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レビューアーランキング
先月(2017年8月)

ナカムラマサルさんのレビュー一覧

投稿者:ナカムラマサル

170 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本夕凪の街 桜の国

2005/05/08 22:15

生きていてくれてありがとう

12人中、12人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

「読みながら涙が止まりませんでした」−こんな常套句はホントにホントに使いたくないのだが、この本に関してはそうとしか言い様がないので仕方ない。
私は被爆したわけではないし周りに被爆者もいないので迂闊なことは言えないが、ただこれだけは言える。
この本は、日本に住む全ての人が読むべき本だと思う。
「サバイバーズ・ギルト」という言葉を知ったのは、先月起きたJR福知山線脱線事故の続報を伝えるニュースでだった。
多数の死亡者を出した大惨事を生き残った人が抱く罪の意識、という意味だそうだ。
本書に収められた「夕凪の街」という短編を読んで、この言葉の意味が胸に迫ってきた。
「八月六日 何人見殺しにしたかわからない 塀の下の級友に今助けをよんでくると言ってそれきり戻れなかった」
「死体を平気でまたいで歩くようになっていた 時々踏んづけて灼けた皮膚がむけて滑った 地面が熱かった靴底が溶けてへばりついた わたしは腐ってないおばさんを冷静に選んで下駄を盗んで履く人間になっていた」
こう告白する主人公を誰が責められるだろう。
「桜の国」という短編の主人公は、被爆二世だが、その事実を恨まず、自らの選択なのだとする姿勢に強さと優しさと潔さを感じた。
若き日の父母のいる風景に主人公のセリフが被さる94・95ページは、本当に素晴らしい。
生きている希望を腹の底から感じさせてくれる。
これは、ここ数年読んだ本の中でも屈指の名場面だ。
この本を読んだ友人が、何か自分にできることはないかという気持ちになった、と言っていたが、まさにその通り。
ヒロシマで、ナガサキで、または地下鉄サリン事件で、9.11テロ事件で、脱線事故で、生き残った自分を苛んでいる人がいたとしたら、その人のところに駆け寄って、生きていてくれてありがとうと伝えたい。
生きていること自体を後ろ向きにさせてしまう社会は絶対に間違っているのだから。

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紙の本花まんま

2005/07/05 22:13

甘く苦い記憶

10人中、10人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

本書に収められた6つの短編に共通するのは、子供の頃の素朴な疑問や不思議な体験を、大人になった主人公たちが回想する形式を取っているところだ。子供の幽霊や、クラゲのような「妖精生物」や、人を楽に死なせる「送りん婆」など、一歩間違えればホラーにもファンタジーにもなり得る題材なのだが、舞台となっている大阪の猥雑さと昭和の空気が巧みに描かれていて、物語を地に足の着いたものとして落ち着かせている。
本書を読んで、幼かった「あの頃」に思いを馳せる読者は多いだろうが、本書が思い出させる「あの頃」とは、たとえば、特に意味もなく友達に意地悪をしてしまった後の鈍い胸の痛みだったり、人の「悪意」というものにうっすらと気づいてしまった時の悲しみであったり、けっしてキラキラしていただけの「あの頃」ではない。
本書の短編の中でどれか3つを選ぶとすれば、表題作の「花まんま」と「トカビの夜」と「凍蝶」を挙げたい。これらの短編を読んだ後、声をあげて泣きたくなるのは何故だろう。もっと無垢な目で世の中を見ていた頃の自分への憧憬か。何も考えていなかった頃の自分の行いへの悔恨か。子供の頃は分からなかった社会のカラクリが分かってしまったことの悲しさか。そのいずれでもあるのだろうが、何よりも、人が生きている限り避けて通れない「差別」が、弱者の視点を忘れることなく描かれていることが大きい。
「差別」に対する著者の強さと優しさが、本書を、単なるノスタルジー小説と一線を画す作品に仕上げている。

