川内イオさんのレビュー一覧
投稿者:川内イオ
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紙の本光の雨
2003/11/02 03:39
回遊魚
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回遊魚は、生まれてから死ぬまで、ただ泳ぎ続ける。
泳ぐのを止めることは、死を意味する。
回遊魚は、泳いで水を掻き分けることでしか酸素をとり込めないからだ。
回遊魚は、ひたすら泳ぐ。誰にも止められない。
『光の雨』は、連合赤軍が浅間山荘事件に至るまでの過程を極めて克明に描いたフィクションである。
1960年〜70年代初頭、理想とする社会を現実のものとするために、「国家権力」に対抗する道を選んだ若者達が存在した。
「革命」の実現に命をかけ、真の「革命戦士」になることを使命とする彼らは、人里離れた山奥に篭り、権力との「殲滅戦」に備え、厳しい訓練を行う。
しかし、そんな彼らを待ち受けていたのは、「自己批判」「総括」「援助」の名を借りた、暴力の嵐、権力闘争、まさに、仲間同士による殲滅戦、だった。
この話を読んで、笑うことは簡単だろう。
そんなのどかな時代もあったのか、と。
武器も兵隊も戦略も持たずに「革命」なんてとんだ御笑い種だ、と。
私は、笑えなかった。
当時を知らないから、彼らは「革命」に対して真剣であっただろうから、そして現実に革命を成就させた国があるから。
彼らが進むべき道を間違えたのかどうか、なんてことは、私にはどうでもいい。
彼らは、夢を追い、夢に賭け、夢に敗れて、死んだ。ただそれだけだ。
私は、彼らの、崖を転がり落ちる石ころのように加速をつけて深い闇に引き込まれていくその様に、引かれた。
彼らは、きっと破滅に向かって泳ぐのを止めることができなかったのだ。
一心不乱に泳ぐ回遊魚は、必死に何かを追いかけているようにも見える。
それは夢かもしれない。
わき目もふらずに泳ぐ回遊魚は、何かに追われているようにも見える。
きっと、それも夢なのだろう。
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