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  3. 妹之山商店街さんのレビュー一覧

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先月(2017年6月)

妹之山商店街さんのレビュー一覧

投稿者:妹之山商店街

69 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本ペンギンの憂鬱

2005/07/15 00:53

ウクライナ『オレンジ革命』の虚妄を暴く視座

11人中、10人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

ペンギンを飼っている売れない作家に、生前から要人の追悼文章を
用意しておくので、それを書かないかと声が掛かる。
しかし、何故か、追悼文を書いた人々が次々に死亡していく。
どうもマフィアが一枚噛んでいるようだ。
編集長も明らかに一枚噛んでいる。
要人のファイルには、愛人関係や裏稼業での罪状がこと細かく記載されている。
旧KGBでもなければ調べられないような内容だ。
主人公自身が身を隠さなければならなくなる。
危機は過ぎ去ったと思われたが、そうではなかった。
何と主人公自身の死亡記事が用意されていた。
相対立する国家安全グループ、政治家、大臣、裁判官、軍部、治安部隊、
警察、マフィアは、それぞれ二つの陣営に分かれて抗争を繰り返す。
ある議員が殺害される。
「やつが死んで、民営化賛成論者が数人パトロンを失う。やつは、そいつらから
もう前金を取ってたんだぜ。その上、自分の身の安全を確保して長生きできる
ようにって、何やら文書を抱えこんでてね。国会議員連中に関する文書らしい。
上のほうにいる連中も大変だよな。戦争してるようなもんだから」
次第に力で関係が決着していく。
マフィアに支配された街。
政治家、大臣、警察、裁判所、議会、マフィア一体となった支配体制の完成。
旧KGBと旧ノーメンクラツーラと新旧マフィアによる支配体制。
プーチンの言う「法の支配」「法の独裁」の実態だ。
動物園のペンギン学者の老人は、
「この世で一番いい時期はもう経験しちまった」と言う。
旧ソビエト時代に生き、新たな現実世界にもはや順応しようとはしない。
静かに死にゆく。
筆者は語る。ペンギンはいつも集団で行動する動物で、一羽だけコロニーから
出すと、そいつはどうしたらいいか分からなくなり、途方にくれてしまう。
ソ連時代を生きた人間にそっくりだと。
そのペンギンを仲間のいる南極に戻してやろうとするが、それは決して叶わぬ
夢だった。
つまり、現代のウクライナからは『出口なし』という絶望の表現だ。
「前と同じに見えるのは外側だけ。
見慣れたものの表面を剥がすと、目に見えないよそよそしいものが隠れている」
社会的諸関係が変わったのだ。
共産党独裁体制から、資本の独裁体制へと。
人類史上初めての「社会主義」から資本主義への退行。
私的所有という陣取りゲーム。
ただしそれは必ずしも一回限りとは限らないのがロシア的特殊性のようだ。
社会の上から下まで激動の時代だ。
極少数の者は成り上がっていく。
多くの弱者は貧困へと叩き落されていく。
ソ連時代に戻りたいとは決して思わない。
しかし、ソ連時代は、体制に反逆しない限り、弱者は最低限の生活は保障されて
いた。
まるで、動物園のペンギンのミーシャのように。
ミーシャは、動物園の檻からは自由になった。
しかしその「自由」な社会では生きていけなかった。
「シルバーのリンカーン」に象徴される勝ち組。
「もしアパートをくれるなら三ヵ月命を延ばしてやる」と言われる老人に代表される負け組。
ウクライナの「オレンジ革命」
かつて、ソ連圏が「革命の輸出を行っている」と非難してきた米国は、
今や、公然と「民主主義革命の輸出」を行っている。
活動を支えていたのはアメリカのNGOズナーユだ。
この二年間に約45億円の資金援助を行う。
アメリカ民主主義基金NEDによる『民主主義革命の輸出』
今回の選挙はウクライナの政権エリート内部での権力争いという側面と、
腐敗したクチマ政権に対する体制変革の下からの動きというウクライナ内部の
政治対立の構図であったものを、西か東かという外交的な選択の構図に変えて
しまった。
民主化支援は、レジューム・チェンジの為の内政攪乱工作と紙一重だ。
超大国の権益が、弱い国家の民主化プロセスを翻弄する。

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紙の本中国農民調査

2005/12/06 05:11

信じられないような中国農民の悲惨な現実

9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

本書は基本的に地方の悪徳幹部を農民が告発し
それを中央政府が公正に裁いてくれるという構図になっている
中央政府を真正面から批判したのでは出版が許可されない
という現実があるのだろう
その為に本書はそういう構図をとっているのか、あるいは筆者夫妻が
中央政府に幻想を抱いているのか、それは私には分からない
筆者夫妻が二年間にわたって安徽省で取材した迫真のレポート
本書では中国農民の信じられないような悲惨な現実が描かれている
本書は2004年1月発売後一ヵ月で十万部を売り上げ
百以上のメディアが訪れ、中央テレビ局にも出演した
2004年3月発禁処分
それでも百万部もの海賊版が出回る
ネット上でも全文を読むことができる
本書の発行とその発禁処分は現代中国の肯定面と否定面を
象徴していると言えるかもしれない
本書が中央テレビでも採り上げられたことは中共指導部中枢でもそれを
後押しする勢力が背後に存在するからだろうし
発禁処分となったことは反対する勢力が背後に存在する
そういう中共中枢での内部対立があると言えるかもしれない
第一章:事件
・村党支部書記の不正を告発した丁作明リンチ死事件
・副村長の不正を訴えた村を襲撃、四人を殺害
・税金取り立て抵抗事件:公安、武装警察が32台の車輌、200人で村を襲い
村民52人を逮捕
第二章:何が問題なのか
年収入の5%を超えてはならないという公式文書が守られない
国税と地方税に二分割する分税制
これでは地方行政は農民から収奪せざるを得なくなる
農民に課せられた税の種類は三百種類近く
「農村改革の成果を消費したのは誰か
それはまさに無限に膨張した組織と際限なく増え続けた官吏にほかならない」
「地方政府は地方利益によって運営されるという構造上」の問題
「工業化国家の為の蓄積は農村と農民を犠牲にするより選択の道はない
農民の余剰労働価値を都市の工業資本の原姿蓄積とする」
農村人口が都市へ流れないようにする為に「農村戸籍」と「都市戸籍」に分割
「農民をあらゆる社会保障制度から排除」
第三章:改革の長い道のり
地方幹部は恣意的な税収入手段を失うので猛烈に抵抗
「農民の負担軽減は県・郷の財政を圧迫した」
「農民の負担を減らしはしたものの、農村の義務教育は
空前の危機に見舞われてる」
中国の義務教育である小中学校は無償ではなく有償
その財源がなくなったので教員への給与支払いは滞った
「都市と農村の巨大な格差の為に、農民達が先祖代々自分の命と思って守って
きた土地が、彼らにとって『負担』に変わった。耐えかねた農民は故郷を捨て
阻もうとする都市の人為的なバリケードを突き破り
巨大な人口潮流となって各地の都市になだれ込んできた
都市に流れてきた農民の圧倒的多数は、都会の片隅に寄生している
彼らは都市住民が享受している所得保障や医療保険
住宅手当といった社会福祉には入れてもらえない」
「残業しても残業手当てはなく、健康を害し、命の危険のある仕事をしても
最低の労災保険もありはしない。人にだまされてただ働きさせられる人も多い
仕事の為にケガを負ったり病気になったり、身体障害者になったりしたら
追い出されて使い捨てされる。乞食になり、売春婦になり、麻薬に手を
出したり、麻薬密売の犯罪者になったり、悲惨な末路をたどる人もいる」
農村部からの収奪による国家資産を都市部の開発に優先的に振り向け
都市部と農村部との格差は年々広がるばかりだ
一億を越す農村部の余剰労働力は都市部へと民工潮として溢れ出し
戸籍差別により、低賃金で社会保障も一切ない
これこそが中国の脅威の国際競争力の真相だ
農民はもはや従順に従うだけの存在ではない
現代情報化社会の恩恵は彼らにも及んでいる
農民は次々と立ち上がっている
中国古来の易姓革命が再現する実在的可能性が存する