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紙の本死神の精度

2005/07/02 22:58

死を想え

10人中、10人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

「死神」を主人公に据えた連作短編集。
と言っても、この本の「死神」は自ら人間を殺すわけではない。
対象となる人間を調査して死に適するかどうか判断し、報告するのが彼の仕事だ。
彼が調査する人物は、どこかしら何時死んでもいいと思っている人間たちなのだが、もっと生かせてあげたいと思わせるようなきらめきが、彼らの中にはある。
だが、死神は情に流されない。クールに決断する。(唯一彼が心動かされるのは「ミュージック」だ)
特に、「恋愛で死神」という短編。
人生の不条理さをこれでもかという程感じさせられて、胸の中が苦い思いで一杯になった。
だが、本書を最後まで読むと、救われたような気持ちになるのだ。
決して奇跡が起きるわけではない。
むしろ、望むと望まざるに拘らず人は皆死ぬ、という厳然たる事実を突きつけられる。
その事実に、不思議にも勇気づけられるのだ。
「メメントモリ」という言葉がある。
ラテン語で「死を想え」という意味だ。
いつか自分は死ぬのだから、とネガティブに捉えるのではなく、だからこそ今という時を大切にし、その時その時を精一杯生きよう、と解釈される言葉だ。
本書をとおして著者が伝えたかったのはこれに尽きるのではないかと思った。

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紙の本県庁の星

2005/12/21 21:48

やる気になる本

9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 主人公は、県庁に勤める野村聡、31歳。一年間、民間研修という名目で彼がスーパーに出向させられる物語だ。派遣された当初は、あまりにもいい加減なスーパーの現状に憤りを覚えていた聡が次第に考え方を改め、周りをも自分をも変えていく展開は意外でも何でもないが、実によく読ませる。聡の教育係の二宮泰子というパート主婦がこの物語のもう一人の主人公なのだが、女手一つで息子を育て上げた彼女が、聡のひたむきさに心を動かされ少しずつ鎧を脱いでいく、その気持ちの移り変わりもとてもよく伝わってくる。
 圧倒的なリーダビリティは、お役所と民間の違いがしっかりと描きこまれているからであり、商売の醍醐味にも迫っているからだ。惣菜売り場に移された聡が真価を発揮していくきっかけとなったのも、「客が見えてない」という一言。サービス業の奥深さを味わわせてくれる。
 登場人物の造型がいいことも挙げたい。主人公の二人の造型が見事なのはもちろん、自分のことしか見えていなかった聡が「人ってそれぞれの事情を抱えている」と分かるにつれて彼の周りの脇役たちのキャラが立ってくるところなど実にうまい。
 最後には、結局大事なのは、やる気やひたむきさである、と実感させてくれて爽やかな読後感に浸れる。
 元気な気分になりたい方には、読んで損のない一冊だ。

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紙の本女王様と私

2005/09/04 15:18

ゲームの名は妄想

9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

「女王様と私」というタイトルを見て、
あら、デボラ・カーとユル・ブリンナーが共演したあの懐かしのミュージカル映画のパロディかしらん、と勘違いして本書を手に取る方はよもやいないとは思うが、勿論「王様と私」と本書の間に類似点は全くない。
一昨年の「このミステリーがすごい」ベスト1に輝いた『葉桜の季節に君を想うということ』みたいには騙されんぞー!と気合いを入れて読んでは見たものの、最初の30ページですでにドカーンときた。
その後は「やられた!」「またやられた!」のオンパレード。
騙されることの快感を味わうべき小説であるから、内容については触れないが、これはもう、「純文学」に対して「純エンターテイメント」と名づけたい。小説でしか享受できない娯楽だ。
人生に役立つような本でなければ読む意味はない、とお思いの読者は、ゆめゆめ本書を読んではいけない。RPGを楽しむような感覚で読むべき小説だ。
ただ本書を読むと、ロリオタの生態やマゾの心理やニートの論理に、なるほどねと思える箇所がある。その点でも評価されていい本ではあると思う。

