しげおさんのレビュー一覧
投稿者:しげお
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2005/06/04 21:54
良訳は口に快し
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「ほねだいすき」は「おさんぽにゆく」とちょうど正反対の展開を見せるお話である。「おさんぽにゆく」の大成功があったればこそ挑戦できたストーリーだ。
さあ、お話が始まる。舞台の上には例によって主人公「もしゃもしゃマクレリー」が一人(いや一匹)。この作品では後ろ姿だ。子どもたちはみんなその顔を知っているから、顔が見えなくても不満はない。今度は何が始まるだろう。次のページでもまだ顔は見えない。でも子どもたちにはマクレリーのうれしそうな顔が手に取るように分かる。そしてその次のページ…。
やっぱりそうだ。みんなが想像したとおりの顔だ(いや、それ以上かも知れない)。子どもたちはもうマクレリーになりきっている。
ところが、ここで子どもたちは「あっ」と叫び声をあげるだろう。「おさんぽにゆく」ですっかりおなじみになった顔ぶれがいきなり勢揃いすることを知るからだ。子どもたちにはそれぞれ好きな犬、気になる犬がいる。姿が見えるわけではないが、もうすぐそれが見えると分かるのだ。うれしいやら驚くやら、固唾を呑んで舞台を見詰めつづける……。
このネオクラシックとでも呼びたい傑作絵本を支えているのは子どもの心を知り尽くしたすばらしい挿絵であり、それを上回るストーリーだ。が、忘れず訳文も追加しておきたい。翻訳を感じさせない簡潔で、ときにリズミカルで、テンポのよい文章を無視することは公平ではない。
日本では子どもたちを前に絵を見せながらも絵本を読み上げる傾向がある。「読み聞かせ」という語がそれを象徴している。ストーリーテリングに向く作品が少ないせいもあろう。「もしゃもしゃマクレリー」は聴く側にも語る側にも大変やさしいストーリーテリング向きの作品である。是非一度お試しあれ。
2004/06/16 20:26
実にクラシック
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この絵本の魅力は「マクレリーとおさんぽだ」という言葉にある。この言葉は、マクレリーのお散歩仲間が登場するたびに繰り返され、全部で5回出てくる。しかも「おさんぽだ」は最初のページ(主人公マクレリーが登場するページ)の末尾を飾る言葉である。
この絵本にはリフレインの手法が巧みに採り入れられ、一度読んでもらった子どもたちは「おさんぽだ」あるいは「マクレリーとおさんぽだ」の絵本として記憶するだろう。だから2回目からは(あるいは早い子は1回目の途中から)読み手と一緒になって「マクレリーとおさんぽだ」と元気に叫ぶ。
このとき一緒に声を出す子どもの数が増えてくると、ちょうど音楽のライブや芝居の客席にも似た、聞き手同士あるいは聞き手と読み手との間の一体感がおまけとして加わる。これは、その場に居合わせた者にしか分からない不思議な、しかしたまらない快感である。作者はそのことをしっかり計算してテキストを作っている。
もう一つの魅力は、後半にコワーイどら猫を登場させストーリーを一気に大転回させるという手法だ。この場面の迫力といったら相当なもので、想像力を働かせなければならない分凄みも増している。そんな絵が2枚続く。この場面のお陰で、最終ページの安堵感は心底からの安堵感となり、子どもたちは恐いもの見たさの「また読んで」を安心して言えるようになる。
基本に大変忠実な、クラシックとも言える絵本の誕生だ。幼い子にはやはり、こうした品質の高い「往きて戻りし物語」絵本を奨めたい。
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