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旧KGBと旧ノーメンクラツーラと新旧マフィアの支配体制:汚職と賄賂の非現実的な現実世界

10人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

年間500人が暴行で死亡する軍隊
上官達は兵士達を安価な労働力として民間に提供し、労賃を受け取る。
不法な信じ難いサイドビジネスに励む。
相対立する政治家、裁判官、警察署長、マフィアは、それぞれ二つの陣営に
分かれて抗争を繰り返す。次第に力で関係が決着していく。
アンドレイ・クルコフの「ペンギンの憂鬱」の世界がそっくりそのまま現実世界
で行われているようだ。
共同事業者が不審な死を遂げても、強引な乗っ取りを行っても、地区裁判所、
州裁判所、州警察と癒着しているので安泰だ。
今では州議会議員となり、不逮捕特権まで手中にしている。
今では「統一ロシア」ウラル支部の活動に協力を惜しまない。
マフィアに支配された街。
州警察、州裁判所、州議会、マフィア一体となった支配体制の完成。
プーチンの言う「法の支配」「法の独裁」の実態だ。
カムチャッカの最新鋭原子力潜水艦の艦長達は、薄給で食事は街のパン工場の
掛けだ。天気の良い日には漁に出て食料を入手する。
朝は全員徒歩で出勤する。車なんてない。ガソリンもない。
「こんなことが信じられるだろうか。国際的な大国で核の盾を守っている人間が
施しで食べているのだ」
かつてソ連時代の反体制活動家に対して、「精神障害」と判定され、
「治療」という名の下に、向精神薬を強制投与されていた。
「政治目的の精神医学と診断命令が復活した」
「私たちはブレジネフの『停滞期』からスターリンのあからさまな独裁へと
退行している」
「ロシアには独立した司法制度や検察制度が存在しないのもまた明らかだ。
判決は政治家の専横と政治の都合に左右されるのだ」
プーチンのロシアを筆者はそう分析する。
しかも、問題は、
「プーチンの配下は社会の反応を注意深く見守っている。彼らが国民など気に
しないと思うのは見当違いだ。今起こっていることに対しての責任は私たち
国民にある。まず私たちにであって、プーチンにではない」
「社会のあきらめムード、これは底なしだ。これがプーチン再選の免罪符なのだ」
「ロシアの政治情勢を変えられるのは私たち自身しかいない」
ロシア国民である自らこそがその責任者なのだと主体的に反省している。
ソ連崩壊で価値基軸を喪失した旧支配階層が、新興権力へと乗り移っていく
その精神構造の分析も面白かった。
高支持率で再選されたプーチン。
最大の原因は、高い経済成長率だろう。
石油・天然ガスの輸出が好調。
原油高という幸運も重なった。
しかし、国内産業が育成されている訳でもない。
軍需産業くらいしかない。
第二次チェチェン戦争開始と共に始まったプーチン政権。
軍部の復活、強いロシアの復活、
FSBという名の旧KGBを実体的基礎にして、
旧共産党のノーメンクラツーラと
新興実業家という名の新旧マフィアと
これらの複合体がプーチン体制のようだ。
チェチェン人、イングーシ人、更にはコーカサスの人々を
民族排外主義的に国民総動員で排除する。
ロシア民族主義の高揚。
チェチェン戦争の進展と共に精神的にも腐敗が進行したようにも思える。
地方自治体の任命権を大統領へと中央集権制の強化。
相次ぐジャーナリストの不審な死。
民主主義への道から逆行しているとしか思えない。
国際的には、グルジア、ウクライナ、キルギスと、
『民主主義革命の輸出』にしてやられているように思える。
<プーチン流>は、ロシア国内的には貫徹できても、
国際的には敗退を重ね続けているように思える。
人類史上初めての「社会主義」から資本主義への退行。
資本の原始的蓄積の醜悪な再現。
私的所有という陣取りゲーム。
ただしそれは必ずしも一回限りとは限らないのがロシア的特殊性とは言えようか。
既存の理論だけでは、そもそも解明できない事態なのではないか。

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国際世界の光の当たらない、もう一つの「民族浄化」

9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

「国連安保理決議を迂回して行われた軍事攻撃はイラクではなく
このユーゴで最初に行われたのだ」
1999年、国連安保理決議なしで、宣戦布告もなく
ユーゴ空爆が行われた。
ミロシェビッチ政権による民族浄化からコソボのアルバニア系住民を
守るという口実で、「人道的介入」という名の下に空爆が行われた。
確かに空爆前から相互の衝突による死傷者が出ていた。
セルビア側からの蛮行があったのも事実である。
しかし被害が質的にも量的にも飛躍的に増大したのは
実は空爆開始後なのだ。
空爆開始に激昂したセルビア民兵による、アルバニア系住民宅への
放火、殺人、追い出しにより90万人もの難民が生み出された。
78日間に及ぶ空爆後、コソボのセルビア人20万人が
難民となってセルビア本国へと追い出された。
コソボに残ったセルビア人3000人が誘拐・拉致され
1500人の遺体が確認されている。
UNMIK(国連コソボ暫定統治機構)とKFOR(コソボ治安維持部隊)の
統治下にあるにもかかわらず。
数々の証拠と共に、国際機関に何度も訴えているが
犯人は一人として検挙されない。
KLA(コソボ解放軍)は、NATO部隊と共に、旧ユーゴ連邦軍と戦った後
そのままコソボの警察などの公的機関の要職に就いているのだから
当然の結果だろう。
KLAはその後、隣国マケドニアに軍事侵攻し、支配領域を拡大している。
コソボは「世界で一番親米的なイスラム教徒のいる地域」だ。
アルカイダ、タリバンなど米が育て、支援した組織が
その後、米を標的にする。
KLAもまたそうならないという保証は全くない。
現職公務員がマフィアのボスを兼務するなど、セルビア政治の腐敗
暗部も厳然と持続している。
ミロシェビッチ政権を崩壊させ政変には、米の民主主義革命の
プロモートが刻印されていた。
後の、グルジア、ウクライナでの「民主主義革命の輸出」の雛形だ。
北部、ボイボディナ自治州、30もの民族、公用語は六ヵ国語。
州議長は一貫した反ミロシェビッチ派。
10回以上逮捕され、懲役代わりに激戦地ブコバルに送り込まれた。
ミロシェビッチによる反体制派への間接的な暗殺の仕方だった。
ボイボディナで最も人口が減ったのは意外にもセルビア人だった。
元々住んでいたセルビア人が出て行き、コソボ等からのセルビア人難民が
入って来た。
議長は語る。
「独立は全く考えていない。我々が願うのはあくまでも自治権の拡大だ。
中央政府とのより良き連絡関係と立法の権利。独自に法を政策することで
ユーゴの他の地域にも安定をもたらせたい」
古き良きユーゴの匂いが残る最後の場所のようだ。
セルビアは難民大国だ。クロアチア、ボスニアから80万人
コソボから20万人、計100万人の難民大国だ。
空爆でインフラも破壊され、戦後の支援もクロアチアやボスニアより
かなり後回しだ。
コソボ難民は、自分達は難民ではなく、母国政府からも見捨てられた
棄民だと思っている。
「自らの加害性を互に歴史として自覚し合ってこそ、真の民族融和の
再構築が始まるのだ」と著者は述べている。
私はチトーを全面賛美するつもりは全くない。
しかし民族融和に心血を注いだチトーの肯定的に評価すべきことは
きちんと評価するべきだと考えている。
同時にチトーの限界、否定面もそれとしてきちんと批判され、反省され
教訓化されなければならないと考えている。
例えば、チトーは過去の諸民族の対立の歴史に対して封印し、触れること
を法律で禁止した。
しかし、それでは何ら問題の本質的解決にはならない。
目を背けたくなるような陰惨な現実でも、真正面から受け止め
それと対峙し、乗り越えることによってしか、本質的解決への道は
ないのではないか。
チトーの遣り残したこともまた、旧ユーゴ紛争の本質的要因の一つ
であると思う。