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紙の本天使のナイフ

2005/08/10 23:51

このミステリーはすごい

9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

主人公の桧山はコーヒーショップのオーナー。
娘が生まれ、幸せの絶頂にいる時に、妻が殺された。
しかも犯人は、13歳の3人の少年達。
少年法に守られている彼らの審判結果をマスコミから聞かされ、テレビカメラに向かってこう口走ってしまう。
「国家が罰を与えないなら、自分の手で犯人を殺してやりたい」と。
現行の少年法に対する著者の姿勢が終始一貫しており、読んでいて法制度への憤りと被害者家族の胸の痛みを、痛烈に感じた。
初めは、義憤を感じさせるだけの物語なのかと思っていたが、犯人の少年のうちの1人が殺されるあたりから次から次へと謎が噴き出してきて、謎解きミステリーとしても実に読ませる。
特に、桧山が自分の足を使って事件の真相に迫るところなど、松本清張の筆致を彷彿させる。
ミステリーとしてもしっかり読ませる上に、真の更生とは何かというテーマに明確な答えを提示している点が賞賛に値する。
すごい新人作家の登場だ。

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成長物語

8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 15歳の著者が、4歳から現在まで読んできた本とその本にまつわる思い出を語る読書エッセイふう読み物。
 正直言うと、また若い娘の本か…とあまり期待していなかったのだが、読んでみると心に響く成長物語になっていて驚いた。それは、著者がアメリカ人と日本人のハーフであることが大きく作用しているのかもしれない。6歳まで住んでいたアメリカで見た世界と日本で暮らすようになってから感じる世界が生き生きと描かれている。個人的には、前半のアメリカでの暮らしの様子がカルチュラルスタディーズとして楽しめた。
 ハーフとしていろいろな苦労もあったことと思うが、ポジティブな姿勢を崩さない著者の姿勢に勇気づけられるが、ラスト近くの「人が本当に他の人を理解するなんて……できるのかな」というセリフには考えさせられるものがある。
 著者と同年代の若い世代にぜひ読んでほしいと思うが、この年代の子供を持つお父さんお母さんにも手に取っていただきたい。

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紙の本ミーナの行進

2006/04/26 23:56

セピア色の写真

8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 著者の『博士の愛した数式』と同じくらい、優しい気持ちにさせてくれる作品だ。
 主人公は母と二人暮しのトモコ。1966年、トモコが小学校に入学してすぐ、父は胃癌で亡くなっている。それ以来縫製工場の勤めと洋裁の内職で家計を支えてきた母は、トモコが中学へ入学するのを前に、意を決して東京の専門学校で勉強する決心をする。そういった事情でトモコは、芦屋に住む母の姉(トモコから見たら伯母)の家に一年間預けられることになる。伯母夫婦には子供が2人いる。伯母の夫は日本人の父親とドイツ人の母親を持つハーフ。飲料水会社の社長を務める彼の豪邸にはドイツ人のおばあさんも同居している。
貧 しい暮らしの少女が1人、お金持ちの親戚の家に預けられる話と聞いたら、意地悪な従兄妹にいじめられたり、少女がだんだん卑屈になっていく展開を考えてしまいたくなるが、本書はもちろんそんな話ではない。
 登場人物たちが一風変わっていて、特に、カバのポチ子の背中に乗って登校する従妹のミーナが作り出す物語がとても美しい。その中に「天使の伝言」にまつわる物語があるが、読み手にとっては、本書こそ「天使の伝言」だと感じられるに違いあるまい。
 ただ、裕福で表面上は幸せそうに見える一家にも、影の部分はある。そういった寂しさにも本書はしっかりと目を据えている。
 古いセピアの写真を見ているかのように懐かしさを感じさせる作品だが、特に、川端康成の自殺・ミュンヘン五輪・シャコビニ流星雨といった出来事を覚えている年代の方は必読の1冊だ。

