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風の市さんのレビュー一覧

投稿者:風の市

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紙の本ロンリー・ハーツ・キラー

2004/03/31 03:38

「中心」との距離が言葉をつむぐ

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 「人工」の「本質」に対するまっとうすぎる憎悪。読後の、第一印象。

 「俺」が語る第一部「静かの海」、「俺」・「井上」の友人「いろは」の手記でつづられる第二部「心中時代」、「いろは」の友人「モクレン」の同じく手記でつづられる第三部「昇天峠」の三部構成。
 三個人の視点が、前者の言葉に連鎖し化学反応を起し、新たな言葉をつむぎ出し、そうして、いま・ここかと見まごう未来の、そして「あの世」の歴史の一断片がつづられる。

 以前、メディアで騒がれ今はもはや消費され忘却された心中事件。
 ネットで知り合った男女らが生きたくないのか、死にたいのか、不明のままに「この世」から消え去った一連の事件を素材にしながら星野は、徹底的にこの事件の背後の空虚さそれ自体を言葉にしていく。空虚が書かれているのではない。空虚の内実を言葉にしているのだ。その内実を描き出す言葉の底には、「他者」と結びつきたい、ではなく、「他者」とは結ばれることはない、そんなあたりまえのことを前提にしながらのイデオロギーなき連帯の意志が響いているようにみえる。イデオロギーという中心に、求心され結びつくのが連帯ではない、まさしく空虚さそのものにまっとうにたじろぐ周縁の人間の、たった一人の言葉の格闘が次の言葉の格闘を呼ぶ、そのような連鎖の現象が連帯と呼ばれるのではないだろうか。「人工」の「本質」、中心への憎悪は、こうして表現される。それは、『毒身温泉』から、いやもっと前から星野が追求してきたことであるかもしれない。もちろん彼は、「連帯」などという言葉をふりかざす野暮なことはしないのだが。

 このように書くと、暑苦しく単線的な社会派小説のようだが、その主旋律を揺すぶりかき乱すように星野は、読む者の皮膚を針で、ときには羽毛でぐちゃぐちゃにするような、それこそ触覚がつかみ取るような言葉を配置する。よく見る情景の「森」や「町」や「泉」や「カフェ」、そして「峠」は、こうして「この世」ではなく「あの世」の色合いを強くしてゆく。皮膚感覚を刺激するそれら言葉のリアリティを前にして、読む者が身をおく「この世」に横行する言葉のリアリティの欠如にはたと気づき、星野がつくり出す「あの世」へ没頭する誘惑の危険に満ちているのが、『ロンリー・ハーツ・キラー』である。

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