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加害者が被害者であり、被害者が加害者である多重構造

8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

「ユダヤ人一般など存在せず、誰もがきわめて細かな区分法によって
分類されていた」
「職業、食事作法、音楽、微妙な言葉遣いなどによって互に隔てられていた」
アシュケナジーム、スファラディーム、ミズラヒーム
ルーマニア系、モロッコ系、エチオピア系、イエメン系
ロシア系、グルジア系等々。
世界遺産に認定された白い街テルアビブ。
アシュケナジーム系の豪華なマンション群。
その隣のミズラヒームの居住地は公園等で囲い込まれて完全に遮断されていた。
慎ましやかなイエメン系集落。
ある一角だけが妙に寂しい。
調べてみると、1948年までアラブ人の住居地区だった。
テルアビブは無人の砂漠に零から建設されたという神話も偽りだった。
中国人・フィリピン人情報誌の売られている外国人労働者街。
皮肉にもシオニスト・ヘルツルが『古くて新しい国』で夢想した世界中の言語が
語られるコスモポリタンな商業都市の姿に最も近しい。
「刑務所に入獄中のユダヤ人の八割はミズラヒーム」
その「最下層のモロッコ系がその六割」
内通が発覚して私刑に処されたパレスチナ人は2000年前後には年に150〜200人。
私刑による死者の数はイスラエル軍によって殺害された者の数を凌駕している。
「内通者の中における女性の割合と意味」
イスラム社会における家父長制、女性の「名誉の殺人」
共同体から性的・道徳的に逸脱しているとみなされた女性は
それだけで内通者と見なされ私刑の対象となる。
イスラエル側もまた女性を意図的に内通者のターゲットにする。
1993年までの七年間に107人の女性が私刑で殺害されている。
将来旧ユーゴ諸国全てがEUに加盟した時
境界がもう一度廃棄されることになる。
「人々は気づくことになるのだ。あの時あれほどまでに大きな犠牲を払って
勝ち取ったそれぞれの共和国の境界線など、何の意味もなくなってしまった
ということに」
コソヴォには廃墟となった工場地帯が続いている。
以前はセルビア人が技術者として働いていたのだが、アルバニア人の労働者だけ
になってしまった時、機械のメンテナンスが困難となって多くの工場が閉鎖も
同然になっている。病院も同じ状況だという。
「これまで旧ユーゴ時代に工場や病院といった職場で、アルバニア人がセルビア
人と比べていかに低い地位しか与えられず、技術者として専門的な訓練研修を
受ける機会から遠ざけられてきたかという事実をも物語っていた」
セルビアは難民大国だ。百万人を超えるセルビア人難民が
ボスニアとコソヴォから、セルビア本国に避難してきた。
セルビア本国人と難民との間には深い溝が存在する。
「同じセルビア人であるにもかかわらず、難民達は周囲から孤立して暮らして
いた。難民達は仕事を見つけることもままならず、ただ援助物資を
宛がわれては無為の日々を送っていた」
コソヴォ紛争におけるロマの悲惨
「セルビア人とアルバニア人の双方から残虐行為に手を染めるよう強要され
いずれの側からも軽蔑と憎悪を向けられてきた」
「民族と宗教の違いが戦争の原因となったのではない。戦争によって引き起こ
された異常な状況が、エスニックな自己同一性を人々に準備させたのである。
敵との対立関係を通して新しいアイデンティティを与える。それが民族であり
宗教であった」
「民族とは、近代19世紀に考案されたものであり、神話的起源や英雄叙事詩は
民族の発明の歴史性を隠蔽し、それを偽りの永遠の相のもとに顕彰する目的で
援用されている物語にすぎない」
「他者を暴力に満ちた野蛮と見立て、それを鏡像としてみずからの美化と神聖化
へと向かうものたちが、現実にはその場所に野蛮と暴力を導入している」
ある犠牲者がかつて別の場所では加害者であったのであり
ある加害者がかつて別の場所では犠牲者であったのだ。