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紙の本魔王

2005/10/22 21:08

ぼくらの未来圏

8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 近未来小説。しかもごく近い将来の日本が舞台。演説に長けた「犬養」という政治家が党首の未来党が政権を握ろうとしている。断定口調で分かりやすい犬養の言葉に流される若者たち。現在の日本と酷似しているこの風潮に、主人公の青年はファシズムの危機感を抱いている。
 今までの伊坂作品との大きな違いは、今の日本の外交・経済・通信・歴史観などに対する批判ともとれる風刺が効いている点だ。本書を読むと、同年代の若者にどうしても伝えたいことがある、という著者の気持ちがひしひしと伝わってくる。伝えたいこととは、「自分の考えを持て」ということ。今の世の中は諦観と無責任が蔓延している、と本文に書かれているが、確かにそのとおりだ。選挙にしても、‘どうせ誰が当選したって変わらない’と思っている20代・30代は多いだろう。でもそこで、投げやりになったり長いものに巻かれたりしていいのか、と伊坂幸太郎は警鐘を鳴らしている。
 若者が国に誇りをもてないのは大人が醜いから、というセリフには、著者の同年代の人間として大いに共感できる。正直言って、未来は明るいものとは到底思えないし、どうやったらこの国が良い方向へ向かっていけるのかも皆目分からない。でも、考えることを止めてはいけないのだ、と本書を読んで強く感じた。いつまでも大人のせいにばかりしてもいられない、とも。
—「でたらめでもいいから、自分の考えを信じて、対決していけば世界は変わる」
—「馬鹿でかい規模の洪水が起きた時、俺はそれでも、水に流されないで、立ち尽くす一本の木になりたいんだよ」
2人の主人公のセリフは青臭いだろうか。
「未来は晴朗なものなのか、荒廃なのか」—それは誰にも分からないが、自分の力を信じよう、と読み終わって強く思った。同年代の作家に伊坂幸太郎がいるということは、とても幸せで心強いことだ。

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紙の本きみの友だち

2006/01/11 21:34

オンリーワン

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

「友だち」って何?と考えるきっかけを与えてくれる本。「友だち」という言葉はあまり簡単に使ってはいけないな、と本書を読んで思った。
小学5年生から中学3年生の子供たちが主人公の連作短編集。中心となるのは、和泉恵美、文彦の姉弟。第1章「あいあい傘」では、足に障害を負った小5の恵美が、体の弱い由香と出会うことによって本当の友だちとは何かに気付き始める。第2章「ねじれの位置」では、勉強もスポーツもクラス1番の小5の文彦が、転校生の基哉にライバル心を駆り立てられ、大学1年生の恵美に諭される。このまま時系列順で章は進むのかと思いきや、第3章では恵美が中1の時に時間が戻り、恵美のクラスメイト堀田ちゃんが主人公に。続く第4章では、中1の文彦のクラスメイト三好くんが主人公となり…と、時間は行ったり来たりするのだが、この構成が物語に奥行きを持たせていて、「ボンタン飴」や「ジャングルジム」といった小道具が生きてくる。
「きみ」と、語りかけるような二人称の文体もポイントだ。狭い世界に生きる小中学生の方が大人よりもよっぽどつらい場所にいるんだ、と大人の読者をして彼らの視点に立たせる効果もあげているが、きみはきみなんだ、と時に叱咤激励するようにも思われるようなこの人称は、他人は他人であり自分は自分ということに気付かない限り、子供であっても大人になっても人付き合いは難しい、という主題を際立たせているとも言える。
恵美と由香の友情の行方が本書の最大の読みどころとなるわけだが、二人の別れの時が近づくにつれ、何度も涙腺が緩んだ。ここで私が泣いてはいけない、と歯を食いしばりながら読んでいたのだが、だめだった。本当に悲しかった。だが、友だちとは何かという問いに対して恵美が出した結論に、羨ましさを覚えてならなかった。

