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川瀬加代子さんのレビュー一覧

投稿者:川瀬加代子

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筋ジスという難病の現実、壮絶な人生が語られていく

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 去る7月13日、日本産婦人科学会の倫理委員会は、慶應大学が申請していた筋ジストロフィーを対象とした受精卵診断を承認した。妻がデュシェンヌ型筋ジスの原因遺伝子を持っている夫婦の、健常な子どもがほしいという願いに応えようとしたものだ。デュシェンヌ型筋ジスは性染色体劣勢遺伝であり、原因遺伝子を持つ女性が男児を出産すると、二分の一の確立で発症するとされていることは、本書でも述べられている。
 日本産婦人科学会倫理委員会が受精卵診断を承認するのははじめてのケースであり、従来は男女の産み分けなどを目的にした例があったが、却下されてきた。今回は、子どもに遺伝し発症すると、難病・障害を持ったまま生きなければならず、またたとえ困難を抱えながら生きたとしても30歳前後までのいのちだという現実が考慮された。つまり、本人も家族も幸せにはなれない、という前提がある。
 受精卵診断に対する賛否はさまざまある。ここでは触れない。しかし、筋ジスという難病のこと、またその難病と向き合いながら生きる患者さんたちのことをどれほど知っているだろう。そういう難病が存在することすら、知らない人がほとんどではないだろうか。いま、筋ジスという遺伝病を対象として、受精卵診断の突破口が開かれているとすれば、この難病、患者さんの日常、人生についてもっと知る必要があるのではないだろうか。
 『死亡退院』は、そのデュシェンヌ型筋ジスと向き合いながら生きた、ある患者の36年間の人生を追いかけたものである。人生の大半を病棟で過ごした36年だ。筋ジスという難病の現実、壮絶な人生が語られていく。たが、それは単なる闘病記や評伝ではない。生きるとはどういうことか。ほんとうの幸せとは何なのかが、その人生を通して探究されていく。
 主人公は、人口呼吸器を着け、晩年はベッドで寝たきりの生活を送るが、コンピュータを駆使しネットを通じて世界をひろげていく。リハビリテーション工学のエンジニアと、様々な機器を共同開発していく。そして、恋人ができ、一夜をともに過ごし、指輪を交換し、「結婚」する。そして最愛の人に抱かれるようにして、この世を去る。
 決してバラ色の人生ではない。しかし、決して不幸だったという一言で言い表わすこともできない。
 人生は複雑だ。残された足跡の複雑さが生きた証だとすれば、主人公は確かに36年の人生を全うしたと言える。ほんとうに幸せだったかどうか。著者はこうふり返る。
 
 〈あいつはほんとうに幸せだったんだろうか〉
 あれからずっと、私は考えているが、答えは出ない。
 私はといえば、あいつと出会えたことを、ほんとうに幸せだったと思っているのだが。
 
 悲しいが、出会えてよかったと思える1冊だった。

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