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「黒衣の未亡人」の背後でうごめく人形遣いたち

8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

「黒衣の寡婦」「黒衣の未亡人」
チェチェンの自爆テロ犯の女性達は全世界で有名となってしまった。
戦争やロシア軍の凄惨な掃討作戦で夫や子供を失って、絶望し、
自爆テロに走る。
私はそのようなイメージを持っていた。
しかしこの本を読んで私のイメージは正確ではなかった
いやむしろ誤った認識であったと自覚させられた。
筆者は、自爆テロ犯となる女性を二つのグループに分類している。
自らの内発的意思で実行犯となる者と
スカウトされ、家から連行され、訓練により実行犯に仕立てられていく者とに。
後者は更に、拷問、レイプ、輪姦、薬物投与まで行われたと筆者は書いている。
場合によっては遠隔操作の爆破も行われた。
家族は当然知っているが、拒めない。
いずれの場合も、犯行をバックアップするかなり大掛かりな組織が
存在しない限り、実行できる筈がない。
不幸な女性を見つけ出し、近寄り、宗教活動へ誘い、宗教書を読ませ、
実家から連れ出し、結婚相手をあてがい、訓練する。
これらの活動に、半年から一年以上は掛かるだろう。
決行前にチームが集結し、ロシアへ行き、実行行為者の側で遠隔操作の
起爆装置のスイッチを握りながら、最終チェックを行う。
「彼女たちが人を殺しているのではありません。
彼女たちを使って人が殺されているのです」
「全ての宗教的な基盤、全てのジハードの理念、つまりイスラムの聖なる戦いの
理念は、チェチェンにおいて本末転倒してしまいました。そこにはもはや汚い
もの以外、何も残されていません。脅迫と、拉致と、性的な暴力と、女性達が
それを飲まされた上で死へと送られる向精神薬以外は」
チェチェンでFSBに連行され、尋問された時、筆者は地区FSB長官に尋ねた。
スカウトを行ったり、テロ行為の組織に携わっている人々を
把握しているのに、何故無傷のまま放っておくのかと。
「そうするように指令が下っていないからだ」
「この戦争が依然として誰かにとって必要なものだ」
「敵はバケモノ、魔法使い、狂信者の域に高めなければならない。
その敵としつこく、そしてたいした結果を得ずに戦うために」
チェチェンの『汚い戦争』を続けることに利益を見い出す者達。
産軍複合体。軍部。
第二次チェチェン戦争とともに発足したプーチン政権。
「強いロシアの復活」を掲げ、強権的政治を断行している。
国民も高い支持率でこれに応えている。
しかし、利益を得るのはロシア側だけではない。
独立派武装勢力の内、原理主義過激派はテロを繰り返している。
イスラム諸国からの経済的・政治的・軍事的支援を得ている。
戦い続けている限り支援を受けられる。
被害を被り続けているのはチェチェンとロシアの一般市民だ。
チェチェンの一般市民はロシア軍の凄惨な掃討作戦により
ロシアの一般市民は無差別テロにより。
無差別テロ事件の背後には、ロシア当局がいるという証拠はないが
関与している証拠はいくつか出てきている。
だからといって即黒幕と断定することもできない。
ロシア当局の思惑は分からないが、少なくとも「黙認」しているか
泳がせているか。
積極的に利用したり、ある場合は自らプロモートしているかも
しれない。
ロシアでテロが続く限り、国民はプーチンによる強権的な政治支配体制を
支持してきた。
「テロとの戦い」という口実で、FSBを実体的基礎とした強権的支配体制が
構築されてきたのだ。
筆者は述べる。
「もしも掃討作戦がなければ、とっくの昔に
新しい決死隊を集めることなどできなくなっていたでしょう。
バーブ教徒はこの掃討作戦があることを利用しているのです」
「対テロ戦争」の名の下に、凄惨な掃討作戦が続き、一般市民達が
悲惨な目に遭わされ続けていること。
このことこそが、『汚い戦争』を続けられる<絶対的基礎>なのだから。

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『対テロ戦争』の名の下に一般市民への凄惨な掃討作戦が続く

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

チェチェンの隣国イングーシ共和国の養豚場にビニールシートを張っただけの
チェチェン難民キャンプでは
「毎晩夜の10時すぎに照明弾を何発も打ち上げる。それが略奪の合図だ。
ロシア兵は、難民キャンプを「捜索」と称して援助団体から配給された
わずかなソーセージや蜂蜜を押収していく」
「ロシア軍はいつだって武装勢力をわざと見逃している。
犠牲になるのは村人で、武装勢力はまんまと逃げおおせるのだ。
村人の多くはロシア軍と武装勢力の両方を恐れてなすがままになっていた」
「ロシア軍は掃討作戦と称してわざと武装勢力の一部を見逃して、市民を拘束し
て金や財産を巻き上げようとする。ロシア政府の予算で支出される
「復興資金」の一角はチェチェンの有力者から武装勢力へも流れる」
ジャーナリストの常岡浩介氏は、他の紛争地は
「戦争というよりもスポーツか何かのゲームのように見えてしまう。それほど
桁外れにチェチェンの戦争は惨たらしく、想像を絶している」と述べている。
一要因としてジャーナリズムの眼の存在の有無がある。
外国人ジャーナリストは「見せてもよい部分」への取材しかできない。
ロシア人ジャーナリストは、ごく数人が文字通り命がけで報道してくれている。
ソ連崩壊後のロシアでは百人以上のロシア人ジャーナリストが殺害されている。
アルハノフ現大統領も数千人の市民が情報機関や警察に連行されたまま
所在がわからなくなっていることを認めている。
「戦争の参加者は、ロシアも、チェチェン武装勢力も、イスラム原理主義者も、
みんなが得をしている。すべてを失うのは市民だけだ」
第一次チェチェン戦争では、米露のカスピ海石油資源争奪戦、多民族国家崩壊
を食い止める、エリツィン政権の支持率回復策が主要因だった。
第二次チェチェン戦争では、イスラム原理主義過激派による周辺諸国への
「イスラム革命の輸出政策」に対して、これを阻止するという新要素と、
戦争と同時に発足したプーチン政権が軍と旧KGBを主柱とした自らの政治支配
体制を構築していく過程でもあった。
国民も「強いロシアの復活」を支持し、ロシア・ナショナリズムの高揚を見せた。
プーチンを支える「シロビキ一派にとっては、チェチェン戦争とテロの激化は、
FSBを復権させる好機になった」
現在のチェチェンにおける「紛争のチェチェン化」
バサーエフの武装勢力に対して実際に戦っているのは、
チェチェン人のみから構成されている政府軍だ。
チェチェン人内部における路線、宗派、部族を巡る対立。
支配者側は、内部対立に巧妙につけ込み、現地人同士による戦いへと
『衣替え』していくのは植民地支配の常套手段だ。
イスラム原理主義が若者の間で現体制に対する抗議思想として
この地域では浸透している。
北コーカサスにおいてはイスラム原理主義というだけで
弾圧の対象となり、それがますます過激な武装闘争に走らせ
バサーエフの支持者を増やすという悪循環になっている。
カスピ海石油資源争奪戦
米の『民主主義革命の輸出』により次々と切り崩されるCIS諸国
それへの反作用としてプーチン政権は、国内的には一層強権的支配体制を
硬化させつつ、対外的には中露の結束を固め、上海6、BRICs、嫌米の中南米
諸国や印パと接近し提携を深め、反攻に転じようとしている。
激動する現代世界に深くビルトインされているチェチェン問題は、
相互依存と相互反発を繰り返す米中露EU諸国の動向と無縁には一歩も進展しない。
ロシア政府と軍の腐敗は凄まじい。
だからといって独立派武装勢力の無差別テロも決して許されない。
チェチェン問題の出口は、その糸口さえ私には全く見えない。
私にとってただ一つだけ確かなことは、
『対テロ戦争』という名の下に一般市民への凄惨な掃討作戦が日々続いている
ということだけだ。

