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先月(2017年5月)

稲葉 芳明さんのレビュー一覧

投稿者:稲葉 芳明

5 件中 1 件~ 5 件を表示

紙の本まんがパレスチナ問題 正

2005/03/05 17:35

むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 恐らくぼくを含めた相当数の日本人が、アラブとイスラエルの問題を苦手にしていると思う。中学・高校と一通り世界史を習いはしたが、現代史は駆け足で(というか、特急並にかなりの「駅」を通過して)概観しただけ——これだけの学習量では、とてもじゃないが、まるで全体像を把握するには不足だ。
 まず、「地理」の問題がある。何かと馴染みの深いアジアならともかく、中東のあのだだっ広い地域をその対象として、国名や場所(領土)を正確に把握するのが困難。次に「宗教」の問題。基本的に多神教である日本人が、一神教同士の争いを理解しようとしても、所詮隔靴掻痒の感を拭えない。そして「民族」の問題。ボスニア・ヘルチェゴビナの民族問題も複雑怪奇だったが、アラブとイスラエルの民族問題も根が深く、紀元前まで遡る。
 この問題について、実にいい入門書が出た。それが、山井教雄(やまのい のりお)氏による本書。タイトルに「まんが」とあるが、「まんが=絵」はあくまで補助的手段に留まっており、基本的には活字によって問題を説明している。約270頁の中身のうち、BC19世紀のユダヤ教発祥から始まり、十字軍、フランス革命、二つの世界大戦を経て1948年にイスラエルが建国されるまでが丁度半分。
 そして後半部では、4つの中東戦争の原因・発端・経緯・影響を的確に押さえ、キャンプ・デービッド合意、湾岸戦争、9・11を経て現在に至るまでをまとめている。
 断片的な知識——例えば人名・地名・事件名——の中には聞き覚えのあるものもあったが、本書のように時間の流れに沿って、地理的状況と主要人物をその都度丁寧に解説されることによって、初めてパレスチナ問題の全体像が見えた気がした。そして、「宗教問題」「民族問題」の難しさを改めて痛感させられた。
筆者は、語り手のキャラクターの一つ<ねこ>に、こう語らせている:
「宗教は人間の最善の部分を引き出すように作られているはずだけど、時として、人間の一番邪悪な部分、「憎しみ」を引き出しちゃうニョだ。
 経済が原因の戦争なら、大損をすれば戦争をやめるのだが、宗教がらみで「聖戦」となってしまうと、損をしようが、自分が滅んでしまおうが戦いをやめない。
 この「自爆テロ」っていうのは、殺す方も、殺される方も、「イヌ死に」に思えて、ネコには理解できニャイよ」
 
 宗教と民族と歴史が複雑に絡み合って生じたパレスチナ問題を易しく説きつつ、その背後に恒久的平和への祈りが感じられる点が、本書の読後感を清々しいものとしている。「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく」というのは作家井上ひさし氏の至言だが、言うは易し行なうは難しのこの行為を見事に実践した著者に、心から敬意を表する。

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「英作文」指導のベスト指南書

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 竹岡広信先生は、現在駿台予備学校の講師(京都・名古屋・福岡を中心に出講)を務めておられます。
 私は2年前(2003年)の8月に駿台大阪校で開催された某講座で初めて生の先生の講義に触れ、その学識の深さ(単なる受験英語の狭い枠にとどまらず、英語という言語を広範囲に捉え、分析する該博な知識)と、大学入試問題の分析の緻密さ(センター試験&国公立個別試験の傾向と趨勢を、十年以上にわたるタイムスパンでデータ化・分析)と、その話術の妙(大の大人、しかも英語を教えるという同じ仕事を生業としている自分を相手にして全く飽きさせず、終始引き込んでいく力量)の三点に、深く強く感銘を受けました。そして、今まで受けてきたどんな官製の英語教育法講義よりも、大きな示唆と「やる気」を頂きました。その後も、機会あれば竹岡先生の講義を拝聴するように努めましたし、昨春発刊されたこの書にしても、竹岡流英作文指導の集大成として刊行時より今に至るまで熟読玩味してきました。

