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藤澤成光さんのレビュー一覧

投稿者:藤澤成光

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安房直子の領域

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 初期の作品を集めたこの第一巻には、安房直子の言う「小さな魔法」がずらりとならぶ。第5巻収録のエッセー「私の書いた魔法」によれば、その雛形はロシアの昔話の魔法で、いうなれば手品のようなものだそうだ。だがその小さな魔法で、彼女は、たとえば「鳥」の少女の悲嘆、たとえば「だれも知らない時間」のカメの不思議な自殺をあざやかな微細画に描く。
 今、このように全集仕立ての形態でこれらを読むと、あらためて、この作家がただ者でなかったことがよく分かる。特に上記2編と「雪窓」とは、これらが書かれた時代の、まさに同時代文学だったことが、その文体の香りから漂うのだ。彼女も、一つの時代を、書くことによって生きた人だった。
 ところで、この巻のエッセーは作家になる前のことに触れたものが多いが、それならば作家自らが処女作と呼ぶ名作「月夜のオルガン」をぜひ収録して欲しかった。それは安房直子の魔法というものが、彼女のどんな喜びに根ざしたものなのかが、手に取るように分かる好編なのだから。第2巻の「オリオン写真館」のサルの子の運命、第4巻の「丘の上の小さな家」のかなちゃんの人生、など、これまで未刊行のものをこうして入れているのだから、もうひとふんぱつ、できなかったものだろうか? 第7巻の「うさぎ座の夜」も「花豆の煮えるまで」の小夜の物語で、作者の存命中に原稿はできていて、出版社に届いてもいたのに、刊行されなかったものだった。これは重要な作品だ。
 それに、この偕成社は名作「だんまりうさぎ」も刊行しているが、実はこれは12編からなるシリーズで、そのうち6編だけが2冊に分けて出ているにすぎない。このコレクションの機会に、12編そろいの「だんまりうさぎ」を読みたかったと思う。なにしろ、出会いからプロポーズまでの、象徴ふう恋愛童話になっているのだから。(このあたりのことは、拙著「こころが織りなすファンタジー 安房直子の領域」(てらいんく)に詳説したので、今はくりかえさない。)
 各巻末のエッセーの選び方は、非常に優れていると思う。グリムのこと、アンデルセンのこと、軽井沢のこと、市松人形のこと等々、彼女の人となりが、ことのほかよく吹き出ているものを丹念にひろって、腑分けして、収録している。頭の下がる仕事である。
 この機会に、安房直子という希有な作家の、この国に生きて書いていたことが、文芸文化の中にしっかりと定着して欲しいと、切に願ってやまない。

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