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民族・宗教対立を超える階級対立という視点

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

彼女は、ジャーナリズムに中立はないと言う。
反占領の立場から書いているのだと断言する。
だからこそ、イスラエル人であるにもかかわらず、
パレスチナに何年も住み続けることができ、
現地住民も心を開いて話してくれるのだろう。
彼女は、有名人、役人、公的機関を信用しない。
現地住民の生の声からこそ学ぶのだという。
彼女を衝き動かすのは、不正への怒りだという。
同時にパレスチナの民衆から人間の尊厳を学び、
自らの内面が豊かになったという。
徹底した現場取材を行い、現地住民の何百という生の声に基づいて
記事を書いている。そのリアルな描写には圧倒される。
まるで自分も現地に実在しているかのようにリアルに迫ってくる。
イスラエル政府と軍の過酷で非人間的な政策を具体的に暴き出していく。
イスラエルは、形式上法治国家だ。
従って、パレスチナ人の住宅を次々と破壊する法的根拠がなければならない。
西岸の約七割はC地区であり、住宅の建設を許可しない、あるいは、耐え難い
ほどのろのろと出すという戦術を通して、「違法家屋」を次々と破壊していく。
法制度という偽装のもとに。
その批判の矛先はイスラエル政府と軍だけでなく、同じ論理に基づいて
パレスチナ自治政府の統治形態をも容赦なく批判する。
アラファトは彼女を二度追放しようとしたという。
しかし二度とも周囲の反対に遭い、撤回したという。
例えば、私はパレスチナの教員組合について、その内実を初めて学んだ。
官製の教員組合に対抗して、下から自主的な教員の賃上げ運動や総選挙要求運動
が盛り上がるも、自治政府はこれに波状逮捕で答えた。
まるで、官製の労組とは別に、独立労組連帯を下から組織したポーランド労働
者達の闘いのように。
教組運動の活動家達は、活動を沈黙させる手段として民族闘争が利用される
ことにうんざりしている。いまや民族闘争と階級闘争は片方だけでは不完全だと
ポーランド連帯の闘いがソ連圏崩壊の本質的一要因となったように、パレスチナ
の労働者達の闘いは、イスラエルの労働者達の闘いとも連帯しながら、事態の
本質的な解決をもたらす潜在的な本質的力を持っていると思う。
パレスチナの民衆の怒りは、イスラエル政府と軍だけでなく、
自治政府の腐敗、圧政に対しても向けられる。
自治政府が四つの専売事業を独占していること。
これらの利益が年間予算が組まれる公の財務省財源には組み込まれず
裏資金として蓄えられていること。年間数億ドルにものぼること。
彼女の論理は、宗教対立、民族対立を超えて、階級対立にこそその根幹を
置いていると思う。
イスラエル人対パレスチナ人の対立の背後にある、支配階級と被支配階級の
論理に則り、だからこそ、パレスチナ自治政府のパレスチナ民衆に対する圧政を
も同様に告発できるのだと思う。
オスロ合意は、パレスチナ国家の成立を否定するものであるから、
誤りだと彼女は考えている。
彼女は私はパレスチナ問題の特派員と呼ばれているが、イスラエルの占領政策
の現実をイスラエル国民にこそ訴えたいという。
「占領を生きている」という立場から、
ユダヤ人として、母国が軍事占領を続けるような国家であって欲しくない
ということだと思う。
ユダヤ人収容所へ送られた両親へのドイツ人の『無関心の好奇心の目』
「傍観者」にはならない。
それもまた彼女を衝き動かす本質的な要因の一つだろう。
左翼の両親に育てられ、自らも左翼を自称する著者。
彼女は『どっちもどっち』という立場ではない。占領こそが本質だと言う。
占領地からの撤退なしに、この問題の解決はないという。そういう立場だ。
確かに、入植地によって幾つにも寸断されたパレスチナなど、国家という名に
値しないと私も思う。

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TerroristorResistance?:混迷のイラク情勢を抜け出す一つの出口

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

「私達を人間として扱ってくれたのはサダムだけだった」
イラクのロマはガジャルと呼ばれる。
結婚式などのお祝いに呼ばれ、歌や踊りを披露するのが生業。
一般のイラク人はガジャルに対して強い偏見、差別意識を抱いている。
大統領就任直後、フセインはガジャルに市民権を与え
土地と家を与えた。
首都陥落後、周辺住民によって暴力的に追い出された。
ガジャル達数百世帯は米軍駐屯地周辺に集まってきた。
「米軍は食料や毛布をくれたし、私達を守ってくれた」
「イラクは都市を一歩出ると、部族が勢力を張る社会だ。旧政権系であれ、
アルカイダ系であれ、よそ者が勝手に爆発物を爆破させたり、銃撃や
ロケット弾をつかって米軍への攻撃をしたりできるような場所ではない」
スンニ派反米武装勢力十組織の連合体「イスラム民族抵抗運動」統一司令部
政治参加の条件
「米軍が都市部から撤退すれば、米軍やイラク警察・軍への攻撃を停止し、
選挙に参加する」
「アルカイダに入っている若者達に
アルカイダを離脱して抵抗グループに加わるように働きかけている」
「第一段階として米軍が、市街地から外に撤退すれば、我々は米軍への攻撃を
やめる」
「警察を襲撃しているアルカイダ・グループを抑え込むことはできるのか」
「たやすいことだ。我々の命令に従わねば、力で従わせる」
各地で対米軍攻撃を続ける地元の武装組織と
都市部で市民を巻き添えにして自爆テロを繰り返すイスラム過激派を
区別しなければならない。
「イラクで多発する自爆テロが世界のメディアの目を奪い
地元の武装勢力による抵抗運動の激しさを覆い隠している」
「米軍の「無法」の対象となっているのは一般住民なのだ。
さらに「疑わしきは、撃て」式の過剰な先制攻撃が、各地で行われる。
無法者と戦って秩序を回復するはずの米軍が、地元のイラク人には
無法者そのものに見える」
スンニ派地元武装勢力がアルカイダ系とも共闘してきたと
何人もが何度も語っている。
これはレジスンスとして腐敗の入り口に立っている。
無差別テロを行う者こそが正真正銘のテロリストだ。
一般市民を無差別に殺戮するテロリストを
止めなければならない筈だ。
米軍との停戦が成っていなくとも
一般市民に万単位で死傷者を生み出している無差別テロを
止めさせねばならない筈だ。
部族社会である地方では、よそ者はすぐに識別される。
地方ではアルカイダ系は特定され、対処できるのであろうが
数百万人都市バグダッドではそうはいかないと思う。
バグダッドのテロリストに対処することは
レジスタンスにはできないのかもしれない。
レジスタンスには自らを律する倫理が必須だと思っている。
無差別テロを行う者や組織とは対決し
その実行行為者を逮捕・拘束し、調査し、監禁するべきだ。
レジスタンス組織内部でそれを行うべきだ。
米国はたとえ停戦しても、その後に現出するものが
イスラム原理主義社会ではないという保証がないと危惧しているかもしれない。
スンニ派地元武装勢力は民族派と宗教派が半々だと自称している。
旧フセイン政権下の軍や情報機関のメンバーなどは
明らかに世俗派だと思われる。
従って、タリバン政権下での原理主義社会化までは進行しないと思われる。
米国がテロリストだと規定するヒズボラやハマスは選挙で躍進している。
選挙での躍進による選挙闘争路線への比重の移動に対応して
テロ路線からの離脱が進行しているように思える。
アフガニスタンでは穏健派タリバンは武装解除に応じ
選挙に参加した。
イラクのスンニ派地元武装勢力も選挙闘争へと転身させればよい。
第一段階として、都市部からの米軍撤退により、停戦に応じると
している。
そうすれば「アルカイダ系の排除」を約束しているのであるから
彼らにアルカイダ系を排除してもらえばよい。