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紙の本少女には向かない職業

2005/10/30 00:21

本当の「あの頃」

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

ライトノベルというとどうも格下に見られてしまう傾向があるが、本書を読んでこの作家の実力を見せつけられた感じだ。失礼な言い方だが、想像していたよりもずっと文学的だった。ラノベ作家の本という理由で本書を読まないのは、とてももったいないことだ。
本書は、中学2年生の大西葵が級友の宮乃下静香と共に殺人を犯す物語だ。山口県の沖合いにある島が舞台なのだが、四季の移ろいの描写がとても丁寧で、それはそのまま14歳という時がいかに貴重な時間であるかを物語っているようだ。中学生同士の会話も生き生きとしており、かと言って大人の読者がついていけなくなるほど崩れていない。「悲しみのプログラム」などエピソードの使い方も上手いし、ミステリーとしてもじゅうぶん楽しめる筋立てになっている。
本書の中で最も評価されるべき点は、中学生の心情がとてもリアルに描かれているところだ。たとえば、教室の中の閉塞感であったり、級友との緊迫した距離感であったり、自分は弱者であると分かっているがゆえの暴力性であったり。『野ぶた。をプロデュース』にも通じるが、昨日までの人気者が一夜明けてみたらいじめの対象となるような恐怖などはとてもよく分かる。大人の世界でもあり得ることだからだ。それに加えて、主人公の複雑な家庭環境から、どれだけ子供が大人の一挙手一投足に胸を痛めているかが分かる。学校と家庭の二つの世界しか持っていない子供は、そのどちらも居心地の悪い場所であったならどこに行けばいいのだろう。ゲームの世界にのめりこんでいく心理が分かったような気がする。「強くなりたいな。そしたら、こんなに泣かないし…」というセリフには痛々しさを感じた。
主人公たちと同じ世代に読んでほしいのは勿論だが、本書は親の世代にも読んでほしいと思う。
『夜のピクニック』を読んで自分の青春時代を美化してしまった方は多いと思うが、実はあんなにきれいな日々ばかりじゃなかった、と思い直す方も多いのではないかと思う。

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THE筆力

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 筆力という言葉がある。それは一体何なのかと問われると上手く説明できないが、説明できない得体の知れない力こそ筆力と呼ぶのではないかと思う。
 この「ハルカ・エイティ」で、姫野カオルコの筆力というものをつくづく感じた。時折現れる神の視点と妙に説得力のある文体が、ハルカという1920年生まれの普通の女性の半生をとても魅力あるものに仕上げている。
 本書は、章を追うごとに、面白くなる。時代が移り、ハルカの性が解放されていくにつれ、姫野カオルコの性に対する独自の哲学が精彩を放ってくるからだ。長い引用になって恐縮だが、
「女体をとろけさせる最たる行動がある。G8諸国全域でとろけさせる行動がある。それは『よりそって星をながめる』である。(略)ふたりいっしょに、なにかを、ともに、よりそって、ながめる、その同時性と体温に、女はアガペーを錯覚し、アガペーが発行する許可証に安心を見て、そして、脳が女体に“とろけてよし”と指令を送るのである。だから、“大きな窓のある部屋のソファでいっしょに横になってね、星をながめてる。そんなときがほんとは一番しあわせなとき”というような発言は、ほんとうは女から男への、一番助平な発言なのである。」
この後にも男と女の差異に対する考察は続き、読んでいて「ちょっとこの人すごいね」と唸ってしまった。これ以外にも姫野節が効いている箇所は数多ある。たとえば、著者の考える「きれいなつきあい」とは?
「きれいなつきあい」を志す男女は、是非本書を読まれたし。
登場人物にも触れておきたい。主人公のハルカの天真爛漫ぶりは無論、魅力的であるが、脇を固める登場人物たちがまた輝いていること!
「どんがらがっちゃどーん」と登場する近所のおばちゃん・恵美子、超ネガティブ思考のハルカの妹・時子、牛車のような喋りのお姫様・日向子には何度も吹き出してしまった。とくに魅力的なのは、ハルカの夫・大介だ。ハルカという妻がありながら浮気ばかりするしょーもない男なのであるが、この本を読み終わって、いい男とはこういう男なのだ、と目からウロコの気分。印象的だったのは、大介がハルカを慰めるシーン。(なぜ慰めているかは未読の方のために書かないでおく)そして最後の、「あれ」「あっち」で話が通じてしまう夫婦二人の会話。そう、これは夫婦愛の物語なのだ。独身主義者の心にもポっと炎を灯す理想の夫婦像に、読後はいつまでも温かい気持ちに包まれる。
 本書で、姫野カオルコは何か大きな賞を受賞することも夢ではないだろう。

