙の本ダイスをころがせ! 上

2005/08/18 02:57

チャンスは君の手に

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

62.49%。
前回、平成12年6月に行われた衆議院選挙の投票率だ。
言うまでもなく国民の10人に6人は投票していることになる。
しかし数字を細かく見ると、20代の投票率は38.13%、
60代以降の投票率は72.99%になる。
この約2倍の差が意味するものは何なのだろうか?
『ダイスをころがせ!』には「選挙」を巡る理想と現実、
「政(まつりごと)」に携わる苦悩と悦楽、一方で国政に
無関心な民衆の姿が、まるで実際に選挙戦を戦っているような
手に汗握るリアリティをもって、詳細に描かれている。
一流商社に勤める34歳の駒井健一郎は、あるとき
事業失敗の責任を被され、理不尽さに対する嫌気と
自分の能力に対する自負心から、会社を辞め転職を決意する。
しかし、駒井を待っていたは、会社の名前を失った
「駒井」という一人の人間への厳しく現実的な評価と、
妻からの冷えた言葉、失望と疑いに満ちた視線だった。
そんな折、高校時代の親友である天知達彦に出会う。
駒井は、新聞記者をやっていたはずの天地の
「衆院選に立候補する、秘書をやってくれないか」
という言葉に、嘲笑と嘲りの言葉を浴びせる。
しかし、真っ直ぐな天地の熱に触れ、大切な「何か」
から目を逸らして生きてきた自らを振り返り、駒井は
やがて大それた親友の夢に伴走することを決意する—。
この物語で明らかになるのは、既成政党に有利な
法律の存在や、選挙妨害、具体的な選挙運動の実態で、
選挙の裏側を知らない者にとっては十分に
エンターテイメントとして読み応えのある作品だ。
しかし、この物語は単なる娯楽小説に留まらない。
それは、この小説がある1つのメッセージを発しているからだ。
そのメッセージは、ダイスを転がせ、という表題の通り、
政治に興味がなく、選挙の投票にも行かない無関心層、
「どうせ誰に投票しても一緒」という人間に向けられている。
20代の投票率と60代以降の投票率の差、
それが意味することはとても単純。
老人にイイ顔をする、老人好みの、老人政治家が当選する。
未来を考えないその場凌ぎの国策施行されるのも当然だ。
でもTVの前で愚痴っていても何も始まらない。
何かを変えるチャンスを生かすも殺すも自分次第。
そして、チャンスは大人なら誰にも平等にやってくる。

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紙の本青空のルーレット

2005/08/15 01:45

フリーターの島

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フリーター417万人。
現在、学生、主婦を除く15歳から34歳までの若者
の5人に1人はフリーターと言われている。
(内閣府の平成15年国民生活白書/2003年5月末発表)
『青空のルーレット』には、フリーターと称される人間達が、「夢」という言葉と共に日々を生き、「諦め」という日常に
抗って時を過ごす清冽で、切実な姿が描かれている。
音楽、漫画、芝居、写真、小説…etc。
毎日の生活を紡ぎながら、表現という無限のピッチで
何がしかの夢を抱き、それを実現させるために
必要なモノ—時間と金—。
「半月働けば楽に暮らせる」という、
時間と金どちらもを得られる貴重なアルバイト
「高所窓硝子特殊清掃作業員」。
『青空の〜』は、日がなロープにぶら下がり、
ビルの窓に貼りついて汚れを拭う、窓拭達の物語だ。
バンド仲間とメジャーデビューを夢見る、
ベテラン窓拭きの主人公「タツオ」。
共に働く仲間達の夢に触れ、無目的に生きてきた
自分を見つめ直す18歳の「保雄」。
バイト内で唯一の中年でありながら、その人柄で
人望の厚い売れない小説家「萩原」。
将来への不安、未来への焦燥、過去への決別。
彼らはそれぞれ胸の内にしこりを抱えながら、
同じアルバイトの仲間として、年齢や育った環境、
そして立場を超えて、ビル影に沈む夕陽のように
穏やかに温かに。関係を深めていく。
しかし、ある事故が全ての歯車を狂わせる。
まるで足を踏み外し、ビルから転落していくかのように。
その転落者の目に映るのは、灰褐色のアスファルトか、
誰かの心のように澄み切った、翳りのない青空か。
この国では、フリーターを厄介者だとする風潮がある。
しかし、それは自由に夢を追うことのできない時代に
生れ落ちてしまった年寄り達のやっかみにも聞こえる。
フリーター417万人は、四国四県の
人口を足した数とほぼ同数だ。
だから、例えば四国の住民と日本中のフリーターを
入れ替えると、四国にフリーターの島ができ上がる。
タツオや保雄のような仲間が、そして萩原のような
「大人」がいるのなら、人口417万人の
フリーターの島だって、なんだか面白そうだ。
案外、経済成長率の鈍化や社会不安の広がりという、
自分たちの懸念や都合だけでフリーターや夢追人を
「定職」に追いやる本土より、うまくやったりして。

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紙の本雨にぬれても

2005/05/09 02:22

それが大事。

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

「負けないこと、投げ出さないこと、逃げ出さないこと、
信じぬくこと。ダメになりそうなとき、それが一番大事」
大事MANブラザーズバンドの『それが大事』が大ヒット
したのは1991年で、その頃の私はまだ小学生だった。
あれから14年。
私の記憶の片隅に仕舞い込まれていたはずの
冒頭のフレーズが、突然口をついて出てきた。
そのとき私は、電車の中で『雨にぬれても』を読んでいた。
『雨にぬれても』には、まるで自分の知人の知人のような、
近くもなければ遠くもなく、無関係でも特別でもない、
そんな存在の「誰か」の人生の1ページが描かれている。
夜間中学に通う、掛け算もおぼつかない60代の男性。
35万円を払って結婚相談所に入会した、34歳の女性。
うまくいかない就職活動に焦りを募らせる女子大生。
性感マッサージで働く、22歳のバツイチ子持ち女性。
規則に縛られて窮屈な生活を送る男子中学生…etc。
まるでどこにでもいそうな、全く市井の人間の、
全く一般的ではない、人生という名の物語。
登場人物の人生における数%にも満たないだろう
ある日、ある瞬間の個人史が、丁寧に、静謐に、
尊重をもって、30篇刻まれている。
どんな人間でも、それぞれがそれぞれの
色濃い人生を必死に生きている。
そんなキレイごとを口で言うのは簡単だ。
実生活においては、その人生の色濃さ故に
誰もが誰かに興味を持つ余裕もなく生きている。
しかし『雨にぬれても』の著者は、街中で躓いた人に
声をかけるように、皆が急ぎ足で通り過ぎる街角で、
歩調を緩め、大丈夫ですか、と声をかけるように筆を取る。
生まれてからこの方、完全に舗装された道を歩んで
きた人にとっては、道端に転がる石がどこから来たのか、
と同じように「どうでもいい話」なのかもしれない。
しかし、時にはぬかるみに足を取られ、時には荊に道を
妨げられ、あちこちに生傷を作って歩いてきた人間に
ならば、この30篇に何かを感じずにいられないだろう。
私がこの本を読みながら、
「負けないこと、投げ出さないこと、逃げ出さないこと、
信じぬくこと。ダメになりそうなとき、それが一番大事」
と呟いたのは、30篇の中に登場する誰のためでもない。
改めて明かすまでもなく、自分のためだった。

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