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紙の本ユダヤ国家のパレスチナ人

2005/07/27 09:40

もう一つのパレスチナ問題:イスラエル国籍を持つパレスチナ人

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

著者はイスラエルのユダヤ人作家。
イスラエル国籍を持つパレスチナ系イスラエル人、
つまりイスラエル国内のパレスチナ人へのインタビュー集。
本書は92年発刊。13年前の著作。
その間にさまざまなことが生起した。
しかし本書の本質的な意義は少しも色あせていないと思う。
細かい数値には、その後変動がある程度だと思う。
13年経っても本書の意義が少しも損なわれていないということ自体が
問題だと言えるかもしれない。
イスラエルの人口の約2割はアラブ人だ。
イスラエル国籍を持つアラブ人。
イスラエル・パレスチナ人は約120万人。
彼らの納める税金はイスラエル軍の費用にもなる。
イスラエル国内でイスラエル国籍を持つパレスチナ人。
西岸・ガザ地区のパレスチナ人。
この両者の間には同一性と区別性が存在する。
その区別性は決して小さくはないということを学んだ。
数十年間も全く異なる政治体制の中で生き、成長してきたのだから
それは当然のこととも言える。
全く異なる政治システム、価値体系、価値意識、日々の生活、教育制度、
市民社会、日々聴く音楽さえ違う。
もちろん同一性も大きい。
例えばインティファーダには連帯した。
ただし経済的、精神的連帯に限定されていたが。
イスラエルでアラブ人女性の人権団体を立ち上げた進歩的女性が
西岸ナブルスの叔母の家に泊まっていた時、占領軍に協力する者を取り調べる
現場に出くわした。「ねえ、調べるのはいいことだわ」と声を掛けた。
イスラエル軍が路地に入って来た時、短刀でその少年を刺し殺した。
「ただ兵隊が来たので殺したわけ。ちっとも調べもしないで、みんな逃げて
しまった」
イスラエルで民主主義的価値観で成長してきたこの女性には
こんな非民主主義的なことは許容できないのだろう。
どうも西岸・ガザの同胞の価値観、考え方、感じ方に違和感を覚えるのだろう。
イスラエルでは二級市民として扱われる彼らだが
西岸・ガザのような極貧の生活を送っている訳ではない。
インフラ、医療制度、教育制度、地方自治体選挙等々が異なる。
アラブ人首長の地方自治体も多い。
それなりに豊かな生活をわざわざ失いたいとは思わない。
西岸・ガザの同胞には経済的支援は行っている。
イスラエル軍による蹂躙を受けたいとは思わない。
西岸・ガザで日々、検問所で何時間も待たされる同胞には
心底同情するが、自分がそういう目に遭いたいとは思わない。
西岸・ガザの人々による侮蔑・軽蔑の念も強いようだ。
「48年組」と見下している者も多かった。
侮蔑とコンプレックスという基本的二要因。
自国イスラエル政府とも、またパレスチナの同胞とも
齟齬をきたしているのも事実のようだ。
そういう二重の矛盾の中で日々生活している。
その精神構造とはどういうものなのだろうか。
筆者は言う。
「一時間でも彼らの立場に、彼らの境遇に身を置いてみれば必ずわかったことだ」
そうなのだ。
我が身を移し入れようとしさえすれば色々と見えてくるものがある筈なのだ。
彼らはただ為すがままにされ、受動的に生きているだけではない。
その置かれている状況に踏まえ、反政府の武力闘争は行わず
合法的な活動のみに限定して、自制的に活動している。
イスラエルの地方自治体選挙を通して
アラブ人首長の地方自治体も多く生み出されている。
それで自己安住している訳でもない。
満たされたものと、満たされないもの。
同胞との埋め難い深い溝。
イスラエル独立宣言に書かれている
「イスラエル国家のアラブ人住民が平和な生活を維持し、あらゆる組織や機関で
完全にして平等な市民権としかるべき代表権があるものとする」という
文言実現に向けて努力しているとも言える。
現実的な選択を採っている。
本質的解決とは何かという深い実存的問い掛けを続けながら。

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イスラエルに住むパレスチナ人の苦悩:ユダヤ国家という神話

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

ガッサン・カナファーニーの作品は真正面から、正攻法で
1948年のナクバに立ち向かっていると思います。
ハビービーのこの作品では、同じナクバに立ち向かうにも
いわばからめ手から、しかも奇想天外な設定や
口調もくだけたものでアプローチしています。
だからといって軽さは少しも感じません。
取り扱っているテーマは重いし
カナファーニーの作品よりも
歴史的背景を多く知ることができました。
訳者の気合の入った註からも多くのことを学べました。
訳者自身が「異例な数の脚注」と言っているくらい分量が多く
註だけでも一冊の本になるのではないかと思えるくらいです。
例えば巻末にハイファ周辺の北イスラエルの地図に
消滅させられた街や村が数十記載されているのですが
本編でそれが一つずつ名が挙がる度に、その名前と地図を参照しました。
それはもう存在しない街や村へのレクイエムであるかのようでした。
主人公はハイファ生まれのパレスチナ人です。
1948年のイスラエル建国前にイスラエル軍による攻撃から逃れ
レバノンに避難していましたが、イスラエル建国直後
イスラエルとなった故郷に密入国します。
父親が以前からユダヤ人の協力者という設定で、主人公もその後釜として
イスラエルの諜報機関の協力者となるという設定です。
そういう設定であるが故に、かえってイスラエルの裏側の活動を
描けているとも言えると思います。
イスラエル軍事政権下での
密入国、協力者、不在者財産没収法、移動制限
とてもリアルな現実を詳細に描いています。
1948年のナクバ以降のリアルな現実を学ぶことができました。
訳註ではアラブの歴史、文学、科学、思想等も
実に丹念に書かれていて学ぶことができました。
第一次中東戦争は1948年のアラブ軍による侵攻により始まったという
神話に対してもハイファではそれ以前にユダヤ側による占領が終わっていた
ということがリアルに描かれています。
主人公の直接の上司はアラブから帰国したユダヤ人。
イスラエルはユダヤ国家などではなく
多民族、多宗教、多宗派国家であることが浮き彫りになります。
イスラエル国内での左翼、労働運動への謀略的な弾圧。
1948年に国外に逃れ、再度『密入国』した人達。
彼ら『存在しない者達』とそれを村ぐるみで庇う様子。
『未承認村』は現在も約50か所あるそうです。
例えば、あるパレスチナの村が破壊されずに残ったのは
隣接するユダヤ人の村が、葡萄産業の安価な労働力の提供地だったからということも描かれています。
民族・宗教対立として現象している事象の
そのもう一つ奥にある階級対立。
著者は創設からのイスラエル共産党の党員で
イスラエルの国会議員も務めました。
ソ連が国連のパレスチナ分割案を受け入れたので
イスラエル共産党も分割案を受け入れました。
当時の国際共産主義運動ではそれが当たり前だったのです。
しかし現地のパレスチナの民衆はそれを到底受け入れられませんでした。
そもそも果たしてこの国連分割案がどうであったのかという
根源的な問い掛けがあります。
何故ニ国家なのか。
何故多民族一国家であってはならなかったのか。
しかしそういう主人公の生き方の只中で
その息子はレジスタンスとして立ち上がります。
妻もまたその息子の側に立ちます。
ただ一人『こちら側』に取り残される主人公。
非人間的な自らを否定することによって初めて人間を取り戻せるのだと。
しかし主人公はそうではありません。
筆者はそれを声高に叫ぶ訳でもありません。
何故なのでしょう。
それほど絶望は深いということでしょうか。
果たして当時のソ連共産党の方針をそのまま受け入れた
自らの思想的確信は揺らいでいなかったのでしょうか。
そういう根源的な問い掛けは決して消えません。