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寿限り無し

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

鳶職の男に一目惚れして、齢30にして突発的に工務店で働き始めた梨央。その工務店の女社長は、夫に浮気され離婚して、齢45にしてこれまた突発的に社長になった郷子。
この二人のキャラクターが実にいい。ブルドーザーのように人生を切り拓いていく平安寿子印の女たちだ。とくに、郷子のキャラが立っている。頭に来たら、即刻怒鳴り散らし、そりの合わない人間とは口もきかない。こんなふうに生きられたら気持ちいいだろうなぁと思うが、周りにいたらちょっと嫌だな(笑)。
ずぶのシロウトの2人が、建設業界で次第に本領を発揮していく過程が喜怒哀楽織り交ぜて描かれている。本書の舞台は土建屋だが、業種は何であれ働いている全ての人にこの本を読んでほしいと思ってしまうのは、仕事に対して登場人物たちが抱いている矜持や心意気や愛着や責任感といったものが全ての仕事に通じるものだからだ。仕事をしていれば誰でも落ち込むことはある。結局自分のやっていることなんて他人の褌で相撲をとっているだけなんじゃないかと思うこともあるだろう。そんな時、梨央の「現実はシビアに決まってますよ。でも、そのシビアさに踏みにじられてばっかじゃ生きてけないでしょう。九八パーセントはシビアでも、二パーセントは夢が叶ったとか、やり甲斐を感じる瞬間があるはずですよ。そうじゃなかったら、誰もこんなくそったれな人生を生きてませんて」というセリフを思い出すととても勇気づけられる。よ〜し、やってやるぞ〜!という気持ちになれる。
平安寿子の小説を読むと、必ず元気になれる。だからこの著者が大好きなのだ。
今、ちょっぴり落ち込み気味の人がいたら、本書の中からこの一文を贈りたい。
「持ち前の力と感覚のすべてを捧げよう。人生は、そこから始まる。」

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紙の本しあわせのねだん

2005/05/23 23:48

プライスレスな毎日

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

読んでみて驚いた。角田光代がこれほど短気で偏食だったとは…。普通なら短所に思える面が、このエッセイ集を読んでいるとものすごい利点のように見えてくる。著者の魅力の詰まった一冊だ。
お金とは実に不思議なものだ。この薄っぺらい紙切れに1万円の価値があるという暗黙の了解があるからこそ、本を買ったりコーヒーを飲めたりするわけだが、ものの値段をめぐったこのエッセイ集を読むと、お金では買えないものも確かにあるという当然と言えば当然のことにあらためて気づかせてくれる。それは、空白の時間であったり、旅に行ったつもりの気分であったり…。
本書の中で最も印象に残ったのは、「記憶9800円×2」の章だ。格安旅行に行って惨めな思いをして母にはなじられて…。そんな記憶を「たのしかった」と転換でき、さらには、親と子の役回りの交代にまで考えが及んでしまうのは、角田光代の感性の表れだ。

キャンセル料30000円を高いととるか、ランチ(まぐろ味噌丼定食)400円を安いととるか。それはその人の心持ち次第。さらに言うなら、その人の持つ人生観の表れ。
幸せの値段、それは自分で決めるもの。本書を読んでそんなふうに思った。

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エバーグリーン

2006/07/18 23:52

青春病

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

ミュージシャンを目指しているシン君と、漫画家を目指しているアヤコ。
高校の卒業式の日、お互い夢を叶えて10年後の今日ここで会おう、と約束をして別れる。その10年間を描いた長編小説。
「もし、このまま何者にもなれなかったらどうしよう」と不安に思う田舎の若者たちの心情が、物語の序盤で綿密に描かれる。
中盤は、相手の消息にそれぞれが想いを馳せると共に、「諦め」という言葉を知る辛さが描かれる。
ポイントは、片方が夢をかなえて、もう片方は田舎に埋もれている点だ。
ありがちな設定ではあるが、青春の挫折の痛みを強く感じるのは、やはり豊島ミホの巧さなのだろう。
夢を叶えられなかったシン君はもちろん、夢を叶えたアヤコも、実は挫折していると気付いたとき、本書はさらに深い意味を帯びてくる。
何とも言えない気持ちになったのは、ラスト間近の「シン君は、私の知らないやり方でもってしあわせになったのだ。それを知っても、苦しくならない自分が不思議だった」のくだり。
人は成長するにつれて、知らず知らず現実を受け入れる術を身につけていくものなのだと悲しい気持ちになった。
だが、現実を受け入れることと青春の輝きを胸に抱き続けることは両立すると思わせてくれるラストに救われる。
青春病に罹っている方に是非読んでほしい1冊だ。

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