 似非英語教育者が、よくのたまいます:曰く「Think in English and write in English !」。曰く「細かい文法的な事を、ごちゃごちゃ拘るから、日本の高校生はいつまで経っても英語で自分の意見を表明することが出来ない。コミュニケーション重視の指導をしなければ。」曰く「楽しく、英会話。気楽に、英作文」云々。
 本当にそうですか? I am like tennis.もどきの英文を平気で書いて恥じることが無い高校生が、Think in English and write in Englishするなんて芸当が本当に可能なんですか? 文法的なことを重視することは、そんなに時代錯誤で重大犯罪なんですか?
 高校という教育現場で生徒に英語を教えている人間の一人として、「ゆとり教育」と「こみゅにけーしょん重視」のお題目のもと、日本の英語教育は今や文科省によって根底から壊滅させられつつあります。
 「ハンバーガー英語」で事足れりとする人にはこれ以上申しませんが、「1)正確な文章で、2)抽象的な内容を過不足無く正確に、3)自分の知っている語彙を用いて出来るだけ平易に書く」——これを目標としている人(自分も含めて)には、この書は無知の知を知らしめる大いなる啓蒙書であり、かゆいところに手が届く実用書です。例えば…
 Ex.1「男性が女性に年齢を尋ねるのは失礼だ」の英訳“It is rude that a man asks a woman how old she is.”が何故不可か。(P42参照)
Ex.2 「昨日、昔から欲しかった本を買うことが出来た」の英訳“Yesterday I could buy the book I had long wanted to get.”は何故不適か。(P62参照)
 といったルールについて<原則>という項目で順次解説してくれています。つまり、日本人が英文を書く時に犯しやすい誤謬を、逐一具体例を挙げて(素材は大学入試問題)、何故そう書いてはいけないのか、およびどう書くべきかの模範例を示しながら、懇切に説明してくれるわけです。
 この本の肝は、日本語の発想が仇になって犯しがちなエラーを徹底して究明してくれている点で、先ほど「無知の知」という言い方を私がした理由は、正に此処にあるのです。

 ともあれ、英語を教える仕事に従事している人、大学入試を当座の目標として勉強している人、英語という言葉にやや深い学究的な興味関心を抱いている人には、申し分ない書です。少なくとも、英作文指導の大学受験参考書としては、現在刊行されているものの中でベストだと推奨することに躊躇しません。

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「比較」は奥が深い!

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 英語のネイティヴ・スピーカーが日本人英語学習者向けに書いた本は、「ネイティヴの××」等のタイトルで数多く出ている。はっきり言って玉石混交なので、その全てを読む気は起きないし、つまらないものは此処でレヴューする気も起きないのだが、ぼくの場合新刊が出ると絶対買うのはマーク・ピーターセン氏とT.D.ミントン氏。この二人の著作ならまず外れは無い。
 ミントン氏は月刊誌「イングリッシュ・ジャーナル」で連載もしているのでご存知の人も多いだろうが、今回ご紹介する書はかなり本格的な英文法書で、レベルは高いが、中身も濃く示唆されるところは非常に多い。
 ではまず例題。

1 A is bigger than B:A>B
2 A is smaller than B:A<B
3 A is not bigger than B:A<B
4 A is as big as B:A=B
5 A is not as big as B:A<B
6 A is less big than B:A<B
7 A is no bigger than B:A<B

 この七つの比較の表現を、右のように数式化した場合それが正しいかどうか…というところから本書は始まる。
 125は「正しい」。6は「正しい」が「極めて不自然」。残りの三つ(347)については、一面においては「正しい」かもしれないが、この構文を用いた英文が伝えようとしている本当の「意味」はきちんと伝わらない、と筆者は言う。
 この七つの英文の「機能」と「意味」が正しく理解できる人なら本書は手に取る必要は無いが、大学受験生は無論、英語を学ぶ一般人にとっても難しい<比較>の概念を、意味論的に詳細に分析した書物として、これは大変読み応えがある。
 また、本書の後半部は関係詞の用法を取り上げているが、高校上級(センター試験レベル)以上の<読み>を目指す人には必読である。

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シンセミア 上

2005/02/28 21:11

芥川賞受賞作を読む前に、まずこれを読もう!