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『汚い戦争』の内実

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

「この戦争は結局のところそれを遂行している者すべてにとって好都合なもの
 なのだ。それぞれが自分の持ち場を得ている。契約志願兵は検問所で賄賂を
 四六時中手に入れている。将軍たちは予算に組まれた「戦争」資金を個人運用
 する。中間の将校たちは「一時的人質」や、遺体の引き渡しで身代金を稼ぐ。
 下っ端の将校たちは「掃討作戦」で略奪する。そして全員合わせて(軍人+一
 部の武装勢力が)違法な石油や武器の取引にかかわっている。」

 女史はモスクワの新聞社の評論員。劇場占拠事件では、チェチェン武装勢力側
から、交渉人の指名を受けた。

 この本は、チェチェンの一般市民(ロシア人市民を含む)の証言集とでも言う
べき稀有の書だと思う。

 チェチェン武装勢力に対して一言も肯定的な言辞を呈していない。

 ひたすらチェチェンの一般市民の声を書き留めている。

 チェチェンの一般市民といっても、その置かれている立場、状況、どの局面・
時点での証言かで、千差万別だと思う。
 同じ人でも、時期が違うと考え方も変わっていくようだ。

 私が個人的に感じた特徴的なことは、

 チェチェンの一般市民達は、イスラム教ワッハーブ派のことを、「あごひげ」
と呼び、毛嫌いしている人達がほとんだだったということ。
 チェチェンのイスラム教は18世紀からのもので、それまでの土着宗教と融合
したスーフィー派だった。
 サウジの国教であるワッハーブ派自体が危険思想なのではないが、いわゆる
イスラム教原理主義過激派は、この厳格さを徹底し、イスラム原理主義を唱えて
いる。
 チェチェンでも、年配の世代はあくまでもスーフィズムを信仰し、若い世代に
イスラム教原理主義に傾倒する者が増えているようだ。
 親子間でも宗派を巡って断絶が起こり、勘当することもあるという。

 第一次チェチェン戦争では、ほぼ全民族が結束してロシアと闘い、勝利した時
と比べ、第二次チェチェン戦争が始まって最初の1,2年は、民族の誇りとプラ
イドを持っていた人々も、徐々にそれを失っていったと書かれている。

 もう何年にも亘る『汚い戦争』により、一般民衆は、日々の生活に疲れ果て、
民族的尊厳を誇るという次元はもはや過去のものとなってしまったかのようだ。

 また、多くのチェチェン市民は、独立派武装勢力に対しても冷笑を浴びせかけ
る人が多いように感じた。

 バサエフやマスハドフに対して、もはや何も期待していないかのように感じた。

 ちなみに、著者のアンナ・ポリトコフスカヤ女史は、北オセチアでの現場に向かう
途上で、毒物を盛られ、現在重態で入院中。

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劣化ウラン弾の恐怖・アフガニスタンの悲劇

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 フォトジャーナリストの森住卓氏の活動を描いたものです。

 ・劣化ウラン弾とは何か?
 ・どうやって広がるか? (燃焼後エアロゾル(煙霧状)化)
 ・イラクでの劣化ウラン弾の影響を具体的数字を挙げて書いています。
  (障害児の出生率は26.1%、白血病とガンは戦前の10倍に)
 ・湾岸戦争時における使用量(300〜800トン)
 ・湾岸戦争時における米軍兵士にも影響が出ていること「湾岸戦争症候群」
 ・イラク戦争前の経済制裁による医療の不足
 ・イラク戦争前の日米における写真展
 

 アフガニスタンでの医療活動で有名な中村哲氏について描く
「アフガニスタンで起こったこと」
 
 「タリバン」(田中宇:光文社新書)によると、
「タリバン兵がブルカを着用していない女性に暴力をふるう。
アメリカの女性団体が女性差別だと声を上げた。
 パキスタンの難民キャンプで生まれ、パキスタンの神学校で
育った「戦争しか知らない子供達」であるパシュトンの息子達である
タリバン兵は、実は祖国で生活したことすらなかった。
もしアフガニスタンの農村で、見知らぬ女性に危害を加えたら、
その女性の親族による復讐を覚悟しなければならないという。
 故国を知らないタリバン兵は、そんな故郷の「常識」すら
知らなかったのだ。
 ブルカは伝統的な上着であって、ブルカ自体を着たくないという
女性は一割しかいないという調査結果が出ているという。
 彼女達が嫌悪しているのは、たまたま何らかの理由でブルカを
着ていない女性に対して、タリバンが暴力をふるったり、投獄したり
することであるという。
 だから、アメリカの女性団体が、ブルカの存在自体が「女性差別」
であると主張しているが、これはアフガニスタンの女性達にとっては、
民族衣装を否定されたことになるため、アフガニスタンの多くの
女性達が怒っているという。」

 <タリバンの無知を笑う資格が私にはあるのだろうか?>

 世界最貧国であるアフガニスタン。
 四半世紀に渡って戦乱が途切れずに続いている。
 そういうアフガニスタンに先進諸国は空爆を続けた。
しかもこの行為を支持しているのは、「仏像を守れ」と叫んだ
先進諸国の世論なのだ。

アフガニスタンには一千万個の地雷が今なお埋まっているという。

 イランの映画監督モフセン・マフマルバフ。
 「アフガニスタンの仏像は破壊されたのではない
  恥辱のあまり崩れ落ちたのだ」(現代企画室)
 私はヘラートの町の外れで二万人もの男女や子供が飢えで
死んでいくのを目の当たりにした。彼らはもはや歩く気力も
なく、皆が地面に倒れて、ただ死を待つだけだった。この大量
死の原因は、アフガニスタンの最近の旱魃である。同じ日に、
国連の難民高等弁務官である日本人女性もこの二万人のもとを
訪れ、世界は彼らの為に手を尽くすと約束した。三ヵ月後、
この女性がアフガニスタンで餓死に直面している人々の数は
百万人だと言うのを私は聞いた。
 ついに私は、仏像は、誰が破壊したのでもないという結論に
達した。仏像は、恥辱の為に崩れ落ちたのだ。アフガニスタン
の虐げられた人々に対し世界がここまで無関心であることを
恥じ、自らの偉大さなど何の足しにもならないと知って砕けた
のだ。
 バーミヤンの仏像の破壊は、世界中の同情を集めた。しかし
何故、国連難民高等弁務官の緒方氏を除いて、このひどい飢饉
によって死んだ百万人のアフガン人に対しては、誰も悲しみを
表明しないのか。
 現代の世界では人間よりも仏像の方が大事にされるという
のか。
 仏陀の清貧と安寧の哲学は、パンを求める国民の前に恥じ
入り、力尽き、砕け散った。仏陀は世界に、この全ての貧困、
無知、抑圧、大量死を伝える為に崩れ落ちた。しかし、怠惰な
人類は、仏像が崩れたということしか耳に入らない。

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先進国世論の傲慢と偽善と無知

4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 イランの映画監督モフセン・マフマルバフ。
映画「カンダハール」をDVDで観ました。
 彼には、「アフガニスタンの仏像は破壊されたのではない
 恥辱のあまり崩れ落ちたのだ」(現代企画室)という著作もある。