1人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 昨年暮、新聞・雑誌の1年の回顧で今年の収穫に挙げられることが多く、早速購入。冬休みにじっくりと読んでみた。
 いや、「じっくりと読ん」だ、というのは不正確な言い方だ。最初は、膨大な登場人物を頭の中で整理するのに時間がかかり、本書巻頭記載の登場人物一覧を元に、それに親子、友人、利害関係等々を加えて自分でまとめなおした表を作り、随時それを参照にしながら読み進めていった。物語の全体像が見えてきたら、後半(下巻)はもう一気呵成。上下巻8百頁の大作を2日で読んだなんてのも久方ぶりだが、そうさせるだけの力を本書は持っている。
 時は2000年夏、場所は山形県の(実在する、筆者の故郷の)田舎町。50余年に及ぶ町の歴史と人間関係を、数多い登場人物の行動と心理を丹念に追うことで浮き彫りにしていくのだが——デヴィッド・リンチの傑作TVシリーズ『ツイン・ピークス』にも似た——人は皆後ろ暗い秘密を持っていて、それが二重三重に交錯していく<因果は巡る物語>を、ジェイムズ・エルロイのLA3部作(『ブラック・ダリア』とか『LAコンフィデンシャル』)に匹敵する、暴力と倒錯と性を充満させながらぐいぐい引っ張っていく<はなれわざtour de force>で描いていく。そして、物語がふつふつと煮えたぎってくると、中盤より後くらいに、ノアの箱舟の如くの雨が降り、これが事態をさらに加速させ、そして最後に凄まじいクライマックスがやってくる。
 安部和重氏の本は今までに、『インディビジュアル・プロテクション』しか読んだことが無く、プロットを膨らませるのが下手だなという位の印象しか持っていなかったが、本書は凄い! 今の日本でも、こういう圧倒的迫力の<グランド・オペラ>を生み出せるなんて、と感動し嬉しくなった。高村薫の『レディ・ジョーカー』を読み終えたときの充実感・満足感に近いな。

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紙の本物語が、始まる

2005/02/16 20:36

<川上ワールド>が、始まる

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 よく、デビュー作にその作家(芸術家)の原点があるという言い方をします。そういう意味では、この『物語が、始まる』は紛れも無く川上氏の原点であり、後に豊穣な作品世界を作っていくそのベクトルの萌芽を見出すことが出来ます(正確に言うと、彼女のデビュー作はパスカル短編文学新人賞の「神様」(1994年)ということになるのですが、此処では単行本として出版された一番最初というものとして捉えます)。

 「物語が、始まる」「トカゲ」「婆」「墓を探す」の四編が収録されていますが、淡々とした文体(意図的に平仮名を多用し、擬音語を効果的に挿入する。文学青年・少女がやりがちな仰々しい形容詞・副詞の乱発が無いのは、理科系出身のなせる業か? ぼくは、彼女の文章を読むと、エリック・サティのピアノ曲を連想するのだが)、超自然現象との不思議な、居心地の良い融和、先祖や死者との交霊…といった川上氏ならではのアプローチやモチーフを見出すことが出来ます。
 「婆」と「墓を探す」は、まだ作品素材を消化・昇華しきっていない感がありますが、最初の二つはいいですね。「物語が、始まる」は、ダニエル・キイスの『アルジャーノンに花束を』を連想させますが、こちらの方が視線はもっとドライ(客観的)で、雛形の成長と退化の過程の描き方に、生物学専攻の著書らしい理科系色が出ています。これって、後に『センセイの鞄』に繋がる原点って考えてもいいですよね。随所にシュールででもユーモラスな描写があって、例えば
「本城さん、三郎、私の順で縦に並び、歩いた。本城さんが立ち止まると、三郎が続いて止まり、最後に私が静止する。本城さんが動きはじめると、続いて三郎、そして私。正弦波のように、私たちは移動した。」とか、
「「かわいそうに」その無意識のような三郎の言葉を、私は両手で掴み、長くのばし、解きほぐして紐を編み、綯りあわせ、頑丈な綱にし、ぶらんこをつくり、何時間でもぶらぶらと揺れていたくなってしまうのだ。」
といった比喩は絶品ですね。
 「トカゲ」も不思議な話。濃密で官能的な異界の話なのに、文体は決して高揚せず、実験を淡々と観察しているかのようなクールな感触がとても印象深い。

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