「タリバン」(田中宇:光文社新書)によると、
「タリバン兵がブルカを着用していない女性に暴力をふるう。
アメリカの女性団体が女性差別だと声を上げた。
 しかし、パキスタンの難民キャンプで生まれ、パキスタンの神学校で
育った「戦争しか知らない子供達」であるパシュトンの息子達である
タリバン兵は、実は祖国で生活したことすらなかった。
もしアフガニスタンの農村で、見知らぬ女性に危害を加えたら、
その女性の親族による復讐を覚悟しなければならないという。
 故国を知らないタリバン兵は、そんな故郷の「常識」すら
知らなかったのだ。
(まあ、もう既に故郷は、内戦で破壊し尽されていて、最早存在さえ
 していないのだが…)
 ブルカは伝統的な上着であって、ブルカ自体を着たくないという
女性は一割しかいないという調査結果が出ているという。
 彼女達が嫌悪しているのは、たまたま何らかの理由でブルカを
着ていない女性に対して、タリバンが暴力をふるったり、投獄したり
することであるという。
 だから、アメリカの女性団体が、ブルカの存在自体が「女性差別」
であると主張しているが、これはアフガニスタンの女性達にとっては、
民族衣装を否定されたことになるため、アフガニスタンの多くの
女性達が怒っているという。」

 <タリバンの無知を笑う資格が私にはあるのだろうか?>

 世界最貧国であるアフガニスタン。
 その脆弱な経済機構。その低生産性。そういう<経済的下部構造>
その上にそびえたつ<上部構造>である意識、政治機構が封建的
なのは当たり前である。先進国の価値観で断罪するのではなく、
まずは、そういう社会科学的考察が必要だと思う。
 しかも、その上で、四半世紀に渡って戦乱が途切れずに続いている。
 そういうアフガニスタンに先進諸国は空爆を続けた。
しかもこの行為を支持しているのは、「仏像を守れ」と叫んだ
先進諸国の世論なのだ。

アフガニスタンには一千万個の地雷が今なお埋まっているという。

 「アフガニスタンの仏像は破壊されたのではない
  恥辱のあまり崩れ落ちたのだ」(現代企画室)
「私はヘラートの町の外れで二万人もの男女や子供が飢えで
死んでいくのを目の当たりにした。彼らはもはや歩く気力も
なく、皆が地面に倒れて、ただ死を待つだけだった。この大量
死の原因は、アフガニスタンの最近の旱魃である。同じ日に、
国連の難民高等弁務官である日本人女性もこの二万人のもとを
訪れ、世界は彼らの為に手を尽くすと約束した。三ヵ月後、
この女性がアフガニスタンで餓死に直面している人々の数は
百万人だと言うのを私は聞いた。
 ついに私は、仏像は、誰が破壊したのでもないという結論に
達した。仏像は、恥辱の為に崩れ落ちたのだ。アフガニスタン
の虐げられた人々に対し世界がここまで無関心であることを
恥じ、自らの偉大さなど何の足しにもならないと知って砕けた
のだ。」
「バーミヤンの仏像の破壊は、世界中の同情を集めた。しかし
何故、国連難民高等弁務官の緒方氏を除いて、このひどい飢饉
によって死んだ百万人のアフガン人に対しては、誰も悲しみを
表明しないのか。」
「現代の世界では人間よりも仏像の方が大事にされるという
のか。」
「仏陀の清貧と安寧の哲学は、パンを求める国民の前に恥じ
入り、力尽き、砕け散った。仏陀は世界に、この全ての貧困、
無知、抑圧、大量死を伝える為に崩れ落ちた。しかし、怠惰な
人類は、仏像が崩れたということしか耳に入らない。」

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旧ユーゴの最も生きた現実を書いた稀有の書

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 この本はサッカー選手のルポルタージュなんですが、第一級の旧ユーゴ紛争の現地ルポルタージュとなって
います。
 ボスニア紛争、コソボ紛争、旧ユーゴでの相次ぐ紛争。
この本は、現地の生きた現実をより多く含んでいます。

 筆者は、セルビアだけが一方的に悪者扱いされることに憤激しています。
しかし、セルビア側に同情的だけではありません。
コソボでのセルビア民兵によるとされる虐殺現場にもいち早く駆けつけ、
虐殺死体を自分の目で実際に検分しています。
 少なくとも、服を着替えさせた形跡はない、子供の死体もあった、と。

 筆者は、「絶対的な悪者は生まれない。絶対的な悪者は作られるのだ」と
主張する。
 世界中から一方的な悪者にされたセルビアのことだ。

 筆者は、対立勢力の双方の意見に十分に耳を傾けている。
 筆者と語る、セルビア人、クロアチア人、コソボのアルバニア系住民、モンテ
ネグロ人、皆が皆、皆本当にいい奴ばかりなのだ。
なのに何故…、こんなことになってしまったのか…
 確かに、セルビアは民族浄化、レイプ、悪逆非道なことをした、それは筆者も
認めている。
 しかし、対立勢力(クロアチア、ムスリム、コソボのアルバニア系)も同様の
ことをしたのだ。
 
 1999年3月27日、神戸ユニバーシアード記念競技場。
 ストイコビッチのアシストで名古屋グランパスが得点。
ストイコビッチはユニフォームをたくし上げて咆哮した。
Tシャツには、「NATO STOP STRIKES」が浮かんでいた。
日頃、「スポーツと政治は別だから」と語っていた彼が…

 ストイコビッチたち、セルビアのJリーガー達は、国際情勢を非常にしっかり
認識している。セルビアの大本営発表だけを信じているわけでは決してない。
西側先進国の情報もちゃんと入手している。インターネットの情報、現地への
電話連絡等々、しかも、彼等はミロシェビッチを支持していない。
彼らの情熱には感心した。
 しかも、私は知らなかったのだが、ユーゴ空爆直前、セルビア側は譲歩しよう
としていた。空爆回避のために合意文書に調印する予定だった。そこで、アメリ
カは、アネックスBという付属文書を提出し、交渉を決裂させた。
 その内容は、「コソボのみならず、ユーゴ全域でNATO軍が展開・訓練がで
き、なおかつ治外法権を認めよ」というものだった。
 NATO軍への課税や犯罪訴追をも免除しろというこの条項は、ユーゴの占領
地化を意味するもので、こんな条件を飲めるはずがない。
 そういうことまで、彼等はちゃんと把握していたとは驚きでした。
 私はそんな情報は知りませんでしたし、私の読んだ5、6冊の本にも書かれて
いませんでした。
 NATOの空爆は、コソボのアルバニア系住民を保護するためだという。
しかし、難民を受け入れているモンテネグロまで空爆した。
コソボのアルバニア系住民に被害が出たのは空爆開始後のことだ。
コソボのアルバニア系住民地区に、劣化ウラン弾を大量に打ち込んだ。
その後、劣化ウラン弾を除去することは一切やっていない。
コソボのアルバニア系住民の生命を守る為ではなかったのか?
 現在、コソボでは、ベトナム戦争時のダナン基地に匹敵する巨大な軍事基地が
建設されている。
 「アメリカが何が何でも空爆したかったのは、世界制覇の戦略構築のためだっ
たのではないか」と。

 筆者は地雷がたくさん埋まるコソボで、実際に劣化ウラン弾を見つけ出し、
自然界の100倍の放射能を測定した。
 パンチェボのバルカン最大規模の化学コンビナートが空爆された。同行した
慶応大学の藤田教授は、「世界最大規模の環境破壊だ」と指摘した。
 筆者は、コソボのUCK(コソボ解放戦線)支配地区にも車で乗り込んだ。
現地司令官とインタビューまでしている。
 その行動力、バイタリティーには圧倒される。

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